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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
三章 多眼竜討伐戦
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三話「王殺し」


「俺は……いえ、私は少女と一緒にこの国に来ました。それはこの国が最も少女を癒せる国だと判断したからです」

「ふむ、なるほど。だがその少女はいなくなってしまったがこの国から出るのか?」


真剣な顔つきでアーティオは、イグニスに質問する。

それは到底少女ではだせないような顔であった。


「いえ、私はあの子を助けます。そしてできる限りの力であの子を幸せにしてあげたいのです。マールを助けるまで俺はこの国に残ります」


嘘は言っていない。

自分は、マールが自分の元に帰ってくるまでこの国で戦わなければならない。

それがマールを取り戻す唯一の方法だろう。


「嘘偽りはないようだ。今現在この国には戦力という物が足りていない。よろしく頼むぞ」


イグニスは、少し安心した。

ここで否定をされたら、マールを取りもどす方法が消えてしまう。


「はい」

「改めてよろしくな。俺もその子を助ける手伝いをするよ」

「骨折り……頼む」


骨折りのとの絆も少し強まった気がする。

今はこの人物たちと協力して獣王国に勝つしか方法はない。


アーティオは申し訳なさそうに言葉を発する。


「少女の件はすまなかったな。まさかペトラが敗れる相手がいるとは思っていなかった」

「いえ、大丈夫です。私も負けかけたので……」


謙遜など一切ない。

イグニスが戦った獣人は、戦いというものを楽しんでいた。

もしあの獣人が、戦闘に必死になったら。

殺意をむき出しに殴り合うこととなったら。

イグニスは、自分が万全の状態でも勝つことは難しいだろうと考えた。

ペトラも恐らくそんな相手と当たったのだろう。

そして砕けた。

それは自分の未来だったかもしれない。


「そうだ、お主が戦った相手はどのような感じであった?」


いかにも今思い出したかのような口調で、アーティオはイグニスに尋ねる。

イグニスは、深く自身の戦闘を思い返す。

その強き拳を。

一人の命を奪った死神のような拳を。

セーリスクがいなければ、自分は負けていただろう。


「毒を扱うトカゲの獣人でした。戦闘能力としては、毒も厄介でしたが肉弾戦としては私が戦ったどんな相手より強いと感じました」

「ほう……それはこの骨折りよりもか」

「……誇張なしで」


再びその場に張り詰めた空気が広がる。

骨折りと一体一でやりあったイグニスがいうのだ。

たとえその目測が誤っていたとしても、大きな脅威になることは必然だ。


「報告によると一名死亡したそうだな……余の大地の一員がなくなるのは悲しいことだ」


その死を悔やむように、アーティオは目を瞑る。


「イグニスにも伝えておくが、獣王国の戦力増強は著しい。魔法ではない、火薬による攻撃手段。二人目の人間。そしてイグニスが戦った獣人。他にも戦闘技能で俺と対等に張り合える人物はいた」

「骨折り、お主からみてこの国は負けるか?」


戦争の敗北。

つまりは国の終了をアーティオは、骨折りに素直に聞く。

あまりにもあっさりとした質問にプラードとイグニスは言葉出なかった。

プラードは、心配そうな声でアーティオを呼ぶ。


「アーテ……あなたは」

「プラード心配するな。それでどうなのだ。この国は、獣王国の戦争に勝てるか?」

「負ける。たとえ数年間粘ったしてもこの国には国民はいなくなる」

「そうか……母より引継ぎしこの中立国も瀬戸際か」

「だが」

「だがなんだ」

「だが一つだけ方法はある」


骨折りは、重々しい口調で話し始める。

皆その方法をしるために深く聞く。


「それは……?」

「獣王国の王を殺し、プラード。お前が王になるんだ」

「骨折り。それは、私に父殺しをしろということか」

「そうだ、獣人は血脈に従う。そしてより強きものにも。お前が父を超えろ。それでこの戦争を終わらせるんだ」



その場に無言が広がる。

獣王の殺害。

そしてそれによる政権の交代。

ようは、骨折りはプラードに革命を起こせと言っているのだ。


「獣王の息子にならとその血に集まるものは多くいる。そして今の獣王国に反発心を持つ者も。これなら中立国と獣王国が真正面から戦う必要もない」

「骨折り、それ以上は言ってくれるな」

「おい、これがなければ中立国は確実に負ける。プラード。お前が選べ。愛する人の守る平穏か。その平穏が焦土にさらされることか」

「すまない……少し考えさせてくれ」

「……お前がそこまでヘタレだとは思わなかったよ」

「骨折り」


アーティオが骨折りを強くにらむ。

その顔は、それ以上言うなと訴えているようでもあった。


「おお、怖いね。まぁ、どのみちあんたがいればこの国の豊穣は失われることはない。また獣国の進撃がないうちに決めてくれることを願うよ」



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