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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
一章 始まりの物語
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三話「疑問と畏怖」


「このままじゃあ、埒があかないな」

「おとなしく投降しろ、【骨折り】。人間なんか救って何になる」


兵士の中の一人が【骨折り】にそう剣呑な雰囲気でそう尋ねる。


「人間という種族自体が嫌われるのはわかるが、この少女自体が処刑にされるのは理解しがたくてね。個人的な事情というやつさ」

「ふん…【骨折り】と称されるお前ほどの男が個人的な事情で動くか? お前その人間を使うことで何を起こすつもりなんだ?」

「この子に使うなんて言葉を向けるんじゃない。しかもそれはお前の雇い主にもいえることだろ?」


骨の仮面の男は、仮面を抑えながら大げさな動作で笑った。

笑いながらも男には殺気が漏れており、その影響か仮面の奥の瞳孔がきらめくようにも見える。


「なんで俺らにとっての大罪を犯した人間をこの年まで生かした?」

「知らんな……」 


兵士たちは口を閉じた。空気は重く、息苦しい。

【骨折り】の質問に対し、兵士は口を割らない。

少女は話を、その意味を理解することができないのもあり呆然と立っている。


「民衆の前で殺そうとしたのはまだわかる。この国人間をひどく憎んでいる。でもこの年齢まで生かした理由が分からない。殺すにしても知恵や意思をつけることのない年齢でもよかったのではないか。お前ら、いやこの国の王は何をしようと企んでいるんだ」


核心を突いた質問だったのだろう。

【骨折り】の質問にその場は尚一層静まる。

その質問に苛立った兵士は【骨折り】を強く睨みつける。


「恐いな…そんな表情をしたって俺はこの発言を撤回したりはしないぞ」

「王の御心など誰にも分からぬ。われらが王の行動を問う意味などないのだ」

「王が黒といったらそれは、白でも黒なのだ。王の行動を疑うものなんてこの国には誰もいない」


兵士、そして並びに兵士長が発言をする。

その場の全員が王に盲目的でありなおかつ疑ってすらいないような口ぶりだ。

否定するという概念がないのだろう。

獣人は自身を上回る強者に惹かれる。

獣人の王はそれほどのカリスマ性を持っているのだ。


「なるほど、どちらにしても言う気はないらしいな。どうでもいい、おれの仕事としてはこの子をこの国から出すことだ」

「雇い主の名前は出さぬか……忌々しい。雇われ風情で」


骨の男は一息ついて少女に語りかける。

その声はやさしさを内包しており詩人のようだった。


「目を閉じるなよ……そして目に焼き付けろ。これがこれから生きていく世界での戦い方だ」

「……!」


少女は息をのんだ。

兵士の隊長は部下に注意を促し盾を構える。


「皆、盾を構えろ!【骨折り】の攻撃だ!」


【骨折り】は手を兵士に向け。詠唱を開始する。


「壊す炎『ペルド フランマ』。目の前の敵を破壊せよ」


詠唱がおわった瞬間、骨の男の手から大きな火球があらわれた。

その火球は兵士たちを囲み、より一層も燃え上がる。

燃え上がった炎が兵士たちを包み込む。熱によって兵士たちの鎧や剣が砕けた。


「お前たちを殺すほどの威力はないよ。限界で生かしてやるから感謝しろ」


兵士たちが炎に包まれ苦しむ中、兵士長であろう獣人は起き上がった。

その体は既に大部分が怪我だらけだ。


「おのれ…【骨折り】。おまえこそ誰に命じられた?その人間を救うことを依頼したのは誰だ?」

「その状態から起き上がれるのか。だが駄目だな。それを話すわけがないだろう?せめて俺に一撃を入れてから言えよ。」

「この…恨みどうやって晴らそうか…【骨折り】ぃ!!」

兵士長は鉄の剣を大きく後ろにひき、【骨折り】に向って駆け抜け切りつける。

「残念、甘いな。」

骨折りは、身をひねることで

兵士長の一撃を華麗にかわし兵士長の脇腹に重い剣の一撃を喰らわせる。

脇腹と剣がぶつかったときその部屋に骨が折れる音が響き渡り、

兵士長の喘鳴もその場所に広がる。

「あっ…あぁがああ!」

「兵士長!!!」


鎧を破壊された兵士たちが、自らの傷を手で押さえながら心配の声をあげる。

「黙れ。お前たちもこのように折られたいのか?」

その一言でまた静まり返った。

骨折りは、自身の剣を呻く兵士長に見せつけ語る。


「この技が俺の【骨折り】たる所以だ。剣を鋭く薄くではなく重く厚く。人を切ることではなく、叩きそして折ることにのみ極端に重みをおいた剣。それが【骨折り】。それが俺の二つ名でありこの剣の異名だ。王国の王直属の兵士様では知らないのも当然か。まともに戦場にでることなんてなかったんだろ。」


その剣は、通常の剣とそう変わらない長さをしていた。ただ他の点は大きく変わっていた。

剣の先はとがっていない。

厚さは通常の五倍はあり、

重さを考えてみても普通の人間では持つので精一杯であるようにおもわれた。


「兵士長様よ…自分の実力を見誤ったな。部下が倒れ、自らの鎧も剥がされた…そんなおまえにできることは俺から退き大人しく王へ報告することだった。とんだ未熟者だな。それなのに俺に激情をぶつけ突っ込んできたお前は滑稽だよ。舞台の講演でもやっているのか?お前には兵士長なんて身の程しらずだ」

「やめろ…やめろ…」


兵士長は痛みに苦しみながら、【骨折り】の発言に否定の声を吐く。

受け入れがたい事実は、自身の脳を抑えるつけるように苦しめる。


「もうそんなことはどうでもいい。俺はこの子をこの国から連れ出す。また追いかけてきたらさっきと同じ目に合うと思えよ」


【骨折り】は兵士長に軽蔑の目を向け、少女と共にその場を去った。


その日、その国では二人が指名手配された。

一人は傭兵【骨折り】、一人は無名の人間であったそうだ。

また同じ日に一人の王直属の兵士長が自殺した。

自身の力不足に苦しんでの死だそうだ。

過去の英雄たちを苦しめた人間を処刑できなかったこと。

皆から愛され、尊敬された兵士長の死。

その二つに、その国の国民たちは涙に包まれた。





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