七話「白装束の二人組」
「えっと……君は……?」
「あの、ライラック……」
「は!どうもはじめましてライラックです」
どうやらその顔面に思考が止まっていたようだ。
ライラックは、セーリスクに話しかけられたことで再び思考を再開する。
「はじめまして、イグニスです」
慣れない二人は、お互いの距離感を確認しながら挨拶をする。
ライラックは、少し敵対意識を心に感じてしまうが劣等感も同時に持ってしまった。
自身を呼びに来た理由は何だろうとセーリスクが確認をする。
「イグニスさん、ところで用事は?」
「ああ、獣王国の対策のことで俺と一緒に戦ったセーリスクの言葉も聞きたいんだって」
「なるほど、むしろそれぐらいしかないですよね」
「そんな急ぎの用事でもないし、どこかで飯食いながら話をしよう」
「なら、私の働いてるお店で食べますか?」
「ちょうどいいな。イグニスさんも大丈夫ですか?」
「俺はこの辺りは詳しくないし、そこでいいよ」
三人は、「豊穣の料理亭」に向かうこととなった。
そこは、戦争の影響もあったのにかかわらずにぎやかで多くの者が食事をとっていた。
「結構人が集まるんだな」
元々のどれほど人が集まるか知らないイグニスはその様子に驚く。
ライラックは、少し自慢げな顔をしてイグニスに説明をする。
「そうでしょう!このお店はみんなの憩いの場所ですからね。時間帯に限らずいっぱいのお客さんが来るんです」
イグニスは、その自信満々の顔をみて少し笑ってしまった。
ライラックのその顔は、ミステリアスと呼べるほどに美人で美しいものだった。
さぞ性格も大人らしいとも思ったが、
いざこうして話してみるとなかなかに子供らしくて無邪気で可愛らしいと感じたのだ。
「そうだね。素敵なお店だと思うよ、有難う」
イグニスは、ライラックの頭をポンポンとなでる。
自身の身長より一回りは小さいからその表情になでたくなってしまった。
ライラックの顔が赤くなる。
いままで女性になでられるという経験をしたことがないのもあるが、
イグニスのその短髪の容姿は一種の美男子のように見えて照れてしまったのだ。
「いえ……私も有難うございます……」
「うん?うん」
なんのことに感謝を述べたのかわからないイグニスは、
理解できていない中途半端な返事を返す。
ライラックも、自身の顔が赤くなったことで
わざわざ説明する気にはなれないようだ。
それを傍から一部始終をみていたセーリスクは、
意外とイグニスは人たらしなんだなと感じた。
その時、セーリスクの方にぶつかる人物がいた。
「おや、すまない」
「ああ、僕も悪かった」
「何やってんのサ、地元民に」
その人物は、白いフードを被った体格のでかい男性と、
性別不明の小さい人物だった。
二人ともお互いに白いお面をかぶって、
首に十字架のようなネックレスをかけていた。
二人は、ぶつかってしまったセーリスクに謝る。
「俺がよそ見をしてしまった」
大柄な男性は、その体躯とは裏腹に謙虚に丁寧に頭を下げる。
セーリスクは、通常であれば嫌味でもいわれるものだがと思いながら戸惑う。
「そんなに気にしなくても」
「あ……」
しかし頭をあげたその男性は、イグニスの方をみて一瞬固まる。
「あなた様は……」
「あ?」
イグニスは、軽くその人物をにらみつける。
その人物を知っていたからだ。
「おい、いきなりしらない女性に声をかけるなんておまえも失礼を重ねるナ」
小さい人物は、大柄な男性を止める。
どうやら男性がまた問題を起こそうとしていると感じたからだ。
固まっていたその男性は、注意されたことで正気に戻ったようだ。
それによって再び男性は謝る。
「すまない、女性の方よ。貴方が自分のしっている人物に似ていて」
「そうか。だが俺はお前らのことをしらないよ」
イグニスははっきりと文句をいう。
その顔は明らかに不満げだ。
顔がこわばっていた。
「ほら、違っタ。あの方がこんなところで飯を食うわけないじゃないカ」
「そうだな。すまない女性の方よ、綺麗な美貌に見とれてしまって」
「お世辞はいらない。まぁ、その似ている人が見つかるといいな」
「ありがとう、あなたたちにも神の御加護があらんことを」
そういって二人は去っていった。
「なんでしょうかね?あんな人見たこともないし」
「中立国では、あの格好はいないんだな」
「そうですね。神といっていましたし、どこかの宗教でしょうか?」
「ああ、あれは法皇国における信者の伝統的な衣装だ」
二人の恰好を不思議におもったセーリスクは、疑問を口に出す。
イグニスは、それに対して答える。
「法皇国……」
セーリスク、ライラックの二人は法皇国のことを深くは知っていなかった。
これは世間の認知も同様だ。
法皇国のことをわざわざ詳しく知ろうとするものは、
情報が必要な職業の者か余程のもの好きしかいない。
法皇国クレシエンテ。
社会的には、民衆をアンデットから守るために
作られた宗教国家だということが広まっている。
しかしその実情は、【天使】を崇めるために存在する国だ。
故にそれ以外を見下し、亜人ですらない獣人を憐れんでいる。
イグニスはてっきり自分のことを探しに来たものだと思ったが、
あの二人組はそのような感じではなかった。
イグニスは、渦中にある豊穣国に法皇国の使者が来たことを怪しく思っていた。




