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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
最終章 ヒューマンヘイトワンダーランド
224/231

七話「蝋の翼①」

「楽しい楽しい楽しい血祭だ」


骨の亜人は、空間に骨を広げる。

足音から異音がする。

地面のなかで、なにかをしようとしている。


「足元に警戒しろ!」


香豚は、後ろにいる二人に警戒を促す。

二人は一切油断などしていなかった。


「ああ」

「うんっ」


フラーグムと、ウリエルは頷いた。

先ほどの攻撃は、判断が遅れれば致命傷となるもの。

耐久力の低いフラーグムは、一撃も喰らうことはできない。

ウリエルは、常にフラーグムの援護に入ることを意識した。


「警戒するのなんて、当たり前だろ」


その眼光は赤く光った。

骨の仮面。

白い外骨格。

その姿は、亜人と思えるものではなかった。

先ほどの体内から、骨の剣を生み出す姿も異様だった。

彼は、通常の亜人ではない。

そのことを三人は理解していた。


「【歪・顎(いびつあぎと)】」


巨大な生物の牙を、突き出す。

その空間を齧り取った。


「……!」


ウリエルは、フラーグムの服を引っ張った。

それによって、なんとか回避することができた。


「うおおおおお!」


香豚が、骨喰に接近する。


「力を貸せ!【チギリ】!」


香豚の持つ剣が、閃光を放つ。

その魔力を感じ取り、骨喰は魔法を使用した。


「【狂花】」


足元に赤い彼岸の花が、咲く。

香豚は、その光景に動揺した。

初めて視認する系統の魔法。

対処に判断が遅れた。

だが、即座にその効果は現れた。

精神錯乱の魔法。


「くっ……」


香豚の視界が、赤く染まる。

強い頭痛を感じた。

体全体が、鈍重に感じる。

思考そのものに、負担をかけられたことを認識する。

平衡感覚がない。

それは、大きなデメリットだった。

接近する骨喰の気配すらわからないものだった。


「はは、まず一人」


自らの骨で作った骨剣。

骨喰は、香豚の首元に向ける。

大きく体を揺らし、剣を振った。

香豚の動きは、停止していた。

視界からの情報を失っていたのだ。


「【リリィ】!!!」


フラーグムは、手首にまいた金のアンクルに魔力を込める。

【リリィ】はそれに応じた。

任せてと、彼女の声がした。


「やっぱ、一番厄介のはお前かぁ……」


骨喰は、フラーグムへ視線を向ける。

強烈な水圧により、骨喰は押し出された。

ツタの塊にぶつかった。

ツタは、千切れて崩れた。


「うへ……っ」


めんどうくさそうに、骨喰は首を鳴らした。

白い外骨格には、ヒビがはいっていた。

しかしそれも時間経過で修復される。


「私に任せて」

「ああ……」


フラーグムは、香豚に魔法を使用する。

香豚の視界は、元来の物へと戻った。

精神の違和感も、消えた。

瞼を何度も瞬く。

違和感は消えたようだ。

即座に香豚は立ち上がった。


「助かった」

「ううん、今は気にしないで」


香豚は、フラーグムに感謝をする。


「異常だよな。その魔法」


【ベネディクト・リリウム】。

その本質は、【祝福】の魔法。

アンデットや、邪悪なものに対しては攻撃を。

味方であるものには、有益な効果を与えた。

骨喰は、その魔法に異常さを感じ取っていた。


「君の魔法も、普通ではないでしょう」

「そりゃそうだ。散々弄られたからな」


そういい、骨喰は身体から様々な形の骨を露出させた。

人体の形を超越している。


「弄られた?」

「ああ、人間にな。お前らを模倣しようと足掻いたやつらがいたんだよ」

「……まともに取り合うな。元来理解できないものだ」


生命としては、アダムに近しいのか。

ウリエルは、そう推測する。


「だが、お前のは違う」

「……」

「意図的に作られたものでも、偶然できたものでもない。奇妙な感じだ。【世界の意志】か?……それとも……その武器を奪えばわかるのか」

「ねぇ」

「あ?なんだよ」


強い眼で、フラーグムは敵を睨みつける。


「これは、私の親友が遺してくれた大事な宝物。そこに貴方が踏み込まないで」

「……!」

「すごく不愉快。貴方にだけは、触れられたくない」


