十話「多眼竜vsアダム①」
「やぁ、お久しぶり」
「なぜこの場所がわかったのですか?」
「まぁ、そんなこというなよ。僕と君のなかじゃないか」
「あなたと私は関わりのない存在のはずです」
「そういうなよ、多眼竜。お互い人間に縁ある存在だろ」
多眼竜、そしてアダムはここに邂逅した。
そこは、豊穣国と獣王国の間にある人ひとりいない静かな森であった。
多眼の女性と、アダムたちは一つの場所にあつまっていたのだ。
「意外と化け物じみてるんだな」
ネイキッドは、多眼竜の姿をみて、そう言葉に表した。
事実、その姿は化け物じみていた。
外見こそは、女性の姿でありスタイルからいえば
一流といえるほどの綺麗ならラインをもっていた。
しかし歪だったのは、その顔面だった。
口、鼻は正常なのだ。
だが眼だけは、二つだけでなく小さな芽が数十個は存在していたのだ。
集団恐怖症の人物がそれを見たら卒倒してしまうだろう。
しかしここにいるのは、全員異常者だ。
その顔面に驚きはしたものも、しばらく立つうちには馴れていた。
多眼の竜は、静かにしかし確かにアダムに話かける。
アダムが自身に会いに来たのはそこまで驚いていないようだ。
「あんまり驚いていないのは、未来がみえるからかな」
「そういうわけではありません。今回、私に会いに来たのはどういったつもりですか?」
「いや、ひとつ聞きに来たんだ」
「質問ということで?」
「ああ、中立国……いや今は豊穣国か。豊穣国になぜ僕のことを話した?」
「何のことでしょうか」
「しらばっくれるな。君が豊穣国にいってデア・アーティオと接触したのは知っている」
「あなたは危険です。故に対処できるものをあの国に抑える必要性があった」
「それは、君が世界に触れたものだからか?それとも僕以外の人間の命令か?」
「あなたは、人間ではない」
「いや、人間だ。僕こそが真の。故にこの世界を終わらせる必要がある」
「やはり、豊穣国と接触したのは正解だったようですね」
その小さくとも、多くある目が確かに全て動いたような気がする。
ネイキッド、コ・ゾラは強さとはまた別の寒気を背後に感じた。
この女性とアダムに友人のような関係はない。
傍観者はただ静かににらんでいる。
「だが君の思いどおりになっていないこともあるよ。未来の見える君でも失敗することがあるんだね」
「異物の少女ですか……本来ならばその子は、殺すことが最適でした」
多眼の女性は、そう冷たく語る。
そこには、感情という物は一切宿っていなかった。
「なら殺せばよかったのに」
「ただ、その場にあった感情という物を信じただけです」
「解せないな。君はいつからそんなに生命的になったんだい」
「あなたがおかしいだけですよ。貴方が人間に近づくことは絶対ありえない」
「ほざくな、竜もどきが」
多眼の女性の姿が歪む。
いや、まるでそれはその場だけが抉れているようでもあった。
しかし数秒後には元に戻る。
「私に貴方の攻撃はききません」
「今から数時間後の君を見てごらんよ。多眼竜よ」
「なにを……」
「今日は君の命日だ」
アダムは、魔術構築【衝撃】を連発する。
空気による一撃が地面を抉る。
土煙がその場に巻き起こる。
その場にあった木々は倒れ激しい音が広がっていく。
視界は阻まれるが、アダムたちはその場から目を離さなかった。
しかしそこには、多眼の女性は存在していなかった。
移動する時間もなかったはずだ。
女性は、足や魔法を使うことなくただ別の場所に存在していた。
女性は、溜め息をつくこともなく呆れたようすで淡々と言葉を発する。
「だから言ったでしょう。貴方の攻撃は私には通じません」
「いや、通じるよ」
女性には、ナイフが投擲される。
女性は、再び回避し別の場所に姿を現す。
女性は、ネイキッドに質問をする。
「あなたもなぜこの男性に味方するのですか?」
「しるかよ、傍観者。俺は俺のために、こいつの腕となる。地獄までな」
ナイフの投擲を回避されることは既に脳内にいれていたようだ。
ネイキッドは動揺することなく姿を現したばかりの女性に切りかかる。
「傍観者ですか……」
「そうだよ、多眼竜。君は傍観者にしかなれない。どの時代も。そして今も」
魔術構築【衝撃】をネイキッドの攻撃と同時に多眼の女性へとぶち込んだ。
しかし女性は変わりなくその場に立っていた。
ネイキッドは、その様子をみて冷や汗をかく。
ネイキッドは、アダムに質問をする。
「本当に倒せるのか、あれ」
「倒せるさ。多眼竜の能力を僕は知っている」
「あなた方は何が目的なのですか?」
多眼の女性は、少し埃にまみれながらアダムたちの行動を疑問におもう。
「今回は、倒すのが目的じゃないさ。ただの嫌がらせ」




