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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
三章 多眼竜討伐戦
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二十六話「観戦者①」

「はぁ……」


イグニスはため息をつく。

罪悪感などは感じていないが、気持ちの良いものではない。

コ・ゾラはもっと多くの人を殺し、それに快楽を感じていた。

理解するつもりはない。

だがその人物を止めるために自分も同じ行いをした。

それは受け止めなければいけないことだ。


「今は、あの竜の元に行くべきだ」


そう思い、行動に移そうとする。

しかしそんなイグニスに声をかけるものがいた。


「まあ、待ちなよ」

「誰だ」


イグニスは、警戒心を最大にして剣を向ける。

しかしその男は、怯える様子もなく手を挙げる。


「はいはい、降参降参。僕は君とやり合うつもりはないよ」

「お前がアダムか」


イグニスの目の前にいた人物は【人間】だった。

転移の魔法や、移動の痕跡は一切なかった。

その時に感じる気配も一切なかったはずだ。

そして感じる異質な雰囲気。

イグニスはこの人物が誰なのかを知っていた。


「ゾラ死んじゃったんだ。意外だね」


アダムは、からかうような口調で、イグニスに質問をする。

そこには、怒りといったものが一切感じられず、イグニスはむしろ気持ち悪く感じた。



「恨みはないのか?」


イグニスはアダムにそんなことを聞く。

しかしアダムはくすりと笑った。


「それ聞くかい?君も随分と不思議だね。恨みはないよ」

「じゃあ、何しに来たんだ」

「目的をあえていうなら、ゾラのことを倒した君のことを確認しにきたのかな」

「確認?」

「ああ、君が倒したコ・ゾラには可能性があった。それこそこの国にいる【骨折り】と【獣王子】を倒せるほどの」

「……なるほど」


正直、自分とコ・ゾラの相性は良かった。

いや良すぎたといってもいいぐらいだろう。

毒の近接武術。

コ・ゾラの戦闘スタイルは端的に表すとそんな感じだ。

それにつけ加えて、鎧よりも硬い強固な鱗と獣人特有の怪力がある。

それは多くの兵を、なぎ倒すほどの体力があった。

こんなものが国で暴れたら大惨事だろう。

だがイグニスには、それを躱す回避力とそれを切ることができる魔法があった。

イグニスの戦闘スタイルとかみ合わなかったのだ。

コ・ゾラは、敵の土壌を潰す力はあった。

だが敵の土壌に入った時潰せなかった時、それから抜け出す器用さはなかったのかもしれない。


骨折りの戦闘スタイルでは、恐らくコ・ゾラは耐えてしまう。

普通は、体の一部が折れたら戦闘どころではない。

だがコ・ゾラは耐えるそういうやつだ。

骨を折られてしまっても確実に一撃は入れるだろう。

そしてその一撃は致命の一撃。

骨折りの底力というものを知らないが、倒すには相性が悪い。


プラードの戦闘方法は知らないが、獣人は魔法を使えない。

つまりコ・ゾラとは殴り合いの近接戦になるだろう。

そしてコ・ゾラは体内から毒を排出する。

この世界には、解毒の薬もあるにはあるが戦闘中では割れてしまうだろう。

解毒の魔法も使えない。薬も使えない。

もしプラードが解毒の手段を持っていないのであればコ・ゾラの方が優勢にみえた。


「まあ、その二人に戦って死ぬ分にはよかった。痛手を負わせられる。だが結果はどうだ。どこの誰かもわからない剣士に負けて死ぬ。しかも傷は一切負ってないと来た……つまらないなあ」



その時、アダムが殺気を放ったかのような感覚を覚えた。

イグニスは剣を構える。

しかしその感覚は一瞬で去った。

殺気が消えたのだ。

イグニスはこんな感想を覚えた。

こいつは、コ・ゾラが倒れたことに怒りを持っているのではなく

自分の考えたことが都合よくいかなかったことに怒っているのだと。

アダムはイグニスに話を始める。


「まあ、安心しなよ。僕にはやるべきことがある」


やるべきことと言われて、コ・ゾラとの戦闘前のことが頭に浮かぶ。

それはアンデットとなった多眼竜のことであった。

いま多眼竜はどこら辺にいるのだろうか。

骨折りはそこにいるのだろうか。

そんなことが頭にめぐる。


「多眼竜のことか?」

「話が早いね」


しかし、そんな元凶であるアダムをイグニスは見逃すわけがない。


「素直に行かせるとでも?」

「残念、あれはもう僕の手を離れている。アンデットになった後は僕のことを倒しても無駄だよ。まあできないと思うけど」

「つまりあれを止めたいなら」

「あのアンデットを破壊しないと無理だよ。僕にはもう関係がない」


正直、今は目の前にいるアダムより現在進行形で被害を及ぼしている多眼竜のところへ行きたい。

だがそれよりイグニスにはききたいがあった。


「その前に一つ聞かせろ」

「なんだい?多眼竜は追わなくていいのかい?」

「マールはどこにいる」


それはマールのことだ。

ペトラは、人間の男にさらわれたといっていた。

となれば目の前にいる男は、マールを連れ去った張本人だ。

どんな手段を使ってでも返してもらう。


「言わないと言ったら?」

「お前を叩き潰してでも吐かせる」


イグニスは、再び剣に風を纏わせる。

しかしアダムには、戦闘の意思はないようでため息をつく。


「まあ、こうなるよね。マールちゃんっていうんだね。あの子は」

「どこに行ったのか。言えって言ってるんだ」

「念のためきくけど、味方に入ればマールちゃんと合わせると言ったら?」

「その場合は、この国を滅ぼすんだろ。くそくらえだ」


イグニスは剣を振り、【裂空】を放つ。

その風の刃は、空気を切り高速でアダムに接近する

しかしその攻撃は既にふさがれていた。


「魔術構築【障壁】。さあ君は僕になにを与えてくれるんだ」


アダムの目の前には、透明なブロック状の壁が現れる。

アダムはそういって笑い、イグニスの攻撃を防いだ。


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