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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
三章 多眼竜討伐戦
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二十九話「再開」

「話を聞こうか」


イグニスは、目の前の二人に話しかける。

そこには、豊穣国の食事処で出会った二人がいた。

二人とも、纏っている衣装は変わらず白装束に白い仮面を身につけた

宗教的な服であった。

二人の胸元には、十字の意匠がありどこかの宗教に属していることがわかる。

そしてイグニスは、その宗教を知っていた。

それは、法皇国における絶対的な神。

【人間】とそれ以外の種族との戦争があった時、【アンデット】への対抗策を伝え【人間】の敗北を決定的にした【知識神】だ。

法皇国クレシエンテは、その功績を崇め生き残るための【知識】を伝えるため宗教として歴史に残した。

故に法皇国は、本として知識を残す。

この世界の本の起源は法皇国だ。

それは、【天使】として。

それは、【聖水】として。

【武器】として、【政治】として、【教養】として。

宗教を伝える。

法皇国には、そんな意図がある。

そうはいっても、法皇国近辺。

【人間】とアンデットの脅威が薄れた今では、あまり好かれていないのも事実だが。


この二人は、その宗教の中でも【天使】と呼ばれている。

その地位、発言権は国のなかでもかなり高い。

そしてそこに、自分に入っていたことを思い返す。

法皇国での思い出は、それほど良くはないが悪くもなかった。

あの国でであえた存在は、自分にとって大きいものであった。

【ミカエル】の存在がそういったものであった。


「あのよろしいでしょうか?」


深く沈潜するイグニスに、ウリエルは話しかける。

胸に手を当て、イグニスの顔色を窺っている。

初見の人物であれば、なんとも礼儀正しい人物だ。

そういった感想を持つような姿勢であった。


「あなたは……いえ、あなた様は。【ラファエル】様では」



豊穣国の【天使】の名前は、基本的に襲名制だ。

上から一位とし、一位【ミカエル】、二位【ガブリエル】、三位【ラファエル】。

その下に四位【ウリエル】、五位【ラグエル】、六位【サリエル】、七位【ラミエル】とくる。

イグニスには、親の記憶がない。

幼少期から、法皇国の時期【ラファエル】として育てられたからだ。

そして、ウリエルはイグニスにそれを尋ねた。

その意味は、三位【ラファエル】を今もまだ忘れていないかということ。

彼は、天使としての称号をもったイグニスであるかということを尋ねている。


そのウリエルと呼ばれた男性は、迷いのある口調でありつつイグニスの目をじっとみて尋ねる。

それに反し、ラグエルと呼ばれた中世的な人物は体をゆらゆらと揺らしどこか楽しげだ。

イグニスには、否定する気はなかった。

この二人ならどこか今の自分を認めてくれる気もしていたからだ。


「久しぶりだな。ウリエル、ラグエル」


イグニスは、目の前にいる二人の名前を呼ぶ。

二人の本名を知らないが、呼び馴染んだこの名前が正しい気がした。

ウリエルは、ほっと息を吐き胸をなでおろす。

白い仮面で顔は見えないが、安心していることが読み取れる。

「俺は【ラファエル】ではない」と否定されるのが恐ろしかったのだろうか。

彼は、その安心したようすでそのまま話を続ける。


「口調と外見は随分と変わられたのですね。その違いに最初は戸惑ってしまいました」


口調、外見。

両方とも法皇国に出てから意図的に変えていたものだ。

事実、かなり変わっておりイグニスが法皇国の出身だと断言できるものは数少ない。

実力のある者、知識のある者では立ち振る舞い、剣技などで見分けられることもあるだろうがそういった人物が法皇国の外でしか出会わない。

ペトラの魔法道具には驚いたが、流石に【豊穣国】が天使の情報を持っているはずがない。

天使は、法皇国の機密にも近いものだ。

豊穣国が判別する方法は持っていないと思っていいだろう。


「あの……ラファエル様?すいません、いまはなんとお呼びしたらいいのかわからなくて」


目の前にいる人物が、三位【ラファエル】だとわかっても

法皇国を出ていき天使をやめた今なんという名前で呼べばいいのかわからないようだ。

しかし今はまた別の名前を持っている。

イグニスは、それを伝えればいいだけだ。


「今は、イグニス・アービルだ。イグニスと呼んでくれ」


そう。これが今の自分だと言わんばかりにイグニスは堂々と自らの名前を告げる。


「はい、イグニス様」

「ああ……まあいい」


やはり彼のなかで、イグニスに対する敬意は薄れないようだ。

どうにも今の名前で【様】と付けられるのはむずがゆくてしようがない。

しかし一つ疑問があったようで、ウリエルはイグニスに一つの疑問をぶつける。


「アービルとはどこの家名でしょうか」

「旅の途中に出会ったやつの名前だよ。お前らに詳しく教えるつもりはない」


旅の途中であったことだ。

少なくとも彼らに伝える気持ちはない。

そうですか、と彼がそこまで踏み込んでくれなかったのは嬉しかった。

やはり彼は曲者が多い天使の中でも、生真面目ながら善良な根元を持っているように感じられる。


しかし、もう一人のほうは善良というか素直な人格の持ち主であった。

五位【ラグエル】。

さきほど法皇国の国宝【終末のラッパ】を扱いアダムを追い返す一手をうった人物だ。


イグニスが、ラグエルの方を見るとラグエルはこちらに駆け込んでいた。


「ラファエルー」


ラグエルは、イグニスに飛びつき、ハグをする。

スキンシップが激しいとは思うが、なぜか嫌悪感はわかなかった。

イグニスは、抱き着いてきたラグエルの頭をなでる。

しかしその素直さという点では変わらないが、以前はこんなことしなかったような気がする。

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