五話「舞台裏」
女王による国の改名の発言。
それは一気に情報として豊穣国はもちろん他国にもたらされた。
中立国と獣王国の対立。
これは世界の均衡が破れる大きなものであったが、
両者ともに味方になろうと同盟を組んでくれる国はどこにもなかった。
戦争をしないと誓っていた中立国がもともと同盟を組んでいなかったこと
獣王国の味方をすれば、豊穣国の貿易は即刻断られるだろう。
豊穣の大地と呼ばれる国の作物を手に入れられないのは
厳しいという国がいくつかあった。
しかし豊穣国の味方をするのもメリットとは言い難かった。
現実的に考えて戦力には、大きな差があり豊穣国が勝つとは言いにくい。
戦争が激化するたびに、豊穣国は時間が立つほど不利になるだろう。
加えて豊穣国と獣王国の間には未開の大地があり
攻め入るには時間がかかるのだ。
両者の戦闘は、一回だけで終りそれ以降は停止しているのが現状であった。
ここは獣王国。
アダムと、獣王は城にある同じ部屋にいた。
話し合いは終わったようで、話題は現在攻めている
中立国の元へと変化していた。
アダムは語る。
「あーあ、大々的に発言しちゃったもんだねえ。女王様も。そこのところどうなの王様?」
アダムは、憎たらしいと呼べるほどの顔で王に対し煽りかける。
中立国には、甚大と呼べるほどの被害を与えることはできなかった。
先手を打つことはできたもののこれでは一方的に砂をかけて嫌がらせをしたようなものだ。
しかもその嫌がらせによって、相手はこちらを殴る覚悟ができてしまった。
最初の目論見は大外れだ。
「そなたが中立国の女王、そして人間を殺せなかったせいだ。なぜ半獣の少女に時間をかけた」
獣王は、アダムに苛立ちをぶつける。
それはただの怒りであったが、獣人の力強さによって咆哮のようなものになっていた。
「しょうがないだろ。こっちにもこっちの都合があるんだからさ」
「なら我らの都合も優先しろ。人間の火薬兵器。それをとっとと用意するんだ」
「そんなポンポン生み出せるわけないでしょ。知識を提供しただけでもありがたいとかさ……」
アダムの言葉が獣王によって遮られる。
机を強くたたき、ひびが入る。
「うるさいぞ、アダム。お前は我の兵器として仕えていればいい。我が悲願を達成するまでの間な」
「そうだね、でも王様も忘れないでよ。僕がいなきゃあなたはその悲願に一歩も近づけないことに」
獣王国の王は、大きく舌打ちをしてワインを飲み干す。
「小言は終わったか。ならば去れ」
「はいはい、小兵は仕事に徹しますよ」
アダムはいかにも面倒くさそうにその部屋からでた。
その笑みは胡散臭く、王からすると見ているだけでイラつくようなものであった。
王はアダムが部屋から出るまでその顔をにらみ続ける。
「我は何も間違っていない。おかしいのはこの世界なのだ」
そう王は苦しそうにつぶやくのだった。
ワインの入っていたグラスを床に落ちる。
グラスは無惨にも軽く散るのだった。
王のいる部屋からでたアダムとネイキッドは小声で話し合う。
ネイキッドは不満げだ。
王の態度に腹を立てているようであった。
「アダム、あの王は殺さないのか?」
「ああ、あれにはまだ価値がある。生かしておく方が得さ」
「そうか、見ていて見苦しいぐらいだけどな」
「そういうなよ、仮とはいえ僕らの上司だぞ」
「我も同意だ」
ゾラが二人の話している間に割って入る。
二人もまたゾラに反応する。
「ゾラじゃないか。傷はどうだい」
アダムは、ゾラの怪我の心配をする。
獣人といえど深い傷は治りにくい。
ゾラの負っていた傷は決して浅くはなかった。
腹のど真ん中に真っすぐと線が残るほどだった。
「生憎だが、蒼穹に至る一撃ではなかった。それよりあの王は気に食わぬ」
ゾラは、気に入らないといった口調で、獣王を否定する。
不愉快だと言わんばかりに、言葉を出す。
「てっきり獣人の君は獣王に味方すると思ったんだがな」
アダムは意外だったようだ。
強さにこだわるゾラは、てっきり獣王をかばうものと思っていた。
「我が血族は既にこの世にいない。故に拙僧は獣人という物に縛られぬ。だがそのうえであの王は気に入らない。あの王が王でいるのは決して誇りではない」
「というと」
「執着だ。あの王は手に入らないものに縋っているに過ぎない。アダム。貴様の話がなければ、早々に蒼穹に送っていた」
「珍しく気が合うじゃねえか。蜥蜴野郎」
「友にそう言われるのも珍しいな」
ネイキッドは、にやりと笑う。
自分の意見を肯定されたのが嬉しかったのだろう。
少し二人の仲が深まったような気がする。
「まあまあ、二人とも落ち着きなよ。半獣の子は手に入れた。中立国にも威圧をかけることはできた。王に関しては先送りにするとして。いまのところ僕らの計画は順調にいっている」
「なるほどね。それで?」
「拙僧らが次することはなんなのだ?」
「まあ、端的にいうと最終目標は女王殺し。だが今はそれよりめんどくさいものがある」
「面倒くさいもの?」
「どうやら竜もどきがいるみたいなんだ。そいつ殺しちゃおう」




