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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
最終章 ヒューマンヘイトワンダーランド
220/231

三話「盲目の獣人」


「……」


セーリスクは心の中で、考え込んでいた。

あの時、三人をあの場所に残してもよかったのか。

自分もあの場所で戦うべきじゃないか。

そんなことを考えていた。

それをイグニスに指摘される。


「あいつらが心配か?」

「……ええ」

「俺も正直あの場所に……残りたかった」

「イグニスさん……」


あの敵の覇気は、今でも体に残っている。


「あの場所にいて、グムとウリエルと一緒に戦いたかった」


コ・ゾラやネイキッドとは違う。

あれは狂っているのではない。

精神の構造がそもそも違う。

アダムに近しい存在だった。


「あいつは、アダムと似ているタイプなのかもな」


言われなくてもわかる。

あいつは、アダムの切り札だ。

最後の戦いに使うと決めていた札だ。


「骨折りは、あいつと話したことがあるのか?」


骨折りは、ある程度面識がある様子であった。

敵は、骨折りと戦うことを望んでいる様子であったが。


「何度も殺し合った仲でいいか?親しいと思われたくない」

「……あ……そう」

「でもひとついうなら」

「?」

「俺は一人であいつに勝てると思えない」

「……」

「狡猾さや、手段の多さ。それは、アダムの方が上だ。だが単に戦闘となると、骨喰の方が勝っている」

「……そうか」


そんな相手を、フラーグムに任したことを少し後悔していた。

セーリスクは、あの敵にあったとき勝てないと素直に感じた。


「でも。おれはあの子を信じるよ。きっとリリィもそう言う」

「……そうですね」


二人の会話を聞き、骨折りは忠告をする。


「フラーグムの魔法は凄かった」

「え?」

「お前の友達は、きっと心から人を思えるやつなんだよ。だから大丈夫だ。あいつらなら勝てる」

「有難う……」


正直骨折りにこんなことを言われるとは思っていなかった。


「骨折りさん……笑ってる」


アラギがぼそりと呟く。

骨折りは確かに様子がおかしい。


「お前、本当におかしいぞ?大丈夫か?」


イグニスが心配をする。

過去の骨折りであれば、ここまでの言動はしなかったと思う。


「……俺は、お前らに出会えてよかったと思えてる。アダムを殺す。その目的はこの子の為でもあった」


骨折りは、アラギの頭に手をのせる。

それは、父親のような目であった。

実際、骨折りはアラギに対して父性のようなものをもちはじめているのだろう。


「でもいまは、違う。これは使命なんだ。因縁をこの時代まで持ち込んできてしまった。お前らを巻き込んでしまった。これ以上お前らを苦しませない。そのために俺は、ここでアダムと決着をつける」

