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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
二章 異物の少女
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四話「入国と宝石」


そう話しているうちに、門番と出会った。


「やぁ、シャリテさん。こんにちは。その方は新しい商人さんかい?」

「いや違うよ。こいつは俺の命の恩人さ」

「何があったんですか。事情によっては詳しく話を聞くことになりますよ」


門番の顔には、一瞬緊張が走った.

しかし目の前にシャリテが怪我一つなくいることには安堵しているようでもあった。

「おい、あんまり話すなよ」


 イグニスは二人の話を終わらせた。

「まぁ、シャリテさんにたまたま道中であったものだ。これからこの国に住みたいんだが」

「貴方女性にしては相当鍛えた体ですね。どこかいい家の出なのかい。シャリテさんの親しい人なら歓迎ですよ。ある程度の通行料や書類はありますかね」

「それは俺が払うよ、イグニスは気にしないでくれ」

「ひとつ質問なのですが、イグニスさんは、どこの出身なんですかね?」


 イグニスは少しためらいながらもその質問に答えた。

「法皇国の隅にあるような村だよ。名前もない小さな村だ」

「意外だな……あの剣術はどこかの騎士団に所属しているものかと思ったんだが」

「そんな大層な技術じゃない」

「まぁ、一部の人ぐらいしか知らないような場所に住んでいた人がこの国に入るのも珍しくはないですしね」

「私は大丈夫なの……?」


 マールはシャリテに話しかける。

「マールちゃんの証明書も出してもらったらどうだ?」

シャリテはイグニスにそう提案する。

「そうだな」

「じゃあ、二人ともこの書類に自分の名前は書けますか?」

「いや俺は書けるがマールは書けない」

「とりあえず、イグニスさんはこの契約書に目を通してください」

 

 そこには、【中立国】アーリアに関する、ありとあらゆるルールが端的に書いてあった。

簡潔にまとめると、この国においての自警や住み方についての法律であった。

イグニスはその文章を一通り読んだが、なんら違和感は感じなかった。

むしろ良心的な内容で、ただこの国に定住しようとすることが目的ならこの文章に書かれていることは非常により良いものに思えた。

恐らくこの国の法律を理解したうえで入国して欲しいという考えなのだろう。


「そこにかいてある法律が守ることができない。または犯罪を犯した場合、多くの罰金と今後中立国の入国は厳しくなります。把握できましたか?」

「おおまかなこの国のルールはわかった。とても作りこまれている法律だな」

「この国自体が長い歴史を持っているし、【中立国】に改名し、法律を変えるときにも国の重鎮たちは寝ずに話し合ったそうだぞ」


 話を聞きながら、イグニスは自分の名前を契約書に書き記した。

「俺の名前は書いたぞ、これでいいんだな」


 イグニスは、自分の名前を書いた契約書を門番に手渡す。

門番はその内容を確認しながら返答する。

「ありがとうございます。イグニスさんの入国手続きはこれで大丈夫ですね。ではこの子にはこれを持たせておいてください」


 そういってマールに手渡しされたのは、魔法の刻印がされた天然石だった。

「これはラピスラズリかな」

「そうですよ。イグニスさんは宝石にも詳しいのですね」

魔法刻印ラピスラズリ。

その石は一種の芸術品のようで、刻印が描かれていることでより一層際立っていた。

石には糸が強く結ばれており、持ち主から簡単に離れたり落とすようなことはなさそうだ。

マールは、そのきれいな石をじっと見つめて、喜びによって体は震えていた。

このような美しいものを見るのですら初めてなのに唐突に触ることができた。

そういった想像もできなかった事柄に対する困惑も混ざっているだろう。


「本当にこんなきれいなもの持っていいのかな……?」

「あぁ、いいよ。この国に残るならそれをもってもらうことになります。君を守るために必要なものだから大切にしてくださいね」


マールは、その石を大切そうになでた。

その様子をイグニスは穏やかそうな顔で見ていた。

その反面シャリテはため息をつきながら首を下に向ける。

「毎回見るたびに思うが、国外に出したら商売になるぞ……」

どうやら商人の目から見ても珍しい物のようでシャリテは真剣な顔つきだ。

「数も限られていますし、国外に売ることを制作者がきらってるんですよ」

「珍しいものを身分証明書にしているんだな。誰が作ってるんだ?」

イグニスはその道具に興味を持った。初めて見るものではあるのだが、

その美しさに尚更どうしても心惹かれるものがあったようだ。


「制作者はこの国では、有名な変わり者ですね。自身の魔法を天然石に刻印として保存することができる唯一の技能を持った研究者です。普段は国の真ん中にある宮殿にいるから、国の入り口が近いここら辺に来ることもないし、外に出ることさえないですよ」


 門番はずっと北のほうを指さし、そこには巨大な宮殿が見えた。

その宮殿は黄金に輝いていて、遠くからでも豪華絢爛なことがわかる。


「優秀な研究家であり、なおかつ芸術家の才能を持った稀有な人物さ。商人でも、国民でもなかなか会うことはできない。」

「まぁ、要は国の庇護下にあるということだな。国としても危険な場所に出したくはない貴重な人材だ。俺たちも顔を見ることはない。」


 シャリテも知っている人物で、この国における知名度は絶大のようだ。

「たった一つの天然石にそこまでの価値があるのか。」

「その道具の効果は絶大なんだ。移民による犯罪も、移民が被る被害も格段に減ったんだ。それには値千金の価値がある。」


 シャリテは、イグニスたちにその道具のこの国における大事さを教えた。


「この国が中立国であることを支えている一つの柱といっても過言ではない。差別なく、争いなくこの国が外からの人の出入りができているのは一人の天才がいるからです。」

門番がマールに笑顔を向ける。

「マールちゃんがその道具を持ってる限り、君が犯罪の被害にあうこともないと思いますよ。」




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