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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
三章 多眼竜討伐戦
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十八話「纏わぬもの①」

そこには、崩れた瓦礫や壊れた家などが倒壊していた。

そしてそこには、多くの兵士が倒れている。

その風景を生み出したのは、たった一人の男であった。

それはアダムからネイキッドと呼ばれる男。

この人物もまた豊穣国に攻撃を仕掛けている集団のその一人である。


「まったくよ。少しは楽しめるかと思ったのに。世の中そう望みどおりに行くもんじゃないな」


また一人、短刀による攻撃を突き刺し致命へと追い込んでいく。

致命傷をおった兵士は、ネイキッドによって踏み潰される。

男性を踏み潰しながら、ネイキッドは自身の短刀についた血の汚れをふき取り手入れをする。

ネイキッドは、退屈そうにけだるげに言葉を発する。


「弱いな。豊穣国の兵士は。まぁ獣国もこんなもんか」


その言葉には、明らかな呆れがあった。

しかし視線は別の方向へと向けられる。


「それでお前はどうなんだ?」


ネイキッドが、視線を向けた先には一人の男が立っていた。

その男は、セーリスクであった。


「僕らの国は弱くない……」


その体には、ところどころ切り傷を持っていた。

一つ一つは深くはないが、このまま同じような傷が続けば出血により戦闘行為は継続できないだろう。

しかしネイキッドは、その言葉を鼻で笑う。


「なら現実をよく見ろよ」


ネイキッドは、自身が踏み潰した残骸をセーリスクに蹴り上げる。

それほど勢いは強くなく躱すことも、切ることもできた。

しかしこれはついさっきまで生きていた者の死体だ。

セーリスクは、その向かってくる死体を体で受け止める。

しかしネイキッドを目を離したその一瞬。

その瞬きは、ネイキッドの姿を見失うことにつながってしまった。


「どこだ……」


自分以外のすべてのものがこれに命を奪われた。

姿を消す魔法。

この魔法には、名前というものが存在しない。

なぜならそれは、小さい子供が誤魔化しでつかうようなジョーク的なものなのだ。

子供が自身の退屈を紛らわすために生み出されたそんな小さな魔法。

体系化していないために、魔法としての存在感も薄い。

少なくともセーリスクはそう認識していた。

戦闘において実践的にそれを使う者をセーリスクは一人も知らなかった。

しかし目の前に確かに存在した亜人はそれを確かに使いこなしていた。

そしてその威力は絶大だった。


意識を集中させ敵の殺意などを探ることに使う。

ここで死ぬわけにはいかない。

決意を心にいきわたらせる。

大きく息を吸う。

そしてその時はきた。

電撃が空気を走るようなそんな一瞬。

全身を大きくそらし、セーリスクはネイキッドの短刀の攻撃を躱すのに成功した。

空間から突如現れたネイキッドは、舌打ちをする。

その姿は、ずっと息をひそめ伏せていた肉食獣に酷似していた。


「さっきからそうだ。お前だけだよ。初見で躱したの」

「……?」


一撃の回避だけ。

それだけのはずなのに命の一部を刈り取られているようだ。

息を切らしながらも、話を聞くがセーリスクはその言葉の意味が理解できなかった。

躱すことが難しい攻撃であることは理解している。

自分以外の兵士たちが、この攻撃を躱すことができなかったのは

連発される初見殺しの理不尽に対処ができなかったのが要因だと考えていた。

それに人数が多い時がもっとも危険だった。

この男は味方が近くにいるという安心感を利用して、透明化を用いることで奇襲を行っていた。

再び透明化した彼を止めることができるものはいなかった。

セーリスクは、自身がなぜこの攻撃をよけているのか理解していなかった。

ただ避けるので精いっぱいだった。

こころに焦りが募る。


それに反しネイキッドは心から驚いていた。

通じると思った技が通じないのは初めてだ。

確かに前骨折りに回避され、尚且つ攻撃を入れられた経験もあるが

それはただ骨折りが例外すぎるだけだ。


ネイキッドはひとつある才を持っていた。

その才とは、勘のようなものであった。

自身の攻撃は、通じると勘がささやく。

囁かれた瞬間、自分はどこにどのタイミングでどの深さで攻撃すればいいのか。

それがはっきりとわかる能力という物をネイキッドは持っていた。

それに加えた透明化の魔法。

足音を極限まで小さくするために装備品は一つも持たない。


自身の攻撃が偶然でよけられるようなものではない。

しかしこの男は何度もよけて見せた。

そしてネイキッドは、一つの確信に至る。


「お前、見えてるんじゃないんだな。ただそこに来ることがわかっているのか」

「何が言いたいんだ」


ネイキッドは確信した。

この亜人は、攻撃の察知能力が異常に高いのだと。

戦闘経験の少なさは所々に見受けられるが、それは対して問題ではない。

しかし恐ろしいのはその先だ。

攻撃の切れも決して悪くない。


この一撃が一つでも決まれば、獣人ではない自分にとってそれは致命の攻撃になりえるだろう。



この男がコ・ゾラとの戦いにおいて生き残った理由が少しわかった気がする。

しかしそんなことはどうでもいい。

いまの自分のやるべきことはただひとつ。

自身の見えぬ暴力をただふるうだけ。

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