表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
最終章 ヒューマンヘイトワンダーランド
225/231

八話「蝋の翼②」


あの光景は忘れられない。

眼に焼き付いて、こびりついた。

何度も何度もはがそうとしたが。

俺の記憶は、焦げ付いたようだった。


シオンと、ミカ。

あの時も、殺し合った。

血が弾け、足元が濡れた。

楽しくて楽しくて。

夢中になったんだ。

あの時だけは、思想や理想を忘れていた気がする。


「骨喰っ!!!!」

「こいよぉ!ミカぁ!!!!」


夢を忘れられない。

満足したんだ。

俺は、満足したんだ。

あの時だけは、渇望をわすれることができたんだ。


「もう一度だ。骨喰。世界を変えよう」


アダム。

なんで邪魔した。

俺は、あのとき燃え尽きることができたのに。

なぜあの時に戦いは、終わらなかった。

俺には、物語の結末が欠けている。

最後までその場面にいられなかったから。


「ああああああああ!!!!!」


背骨から、骨が隆起する。

より強く太い骨。

身体の強度は、より向上していた。

人の姿などいらない。

地面に腕を突き立てる。

血管のように、骨は広がっていった。


「【骨樹】」


標的を狙う。

獣人も、小柄な天使も、毒で汚染した。

あとは、第四位だけ。

骨は、ウリエルに突き刺さる。

枝のように、それはさらに展開した。

肉を確かに穿った。

これで確実だ。

とどめはさした。


「なんだよ。これで終わりか」


あっけなかった。

やはりこいつらでは、満たされない。

俺を満たしてくれるのは、あいつだけ。


「……アダムのとこへいくか」


作戦では、そう決まっていた。

アダムも、骨折りに対する執着を持っていた。

だからこそ、アダムは骨折りとの対決を望んでいた。

骨折りは、アダムの場所にいるはずだ。

いま相対している敵も、じき死ぬ。

退屈だなと心の中で思った。


「まだこれからだろう」

「!」


その声で振り返る。

足元は、水のようなものが広がっていた。


「いや……これは……」


水ではない。

混濁している。

それに熱い。

その液体には、熱を感じた。


「俺の……骨っ?」


骨喰の骨は、溶解されていた。

熱い。

燃えるような熱が、伝播する。


「お前……それ……」


ウリエルの体は、燃えていた。

その炎で、溶かされていた。

体そのものが、液体のようにぼとりぼとりと地面に零れる。


「これは、戒めだ。【太陽】に近づくための罰だ」


【罰剣】は、その炎を広げた。

周囲のツタが、その熱で燃えていく。

草で覆われていたはずのその地形は、発火し激しく燃えていく。

彼の翼も、また同様だった。

眩く輝く陽をもち、燦然と熱を放っていた。

炎は、消えない。

徐々に、周囲を囲っていた。


「これでここからはでれないな。私を殺さない限り」

「……」


崩れていく。

その穏やかな風景は、苛烈なものへと変化した。


「あー」


骨喰の剣が、変形していく。

より凶悪に、より攻撃的なものへと変わっていた。


「俺は、お前のこと見くびっていたみたいだ」


その声は、確かな喜びを孕んでいた。


「殺し合おう」

「いいさ」


ウリエルは、その言葉を受け止めた。

罰剣と、骨剣がぶつかりあう。

骨の剣は、熱に負け簡単に溶解した。

折れ、地面に落ちる。

白い骨は、溶けていった。


「初めてだよ。こんな簡単に壊されたのは!」


あばら骨から、骨を射出する。

ウリエルに突き刺さった。

しかしそれらも同じように融けてしまう。

ウリエルは、罰剣を骨喰の胴体にたたきつけた。


「……っ」


だが重い。

溶かすことができない。

確かな質量を感じた。

ウリエルの剣によって、内部の肉は斬られた。

血が零れ落ちる。

修復できない。

再生する度に、内部の肉が焦げていくのが体感する。


「その剣……【ミカエル】の持つ炎と同じか」


アンデットである自身の体が、浸食されていくことを感じる。

そしてそれは、骨折りの持つ【業火】と同じであった。


ウリエルの表皮が、溶けていく。

更にその速度は増していた。


「由来は知らん。お前を殺せるならそれでいい」


罰の剣。

これは、己への罰だ。

蝋のように溶けるこの体は、未熟な自分への戒めだと。

ウリエルは、そう解釈していた。


「お前を打破する。お前もアダムと同じだ。この時代に居てはいけない」

「だろうな」


