二十五話「寄り道」
蜂蜜味のクッキーを買うことができたマールはまたバザールに戻ることにしたのだ。
お目当てのものを買うことができたマールの顔は喜びで満ちていた。
またその顔をみたアカンサスも、
連れてくることで新たな出会いがマールに訪れたことに満足しているようであった。
アカンサスは先ほどの会話を思い出し、花屋にいこうとマールに提案をする。
「さてと、それでは花屋にいきますか。きっとマール様の気に入る花が見つかるでしょう」
「おねぇさんの気に入るものが見つかるかな」
「ええきっと見つかりますよ。花屋はかなり多くこの辺りにあります。きっとマール様のいう白い花も多く見つかることでしょう」
そういいマールとアカンサスはバザールの通りを歩いた。
歩く中で、スイートピー、イカリソウやカスミソウなどの花は見つかるが
どうにもマールのお目にかかる白い花は見つからない。
「うーん、これでもないな……」
自分の欲している花が見つからないこともあって、マールは苦々しい表情をする。
アカンサスは情報が白い花ということしかわからないので
マールの判断にしか任せられないようだ。
しかしマールがたまたま目をよせたお店にその花はあった。
「あっ……これだよ!これがおねぇさんの好きな花!」
「ほう……イグニス様はこんな花がすきなのですね」
マールが探していたのは、スノードロップという花であった。
「お嬢ちゃん、この花がほしいのかい?」
恐らく店主とおもわれる恰幅のよい女性が話しかける。
店主が指さした先には、スノードロップがあった。
「うん!その花!」
マールは満面の笑みで大きく頷いた。
「ああ、私がお払いします」
慌ててアカンサスが間に入り、店主にその値段を支払った。
「毎度、誰かにあげるのかい?大切に育ててね」
お金を受け取った店主は、アカンサスに花を手渡す。
「よし、これでお目当てのものも買ったので、今回の買い物も終わりましたね。まだ時間もそれほど立っていないので最後に寄りたい場所はありますか?」
マールはまだ中立国にきてそれほど時間もたってない。
どこか寄りたい場所もあるだろうと考えアカンサスはマールに寄りたい場所をきく。
「えっとね……本がよんでみたいな」
「本ですか……?文字は書けますか?」
中立国ならまだしも、他の国では識字率はそれほど高くはない。
故にマールがどこまで文字に触れているのか知らなくてはいけないと考えた。
本人が読書を望むのはよいことだが、
その技能によって連れていく場所をかえなくてはいけない。
「文字は書けないけど、読み方はおねぇさんから教わっているよ」
「なるほど、それでは図書館ですかね」
「図書館に行けば、本が読めるの?」
「ええ、読めますよ。小さい図書館ならこの近くにもありますから」
中立国では、識字率、児童の学習能力を上げる目的のために小さな図書館が点々と置かれていた。
大人でも学べるようにと、そのレパートリーは幅広い。
「では、図書館で気に入った方を一冊見つけて読んでからかえりましょうか。私も読むのを手伝いますよ」
「ありがとう……アカンサスさん」
「いえいえ、そんなお気になさらず。これからもお世話させていただきますよ」
そう二人は、付近にあった図書館へと入っていき本を探る。
その図書館は、それほど古びていなくごく近年にできたものに見えた。
本もほとんどのものが新しくみえよほど優しく扱われていることがわかる。
二階建ての図書館には、多くの本棚があった。
その中にはいっている本達は手にもち読んでくれるものを
いまかいまかと待ち受けているようだ。
「わぁ……すごいね。私こんなに本を見るのは初めて」
「本はどういった感じで読まれたのですか?」
「おねぇさんが、買い物に行くときにいつも一緒に本を買ってくれたんだ」
「なるほど……」
剣をもつもので、本を読む経験を積極的に積むものは数少ない。
どこかの騎士団に所属し、安定したものが生活していくうえで本を多く読むことはあるが、
旅のものがあえて進んで本を読むことは珍しいなとアカンサスは感じた。
学を積まなくても、剣一本で成り上がるものがいる中で
文字が読めず騙されて転落するものもある程度いる。
最もそれもまた学びを得ないと知りえぬことだが、
アカンサスはイグニスのことを知る中でイグニスの中に深い教養を感じ取っていた。
「それは、よき姉を持ちましたね。マール様は」
「うん!」
すくなくとも、あの人物がこの少女を深く愛し
一人でも生きていけるように育てているんだなとアカンサスは感じた。
それならばと、この少女がより学べるように自分もその手伝いをしなくてはとより意気込む。
「では、私が本をいくつか持ってくるので。マール様はそこで座ってくださいね」
「わかったよ!」
アカンサスは、読書用の席を見つけ、そこに荷物を置きマールに座るように指示をする。
マールは、どんな本が読めるか心が躍っていた。
そんな時声をかけるものがいた。
「こんな本はどうだい?」
声をかけられたマールの前に、一つの絵本が置かれた。




