十六話「敵襲、そして邂逅」
「獣王国での戦いには、人間を名乗るアダムという人物も参戦すると思う。こいつに関しては、逃げるか複数で戦闘するしかない」
「まさか、人間があんなに強いとはおもわなかったなあ。僕もコテンパンにやられたよ」
「ペトラは、もう無理するなよ。アダムにあったらすぐに撤退しろ。お前じゃああいつには勝てない」
骨折りが、そうペトラにアドバイスする
「そうはいっても、あれは骨折りかプラード君しかむりだと思うよ。アラギちゃんもあれぐらい強くなるのかな?」
ペトラは、同じ人間であるアラギの顔をみて頭をなでる。
アダムと戦える相手に骨折りと同時にプラードを上げた。
イグニスは、プラードもそれほど強いのかと素直に感じた。
「そんなにその人は強いの?」
人間である、アラギはそんなことを感じる。
この国の中でも、屈指の実力をペトラは持っている。
そんなペトラを圧倒し、致命傷に追い込んだアダムのことを
この場の皆は警戒していた。
「いや、無理だろ。こいつは何の戦闘力も持たない。伝承の人間もそのはずだったんだがな。アダムという人間はなにか違うらしい。また出会うときに探れればいいんだが……」
しかし骨折りは、ペトラの言葉を否定する。
アダムの戦闘力、それは本来この世界における人間の持つものではない。
亜人ではないのに、魔法を扱い
獣人ではないのに、それ以上の耐久性と再生力を持っている。
それは生物を超えた何かだった。
もし過去にすべての種族と争った人間が彼と同じならば、
一体アラギは何者なのか。
なぜ人間が戦争に敗れたのか。
そしてなぜ彼は今になって表舞台に現れたのか。
それを骨折りを知りたいと考えた。
「アダムか……人間の正体をあやつは知っているのかもしれない。それになぜ人間を嫌悪していたはずの獣王が関わっている?……獣王とはお主のことも含めてもう一度話すことができればよかったのだがな……」
「アーティオ、気にすることはない。私が獣王国を離れる前から父の様子はおかしかった。もしそこに人間がかかわっていたとしても、私は父を殺すよ」
その時、その部屋に大きな音が鳴りひびく。
それは、一種のアラームのようなものであった。
「なんだ!この音は」
イグニスは聞きなれないその音に耳を抑え、尋ねる。
骨折りは、自身の武器を確認しながら答える。
「敵襲だ。しかも反応がおかしい」
その音はどうやら敵の攻撃を報告するもののようだ。
しかも敵襲となると、再び獣王国によるものだろうか。
「いま、確認したけど前の王宮の侵入者と似た反応の他に、アンデットが多数。
だけどひとつだけ異様に大きい……?」
「大きい?」
大きいとはどういうことだろうか。
以前王宮に侵入したというアンデットも、かなり巨大だったようだが
それより大きいとでもいうのか。
「これ以上は直接みないとどうしようもない。だが今回は、幸いあらかじめ反応することができた。すでに避難は始まっている。前みたいに被害者が出ることは少ないと思う」
「そうか。それならいい。今回はしっかり敵襲に対する警戒ができている。イグニス。今回もお前の力が必要だ。手伝ってくれるか?」
「ああ、もちろんだ。むしろマールを奪い取った借りを返してやる」
「その意気だ、イグニス。プラード、今回は戦闘に加われるか?前回のも考えると敵の戦力が大きすぎる。確実に押し返すには、獣王の血族であるお前の力が必要だ」
「いや……私は」
しかしプラードは、控えめに断ろうとする。
その拳はかすかに揺れていた。
自身の思いを強く握り占めているようでもあった。
それにその目はアーティオの方を向いていた。
だがアーティオはすぐさま首を振る。
「いや、いけプラード」
「アーティオ?いいのか」
「いらん。わらわの守りではなく、そなたはこの国を守れ。いずれ獣王と殴りあう男が一人の女性だけ守っていてどうする」
プラードは、戸惑っていた。
この戦いでも、プラードはアーティオのことを守ることだけ考えていた。
しかしそれは守るべき当人から否定される。
「しかしひとりでこの王宮にいては、また敵襲が来るかも」
「僕がついているから大丈夫だよ。今回僕は戦闘ではなく防衛に回る。もしまもれなくても女王様は全力で他の場所に移動させる」
「ほら、こうして守ってくれるやつもいる。今お前の力が必要なんだよ。プラード。さっきの決意はどうした」
プラードは、先ほどの骨折りとの握手を思い出す。
目をつむり思考の奥に、結び付ける。
そして再び決意する。
「わかった。アーテ決して敵と戦わないでくれ。君は、私が守る。そしてこの国も」
「お主は、本当にいい男だな」
「なっ」
「骨折り、イグニス。そしてプラード。この国の住民たちをどうか守ってくれ」
「敵は、以前よりはるかに多い。アンデットに加え、以前の敵襲にいたアダム。そしてそれに同行していた亜人と獣人。かなりの強敵だ。油断はするなよ」
「ああ。負けることはないさ」
「健闘を祈る。この国を守ってくれ」
「じゃあ、三人を被害のあった場所まで送る。死ぬなよ。転移魔法起動」
ペトラのその声と同時に、イグニス、骨折りとプラードの三人は光に包まれた。
その光は、眩しかったが温かみを持った光のようだった。
「魔法が発動し終わったら、その時には敵の目の前だ。警戒するんだよ」
そうしてイグニスの意識は一瞬途切れた。
しかしその一瞬が終わり、目を開けるとそこにはあの獣人がいた。
「まさかな。ここで会うことができると思っていなかったぞ。風使い」
「お前は……」
そうそれは、以前の獣王国の戦い。
毒の拳をふるうトカゲの獣人。
コ・ゾラであった。




