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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
三章 多眼竜討伐戦
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十七話「異常そして観戦者」


「光が現れたと思ったら、いきなり風の友が現れるとはな。つくづく魔法というのは理解しがたい」


イグニスが転移した先は、コ・ゾラの目の前であった。

周囲を見渡すと、プラードや骨折りはいなかった。

しかしそこには、多くの兵士や門番であったものが転がっていた。

毒による甘い香りが広がり、そこにはまだ腐敗臭といったものは匂ってこなかった。


「ああ、こやつらは既に蒼穹に旅立った。気にすることはない」

「そうかよ。いまさら咎める気もないがそろそろいい加減にしろよ」


怒りが止まらない。

この獣は人の命を何だと思っているのか。

ただ戦いの中の愉悦としてこの獣は人を殺す。

無残に踏み潰す。

イグニスはそれに対して怒りを隠すことをしなかった。


「そうだ、それでいい友よ」

「ふざけるな、何が友だ」


その怒りを愉悦としてゾラは受け止める。

彼はただ楽しんでいるだけなのだ。

イグニスの怒りなど微塵も理解するつもりはない。

彼はただ自分の望む場所へ望むままに送り付けているだけなのだ。

理解できるはずもない。

イグニスは、コ・ゾラに剣を向ける。

今は前回の戦いとは違う。

体は負傷しておらず、魔法も自由に扱える。

プラードや骨折りがこの場にいなく、

人数的な有利を持って戦えないのはいささか不都合だが

ゾラとの戦闘能力との差はそれほど大きくはない。

ここで仕留める。

いや仕留めなければならない。

そんな覚悟を持つ。

しかしゾラは以前とは違って突っ込んで来なかった。


「ひとつ聞いてもいいか?」

「なんだ、今日はやけに控えめだな」

「今回の襲撃にはやけに対応が早いのだな」

「なぜその話を今する」

「なぜって?ここからまた来るからだ」


その瞬間、豊穣国の国を包む壁が大きな腐敗した大きな蜥蜴によって破壊された。

破片は、イグニスのもとまで飛んでいき大きな音が響く。

他の場所にも、その破片は飛んでいき民家に大きな被害をもたらす。

イグニスは驚愕した。

なぜならその腐敗した巨大なトカゲに見覚えがあったからだ。

それは多眼竜。

豊穣国に入ろうとしたイグニスとマールに予言のような言葉を与えた。

人の理解の範疇を超えた一つの竜。

なぜそのような存在がアンデットとなってこの場所を襲っているのだろうか。



「お前らなぜ、あの竜をアンデットにしているんだ」

「そんなことどうでもよいではないか」

「なんだと?」

「さあ、殺し合いをしよう。友よ。時間を忘れるように」

「この野郎……」


あくまで質問には答える気がないとでもいうのか。

それともこの生物は、戦いにしか興味がないとでもいうのか。

どちらにしても腹立たしい。

思わず歯をかみしめる。

その強さによって歯が砕けそうだ。


「しかし今回は、拙僧にも役割がある。度し難いがな」

「役割?」


あの多眼の竜の意識をそらすためこの場所襲ったのではないのか?

そんな考えが頭を回る。

しかしそんなことに思考を使っている間にも時間は進んだ。


その瞬間、ゾラによって殺された兵士たちの死体は起き上がる。

その全身が硬直し、不器用ながらにも起き上がるさまをイグニスは知っていた。

それは、その死体が纏う物はアンデットと同等の物であった。

イグニスは絶句したこのタイミングでこれを使うのかと。


「豊穣国の死人は蒼穹に送った。あとは名もなき躯へと転ずるだけだ」

「これは……いや、お前がアンデットにしたのか」

「そうではない。拙僧もこれを使うのは好きではないのだが。友に命じられたのだ。しようがない」


しようがないだと。

殺した挙句、その死体を弄ぶようなことをしておいて?

こいつはこちらの頭をいら立たせるのが上手いようだ。


「お前、五体満足で帰れると思うなよ」

「それは同意だ。友こそ存分に楽しもうじゃないか」


再び、イグニスとコ・ゾラの戦いは豊穣国によって行われた。

しかしそれを上からみる不審な者たちがいた。

それは白い装束を身に着け、白石のお面をつけた者。

豊穣国の客人であった。

イグニスが、食事処であったものが二人。

その二人は、コ・ゾラとイグニスの戦いを眺めている。

性別不明の小さな人物は、大柄な男に尋ねる。


「なぁ…‥ウリエル。本当にあの女性はあの方なのカ?」

「確証はない。髪は全く違く、顔を見る機会もそれほどなかった。しかし私はあの方に近いものを感じた」


ウリエルと呼ばれた男は、

確証はないといいつつもはっきりとした言葉使いで

その小柄な人物に離す。

「つまり勘ってことだナ。私いやだゾ。サリエルにねちねち言われるの」


呆れたような口調で、ウリエルに言葉を返す。

どうやらこの人物には、文句をよく言われる対象がいるようだ。


「サリエル殿は、あの方を嫌っていたからな。まあ報告する義務もない。ここでしばらくみていようと思う」

「見ていようたって、天使は原則二人一組だロ。私はお前から離れられない」

「サリエル殿への報告は私がする。安心しろ」

「……本当にあの剣士が、ラファエル様だったらどうするんだ。法皇国に連れて帰るのか?」


いつもの癖のある話し方ではなく、

真剣な言葉で小柄な人物はウリエルに質問をする。


「いや……もしこの場所で戦う理由があるとするなら、私は止められない」

「そうだロ。お前はそういうやつだ」

「そうだな。私はそういうやつだ。だが私はあの方が自分の意思でこの場所に立っているのならとても嬉しいんだ」


お面によって顔は見えないが、

その口調は確かに喜んでいた。

それには嫌悪といったものが一切感じられず

心の底から喜んでいるのが伝わる。


「……なら私が、サリエルかミカエル様に報告したらどうするつもりなんダ」

「君はそんなことしないだろう」

「ふん、共犯だナ」

「ああ、あの大きなアンデットは予想外だったが、ミカエル殿が対処するだろう。今はあの方の戦いを眺めよう」


白装束の二人組は、

イグニスの戦いを上から眺めていた。

戦いは始まったばかりだ。

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