それは、強い意思の言葉。

フラーグムによって、これは大事な宝物。

彼女との思い出を穢されるわけにはいかなかった。


「……はは……あははは」

「……フラーグム」


強くなった。

本当に。

ウリエルはそう感じる。

自分の大事なものを必死に守ろうとしていた。


「いいね。【絆】。【親友】。俺はすきだぜ。そういうの?あったかい気持ちがするよなぁ。感じがいい」

「貴様のような屑でも、理解できるのだな」

「初対面で、人を判断するのはよくないぜ?まあ、俺が言えたことじゃないが」


骨喰は、小さな拍手をする。

その行動に、寒気がした。


「いいねいいねぇ」


しらじらしい。

心のそこから、そう思ってない。

表面だけの行動だ。

言葉はそうでも、理解や思考がそうじゃない。

そう思える。


「……」

「甘ったるくて、平穏で、温かい気持ちがする」

「……なんだこいつ」

「でもさぁ……それって退屈だよな」


蔓の中から、小さな骨の怪物が現れる。

三人を囲った。


「!」

「準備していたのかっ……」


気配は、まったく感じなかった。

アンデットや、人の気配とは全く異なる。

魔法を使われたとも思わなかった。


「アダムがそれだった。あいつは、ただ遊びたいだけだ。なんでみんなかまってやらない?」

「……屑の道理に付き合う義理はないな。口を閉じろ」

「あいつは、勝手にこの世界に生み出されただけなのに。なんであーだこーだ言われなきゃならない?誰かがあいつの味方をしてやらなくちゃ」


骨の怪物は、フラーグムにとびかかる。


「フラーグム!」

「ウリエル……っ」


剣で、骨の怪物を叩き潰す。


「……ま、いいけどさ。ただ俺らは俺らのやりたいことをやるだけ」


しかし、崩れたところからまた再生を始めた。


「こいつら……」


香豚も同様のことを繰り返す。

何度、剣で砕いてもその生物は、再生した。

終わりのない生命。

アンデットに近いものだった。

何度も何度も三人に襲い掛かる。

香豚が、真っ二つに斬る。

じたばたと、地面で【ソレ】は暴れた。


「アダムは、正真正銘屑さ。煮ても焼いても食えやしねぇ。腹から食い破って出てきそうなもんだ。……でも俺はあいつの味方だ」

「さっきから何の話をしようとしているか。わからんな!」


ただの自分語り。

一方的に話したいことを話している。

そんな印象しかわかなかった。

それもそうだ。

彼は最初から、理解を求めていなかった。


「理解する必要なんてないさ。立場が違う。偶然俺が敵で、お前らが正義だっただけだろ?」

「【罰剣】!!!!」

「そして、俺らは一度負けた側だ」


骨の怪物を、燃やし尽くす。

骨喰の、眼光が突き刺さる。


「世界からお前は違うと叩きつけられた!!!」

「……!!!!」

「だが、間違えたからもう一度なんて気持ち悪くて仕方がねぇ!!!!!」


なんだこの感情は。

なんだこの気持ち悪さは。


「主は、なぜ俺らを作った。お前らの信仰する神が、なぜ俺らを作ったんだ。なぜ?神は完璧のはずだ!!!なぜ俺らのような濁りを生んだんだと思う!!!!?」


骨剣を、ウリエルにたたきつける。


「……っ!」


力で、押される。

腕力が異常だ。


「俺らは、不良品じゃないからだ。決して」


ウリエルは、弾き飛ばされた。

その眼に、怯えた。


「ぐっ……ふ」

「どうしたの!?ウリエル!」

「間違いなんて、ありはしない。俺らは肯定されたんだ」


腹から出血していた。

骨のトゲが、深く突き刺さる。

その骨から、さらに骨は成長していた。


「……我慢して……っ」

「うっ……」

「だからやりたいようにやる。この世界を壊す」


衝撃波で、骨を破壊する。

浄化の力で、これ以上の骨の再生はないはずだ。


「それなのに……っ。なんで」

「……ぐうぅ……」

「治らないの!?」


ウリエルの傷が、ふさがらない。

苦しみ悶える。


「勝ったやつが、正しくて。負けたやつが、間違えたんだ。楽しい楽しい正義の押し付け合いをしようぜ」


骨喰は、襲い掛かる。


「【ベネディクト・リリウム】!!!」


水で構成された鐘で、大きな衝撃波を起こす。


「ははっ!」


骨喰は、大きな骨を盾にする。

そして高速で、移動した。

移動先に次々と、盾を生成する。


「早い……っ」

「お前が遅いんだよ」


骨剣を、フラーグムに振り下ろす。


