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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
三章 多眼竜討伐戦
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三十話「忠告そして転換」

「懐かしいな、お前そんな甘える性格だっけ?」

「おい、ラグエル。やめろ……」


ウリエルは、頭を痛そうに抑える。

慣れた感じでもあるが、頭痛の種になっているようだ。

困惑と怒りを混ぜたような声は、ウリエルの戸惑いを表す。

しかしラグエルはウリエルのその様子を見ても引く様子を見せない。

むしろ少し寂しい雰囲気を見せた。

ラグエルは、ウリエルの方をみてこう言う。


「いいじゃないカ……私だってラファエルと会うのは久しぶりなんだヨ?」


声を震わせ、ウリエルの怒りを振り払いラグエルはイグニスに抱き着く。

少しばかり幼児退行しているようにもかんじられた。


「すいません、イグニス様」


ウリエルは、ラグエルの行動についてイグニスに謝る。

段々とウリエルに対する申し訳なさが出てきた。


「ラグエルごめんな。今は大事な話もあるしいったん離れてくれないか?」


イグニスは、優しく幼少期の子どもを窘めるようにラグエルに言葉を伝える。


「はーい……」


ラグエルは、素直にその言葉を聞き入れイグニスから離れる。


「話を進めようか」

「はい、申し訳ないです」


今は、こうやってふざけ合っている場合ではない。

情報を整理し、すぐさまあのアンデットの元にいかなければならない。

幸い、長い時間離れていたとはいえこの二人の好感度は悪くはない。

天使である二人の力が借りることができれば大きな進展だ。

イグニスはまず一つ気になっていたことを問う。


「どこから見ていた?」


ウリエルは、その問いに隠すことなく伝える。


「あなたが、あの獣人と戦うところからです」

「お前ならもっと早く手を出すんじゃないか」


コ・ゾラは、イグニスから見ても危険な人物であることは変わりない。

自身に敬意を持つウリエルならば、即座に助けに来るのでは。

そんな思考が生まれる。

しかしウリエルはそれを否定する。


「確かにあの獣からは強い血の匂いがしました。貴方を助ける必要もあったでしょう。ですがイグニス様なら大丈夫とは思ったので」

「そうか……」


これは信頼と受け取っていいのか。

イグニスの実力ならば、コ・ゾラに負けることは絶対ないと感じていたようだ。

だがウリエルは、次にそれに反する言葉を述べた。


「しかし意外ですね。貴方様は随分と弱くなられたようだ」

「……お前にそういわれるとは思っていなかったよ」


ウリエルは、今のイグニスのことを弱いといったのだ。


「前の貴方ならば、あのような獣でももっと早く仕留めることができたように思われます。魔法の威力も落ちていますしね」

「おい、ウリエルいいすぎじゃないカ?」


イグニスに厳しい批評を送るウリエルにラグエルは文句を言う。

しかし否定しないあたりラグエルもイグニスが弱くなったことは感じていたのだろう。

確かに弱くなった自覚はあった。

セーリスクのような壁を越えられていないものに遅れをとることはなかったが、

骨折りとの戦闘、そしてコ・ゾラとの戦い。

これらの戦いでイグニスは自らの衰えを感じていた。

やはり【天使】としての自分は、法皇国にいたからこそ強くあれたのだろうか。

マールを助けるために法皇国をでたというのに、マールと離れた今あの時の強さが恋しくてたまらない。

しかしそんなウリエルはイグニスを責めなかった。


「いえ……これは誉めているのですよ」

「本当か……?」

「あなた様も、なにか得るものがあったのですね。強さのみを求めるのが人生ではありません。きっと神も今のあなたを見て賞賛することでしょう」


その顔は、白い仮面で隠れてはいるものどこかにこやかな雰囲気があった。

法皇国の神は、【知識神】だ。

それは、戦いや争いにまつわるものではない。

しかし【天使】として神や国を守る時。

必然的に力が必要になる。

だからこそ【天使】は戦闘における能力を各々高める。

しかし教義としては強さを求めない。

求めるのは、個人として生きるときの知識だ。

そしてウリエルは、イグニスが生きるための知識を手に入れるために弱くなったのだと判断している。

だからこそウリエルは【天使】をやめ弱くなったことを責めない。


ミカエルや、サリエルが【天使】や法皇国に忠誠や尊敬を置いているのであれば

ウリエルは神そのものに忠誠を抱いている。

故にイグニスが【天使】や法皇国を抜けても咎めることなく今もこうして関わっていられるのだ。

ラグエルは、そんな様子で話しあう二人をみて安心したようで

楽しげな様子でウリエルをからかう。


「そうだゾ。ウリエル。ラファエルに失礼だゾ」

「君は馴染むのが早いんだよ」

「あはは」


久しぶりにこのように笑えた気がする。

この二人は絶対に砕けない強さを持っていながら、

不思議と笑えるようなやさしさと温かさを持っていた。

しかし話を次に移さなくてはいけない。


「サリエルとミカエルはこのことを知っているのか?」


ミカエルとサリエル。

それは、豊穣国の王宮に入り女王デア・アーティオに対して異端審問した二人だ。

しかもプラードたちから聞いた話によると二人はまだイグニスには気が付いていないようだが。


「お待ち下さい、いくらあなたでもミカエル様のことを呼び捨てにするのは許しませんよ」


しかし少しばかり怒りに触れたようでウリエルは怒り出す。

ラグエルはウリエルの怒りを鎮める。


「そういうなヨ、ウリエル。ラファエルも、いまは天使じゃないんだ。別にいいだロ?」

「まあ……きみがいうなら」


少し沸きだした怒りを抑え、ウリエルは冷静にイグニスに情報を伝える。


「ひとつ伝えるとするならば、今のミカエル様、サリエル。この二人に会うのはお勧めしません」

「理由をきいておこう」

「理由は二つ。まず一つ、サリエルはあなたが法皇国に帰ることを望んではいません。天使としての立場、それを軽んじたあなたを彼は決して許さないでしょう。そして二つ目、ミカエル様はあなたを失ったことで不安定になっています。今の状態であなたに会ったらバランスが崩れ精神が壊れてしまう可能性がある。私たちとしてはそれを避けたい」

「今のミカエル様。怖いもんナー」

「君はミカエル様にちょっかいをかけすぎだ。怒られろ」


またもや漫才のような下りを始めるが、ウリエルは言葉をつづける。


「ともかく今のミカエル様には会わないでください。暴走の可能性がある。イグニス様に抜けられたうえ、ミカエル様も暴走したら【天使】という枠組みは崩壊してしまいます」


まさか自らの師匠であるミカエルがそんな状態にあるだなんておもいもしなかった。

忠告を聞く限り、ウリエルのいうことを聞いた方がいいだろう。


「ミカエルはいまどこにいる」

「今はまだ豊穣国にいます。そしておそらくあの竜のようなアンデットの元にいるでしょう」


戦場は再び移り変わる。


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