九話「疑心」
アーティオは、男に獣王国に対する疑問を問う。
それは当然のことだった。
なぜ、こちらだけ一方的に疑われなければいけないのか。
アーティオは、法王国の使者に対して不満というものを持っていた。
「くだらないことをいいよる。獣国には疑いは向けないのか?」
「誰が誕生させたのではなく、どこでが重要なんですよ」
「どこでか……」
「ええ、獣王国の民だった。豊穣国の民だった。そんなことはどうでもいいのです」
「いいきるか」
その男ははっきりと断言する。
此方の考えなどどうでもいい。
法王国の思想こそ一番なのだと。
「はい、問題なのは。豊穣国の王城で誕生したこと。私たちはそれを追求しなければならない」
今回のアンデットの発生は、本当に突然のものだった。
獣人の浮浪者が、突然の変異。
そんなことを説明しても、納得できないのは当然か。
この土地の影響により変質した。
法王国はそう推測しているのだろう。
「わらわはこのことに一切関与していない。なぜ獣王国を疑わないのだ」
「……否定できる証拠は?」
「ない」
「はっ……くだらない」
その男は、陰湿な性格をしているようだ。
此方の話など一切聞く気はない。
完璧に、豊穣国を疑っている。
「女王よ。余計な発言は首を絞めますよ」
余計な発言で首を絞めているのはそちらだろうとアーティオは考える。
豊穣国のことを疑いたい気持ちはわかる。
だが現時点で疑いすぎるのは逆に怪しい。
そう二人は考えを持っていた。
確かに法皇国からも狙われるこの状態は良いとは決していえない。
不利といえるだろう。
しかし
だからこそ得られた情報もある。
法皇国は、正義としての歴とした理由がなければ豊穣国に攻め入ることができない。
彼らは、一つの国として理由にこだわらなければいけない。
それは彼らが国としての【天の使い】であるから。
彼らは方法にこだわる。
今の時点で、疑いがかかっているとしれたのはむしろ幸運だ。
きっとだれか一人が結果に焦ったのだろう。
「これで話は終わりか?」
プラードは細身の男に、質問する。
アーティオが神の敵になることはまだ確定していない。
今後【神の敵】であると認定されるとこの国としては不都合が多々存在する。
「ええ……そうですね。我らから伝えるべきことはそれだけです」
彼らは、豊穣国を断罪するだけの決心や容易はない。
そうなれば、獣王国に対する対応を考える余裕もある。
直ちにこれからの行動を決定しなければいけなかった。
「あなた様も何か話しますか?」
細身の男が、もう一人の同じ服装をした女性に話しかける。
その女性は、ただ冷静であった。
男とは別の気配を纏うもの。
プラードはこう感じていた。
この女性は「強い」と。
男性とどちらが格上か聞かれたら確実にこの女性のほうが上だ。
静かで、綺麗な声。
そんな声で彼女は話しを始める。
「私は、特にない。だが聞きたいことが一つだけある」
「……答えれる範囲で答えよう」
「有難い」
なんだろうか。
これ以上、頭を悩ませるものでなければいいのだが。
そう話の内容を想像する。
白髪の女性が、言葉を発する。
それは二人にとって意外なものであった。
「黒い髪をした亜人がこの国に来なかっただろうか。綺麗な青い目をしている……とても聡い女性だ」
その声は、その探している人物を心から心配しているようでもあった。
それに反して隣の男性は、女性の話す内容について明らかに雰囲気が変わっていた。
これは苛ついているのか?
そう思えるものだった。
そしてアーティオは、その人物が即座に誰かわかった。
「イグニス・アービル」だと。
恐らくこの人物は、イグニスのことについて聞いている。
二人が、イグニスを求める理由はイグニスはなんだ。
法皇国における信仰の対象だからだろうか。
そして法王国はイグニスの存在を完璧に見失っているのだろう。
だからこそ豊穣国にいるイグニスにまだ気が付くことができていない。
ここは馬鹿正直に答える訳にもいかない。
「さぁな、黒髪の亜人などいくらでもこの国にいる。個人を特定することはこの国ではしない」
この二人は、イグニスを探しているのだろう。
しかしイグニスは、法皇国の土地をはなれている。
現状法皇国においてどのような立場なのか知らなければいけなかった。
「法皇国がその人物をみつけたらどのような扱いをするつもりだ?」
プラードは、気迫を込めて問いただす。
法王国がイグニスを敵視しているのか。
それとも心配し、助け出そうとしているのか。
それを明確に知る必要があった。
「いや……私は……あの子に謝り……」
「いえ、もちろん処罰いたしますよ」
白髪の女性の言葉を遮り、細身の男性は考えを明らかにする。
その声ははっきりとしていて同時に狂気を纏っていた。
声は笑っているようであった。
しかし明らかに雰囲気が違う。
その声には殺意が混じっていた。
白髪の女性とは違って、
この男性はイグニスのことを憎んでいるようでもあった。
なるほど、法王国内でも彼女の扱いは二分しているのか。
「その女性は、この世における天命を無視し地に下った。しかし神の慈悲は深い。再び法皇国における一員にするつもりです」
その声は狂気を纏っていた。
自らの信じる神を裏切った。
彼の怒っている理由はそんなところだろうか。
「そうか……残念だな。わらわはその女性を知らん」
「こちらもすまない。困らせるつもりはなかった」
女性が質問してしまったことを謝る。
彼女はとても落ち込んでいた。
イグニスと彼女はいったいどういう関係なのか。
しかしイグニスにこのまま伝えるのもそれは違うだろう。
イグニスの扱い。
それをもう一度考える必要があるだろう。
「話は終わったか?」
「ええ、我らの神の伝えるべきお言葉はもうありません」
「そうか、法皇国の客人よ。ならば去れ。そなたたちがこの土地にいる理由はもうない」
「最悪、この国に十字軍を派遣するかもしれません。どうかご覚悟を。」
ふたりはお辞儀をし、プラード、アーティオの前から去っていった。
部屋からでた法皇国の二人は話していた。
その声は楽し気とはとても離れたものだった。
男性は、強い声で女性に問う。
「ミカエル様。貴方は、まだあの女性に焦がれているのですか?低俗な半獣に騙されたものに」
「いや、違う。私はただ知りたいだけなんだ。あの子が私の元を離れた理由を…‥」
「あなた様は何も間違ってはいませんゆえに知る必要もないのです」
「本当にそうか……?私はまだ忘れられない。あの子が離れるときに見せたあの顔が」
そう寂しそうに、女性は語る。
まるで手から離れてしまったものが一生手にはいらないことを確信したかのように。
大事なものだったことのように。
しかし女性にあるものが目にはいる。
それは豊かな豊穣国の大地であった。
その美しい光景に、ミカエルと呼ばれた女性は足を止める。
そしてその様子を不思議に思った男性はミカエルに声をかける。
「どうしました?」
「乳と蜜の流れる国か……」
女性は城内から見える豊穣国の大地を眺めそう小さくつぶやいた。
かなり小さいが、離れたところにのんびりとする家族だろう人たちも
垣間見える。
顔は隠れていてよくは見えなかった。
だが恐らく彼女は顔に笑みというものを浮かべていた。
「……」
「豊穣国の大地は、それに形容するにふさわしい」
その言葉を聞いて、男性は不満を持った。
それは自身にとって許せる言葉ではなかったのだ。
「……いけません。あのような怪しいものを信じては」
「そうだな。だが……きっと豊穣の女王はよい主なのだろう」
「しかし、飢えるものは他にいます。私たちはそのもののために戦うのです」
二人は、そんなことを語りながら城外へと出ていった。




