二十二話「王者の咆哮」
だが剣は止まる。
なぜか、それは獣の咆哮が聞こえたからだ。
それは、強い波動を纏っていた。
動きを止め、ネイキッドはその人物に向けて質問をする。
「誰だ」
「……」
だがその人物は、なにも答えずセーリスクに歩み寄る。
ネイキッドは、警戒しセーリスクとどめを刺さずその場から離れる。
その男は、獣人だった。
白い毛並みを持ち、決意にみなぎった緑の目をしていた。
獅子の獣人。
その人物をネイキッドは知っていた。
「強き戦士だ。愛する人の土地にまだこのような戦士がいるとは知らなかった。だが安心しろ」
「お前は……!」
「私がいる」
「獣王子プラード」
獣王国その王の息子プラード。
プラードは、こうしてネイキッドと会敵した。
プラードは、ペトラから渡されていた魔法道具によってセーリスクの傷をいやす。
万全とは言い難いが、これで命の危機にさらされることはないだろう。
プラードは、セーリスクの呼吸が安定するのを確認する。
ネイキッドは、その様子をみながらプラードに質問をする。
「おいおい、お前がここに来るのかよ」
「私の来ることの何がいけない。不都合でもあるのか?」
プラードは、ネイキッドのことを強くにらみつける。
しかしネイキッドは、そんなものに気おされない。
「俺のボスに、お前と骨折りは絶対戦うなって言われたんだよ」
ぺらぺらと勝手に話してくれるのは、有難い。
やはりこの敵は戦う相手を選んで意図的に戦力を落としているようだ。
「それはアダムと呼ばれる人間か。君も話には聞いている」
プラードは、ネイキッドのボスという人物をアダムだと仮定した。
骨折りの話からもそれは明らかだった。
「聞いたのは骨折りからか?」
「違う。以前獣王国で殺害を犯しているな」
しかし、プラードはこの人物のことを以前から知っていた。
それは獣王国での出来事だった。
「覚えていないな」
「【獣殺し】。なぜ獣王国の犯罪者が獣王国の手先になっている。あの人間がお前を誘ったのか?」
「ああ、王子様だもんな。知ってて当然か」
【獣殺し】。プラードは、ネイキッドのことをそういった。
【獣殺し】。それは、獣人を多く殺したものに名付けられた名前だ。
その名前を獣人は嫌悪し、亜人の一部は尊敬した。
それが獣殺しという名前だ。
「だがそんなことはどうでもいい」
「どうでもいい?」
「ああ。私は豊穣国の兵として戦う。武器を構えろ」
「わざわざ丁寧だな。王子様」
「体が吹き飛ぶぞ」
プラードの全身が躍動する。
ネイキッドは、殺気を全身に浴びた。
それは、意識より早く反射で武器を身構えてしまうものだった。
ネイキッドは、先ほどいた場所から吹き飛ばされる。
「かッ…‥‥」
ネイキッドはその拳を回避することはできなかった。
だが耐えれないわけでもない。
息を整え、体勢を変える。
自分の戦闘スタイルは、嫌になる。
そんなことをネイキッドを考える。
真正面からの戦闘はそれほど好きではない。
亜人との正面対決ならそれはまだいい。
だが獣人との身体能力の差を考えると、今の状態はとても不味い。
それが、獣王の息子となるならなおさらだ。
「王子様よ。獣王国に帰る気はないのか?」
武器を構えながら、ネイキッドはプラードに質問をする。
プラードは、拳を止め質問に答える。
これは、獣王である父から指示されて聞いてくることだろうか。
「ない。父は何と言っていた?」
「はっ……そうだよな。生憎、王様と俺のボスは仲がよろしくないんだよ」
「それなのに、獣王国に味方するのか?連携もうまくいっているようには思えない」
「いいんだよ、俺らは獣王国に味方するのが目的じゃないんだから」
「どういうことだ」
アダム達、人間の一味の動きは良く読めない。
ただ獣王国に戦力として入り込み、豊穣国を攻めている。
それだけのように思えた。
だがプラードはこう考えていた。
アダムがいなければ、自分の父が豊穣国に攻めることはなかっただろうと。
アダムと獣王の間になにかしらあるのだ。
何かしらの契約か。
いまの獣王国にとって都合のいいことが。
そうでなければ、獣王国が豊穣国を攻めることはない。
「俺もしらないよ。おれはただアダムに拾われただけだ。俺がやったことで国同士がなんてどうでもいい。もっと素直になれよ王子様」
ネイキッドは、明らかにプラードのことを嘲笑していた。
嘲笑っていた。
その顔は、どうせお前の本性も人殺しなんだろうといわんばかりだ。
「なるほど、話す価値はないということだけはわかった。もとより期待もしていなかったがな」
プラードは、インファイトの構えをとる。
毛もさかだち、いまにも襲い掛かりそうだ。
「残念だけど、あんたと馬鹿正直にやる気にはなれないよ」
ネイキッドは、溜め息をつく。
それにはやる気という物が全く感じ取れなかった。
ネイキッドは魔法を使い自らの姿を隠す。
それは、足音さえ聞こえず位置をつかむことすら困難だった。
だが視覚がなくても、嗅覚がある。
そう思い、匂いを嗅いでみると違和感があった。
プラードは、ネイキッドの匂いを追跡することができなかった。
「流石に獣殺しと呼ばれるだけのことはある。だが…‥‥」
プラードは、強く吠えた。
それは周囲の物体を震わせるほどの物だった。
そしてプラードが吠えた瞬間、空間から突如としてネイキッドが現れた。
ただネイキッドは、あわてていなかった。
自身の主力であるその魔法が使えなかった。
ただその事実を冷静に受け入れていた。
自らの透明化されていない腕をみてプラードに問い詰める。
「どういうことだ。なぜおれの魔法が消えた。」
ネイキッドは、プラードに問う。
しかしプラードはお前ごとき逃がすわけがないという肉食獣の顔をしていた。
「獣の王には、王と呼ばれるだけの力があるということだ」
獣王の血族のみが扱える力。
それは【王者の咆哮】。
そう呼ばれていた。
彼は、その力によってネイキッドの魔法の力を打ち消したのだ。
「獣殺し。君の魔法は、五感が亜人より発達している獣人には尚更絶大なものだ。だが獣の血族は、君が思う何千年も前から魔法と戦ってきた」




