二十一話「多眼の予言」
「それで、あと一つは?」
「俺の存在はどこで知ったんだ?」
「まぁ、簡潔に述べると二点。一つは簡単だな。お前に接触したペトラの魔法で探っていた。でもう一つはお前の戦いを見ていた。アンデットと竜のを含めてな。そこから入国したら誰でも持たされるペトラの魔法道具で見張って今に至るって感じかな。」
「アンデットの大量発生を見ていて、何も助けずにいたのか」
「そんなこといったって、俺が出たところで警戒するだろ。実際お前なら倒せた。適材適所だよ」
アンデットの大量発生は、イグニスなら確かに対処できた。
しかしあの時自分が出会っていなかったら、シャリテはきっと死亡していただろう。
そんな事を少しばかり脳裏に浮かべてしまった。
「ならもし俺があの時いなかったらどうしていたんだ」
「俺の仕事には、商人の保護は入っていない。そして現実にはもしは存在しない」
事実だ。
だが気に食わない。
どうやら骨折りとは相容れない存在のようだ。
元々傭兵のような人種とは気が合わなかったことを思い出す。
イグニスは舌打ちをしながらも会話を続ける。
場の空気はより悪くなる。
その場の剣吞な雰囲気に、エリーダと蛇の男性は怯える。
「竜の存在は特には驚かないんだな」
「竜にはどうせまた会うことになる」
イグニスはてっきり骨折りも竜のことを知らないと思っていた。
どうやら骨折りは、竜のことを詳しく知っているようだ。
会話の中で、多眼の竜の発言を思い出す。
「俺もそれに近いことを言われたな」
「つくづく奇縁なことだな。いや必然か。俺らの目的には竜の存在が必要なんだ」
「目的……?」
一体この国のトップは、骨折りを雇ってまでなにがやりたいのだろうか。
自分と骨折りをぶつけた意図もわからない。
「獣王国からの戦争の話は知ってるよな。俺たちの雇い主がその戦争を知ったのは多くの目を持った女性に話を聞いたからだそうだ」
骨折りの話をまとめると、数か月前にある出来事があったそうだ。
全身に目が生えている爬虫類独特の肌をもった女性が現れた。
その異形の外見をもった女性に王宮は当然戸惑った。
そしてその女性はこう話し始めたそうだ。
「いまから数か月後に、獣王国は人間の少女を使い古代に起こった災厄の再現をするでしょう。不死であふれた獣王国は必ずこの国を襲います。それを防ぎたくば、まず人間の少女を救いこの国に連れ戻しなさい。あなたが知っている最強の強者によって。人間の少女を救ってしばらくたった後、風の剣士が異物の少女と共にこの国にやってくるでしょう。人間、異物の子、その二人を私に合わせるのです。さすれば、人造の子からこの国を守ることが可能です」
そういい異形の女は竜となり、王宮から姿を消した。
それをみたものは、先ほどの出来事が夢のように感じたそうだ。
イグニスもきっとその話を信じなかっただろう。
竜を見る前のイグニスは。
「ここまでが俺の知ってる話だ。俺の雇い主は本物って判断したということだな。実際獣王国にも人間の子はいた」
最強の強者は、紛れもなく骨折りのことだろう。
実際人間の少女は、骨折りでなければ達成できないとイグニスは考える。
潜伏するためには、数が少なくてはいけない。
単身で獣王国に入り、救出して帰還するなど骨折りしかできない芸当だろう。
「それで俺のことを風の剣士と言っていたのか」
「まあ、竜と一緒にいるところを俺が見たからな。法皇国の剣士だとは思っていなかったが。いま信頼できるなら頼もしいものだ」
多眼の竜とやらは、余程予言が優れているらしい。
自身が風の剣士だということも見抜かれていた。
しかし気になるのは、異物の少女と人造の子だ。
異物の少女というのは、おそらくマールのことだろう。
風の剣士と共にというのはあっているが、なぜ異物の少女なのだろうか。
まあそれはまた考えればいい。
だが人造の子というのも気になる。
人から生まれしものがまだいるのだろうか。
「気になることは、まだあるな。とりあえずシャリテさんの家に行かせてくれ。マールに会いに行かなければ」
「ああ、異物の少女とやらか。まあ、あのちびちゃんの半獣も考えようによっては異物か。いいだろう。だが俺もついていくよ」
逃げないための見張りといわんばかりに、
骨折りはイグニスについていくと言い張る。
その雰囲気はまるで断らないよなと威圧しているようでもあった。
「いかせてくれるならそれでいい」
「待ってください。あなたは怪我人なんですよ。そう簡単に外出されたら困るんですから」
エリーダは、医者として怪我人を外に出すわけにもいかないと考えてるようだ。
苦い顔をしながら骨折りを引き留める。
しかしイグニスは、マールと長時間離れて居て一種の焦燥感のような
ものに襲われていた。
少しでも早くマールにあいたい。
「まあまあ、先生頼むよ。こいつの可愛い妹ちゃんを連れてくるだけだからさ」
妹ではないが、マールを連れて帰ることには変わりはないのでイグニスは否定をしなかった。
骨折りがついてくることででれるならそれでいい。
そうイグニスは考えた。
「妥協してもそうですね……数時間以内にはかえってきてください。シャリテ商会ならそれほど離れてもいないでしょう」
「それじゃあ、行こうか」
「ああ、あなたは少し話があります」
「なんでしょうか?」
「おれは外でまってるぞ」
エリーダが、イグニスのことを呼び止める。
その声はいたって事務的だが、顔は真剣だ。
骨折りは、そんなことを気づかってか、足早に先に部屋から出ていく。




