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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
三章 多眼竜討伐戦
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十九話「纏わぬもの②」

セーリスクは、焦っていた。

このままこの状態が続けば、自身の死亡は確実に近づいているだろう。

幸い、敵の主力である透明化からの襲撃のコンボはなんとか回避することができている。

しかし敵がこの魔法がどれほど使うことができるのか把握できていない。

一体この魔法は魔力をどれぐらいつかうのだろうか。

兵士たちを殺すのに、十数回。

自分を攻撃するのに使用した魔法は、ついさきほどの攻撃を入れて五回ほど。

単純な魔法の連発としては、やはり多い。

魔力消費がすくないのだろうか。

そんなことをセーリスクは考える。

だが思考に費やせる時間はそう多くはない。

ネイキッドの攻撃を躱しながら

頭の隅にそんなことを置く。


しかし短刀と直剣のリーチ差は明白だ。

透明化していない現在では、セーリスクに対してネイキッドは強く踏み込んでこない。

これは、明らかにセーリスクの攻撃を避けていると考えていいだろう。

セーリスクの深い切り込みに対し、ネイキッドは押し込むことなく受け流す。

体格に反して、力任せの鍔迫り合いは好んでいないようだ。


「どうした、近接は苦手か?」

「そうでもねぇよ」


表情を変えず、両者ともお互いの攻撃に集中する。

ネイキッドは恐らく姿を隠し敵を錯乱してからの攻撃が主なのだろう。

セーリスクに対し、飛込み攻撃する場面が少ない。

それに対し、セーリスクもまた積極的に攻撃しているとは言い難かった。

お互いがお互いに決めてに欠けている。

そんな印象が見受けられる。


「さっきみたいに来いよ。てめぇこそ剣術に自信がないのが見え見えだぞ」


正直、セーリスクの攻撃はネイキッドから見ても鋭かった。

これは、はったりだ。

しかしセーリスクは違う。

イグニスとの個人戦。

コ・ゾラとの戦い、カウェアとの別れ。

彼はもともともっていた才覚と同等の自身を失いかけていた。


「うるさい、話すのが余程すきなんだな」


ネイキッドの言葉が少し心に刺さるが、

それを気にしている場面ではない。

ネイキッドを倒すことがこの場面では重要だとセーリスクは考える。


だがその蓬髪から見受けられる三白眼の鋭い眼光は

セーリスクの首を確実に狙っていた。

ネイキッドは、逆手に構えたその短刀をセーリスクに向ける。

重心を下にし、太ももの筋肉に大きく力を入れている。


「俺も野郎には興味ねぇんだ。少しでも楽しもうぜ」


それは大きな体躯から繰り出される俊足だった。

突撃してきたネイキッドにセーリスクは剣先を向ける。

しかしその剣は、ネイキッドの短刀によって少しずらされる。

はじかれる音が、両者の耳に響く。

その響いた音が与える感情は、二人でそれぞれ違うものだった。

それは、ほんの一瞬のこと。


「ただ、刃物を使うのもつまらないよな」

「な……!」


その瞬間、ネイキッドは短刀を持っていない拳に大きく力を入れる。

そしてネイキッドは、満面の笑みでセーリスクにこういう。


「歯ぁ、食いしばれよ」


その時、なにをされるか分かったセーリスクは強く腹筋に意識を向ける。

そしてセーリスクの腹にはネイキッドの拳が入れられた。

その威力は強かった。

薄いとはいえ、革鎧を通して厚みがあったはずなのに

ネイキッドの拳はセーリスクにダメージを与えるものだった。

少し体が浮き飛ばされる。

しかし地面をしっかりと踏み、その攻撃を耐えた。

セーリスクはそれより重い拳をすでに知っていた。

それは獣人コ・ゾラの拳。

心に衝撃を与えられても、砕けることはない。

力強い一撃といえど、ネイキッドは亜人だ。

獣人並みの筋力を持っていても、それは獣人の力ではない。

肉弾戦もある程度いけるようだが、やはり警戒するべきは、

亜人の真骨頂である魔法。

透明化の魔法がどこまでの範囲使えるのか知る必要がある。


「わざわざ腹があいていたのに、短刀で攻撃しないなんて随分と優しいんだな」

「短刀で攻撃しても、やり返されそうだったんでな」

「ばれてたか……」


腹を抑えながらも、小さく舌打ちをする。

もしネイキッドが、短刀で腹を攻撃してもそれは容易だった。

革鎧に加え、鎖帷子をセーリスクは着こんでいた。

流石に、コ・ゾラのように強烈な打撃と毒による攻撃は防げないが

こういったそれほど長くない短刀なら深く剣が刺さりこむことはない。

そうしてネイキッドの動きを止めた後ならセーリスクが

直剣で攻撃することも容易だっただろう。


「透明化の魔法はもう使わないのか?」

「わざわざそれを教える必要があるのか?しかしお前も馬鹿だよ」


その瞬間、足に鋭い痛みが走った。

そうして自分の足を見ると、セーリスクの足には短刀がすでに刺さっていたのだ。

その痛みに思わず、膝をついてしまう。


「魔法は想像力だ。誰も姿だけを隠す魔法とは言っていないぞ」


そうしてネイキッドはパチンと指を鳴らす。

そして彼は初めて魔法の詠唱を開始する。


「姿をあらわせ。裸の王よ。【ギムノス・パシレウス】」

「なぁ…‥!」

「王は馬鹿だと騙される。みたのは存在しないものだった」


詠唱が開始され、短刀が宙に現れる。

突如見えた短刀は、

空中で固定されているようでもあった。


空中に固定されたままの短刀が一気に加速し、

セーリスクの全身をそれぞれ貫くこととなる。

血しぶきが宙を舞い。

血の池が地面に完成する。


「お前も馬鹿にはみえない衣を見たひとりだよ」

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