閑話「ライラックの憂鬱②」
ライラックは、セーリスクという男性が気になっているらしかった。
しかしフクシアは、メイドとして働いている。
そのため門番と関わることも少なかった。
門番が好むものなど想像もつかない。
しかしフクシアもセーリスクのことを知っていた。
なぜならセーリスクはこの辺りでは有名だ。
「彼はすごいからねぇ……シャリテ様も一目置くぐらいだし」
フクシアがいうには、シャリテもセーリスクのことを目にかけていたようだ。
その実力は、いまだ発展途上だがこれから大きく成長すると期待されている。
性格もいたって真面目。
女性からのファンレターも多く来ていたようだ。
「逆に聞くけど、なんでいまさら好きになったの?」
好きになる要素などいくらでもある。
セーリスクという男性は女性が憧れる要素を多くもっていたのだった。
フクシアから見たら好きになるのは遅すぎるという感想だった。
「だって……私男性に怖がってた部分もあるし、家に引きこもって裁縫とかしてこなかったし……」
ライラックは、自身の恋に怯えていた。
自身がこれほど恋に胸を焦がすとは思っていなかったのだ。
それ故自身の今の現状を痛烈に否定したい。
それは自分ではないと。
こんなにも誰かを思うのは自分らしくないとそう考えているのだ。
「そうはいっても、彼との接点はこのお店しかないわけでしょ?なにか好きなものとかきけたの?」
「いや全然……」
ここ豊饒の大地には、多くの客が来る。
もちろん門番たちも。
加えてただ癒しを求めるものもいれば、食事を求めるものや、一日の締めの快楽としての酒を求めるものもいる。
要するに、セーリスクが来るときは他の客の相手もしなくてはいけない。
どうにかして仕事以外での接点を持たなければいけないのだ。
「それじゃあ、まずは話しかけるところからだね……」
フクシアとライラックの二人はどのようにしてセーリスクに声をかけるべきか迷っているようであった。
そんな二人に声をかけるものがいた。
「おや、お二人とも今日はお休みですか?奇遇ですね」
「「カウェアさん!」」
中立国の門番カウェアであった。
セーリスクの先輩でもあり、多くの人望を集めている人物だ。
ライラック、フクシアとの関わりも長く仲もよい。
ライラックにとっては、年が離れているが男性でも話せる数少ない人物なのであった。
「今日はカウェアさんお休みなんですね」
「そうですね、きょうは非番です。奥さんからもたまには息抜きして来いと外に出されてしまって」
カウェアには妻がいるようだ。
愛妻家であることは知っているが、それゆえに多くのことをやりすぎてしまうのだろう。
そのうえ仕事人間でもあるため、休みを与えなければ休むことのない人物なのであった。
しかし息抜きするにもどこに行けばいいのかわからず、食事処に来てしまったというわけだろう。
「ねぇねぇ、カウェアさんならちょうどよくない?奥さんもって恋愛にもなれてるだろうし、セーリスクくんともいつもいるだろうし」
フクシアはライラックにそう提案をする。
きっとセーリスクと関わっていることの多いカウェアなら好きなものぐらい知っているだろう。
ライラックは勇気を出して、カウェアに質問をする。
「セーリスク君の好きな人って知ってますか?」
これを聞くだけでも、その答えの恐怖に胸がはちきれる思いだった。
その質問から返答までの時間でおかしくなりそうとライラックは感じた。
もしいたとしてもそれを知りたくない。
知らないといってほしい。
それが自分だといってほしい。
複雑にいくつかの思考が絡み合う。
その質問でまた自分は明確に意識をした。
自分はセーリスクのことが好きなのだと。
「すいません。あいにく私も彼とは女性の好みとかは話すことは少なくて。彼はまじめですからね……あまり酒の席を取ることもなかったように感じます」
「そうですか……」
その返答に落ち込んでしまう。
ライラックにとっての王子さまは余程堅物だったようだ。
恐らく仕事の中でからむことの多いカウェアですらセーリスクのことを知らないとなると
他にライラックには頼れるものはいない。
その様子をみて、カウェアは疑問におもう。
「おや、ライラックさんはセーリスクのことが好きなのですかね?」
「はい……そうです」
こんなことを聞かれてしまっては、正直に答えるしかない。
ライラックは、カウェアに正直に伝えるのだった。
「しかしそれだったらお手伝いできるかもしれませんね」
「本当ですか!?」
まさに僥倖だ。
カウェアを頼ることができて良かったとライラックは感じた。
「ええ、私が訓練の終わりに彼をこのお店に誘いますよ。その時ライラックさんも誘うのでご一緒にどうですか?」
そうしてライラックは、カウェア、セーリスクの二人と食事をとることになったのだ。