「……」

「俺はお前らを信じている。お前らと一緒ならこの苦しみを終わらせることができると」

「……俺もそう思っているよ。お前と一緒ならマールを救える。アダムから解放できる」


確かに骨折りとの間には、絆が生まれていた。

お互いがお互いを信じ、助け合う。

そんな希望が生まれていた。


「あれ?」


胸のポケットにいれておいたペトラの魔道具が光った。


「ペトラの魔道具か」

「そうです」


魔力を込め、始動する。

その瞬間。

魔道具が激しく揺れた。


「な、なんだこれ」

「え、怖?」

「使い方は?」

「しらない……です」


本当に教わってない。

これあげるー。

という感じで渡されたのだ。

使い方を知るはずもないだろう。


「使い方を教えてから渡せ!あいつは!!」

「どうやって止めるんだ。これ?」


魔道具をあれこれいじっても、治し方などわからない。

こんなくだらないことでアダムからの襲撃を受けることがあってはたまらない。


「へ?」


後ろから足音が聞こえた。

振り返ると、激しく汚れた状態のペトラが立っていた。


「……セーリスク?」


彼女は目を開き、此方をじっと見ていた。

まるで現実が受け入れられていないように、混乱していた。

徐々に、彼女の顔が明るく変わる。


「……みんな!!」


ペトラが、イグニスに抱き着いた。


「よかった……本当によかった……」

「痛いよ。ぺトラ」

「……ご、ごめん」


ペトラは心から安堵していた。

徐々に力が抜けていった。


「ペトラ。現在の様子を教えてくれ」


骨折りは、冷静に現状を尋ねる。

プラードもいない。

彼女の精神も正常とは思えない。

一度落ち着かせる必要があると考えた。


「……ツタの中に隠れていたんだ。あれから何度か襲撃を受けてね。やっぱり執念深い男は嫌いだよ」

「……ペトラ」


辛そうな様子を必死に隠している。

無理に保っているだけで、体力は限界そうだ。

足は、細かく震えている。

顔も、より一層血の気がない。

骨折りが、気を遣ったようにペトラに話しかける。


「元気か?まぁ、お前は俺に心配されるなんて嫌だろうがな」

「……骨折りか。もてる女は大変でね。必死に逃げ回ってたよ。彼らも暇なんだろうさ」

「はは……変わんねぇなお前も」


相変わらず誰かを馬鹿にする癖は変わらないようだ。

骨折りはこの状況でも、それをする彼女に苦笑いをする。


「君も、僕のことを追いかけてここまで来たのかい?……ま、違うよね」

「……ああ、違う。……ペトラ。お前の女王様を殺しにきたんだ」

「おい……骨折り」

「取り繕う必要はない」


流石にそこまで言葉にする必要はないだろう。

イグニスは、骨折りを止めようとした。

しかしペトラは、数秒沈黙した。


「……うん、わかってる」


それは覚悟を決めた言葉だった。


「わかっているんだ。もう取り返しのつかないことが起きたということに」

「そうだ。お前の女王。デア・アーティオはもう誰にも救えない。そしてあいつは誰にも救われることを願っていない」

「……僕じゃ、もうあの人を救えないのかな」

「……」

「いくら考えてもその答えはでないんだ。初めてなんだよ。こんなことは」


泣きながら、彼女は自身の感情を吐露する。

それは初めての経験であった。

いままで、脳内で処理しきれていたはずの情報は全て零れた。

なにもできない。

そういった無力感が、彼女の脳を襲う。

それは、彼女にとって何かが決壊した感覚だった。


「自分が初めて馬鹿だって思った」


自らの愚かさをしった。

それは【天才】だと思っていた自分の限界だった。


「ペトラ」

「こんなこと初めてなんだよ。いくら考えて考えて考えても、何もできない。何も変わらない。わからないんだ。気持ち悪いんだよ」

「落ち着け」


呼吸は確かに乱れていた。

骨折りの言葉を聞いて、その呼吸を整える。

その理性で、彼女は次の行動に動いていた。


「……ごめんね。プラードの元へ案内するよ」


彼女たちの潜伏場所は、その場所から大して離れてはいなかった。

ただツタの量もあって、相当入り組んでいた。


「よくこんなの覚えられるな」


風景が変わらないせいで、どこにいるのかわからなくなる。

ペトラの道案内がなければ、プラードの元へといけないだろう。

たどり着いた先で、みたのは傷だらけのプラードの姿だった。


「プラード」

「……はぁ……はは」


イグニスが声を漏らす。

獣人である彼は、傷の回復は早いはずだ。

だが、それでも追いつけないほどに彼の体からは血があふれていた。


「まさかこんなところで君たちと再会できるとはな」


プラードは笑っていた。

傷だらけの体で、彼は気丈にふるまう。


「喋るな」


イグニスは、回復の魔法を彼に付与する。

傷が癒えていく。

だが、その傷は深く治り切らない。


「エリーダさんは?」

「エリーダは……」


ペトラがすぐ傍のツタを開く。

彼女もライラック達のように、眠りについていた。

繭のように包まれていた。


「ペトラ。説明を頼めるか」


なぜここまでの状態に陥ったのか。

骨折りは、ペトラに説明を求めた。

ペトラも口を開く。


「プラードは、二人の敵と戦ったんだ。一人は、骨を生み出す亜人。もう一人は、王者の咆哮を使う獣人……どちらもいままで情報になかった敵だ」

