二十話「疑問と質問」
骨折りはイグニスの肯定に対し、答えを返す。
「まあ、簡潔にいうと。俺は今この国のトップに雇われている。だからここにいる」
「……説明が足りないだろう」
あまりにも短すぎる答えに対し、イグニスは不満げだ。
それはそうだろう。
傭兵が王宮にいる理由なんて雇われている他にはない。
しかし骨折りにはこれで十分なようだ。
「簡単に話すとこんなもんだぞ。それにどうせこのあと俺の雇い主からお前にも説明がされる。俺と同等の強者ってことでな」
骨折りとの戦闘にはやはり意味があったようだ。
骨折りの目的は、自身の実力を試し身内として引き込むことのようだ。
たとえ敵対者であれば、骨折りが処分してしまえばいい。
あの戦闘の意義は、処分か歓迎か。
それをきめるのが目的なのだろう。
だが解せない。どこで自分の存在を認識したのだろう。
だが王宮の関連者といえばペトラだろうか。
となると、入国時から自身の存在は警戒されていたのだろう。
ペトラの話を素直に信じるとなるとそうだ。
では法皇国の出身ということも恐らく
この王宮内ではばれてしまっていると考えるのが自然だろう。
考えてる中で、一つのことが思い出された。
シャリテの安否だ。
「シャリテさんは無事か!」
「…‥あなた。人をさらってたんですか。いくらどんな手段を使ってもいいとは言われてましたが、犯罪はご法度ですよ……」
エリーゼは、骨折りの用いた手段に明らかに引いていた。
実力を試すといっても、誰かをさらったりするとは思っていなかったようだ。
だが骨折りは全く関心がなさそうだ。
「別にいいだろ、こうしてこいつの実力が知れたんだし。しかも俺はシャリテとかいううやつを丁寧に訓練場まで連れていってまた元の屋敷にかえしてあげたんだぜ」
連れていったのは、自分だろうにとその場の誰もが突っ込みをいれたくなる。
しかし無事に、自宅にいることには安心をした。
話の中では、マールにも手を出していないようだし、悩みはいくつか消えた。
しかし自身の知り合いであるシャリテに手を出したことには不愉快だ。
あの人は、自身の都合に巻き込んでいいひとではない。
「無事ならそれでいい……文句はあるがな。あの人にまた手を出したらただじゃ置かないぞ」
「はいはい。お前の仲良くしている奴には手を出さないよ。それは約束しようじゃないか」
骨折りは、傭兵だ。
それは雇い主の意見を聞く仕事人でもあるということだ。
流石に自分が王宮の中にいる間は、自分の話を聞いてくれることだろう。
しかし警戒しておくには損はない。
イグニスは、思い出す中でいくつかの質問が思い浮かんだので骨折りに聞いてみる。
「それと二つ質問があるんだが聞いていいか」
「駄目だ、一つにしておけ。俺の秘密は安くないぞ。どうせ片方は怪我と鎧はどうやって直したんだ。とかだろ」
イグニスの思考の一つは読まれていたようだ。
現在骨折りの鎧には、傷一つついていなかった。
骨折りに用いた魔法【岡目八目】。
それはイグニスによって、危機的状況にしか使わないと決めていた切り札だった。
どんな格上でも攻撃を通すことができる不条理。
盤面を狂わせる理不尽の切り札。
どんな相手でもよけることはできず、再起不能になる不可視の一撃。
しかしその攻撃を二発くらってもなお立ち、
しばらくたったであろう現在はぴんぴんしているなんて考えもつかない。
「正直俺もあの魔法の原理はしりたいけどな。だがあの技は何回も打つべきものじゃないってことはわかる。一度見た相手に何度もつかうとそのうち当てることすら難しくなるぞ」
どうやら骨折りには、二回見ただけでその魔法の原理がある程度ばれてしまったようだ。
「精進するよ……」
どうにかしてあの技をより昇華させないと骨折りには勝つことは難しそうだ。




