二十七話「異物の攫い手」
「ぎりぎりで生かしておいた。腕のいい医者にみてもらいな」
元々アカンサスがいた場所から振り返り、マールを見据え歩み寄る。
その男は、悪意のある笑みを浮かべマールに歩み寄る。
「さぁ、ピースキーパーよ。平和の礎になってくれ」
マールは、震えが止まらなかった。
今すぐにでも、イグニスに助けて貰いたかった。
しかしそのイグニスは現状この場にいない。
しかしその場に一つの救いの手が差し伸べられた。
「させないよ」
その女性の声は、マールにとって聞き覚えのある声だった。
なによりその声は、マールのもっている腕輪からでていたのだ。
新たに邪魔するものが現れたことに男性は不満げだ。
「面倒だな……」
「面倒とは何さ。この子には手をださせない」
その言葉がいい終わると、マールの腕輪は光始めていた。
その閃光は、マールと男性の目を閉じさせるに足るものだった。
数秒ほどたちその光が終わると、ひとりの女性が立っていた。
その女性は、自己紹介を始める。
「王宮研究者…ペトラだ。以後お見知りおきを。二度と会わないけどね」
「へぇ……随分と面白いやつがきたじゃないか。そこまでの技術を持った奴にあうのは想定外だよ」
その魔法道具を使ったペトラに興味を抱いているようだ。
男性はペトラを称賛の気持ちを持ちながらも警戒している。
しかしペトラとしては、男性の相手をするつもりはないようだ。
「マールちゃんにげよう」
マールの手は、ペトラによって強く握られた。
ペトラは、自身の魔法道具によって転移を始める。
先ほどと同じ魔法を使うことで、この場を離れるつもりのようだ。
しかし男性にはその目論見はばれていたようだ。
「無理だよ。僕の魔法だ……この場に僕がいる限りペトラ……君の魔法は使えない」
その瞬間、ペトラは自身の魔法道具が動作を停止するのを感じた。
魔力を流しても、作動しない。
ペトラは、驚愕した。
この短い時間でどのようにして対抗策をうったのかが全く分からなかったのだ。
「どうやって、君の魔法を封じたかおしえてあげようか?」
「いや、いいよ。大体わかってる」
わかっているといったが、正直出まかせだ。
対応が早すぎて全く分からなかった。
手の内も相手に全く見せていない。
ペトラには、いくつかその男性のしたことを頭の中で想定した。
まず一つは男性がその場の魔法を封じる道具、または手段を持っていること。
転移するほどの魔法道具には、緻密な技術が必要だ。
故に、どれほど小さいノイズであってもその魔法が使えないことはあり得る。
だが自身の技術で作った道具がそれほど簡単に防げるとは思いたくはない。
次に二つ目だが、これが最悪の想定。
この場における【転移】そのものを封じられたという可能性だ。
先ほどの男性は、「魔術構築【衝撃】」と発言した。
もし男性が属性によるではなく、魔法の要素そのものを扱えるとしたら。
この場から逃げる方法。
それは確実に自分より格上であるこの男性を倒すよりほかにないということだ。
「いいね……思考、思案。甘美な響きだ。人類というのは可能性を模索し挑戦しなくてはいけない。だが……熟慮は時に短慮より敵となる」
敵の魔法がくる。そう考えたときもう手遅れだった。
ペトラに先ほどとおなじような衝撃が襲う。
図書館の本棚は、衝撃によって吹き飛ばされた。
本棚が倒れ、マールたちの姿を隠す。
「空間魔法の使い手。なかなか骨があるとおもったんだがな。魔法道具も面白そうだった」
「僕の魔法道具はそんなものでは破れない」
煙が晴れるとそこには、魔法による障壁を張ったペトラがいた。
隣にはマールもおり、衝撃から無事に守っているようだった。
「なるほど……魔法道具により通常の詠唱の効果時間を長くし、発動までの時間を短くしているのか。だがその魔法道具どうなっている?」
そういわれたペトラが、手元の魔法道具を確認すると既にヒビが入っていた。
この様子では、何回の使用で壊れてしまいそうだ。
思わずペトラは、苦い顔をする。
「さて……この魔法を何発まで保てて、君はそれを何個持っているのかな。実験の開始だ」
「面白いじゃないか。研究者としてその挑発受け取ったよ」
「ああ、その前に僕の自己紹介をしようか。僕の名前は、アダム。原初の人間アダムだ」
その男いや人間の男性アダムは、不敵な笑みを浮かべた。
いまここに一つの戦いが開始される。