「亜人の方はさっき会ったやつか」

「もう会っていたのかい?」

「ああ」


イグニスが、彼の姿を脳内に浮かべる。

だが、もう片方の獣人は知らない。


「……王者の咆哮だと?」

「ああ……あいつは、王者の咆哮を持っていた」

「……」

「知っているのか?」

「いや……アダムの仲間に獣王の血縁はいなかったはずだ」


プラードがあることを思い出す。


「恐らくだが、数年前角牛と、飛鷹が戦闘した敵だ」

「鎖を使うという獣人か?」

「骨折りさん」


セーリスクも近しいことを思い出していた。


「なんだ?」

「恐らくですが、海洋国で暴れた獣人と同じです。ロホさんとアーガイルさんが敗北したという」

「……あ」


元々それに近しい情報はあった。

ここまで徹底して姿を現さなかった獣人。

彼も同様に、アダムが最後まで使おうとしなかった駒。

それらを考える度に、苛立ちが募る。


「舐めたことしやがって」


最後まで出し惜しみして、楽しみをとっておく。

いかにもアダムの考えそうなことだ。


「骨の亜人は、大丈夫なのかい?」

「ああ。いま天使の二人と香豚。この三人が相手をしている」

「戦力としては、それが限界か」


現状不確定な要素が多すぎる。

ペトラも、確実に敵を討ちたいと考えている。

だが、確実に討つには情報が足りなさすぎる。

まず最優先事項は、アーティオだ。

それの対処に、人員を最も割くべきだと考えていた。



「獣人の居場所はどこだ?」


襲撃を受けたというわりには、落ち着いている。

プラードが警戒していない理由はなんだ。


「動いていない」

「……なぜわかる?」

「実際そうなんだ。その獣人は、王城の前から一切動きをみせていない。僕が魔道具を置いているのに、それをあえて無視しているようだ」

「……ほう」


少なくとも現在の居場所を知ることができたのは、有難い。


「動きをみせないのは、なぜでしょうか?」


セーリスクが尋ねる。

これに関しては答えがわかる気がする。


「待っているんだろうな。お前のことを」

「……そうだろう」


プラードの眼に熱意が宿る。

肉体の再生は終わっていた。


「アーティオに会うためには、奴を殺す必要がある。ここまでやられた借りは返す」

「ああ、その意気だ」


骨折りは、笑う。

ペトラは動揺していたようだが、彼には言葉は不要だ。


「よしいくか」

「もう……?プラードは大丈夫なのかい?」

「無論だ。アーテを助けにいく。私にはそれしかできない。君もそうだろう?」

「うん……!そうだね」

「お前ら、準備しろ」


合流はできた。

あとは、為すべきことをやるまでだ。

骨折りたちは、王城のすぐそばまで移動することにした。

そしてその場所に、敵はいた。


「来たか」


眼を布で隠した盲目の獣人。

金属が擦れ合うような音がその場には広がっていた。

彼は、鎖のような武器を所持していた。


「来ないわけがない。そう考えていたのだろう?」

「ああ、そうだ。そうでなければ獣王の血脈ではない」

「……」


王者の咆哮を使えることといい、彼は獣王の関わりを持つものなのだろうか。


「お前はなんなんだ?一体なにものなんだ」


骨折りが、盲目の獣人に尋ねる。

ただその質問に、その獣人は退屈そうな顔をした。

愚問を聞いたとでも言いたげだ。


「それに意義はあるか?」

「……は?」

「私が何者だろうと、打破すべき敵には変わりない。非業の出自であれば、貴様は満足か?」

「違う」

「そうだろう。獣王よ。私は、アダムに与するもの。獣人の王として、私を殺してみろ」


彼は、鎖を振り回し魔力を放出する。


「ただその前に」

「あ?」

「その前に、四人ほど余分なものがいるな」

「!」

「アダム!!!!!」


大きな咆哮を彼は、上げる。

王者の咆哮。

その場にいた者は、全員一瞬の硬直を感じ取った。

鎖が周囲を包囲する。


「はっ……!」


その瞬間、イグニス、骨折り、アラギ、セーリスクの前に魔道具が放りだされた。

ペトラだけが、その魔道具に付与されている効果を知っていた。


「転移の……!」


眼を見開き、その魔道具を停止させようとする。

しかし硬直した体では、ままならなかった。


「くそっ!」


せめてひとつ。

すぐそばにいたセーリスクの魔道具だけその機能を停止させる。


「ペトラ!?」


ペトラのその行動に、セーリスクは驚きをみせる。


「助かった。有難う」

「今はいい!」


ペトラのお陰で、魔道具の影響を受けないで済んだ。

しかし他の三人は、そういかなかったはず。

周囲を見渡す。


「みんなはっ!?」


その場から三人はいなくなっていた。

最悪だ。

戦力を分断することなんて当然のように考えなくてはいけないのに。

合流できた喜びで、それを忘れていた。


「貴様!」


プラードが牙をみせる。

真剣に敵と向かいすぎた。

たが、獣人はそれを大して気に留めていなかった。


「ふむ?うまくいかなかった?まぁいい戦いを……」


そう獣人が言葉を発したとき。


「【オブリーディオ・レウス・コル】」


フォルトゥナは、敵の首元に刃を突き刺していた。

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