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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
二章 異物の少女
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三十三話「中毒そして変貌」

同時刻、中立国の王宮もまた戦場となっていた。

王宮には、火薬の匂いと煙が広がりあたりは騒然となっていた。


「けが人はいないか!」

「医者を呼んでくれ!」


魔法の攻撃ではなく、王宮には火薬による爆撃が行われたのだ。

もちろんその威力はすさまじく怪我人も続出した。

王宮の医者エリーダ・シエンシアは、患者の救護。

またその助手の蛇の獣人も手当に焦っていた。


「骨折りのいないタイミングでこれとは……」

「女王様は御無事でしょうか……」

「あの方は、我々が心配できるようなかたではない。それにあの方には、王子様がついていますからね。私たちは患者の診療です」


患者の血をふき、魔法による治療を試みる。

簡易的な処置の上に、使用された魔法は

その人体を癒していく。

みるみると傷口はふさがり、患者の顔色がよくなっていくのを確認した。


「魔法をかけても治らなかったものには、薬による鎮痛を試します。重傷者が多い今は、治すことより延命に意識を使いなさい!」


「「はい!!」」


エリーダの指示に、王宮の医者たちは反応し自分の仕事を成し遂げていく。

この恵まれた大地の医者たちの技能は一様に高い。

技術の共有。魔法による医学の進歩。

たとえ重大な怪我でも治す環境は整っていた。

このままうまくいけば、全ての患者を治すことができるだろう。


しかしそれを邪魔するものがいた。

それは身支度も全く整えていない浮浪者のような獣人の男性であった。

匂いはかなりきつくその場にいた誰が鼻を覆った。

普段刺激臭のする薬品を扱っているエリーダですら、その匂いに仰天した。

その男性の焦点はあっていなく、見るからに正気ではなかった。


「なぜ獣人の男性が……?」


皆がなぜこの男性はこのタイミングで王宮にはいってきたのだろうと怪しんだ。

王宮の近くは、成功した商人や、中立国における元貴族などが住んでいる場所であった。

浮浪者はまず近寄れない。


「あれが……欲しいんだよ……あれがたりない……やめろ俺に近寄るな……」

「あの男性は薬物中毒者か……?」


その男性は錯乱していた。

明らかに目の焦点が合っていない。

体毛などが一部剥げておりそこは変色していた。

同時にその男性はなにかを要求していた。

それらの状判断によりおそらくこの男性は薬物中毒による錯乱状態にあると判断をする。


「しかしいまの状態では、あの男性に対する優先度は低いかと」


蛇の獣人は、エリーダに対し医療に専念するべきだという助言をする。

それはそうだ。

その男性は、精神的に錯乱しているものの今はそれより重態な患者がいる。

それらを優先するべきだ。


「そうですね。だれか、あの男性をいったん確保してください」

「わかりました」


王宮にいる兵士は、エリーダの指示に従いその男性を確保しようと動き出す。


「おい、大丈夫か……」


そう兵士が獣人の男性に触れたとたん兵士は、

男性の持っているナイフによって首を刺されたのだった。


「あッ!」

「刺された……」


兵士の抵抗むなしく、刺されたことによる痛みで兵士はその場に倒れる。

その光景によって医療行為をしていた医者たちは手が止まってしまった。


「あれが足りないといっているだろう……」


男性は、もともと見受けらえた気性をさらに荒くしていた。

その様子は、いくら薬物を摂取しているといっても異様に映った。

まるで自身の生命の終わりを自覚してそれに抗おうとしているようだ。

瞳孔は限界まで開き、その目は血管によってひどく赤くなっていた。


兵士は、自身の仲間が刺されたことにより、警戒状態となっている。

刺された兵士自身もまだ首を刺されたばかりだが、

刺された個所からは血が噴き出していた。

絶命するまでの時間はあとわずかだろう。

しかしその警戒の中で、獣人の男性は震えだした。

最初に見受けられたのは手の震え。

薬物によって、多く禿げたその手は異常なほど震えていた。

獣人特有の咆哮は、

やがて絶え間なく続く喘鳴となり苦しみをエリーダたちに伝えていた。


その体躯は、四肢は骨が砕けるような音を立て段々と膨張していく。

爪と牙は伸び育ち、凶悪さは増していた。

二足歩行の獣人は、四足歩行の凶暴たる化け物へと。

その体が肥大化し終わった時、その場に残っていたのはただの怪物だった。

それは一種のアンデットだった。


「なんで……?」


蛇の獣人は、驚きでその場に座り込んでしまう。

医者たちは目の前の出来事が理解できなかった。

アンデットは、人間の魔法により生み出されたものだ。

既に存在しているアンデットに影響され、獣人や亜人がアンデットになることはある。

だがいこの男性は突如としてアンデットに変化したのだ。

それは今までの常識では考えられないことだった。

原理はともかくアンデットが、城内に入り込んだのは由々しき事態だ。

兵士たちは、アンデットの前に立ちはだかりこう医者たちに話す。



「私たちが時間を稼ぎます。逃げて下さい」



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