ウリエルが、焔を纏って突進する。

その炎を出力とし、高速で推進した。

骨喰は、壁にたたきつけられる。

その全身の外骨格に、ヒビがはいる。

熱の影響で耐久力が下がっていた。


「……っ」


ウリエルの体に、無数の棘が突き刺さる。

その棘は、それぞれが一メートル近くあり槍といえるものであった。

ウリエルの胴体を貫通する。

しかし重要な部位は、その熱で防御していた。

骨喰の腕力に対して、火の推進力で対応する。


「随分と男らしいじゃないか!だが、殴り合う趣味はねぇ!!!」


地面から骨を生やす。

その隆起は、範囲が広かった。

ウリエルは後退する。

頭から、血が漏れる。

いつの間にかに、不意を突かれたらしい。

視界の半分を失った。


「……はっ……はっ……は」


息切れが、激しい。

体力の消費が尋常じゃない。

通常の戦いなら耐えきれただろう。

だがすべての攻撃が致命傷の骨喰との戦いでは、精神も摩耗していた。


「ウリエル……」

「はっ……」


フラーグムの状態が、不味い。

身体に毒が回り切りそうだ。

足を引きずり、出血が止まっていない。

目の赤みも先ほどより増している。


「【リリィ】の力を使え。自分のことだけを考えろ」

「……それ以上やったら君は……」

「……」


わかっている。

ミカエルの状態は、もうすでにみた。

これ以上【罰剣】の能力を使い続けたら近しい状態には至るだろう。

だが、そうでもしなきゃかてない。


「わかってる……だが【罰剣】の力を借りているだけだ。どうとでもなる……」


ウリエルにはひとつ打算があった。

それは、【罰剣】の力だ。

最後のリソースとして、まだ【罰剣】そのものに込められている魔力がある。

それが最後のライン。

それを超えたら。


「ううん」

「グム……?」

「私も一緒」


フラーグムは、【リリィ】の能力を自身ではなくウリエルに付与する。

ウリエルの傷が徐々に癒えていく。

フラーグムは、ウリエルの手を握った。


「フラーグムっ!やめろっ」


ウリエルは、フラーグムの手を振り払おうとした。

だが、フラーグムはその手を離さない。


「……君ならあんなやつ倒してくれるでしょ?」

「……っ!」

「がんばって、君なら大丈夫だよ。ウリエル」


いつも不思議なんだ。

君の声をきくと、力が湧くような心地がする。


「最後の話し合いは終わったか?」


骨喰は、その光景を最後までみていた。


「邪魔はしないんだな」

「無粋だろ」


お互い、ここで最大をぶつける。

そう理解できた。

骨喰の魔力が高まっていく。

骨が溢れ出す。


「【我落苦多・歪】」


多重の骨が、周囲を囲い覆う。

狙いはひとつ、ウリエルのみ。

高速で伸縮した。

ウリエルは、羽根を広げそれらを回避する。

骨を打ち砕いた。


「まだまだぁ!!!」


茨と、枝がさらに伸びていく。

ウリエルへと追従していく。


「……」


ウリエルは、脳内でさらにイメージする。

想像するべきは、薪や炉ではない。

全てを融かすような陽光だと。


「もっと……!」


燃やせ。


「もっと!もっと!!!熱く!!!!!」


焦がせ。

燃えろ。

そんなとき、君の声がきこえた。

君なら大丈夫だよと。

手を繋いでくれた感触がよみがえる。


「君がいるから私は……」


救われた。

自分を犠牲にすることはない。

きみとなら、勝てる。


「フラーグム!!!」

「うん!!」

「私を弾け!!!!」


剣に炎を集中させる。

前に進むのは、君の力があれば十分だ。

フラーグムは、水の力で足場をつくる。

ウリエルは、それを踏んだ。

そして押し出された。


「!!」


速度が、向上した。

骨喰は、それを視認して自身の前方に骨を集中させる。


「無駄だ」


骨が崩壊していく。

液体のように、零れていく。

骨喰の首に剣が突き刺さった。

首は、宙を舞い飛んでいく。


「……よし」


ウリエルは安堵した。

途端に体の力が一気に抜けるのを感じ取った。


「ウリエル……っ!」

「グム。終わったよ」

「うん……」


頭を失った男は、地面に膝をつく。


「これが俺の終わりなのか」

「!?」


その男は、平然と声を発した。

その男には、首がない。

だが平然と動いている。

さまようように、遅く歩いていた。


「そんな……こんな終わり方なのか?」

「……」


骨喰の体は、灰のように消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