二十四話「果実の恵み」
マールたちは、お菓子屋へと足を運んだ。
そのお菓子屋は、「果実の恵み」というドライフルーツを売りにしたお菓子屋だった。
果実のような甘い匂いが充満した店内に入ると、熊の獣人がアカンサスたちを迎え入れる。
「アカンサスさんか。フクシアちゃんたちになにかたのまれたのかい?」
店主はメイド達のことをしっているようだ。
「いえいえ、今日はお客様がきているのでそのお茶請けでも買おうかなと」
「そうかいそうかい、その子がお客様かな」
「そうですよ。可愛らしいでしょう」
マールはいかにも褒められていなく、フードでその顔を隠す。
「ありがとうございます……」
「このくらいだと反抗期があるんだがな……うちの子はそこらじゅう遊びまわって手伝いもしねぇ」
「まあまあ、遊びまわれるだけいいですから」
「それでどんな商品がいいかな?」
アカンサスは、店主に欲しいものを伝える。
「クッキーでお願いします」
「クッキーといってもいろいろあるからな……まあ見てもらう中で選んでももらえば」
店主は返答に困ったようだ。
品揃えはかなり多いらしく、クッキーだけでも何種類かあった。
しかしマールは選ぶどころではなく、いろんなものに目移りしている状態だった。
「どうしたものか好みがわからないな」
そう店主が迷っているときに、また新たな客がきた。
「こんにちは」
「おや、ライラックちゃん、なにかお使いにきたのか」
「あれ、今日はアカンサスさんがいるんですね」
「こんばんは、ライラックさん」
「あれ、その子は」
ライラックと呼ばれた、少女は褐色色の肌をした少女だった。
髪色は紫色に染まっており、花のような香りがその場に広がる。
見知った顔のなかに、マールという知らない子がみえたライラックが戸惑う。
「ああ、この子はうちの商会のお客様ですよ」
そうアカンサスは、マールのことを簡単に説明する。
「へえ…‥わざわざお客さんと一緒に買い物にくるなんて随分と仲がよくなったんですね。もしかしてこの子噂の剣士の妹ちゃん?」
「噂の剣士?お前のお店ではそんな話になっているのか」
どうやらこの辺りでは女剣士のことが話題になっているようだ。
話を聞く中では、相当強い剣士で、美しいらしい。
イグニスのことだと思ったマールは、ライラックに詳しく聞こうとする。
「もしかしておねぇさんのこと?」
「しつれいながら、詳しくお聞きしてもいいでしょうか?」
同時にイグニスのことだと思ったアカンサスも同じようにライラックに話を聞く。
しかし聞かれたライラックは不満げだ。
「別にいいですけど…‥セーリスクくんがうちの店で恋する乙女みたいな顔しながら、子供を連れた剣士の女のこと話してて……」
「ああ……門番の兵士たちは、あなたの働いてるお店でよく食事をしますからね‥…」
「恋する乙女なのはお前だろうだろうが…‥」
熊の店主がライラックに突っ込みを入れる。
どうやらライラックは、セーリスクのことが好きのようだ。
しかしその好きな人が横取りされたせいで気に食わないのだろう。
「そんなことはどうでもいいんですよ!私のきもちわかります!?好きな男が女性にぼこぼこにされて喜んで語ってる様子をみた私の気持ち……そりゃあ私には剣はもてないですけど……料理だって作れますし?いいんですよ…‥‥」
ライラックはいじけていた。
察するに相当セーリスクは、イグニスのことを語ったようだ。
「えっと……おねえさんがごめんね」
マールは計らずとも上目づかいでライラックに謝罪の意を述べる。
流石に年下に謝られたのは、落ち込んだようでライラックもまた謝る。
「いいんだよ……ごめんね。君は悪くないの……私が悪いの」
「まあなんだ、ついでにその子の手伝いしていけよ」
「手伝い?私なにもできませんよ……好きな人に告白することも……」
「別にそんなのは求めてないんだよ、クッキーがほしいから選ぶの手伝ってやれ」
「そうですね、是非ともライラックさんに選んでいただきたいですね」
アカンサスもそれに同意した。
「クッキー?そうですね……わざとまずい奴選んでいいですか?虫味クッキーとか」
「いいわけないだろ。しかもそれ獣人には好かれるんだぞ。そもそもアカンサスさんも食べれるやつを選べ」
名前もしらないイグニスのことをよほど敵視しているようだ。
「ええ……そうですね。それじゃあ私の好みでいうなら蜂蜜印のクッキーですかね」
そういい、ライラックは蜂蜜味のクッキーを手に取った。
「これなら、どんな紅茶でも口にあうと思いますよ。優しい甘みが大好きなんですよね」
「おお、それなら俺としてもおすすめだな。アカンサスさんこれならどうだ?」
店主としてもおすすめの品のようでその商品を押してくる。
アカンサスは迷いながらもマールに聞いてみる。
「そうですね、マール様どうでしょう?」
「うん、紫のおねぇさんの選んでくれたこれにする!」
明るい笑顔で、マールはその商品を買うことに決めた。、
イグニスが喜んでくれることを願うばかりだ。
「紫のおねぇさんじゃなくてライラックって呼んでね。今度はうちのお店にもくるんだよ」
「毎度あり。またお菓子が欲しくなったときはうちにこいよ」
ライラックと店主は、マールに手を振りながらまたねと別れを告げた。




