二十三話「外出」
そのころシャリテ宅ではこんなことが起こっていた。
「おねぇさんかえってこないな……」
「おねぇ様は、いま出かけていますよ」
アカンサスはマール対し、必死でイグニスのことを隠している。
正体のわからないものと話し合い尚且つ帰ってこないなんて
この幼い少女に口が裂けてもいえるはずがなかった。
「そうか……残念だな……おねぇさんと一緒にお出かけしたかったのに」
朝から姿が見えないイグニスに対し、マールは落ち込んでしまっている。
イグニスは、時間がたった現在でも帰ってこない。
アカンサスの主人であるシャリテは、いつの間にかに家の扉の前においてあった。
そこには謝罪の手紙と金貨がおいてあったが、
イグニスがかえってこないことにはどうしようもない。
主人であるシャリテの体調は悪くはないが、
医者が言うには何やら軽い睡眠薬を飲ませられたというのが感想らしい。
もうしばらくはおきないだろう。
気を失っている主人に対して、
またお嬢様の機嫌が悪くなることをアカンサスは覚悟した。
マールにも昨夜の事件がばれる訳にもいかない。
アカンサスはなにかイグニスのことを忘れられる手段を考えていたのだ。
「あの、アカンサスさん。ご主人さまの面倒は私たちがみるので、マール様はどこか気晴らしに外に連れて行っては如何でしょうか」
メイドはそう提案をした。
確かにこのぐらいの年の子では、むしろ家にいる方が退屈になってしまうかもしれない。
アカンサスは、メイドの提案に乗ったのだ。
「ありがとう、フクシアさん。一緒に貴方たちへのご褒美も買ってきますよ」
アカンサスは、良い提案をしたメイドに礼を述べるのだった。
幸いこの屋敷の管理はすべて任せられるくらいには、メイド達は育っている。
いまは小さな客人を楽しませることをアカンサスは選択したようである。
「マール様、イグニス様が帰ってくるまでにお菓子を買ってくるというのは如何でしょうか。きっとお喜びになるとおもいますよ」
「そうだね!おねぇさんも喜んでくれると思う!」
マールはお菓子を食べて喜ぶイグニスの様子を想像し、喜ぶのだった。
「では、そうですね……大きなバザールがあるのでそこに見に行きましょうか。きっとマール様が気に入る商品もおいてあることでしょうし」
「バザールってなに‥…?」
「簡単にいうと、市場のような場所です。まあ、いってみればわかりますよ」
そういった簡単な会話をはさみながら、マールとアカンサスはバザールに向かうのだった。
バザールはシャリテの家からはそう離れてもいなく、住宅街からも近い場所にあった。
主に利便性と集客のためだろう。
多くの人が、売り買いをし食事や買い物を楽しんでいる場所だった。
にぎやかなその場所の空気にマールのこころは踊っていた。
「そうですね……まずはなにから買いましょうか。マール様はイグニス様の好み……好きなものをしっていますか?」
「えっと……どんな名前かは知らないけど白い花とかはすきだよ。あとは硬いクッキーをよく一緒に食べたかな」
白い花がすきだとは知れたのはいいが、肝心の名前がわからないのではどうしようもない。
しかしクッキーならばメイド達のプレゼントにもよいだろう。
「そうですね……ではお菓子屋にいった後最後に花屋に行きましょうか」
「お菓子屋さん楽しみだな……お姉さんに花をえらぶのも楽しみだな」
マールは、花のことを考えつつも、その頭はお菓子のことでいっぱいのようだ。
そんな純粋に物事を楽しむマールをみて、アカンサスはくすりと笑った。
「イグニス様が喜ぶものを選んであげましょうね」




