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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
三章 多眼竜討伐戦
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二十七話「観戦者②」

イグニスは、再び【裂空】を繰り出す。

しかしそれはアダムの技によって弾かれ消された。

アダムは、はあとため息をつく。

その顔は、いかにも退屈そうだ。


「何度も無駄ってことがわからないかな?まだあの石使いのほうが歯ごたえがあったよ」

「ちっ……」


自分の技が想定以上に効かない。

風の魔法は、【斬撃】の特性を持つ。

骨折りの魔法「ぺルド・フランマ」と比べると、破壊力という点では劣る。

それになにか魔法が壁に弾かれているような感覚だ。

壁という魔法にダメージを与えられているような気がしない。

アダムのあの魔法の前では、耐久力といったものを考えない方が上手くいくかもしれない。

それか、魔法をそもそも打ち砕く高火力がだせればいいのだが、コ・ゾラと戦った後だ。

そこまで集中できる気がしない。


「風の痛みよ。【ラファーガ・ドロール】」


なじんだ魔法を詠唱する。

風は渦巻き、痛みを伴う槍へと変化する。

風の槍は、アダムの方向へと真っ先に向かうこととなった。


「無駄だって言っているだろう。君は退屈だな」


アダムは手を組み合わせ、魔法を構築する。

それは、魔法から自らを守る無敵の壁。

透明な白き壁がアダムの前に出現する。


「魔術構築【障壁】」


透明な壁と、風の槍は激突する。

その攻撃の速度は、先ほどよりも遥かに早かった。

アダムは、先ほどとの攻撃の差異に違和感は感じるが、動揺はしなかった。

壁と槍の、激突音が広がり風の槍は空間に消える。

やはり、先ほどの魔法と比べると、圧倒的に威力が足りない。

アダムは、それに疑問点を持つ。


「そもそもの魔法の速さを上げたか。だが残念、魔法の重さが足りな……」


それは、アダムの魔法の正体を知るための実験ではないか。

粗を探しているのではないかとアダムは考える。

例えば、作動速度。

魔法が発動されてから、物理として現実に反映される時間差。

そのラグを、イグニスは狙っていたのではないか。

そんな結論に至った。

しかし、結果は違った。

アダムはイグニスを侮っていた。


それは連発。

さきほどとは、比べ物にならないほどの槍をイグニスは生成していた。

多くの風の槍が、アダムに到達する。

風の槍は、数十いや百を越えるような数であった。

速さをもった風の槍は、台風の中の暴風のような威力を持っている。


「暴風よ、槍となれ。【ランサ・ウラカーン】」


ひとつひとつが、透明な壁に到達する。

壁は着実に削れ、ひびが入る。


「……いける」


イグニスの考察はこういったものだった。

壁の耐久力が100あるとしよう。

それ以下の攻撃力であれば、たとえ99に達していても、ものの数瞬で回復する。

アダムの壁はそういったものだとしたら。


イグニスは、1を100回繰り返した。

たとえひとつひとつの影響が小さくてもそれを繰り返す。

イグニスは確信を得ていなかったが幸いにもそれはアダムの魔法【障壁】の弱点を確実についていた。

【障壁】は、イグニスの攻撃に耐えきれていなかった。

アダムの魔法【障壁】の修復速度を上回った速度で攻撃することに成功していた。


壁は崩壊し、いくつかの風の槍はアダムにかすり傷を負わせる。

その傷も一瞬のうちに癒えてしまう。

アダムの体の構造は、亜人とも獣人とも違うと骨折りからは聞いていた。

だが話で聞くのと目の前で見るのとではやはり違う。

獣人の怪我ですら、治るのは時間を要する。

このアダムの怪我の直し方は、まるで現実そのものからなくしているようだ。

やはり人間の持っている技術はどこか時代を超越している。


しかし相手の絶対的な防御を上回ることには成功した。

これが基点となって、もっと攻めることができればいいのだがとイグニスは考える。

しかしアダムの様子は少し違った。

