十九話「医療室の中で」
イグニスは、目を覚ました。
そこはシャリテの屋敷ではなくどこかの医療室のようにも見受けれた。
体の痛みは、取れないが状況を把握するためにもイグニスは起き上がった。
「先生、起きました」
「ああ、そうか。思ったより早いですね。体が頑丈なのか……そのまま寝かせておいてください」
誰かの声が聞こええてきた。
一人は男性で、もう一人は高齢の女性のようだ。
「なにを……」
「あなたは、訓練場で重症になって倒れていたんですよ。出血とやけどもあって処置が大変だったんですからね」
「では、これを呑んでください」
若い男性の蛇の獣人がイグニスに茶のようなものを渡す。
そのお茶は、深い緑色で抹茶のようだった。
見た目でいかにも苦いことが伝わる。
漢方のようなものだろうか。
あまりこういったものに慣れていなかった胃グニスは抵抗感をしめす。
しかし医者としては飲んでもらいたかったもののようで
無理やり手に持たせようとしてきた。
「苦いですが、しっかり飲んでくださいね」
医者のいうことに逆らっても仕方がない。
イグニスは渡されたものを素直にのんだ。
確かに薬と考えてもかなり苦くイグニスは思わず吐き出しそうになった。
しかし出すわけにもいかないので思い切って飲み込む。
イグニスは一息ついて、その女性に質問をする。
「あの……ここはどこですか?」
「ここは王宮です。中立国の王宮」
イグニスは、驚きで心臓が一瞬だけ止まったかのように感じた。
なぜ自分は訓練場から離れて王宮にいるのだろうか。
その原因は、自らをここまで傷つけた骨折りしか思いつかない。
「あの……なんで俺はここに……」
「そうだ、自己紹介しようか。私は王宮医師のエリーダ・シエンシア。怪我の功名には違いないけどあんまり関心しないよ」
その女性の声は明らかに年寄りの声に聞こえたが、
その女性の見た目はどう見ても二十台半ばに見えるものだった。
真珠のように白い光沢を放った髪で片方の目を隠しているミステリアスな女性だった。
金色のそのメガネは知的な雰囲気を纏っていた。
「あの……それで俺をここまで運んでくれた人は」
「俺だよ」
会話を遮るように、骨折りはひょいっと部屋の中に入ってきた。
イグニスは、記憶のなかにまだ暖かく残っている戦闘の記録が頭の中によみがえるのを感じた。
高揚感と共に少しばかりの憎しみが宿る。
「骨折り……!」
おそらく何かしらの目的があったとはいえ、自身をあそこまで痛めつけたのだ。
すこしばかり敵意と殺気を向けても文句は言われないだろう。
「なんだよ、腹を割ってお互いに殴りあった仲じゃないか。そんな警戒することもなくない?」
「あなたは多くのところで敵を作りすぎなんですよ」
「その前に医療室ではその汚い鎧を脱いでください」
「いや、おれこの鎧形見だから外せないんだよね」
いかにも今思いついたかの口調で骨折りは話をずらす。
しかし骨折りの多くの死臭がこびりついた鎧にエリーダと男性は明らかな不快感を示していた。
しかし骨折りに汚いといえるなんて、随分と肝の据わった獣人のようだ。
「先生……王宮の中になんで骨折りがいるんですか。こいつは傭兵なのでは」
「それが少し訳ありなんですよね」
「俺から説明しようか?」
納得しがたいが張本人から話を聞いた方がわかりやすいだろうと考え、
イグニスは肯定の意を示す。
「ああ、頼む」




