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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
三章 多眼竜討伐戦
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二十一話「纏わぬもの④」

さきほどの魔法に、少しふれただけ。

それだけなのに、ネイキッドは自らの片腕のが動かないのを感じた。

時間がたてば、この不具合は治るだろうがいささか不都合だ。

それに、この青年がそれほどの魔法を使うことができるとは想定していなかった。

さきほどまでの戦闘で使わなかったのは、周囲への被害を恐れたためか?

そんな思いも頭にめぐる。

だが違うのだろう。

死に近づいたから、自分の命を顧みないこともある。

そんな命への危機感を保つリミッターを外した。

だからこそこの魔法を使ったのだろう。

現に彼の体は、自らの魔法によって自傷している。


「たく……。どこの場所でも死に追い詰められたやつは怖いな」


ネイキッドは、それをかつていた自分の姿と重ねた。

きっと過去の自分もこのような顔をしていたはずだ。

そんな思うが頭に浮かぶ。

だがそれは、自分ではない。

同情で、命を救うほど自分は甘くない。

自分は、命を奪うためにこの場所にいる。

そしてそれは、簡単に変えれるほど甘くはない。


「とっとと、殺してやるよ。命知らず」


吐き捨てるようにそういった。

それは、重ねてしまった自らの愚かさも同時に捨てた。


ネイキッドは投擲をする。

腰に備えていた予備の短刀。

ネイキッドは、それをセーリスクに投げつける。


投げつける過程で、ネイキッドの魔法は短刀の姿を隠していた。

しかしセーリスクは、魔法による氷の刃でそれを迎え撃つ。

氷の刃は、短刀とぶつかり砕けた。

短刀はぶつかった衝撃により地に落ちる。


「ちっ……、使える魔法はひとつだけじゃないのか」


ネイキッドは、不機嫌そうな表情を隠そうともしない。

さきほど使われた氷霧の魔法によって、仕掛けていた短刀はすべて落ちてしまった。

故に姿を消す魔法【ギムレス・パシレウス】は有効に働かない。

だが、強烈な魔法であり自傷の可能性のある魔法だ。

多分二度目に使うことはない。

ネイキッドはそう判断する。

それに殺し損ねた命だ。

確信はないが、こいつは首を確実に落とさないと死なない気がする。

あくまで勘だ。

重心を低くし、短刀を両方の手で逆手に持つ。


それを見て、セーリスクは迎撃に移る。

魔法をぼそぼそと詠唱し、氷による刃を作る。

それは、コ・ゾラに一撃を与えた魔法。

氷魔法【グラキエース・ラミーナ】。

セーリスクの半径数十センチにわたり、魔法の刃は形成される。

それに対しネイキッドは息を吐き、そして吸いただ腰を深くし剣を構える。

姿を隠す必要はなかった。

真正面から潰すのみ。

剣を握っている両方の腕は血管が隆起し、

いまかいまかとセーリスクの首元に短刀を突き刺す瞬間を待っていた。

そしてその時間は始まる。

セーリスクにより、氷魔法【グラキエース・ラミーナ】の刃はネイキッドにむけて発射される。

発射されたと同時にネイキッドは、セーリスクに向かって走り出す。

その強烈な脚力によって、地面は軽く抉られる。


一秒、セーリスクによって十何個の氷の刃はネイキッドに向けられた。

二秒、ネイキッドは何本かの氷の刃を軽やかなステップによって回避する。

三秒、回避できなかった氷の刃は、少しかすりわき腹や顔に命中することとなる。

当たった部分が氷により凍り付く。

四秒、回避は諦め短刀により氷の刃をはじいていく。

はじいた氷の刃は、煌めきながら崩れ地面に落ちていく。

そして五秒。

決着の瞬間だった。

まずは右手に持っている剣で首元を狙う。

しかしそれは当てが外れた。


氷の刃は、一本を残して、セーリスクの背後に控えていたのだ。

右手がはじかれ凍り付く。


しかし左手がある。

左手にもっている短刀で、腹に突き刺そうとする。

しかしそれも駄目だった。

彼、長剣を持っておりいとも簡単にはじかれた。


それは氷を纏っていた。

はじく瞬間、まるで青い光が弧を描いているようだった。

はじかれた両腕は、後ろに下がり防御には使えない。

その青き弧線は、自らの首元にむかっているのが見えた。

とても綺麗だった。

氷の魔法は、憧れだった。


ああ、これでいい。

これこそが自分の望んでいたものだ。

急速に近づいていく死に、なぜか安心感を覚えた。

ネイキッドはそう感じ、セーリスクの剣をあえて首元に受け入れた。

だが彼は氷を纏った剣を、首元に届けることなくただその場に倒れた。


「は…‥‥?」


ネイキッドは、憮然とした表情でその過程を見ていた。

彼は根気や気力、体力その他多くのものを使い果たした。

ネイキッドの剣筋をはじき返したかと思ったら、そのまま地に伏したのだ。

踏み込んだはずの片足は、力を失い緩やかに地面に近づいていく。

そんな様子をネイキッドは見ていた。


「なんなんだよ、てめぇは」


心が躍っていた。

しかし今の現状は全く違う。

ネイキッドが感じたものは呆れだった。

しかしその中には、確かな怒りによる激情も渦巻いていた。


「なんなんだよ。お前じゃないのか。死ね」


そしてネイキッドは、セーリスクに短刀を振り下ろした。

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