自らの手を眺め、疑問点について思案しているようだ。

その目は、戦闘に重きを置く戦士の目ではなく一種の学者のような目をしていた。

自らの手を、自らの五本の手の指を折り曲げたり開いたりしていた。

そして真剣な顔つきで、イグニスに顔を向ける。

その顔から出たのは賞賛だった。


「素晴らしい。思ったより、攻略が早かったな。石使い(ペトラ)といい優秀な【亜人】が多いみたいだ」

「お前気持ち悪いよ。俺のことを観察しているのか?それとも【人間】はみんなそんな感じなのか?」

「君らのとこにいる少女もいずれそうなるさ。その前に僕に渡さないかい?」

「嫌だね。お前はクソだ」


その目は、まるで実験体として観察されているようだった。

どこまでも底をしることができない。

心の底から恐怖心が這い出る。

亜人という種族が持っている【人間】への恐怖のせいだろうか。

古代の逸話に残っていたという【人間】。

それとアラギ(人間の少女)のことはどうしても一致できなかった。

人間の過去になにがあったのか。

それをこいつは知っている。

それを知るためには、こいつに少しでもダメージを与え捕まえなければ。


恐らく、ペトラもここまでは容易に辿りついた。

ここからだ。

ペトラが、一方的にやられてしまう何かがある。

イグニスは、自身の持っている警戒心を一段階上げた。


「それにしても気になるな。ここまで強いのなら僕が知らないはずがない。それに加えて法皇国の剣技……いや我流も混ざっているのか?僕は君を知らない。なぜだ?」

「お前には絶対わからないよ」

「そんなこというなよ。僕は君のことを確実に知っている」


恐らくだが、アダムはイグニスの法皇国での【天使】としての活動を知っている。

だがイグニスが【天使】であるということは絶対に気付かない。

そもそも【天使】が、自身の役割を捨てるなど一度もなかった。

【天使】は誇り高い。

それゆえに、それを捨てるメリットなど一切ないのだ。

法皇国も、自国の主力である【天使】が抜けたなんて知られれば大恥だ。

敵対国。特に獣国になんて教えるはずがない。

【天使】であるイグニスと、今のイグニスが違いすぎて想像ができないのだ。


「まあ、全力を出させるまでだ」

「なにを……」

「こいつ倒したの苦労しただろ?もう一度やろうよ」


アダムは、コ・ゾラの死体に触れ魔法を発動する。

その光は、普段アンデットが纏っているようなモヤととても酷似していた。

生物がだす音としては、異質な音がその場に広がる。

その死んだ肉体は再び動き出す。

コ・ゾラはアンデットとして復活した。

その肉体は、毒を排出し筋肉が躍動していた。

緊張感は、先ほどの戦闘と一切変わりない。

そんなアンデットが立っていた。


「何度もイラつかせてくれるな」


自らが、敵として殺した相手をアンデットにされるとこちらまで馬鹿にされた気分になる。

たとえ、敵でも。

たとえ、狂人でも敵として戦士として尊敬し殺した相手。

そんな相手は、アンデットとして復活した。

まるでお前の殺しなどどうでもいいと言われている気持ちだ。

コ・ゾラをアンデットにした張本人は、どうでもいいとにやけ顔をだす。


「さあ、第二ラウンドだ」

「「待て」」



しかしその瞬間、割り込む声が二人。

そしてその二人はイグニスの知っている人物だった。

その二人は、両者刃物を取り出しコ・ゾラの首をはねる。

コ・ゾラは、アンデットとして復活しすぐさま首を飛ばされた。

その肉体は、その場に倒れこむ。


「参ったなあ……」


アダムは、頭をポリポリと書き出す。

その存在が何かを知っていたからだ。


「まさか天使に邪魔されるとは思っていなかった」


その二人には、白い天使の羽が堂々と生えている。

その白き羽は、神々しく輝いておりどこか威厳を放っていた。

その白い仮面と、白いローブは法皇国の所属であることを示していた。


大柄の男性と、小柄な中性な人物はこう名乗る。


「天使第四位ウリエル」

「天使第五位ラグエル」

「「ここに参上する」」

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