「俺を忘れるな」

「獣人……。残念だけど、お前はお呼びじゃない」


【チギリ】で、剣を受け止めた。

血の急流が、溢れ出す。

剣を振り回す。

剣の軌道に、血は追従した。


「【天使】は、亜人から意図的に改造された。いわば、弄られた種だ」

「……!」


こいつは、どこまで知っている。

ウリエルは、その言葉に動揺した。


「先天的で、弄られることのなかったお前らには食指が湧かないなぁ。敗北し、さげすまれた側には」

「……っ!!!!黙れ」

「せめて、半獣をつれてこい」


一瞬だけ。

刹那だけ。

心の動きが、剣にあらわれた。

骨喰は、その隙を狙ったのだ。

香豚の右腕は、消し飛んだ。


「……あああああっ!!!!!!」

「【歪・顎】」


香豚は、膝をついた。

【チギリ】も離れた場所に飛ぶ。


「痛いだろ?痛いよね。苦しむ前にやってやろう」

「!!」


獣人である香豚が、たった一撃の攻撃で瀕死に至った。

その事実が、二人にとって更なる焦りを生む。


「あー、めんどうくさい。なんでそう繰り返すかね」


ウリエルが間に入る。

押しつぶされそうだ。

だが、耐えるしかない。


その間にフラーグムは、香豚の傷を修復する。

だが、治り切らない。

この魔法と近しいものを、フラーグムは体験している。

ウリエルの腹からも出血が止まらない。


「ウリエル!君でも耐えきれない!!私の魔法と反発してるんだ!」

「……っ!ああ……わかってる!」


【呪い】。

そういいあらわすしかない。

海洋国で、サリエルからの攻撃を受けた時もリリィからの願いがなければ死んでいただろう。

継続的な損傷を与える魔法。

かすり傷の一つですら、油断できない。


「アダムは偶発的だった。再現できうるものではなかったんだ。それこそ奇跡的でね。何度やろうが、同じ結果はでなかった」

「……」

「俺はその時の劣化品さ。アダムのコピー。やれることはすくない」

「くるっ……」


骨の棘が、迫りくる。

それは、ウリエルを圧死するほどだった。


「だが、お前らを殺すには十分だ」


【罰剣】で、それらの骨を砕く。

突如、背後に殺意を感じる。

振り返ったときに、彼はいた。


「おらよ!」

「……っ!」


なんとか躱す。


「【ベネディクト・リリウム】!!!」


フラーグムが、衝撃波を発する。

骨喰は、それを視認し眼を見開く。


「ははっ。それは無理」


地面に手をつき、壁をつくる。

壁は崩壊した。


「【狂花】」


再び、花が咲く。

しかし、それは精神錯乱の魔法ではなかった。

茨が咲き乱れる。


「なにっ」

「えっ」


ウリエルとフラーグムの足に絡みついた。

深く突き刺さる。


「うっ……」


焼けるような熱さが、体を走る。


「フラーグム!」

「……」

「……っ」


ウリエルが、フラーグムの声を呼ぶ。

彼女の顔をみた。

それは、惨かった。


「だ……いじょうぶ。私は」


眼は赤く染まり、血涙が零れている。

耳からもだ。

既に体内は汚染された。

一撃も喰らうことはできないと理解していたのに、このざまはなんだ。


「俺の攻撃は、そもそも身体的な強さが関わる。その嬢ちゃんは、体が小さいからな。お前より巡るのがはやい」

「彼女に手をだしたな?」

「お?」


骨喰の鎧を裂き、左腕が骨の盾ごと破壊された。

歪な方向に曲がる。


「なかなかいいじゃん。だが……」


折れた腕は、即座に修復された。

そして、槌に変形した身体でウリエルは弾かれた。


「……ちっ……」

「俺に勝ちたいなら、一位を連れてこい。ただの【天使】のお前には、無理だ」


ウリエルは、骨折りと骨喰に何かしらの関係があることを察していた。

彼らの口ぶりから推測するに、戦闘の経験は一度や二度ではきかなそうだ。


「そうか……」


アダムへの戦いを意識した自分が愚かだった。

そしてこの期に及んで、命を残そうとした自分への怒りが湧いた。

参考とするべき命の輝きを知った。

私は、貴方のように抗いたい。


「【罰剣】。能力全開放」


私は、太陽に近づいた。

太陽を目指し、飛んだその天使は蝋のように溶かされるとしても。

その願望を、胸に。

閉じ込められた場所から羽ばたこうとした。

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