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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
三章 多眼竜討伐戦
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三十一話「滅びの竜①」

そこには、骨折りが倒れていた。

その黒い鎧には多くのヒビが入っており、身体には多くの損傷が見受けられた。

どうみても骨折りは、多大なダメージを受けたことがわかる。


骸骨を模した仮面もヒビで割れ欠けていた。

気絶しているのかピクリとも動かない。

しかしその手は愛剣を硬く握っていた。


周囲は平穏とは最も遠い場所にある。

獣王国及び、アダム一味による攻撃の結果だ。

前回ほどの破壊はないが、ある程度崩壊が見られた。


そこには、以前の戦いで王宮にいた獣のアンデットが三体。

アンデットへと変容した多眼の竜。

そしてアダムの配下。シェヘラザードがいた。

その女性の褐色と黒髪が太陽に照らされ、鈍く光る。

その目は、鋭く骨折りをにらんでいた。

警戒しているのだろうか、殺気で満ちている。

シェヘラザードが、気絶している骨折りに話しかける。


「アダム様にも言われました。この戦いのカギはあなただと」

「……」


無言は続く。

シェヘラザードには骨折りが死んでいるのか、気絶しているのか

それとも狸寝入りしているのか判断がつかなかった。

だがシェヘラザードは、そのまま続ける。

ただ淡々と語りかける。


「故に、戦力を分散したうえで分散した戦力の最大を骨折り個人にぶつける必要があった。そもそも危険度が一番高いところに骨折りは即座に行動する……と。貴方は随分と買われているのですね。羨ましい。私にもそのような力があれば」


獣のアンデットの上に乗り、その頭をなでる。


「そのままお寝坊して、終わりを見つめる貴方も見たいものですが。私がアダム様にお願いされたのは骨折りの抹消。消えて下さい」


シェヘラザードは、獣のアンデットに指令する。

それは骨折りにとどめを刺すこと。


獣のアンデットの一体は指示を受け即座に動きだす。

その前足を振り下ろし、骨折りを踏み潰す。

地面が抉れ、あの大地は獣のアンデットの足型がつく。

しかし骨折りは、潰れていなかった。

獣のアンデットの攻撃をすんでのところで躱し回避へと移っていたのだ。

シェヘラザードは、それほど驚いておらず感情を出さなかった。


「そのまま眠りにつけばよいのに」

「……俺を寝かせたいなら、物語でも語ってくれよ。お嬢さん」

「あなたには、鎮魂歌の方がお勧めですよ」


骨折りは体を抑える。

痛みが体に反響し響いている。

どうやらダメージに耐え切れず気絶していたようだ。

これほどのダメージを負ったのはイグニスの攻撃ぶりか。

しかしそれでもこの体は動き続ける。

この体と、鎧は死ぬことを許してくれない。


息があれる。

呼吸をする度に体が軋む。

痛みは、骨折りの集中力を削いでいた。

しかし今は戦場だ。

気にすることはない。

敵をただ叩き潰す。

分厚く重い相棒にさすりと、撫でた。

骨折りは敵に飛び込んでいく。


獣のアンデットが追撃をする。

骨折りはそれを躱し、その足に一撃を入れる。

その硬い骨と、骨折りの分厚い剣がぶつかり合う音がする。

獣のアンデットは痛みの表情を見せないがある程度のダメージを入れたはずだ。

さらに一撃と思ったが、また別の個体に邪魔をされる。


獣は三体。

いまだそのかけらを削ることもできていない。


いま、こちらにいる仲間の顔が思い浮かぶ。

戦力として役立つのは……。

せめてプラードかイグニス。

どちらかの助力がほしい。

ペトラは、国全体のサポートに回っている。

この戦場に向かうことはできないだろう。

せめて彼女の魔法道具を借りるべきだった。

女王であるデア・アーティオの力はリスクがでかすぎる。

今現状で頼ることはしたくない。


バラバラに飛ばされた原因は、自分にはわからない。

二人も同じように敵と戦っているのだろう。

そうなれば、いまここで自分が倒れることは絶対にダメだ。


「たく……俺だけ釣り合わないじゃないか」


自分の負担を考えると悪態もつきたくなる。

この国の戦力がプラードしかいないというのもひどい話だ。

骨折り、イグニスはこの国の住人でないというのに。


骨折りは敵を観察する。

アンデットにされているのは、恐らく獣王国の兵士だろう。

だが兵士と断言できない点がひとつある。

それは兵士の体が以前王宮で戦った異形と同じように変化していることだ。

獣のアンデット。

以前は、一体だけだった。

しかし対処されたことを鑑みてか今回は三体。

骨の強度も以前より増していた。

これは確実に前回の自身の戦闘を意識している。


多眼の竜がアンデットと変化した今、以前のような支援は求められない。

そもそも自我があることさえ不明だ。

なぜ彼女がアンデットに堕ちているのかは謎だが、そんなことを考えていてもこの現状がよくなることはない。

アダムに先手打たれたといったところか。


アダムの配下がひとり、獣のアンデットが三体、そして多眼の竜。

死ぬつもりはないが勝てる未来が見えない。


獣のアンデットは一体一体が巨大だ。

連携はそこまでしてこない。

というかできないのだろう。

だがこちらが隙をつき、攻撃しようという段階でまた別の個体に邪魔をされる。

連携はできない分、こちらの攻撃時間を奪おうということだ。

骨折りは舌うちをする。

一体であればこんなに苦戦はしない。

だが三体もいるせいで圧倒的にやりずらい。


獣のアンデットは前足の片方を大きく振り

骨折りに当てる。

痛くはないが、この疲労が蓄積された体にはきついものだ。


「お強いでしょう。アンデットプロトタイプ【ワーウルフ】。アダム様の研究の成果です」

「お前は戦わないのか?」

「戦いは不得手でして」


しかし骨折りは知っている。

この女性が、以前自分の魔法【ぺルド・フランマ】を即座に防いだことを。


「冗談いうなよ。お前もあの人間に気に入られるものを持っているんだろう」

「冗談ではないですよ。私にできるのはただあの方の命令を聞くこと」


その時、多眼の竜が動き出した。

多眼の竜は大きく息を吸い出す。

その目は、すでに多くが腐敗しており今にも砕けそうだ。

いまだ存在するいくつかの目が赤く爛々と輝く。

明らかになにかの予備動作に入ろうとしている。

骨折りはすぐに回避に移った。


「今の私がすること。それは骨折り……貴方と、この国をどんな手段を使ってでも滅ぼすことです」


竜は咆哮する。

それは滅びの息であった。

骨折りはその滅びの息を回避する。

地面が。

大樹が。

建築物がその息にふれ腐食していく。

それは一体のアンデットが持つ力にしては巨大すぎるものだった。


いや違う。

本来多眼の女性はアダムを上回るようなそんな存在だったはずだ。

少なくとも骨折りにとっては、アダムという人間より多眼の方が恐ろしく

底が見えない。

それがアンデットとなり、アダムの下に存在していることで

何らかの齟齬が働きこのような結果をもたらしている。

そのように骨折りは感じた。



「アンデットは、死を受け入れません。ただ周囲に死を与える。優れた器だったのですね。豊穣の裏には飢えがある。さあ惨めに死んでください」


多眼の竜。

それは変貌していた。

悲しき竜はただ豊穣国に滅びを与える。

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