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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
最終章 ヒューマンヘイトワンダーランド
219/231

二話「骨喰①」


「私が、誰かに望まれたと感じ取れたのはいつだろう」


花は語る。

その独白を、彼らは静かに聞き入れた。


「……」

「いつまで続くんだろうなこれ」

「……アーティオ様はどんな気持ちで、あの場所にいたのでしょう」

「さぁ……案外救われていたんじゃねぇかな」

「え?」


セーリスクにとって、骨折りの答えは予想外のものだった。

てっきり苦しみのような感情を、答えに出すと思っていたのに。


「当然、辛いという想いもあっただろうさ。でもそれ以上に生きる理由があいつにはあったんだよ」

「……それは、貴方の気持ちも入ってますか」

「……さぁな」


骨折りも同じく数百年の時を生き延びたもの。

その苦しみの過程に、その両者が抱えるものは似ていて全然違う。

その過程を自分たちは、何も知ることができない。

理解することも、分かち合うこともできない。

彼ら自身が背負うことを望んでいるから。


「骨折りさん」

「なんだ」

「この戦いが終わったら、ご飯でも食べませんか」

「は?」


正直、セーリスクの言っていることの意味がわからなかった。

馬鹿なのかお前とも思った。

なぜ彼はそんな唐突にそんなことを口に発するのだろう。


「あ」


焦りながら、セーリスクは弁解する。


「いや別に他意はなくて……イグニスさんとはよくごはんを食べていたので。骨折りさんとはご飯を食べた機会がないなと」


はぁ、と骨折りはため息をついた。

なんで戦場にきてまでこんな話をするんだと思った。


「おい、イグニス。お前こいつのこと甘やかしすぎだぞ」


別に勝手にしろとは思うが、イグニスはセーリスクに甘すぎる。

骨折りはそう感じた。

だが、イグニスはそう言われたことを不服に感じる。


「いいだろべつに。俺にとっては、可愛い後輩だし」

「イグニスさん……」


別に骨折りに言われる筋合いはない。

お前だって、自分の技を教えているじゃないか。


「イグちゃんはすごくいっぱいご飯たべるよね!セっちゃんより食べてた」

「グム!?」


フラーグムの唐突の暴露に、イグニスは顔を赤くする。


「イグちゃんは、昔よりずっとまる……」


イグニスに頬を抑えられた。


「やめよっか」

「……うん」


これ以上は、実力行使するしかない。

イグニスの眼はそう訴えかけていた。

ともかく、眼が怖かった。

フラーグムはそれを察知し、言葉を止めた。


「心じゃなくて物理的にも丸くなってどうすんだお前」

「ふざけんな……っ」


なんでここで、こんな屈辱を受けないといけないんだ。


ツタの道はまだ続いた。

声も、まだ途切れなかった。


「この声はどうやってだしているんでしょうね」


骨折りは、セーリスクに対して説明をする。


「別に声をだせる植物があるわけじゃない。デア・アーティオの最後の意思から出された植物だからそうなるんだ」

「最後の意思……」


セーリスクはその言葉を聞いて深く考え込む。

アーティオがアンデットになる最後の瞬間。

彼女は何を考えたのだろうか。

そんなことをふと考えたのだ。


「あんまり深くかんがえんな」

「……はい」

「続けんぞ」


骨折りはさらに説明する。


「魔法は意思に、影響される。死の間際だからこそ、思念がより漏れてしまっているんだろう。走馬灯なのか……植物は、その影響を受けているんだよ」

「なるほど」


最後の魔法だからこそ、魔法を発動させる過程で意思が混ざったのだろう。

特にアンデットになる過程で、出した魔法だ。

通常の魔法とは違うのかもしれない。


「あまりあてにするな。例外すぎる。普段では起こりえないことが起きている程度でいい」


ウリエルがその言葉にフォローをいれる。

また、アーティオの声が聞こえた。


「私は、彼に何も返せていない。彼はこんな私のことを愛してくれたのに」

「……」

「まぁ、聞いてて気持ちのいいものではないよな」


デア・アーティオの泣く声がその場に広がる。

骨折りは、それを燃やした。


「骨折りさん?」

「……あいつにだって隠したいことのひとつやふたつぐらいあるだろ」

「そうですね」


それは、骨折りなりの気遣いだったのだろう。

彼は意外にもこんなところがあるのだと思った。

だが、その配慮を誰も否定しなかった。


「アーティオ様は、きっと喜びますよ」

「あいつなら、感謝もしないさ。お互い嫌いだしな」


そんなことはないのにとセーリスクは思った。

だが、彼らの中にはお互いを認めるわけにはいかない理由があるのだと思った。


更にツタの道を、前に進むと広い場所にでた。


「なんだここ」


意図的に切られた跡がある。

誰か暴れたようだ。


「……戦闘があったみたいだ」

「痕跡は?」

「片方は亜人だな。もう片方は……」


大きな足跡や、爪の跡。

それは知っているものだった。


「プラードだな。これは」

「プラードが誰かと戦ったのか?」

「そう……そこだ。アダム本人じゃない。亜人の配下がまだい……」


そんなとき、敵意を感じた。

それは感じたことのない気配だった。

ぬるりと。

そんな言葉が合うほどに。

ふと意識したときに、その男はいた。


「武器を持て!!!敵だ!!!」


突如、地面から白い物体が突出する。

各自、後退しそれを回避する。


「……骨っ?」


それは、骨そのものだった。

ただそれは、鋭くとがっている。

いかにも殺傷性に優れているとわかる見た目だった。

骨折りは、剣を振りそれらすべてをへし折る。


「お前……」


ただ骨折りはその魔法の正体に気が付いていた。

それは数百年前に戦った敵だった。


「【骨喰】……」


その眼は黒く変質していた。

ただこちらの敵意は理解できた。


「【骨喰】……って」


イグニスがその言葉に反応する。

シオンから、その名前を聞いたような気がする。

それに、骨折りの持つ鎧の元の持ち主。


「アダムの部下だ」


正しく付け加えるなら数百年前のだが。

骨折りの気配が、いつもと違う。

アダムと相対しているような鋭い気配だ。


「まるで永い永い恋慕を終えた気分だ」

「そうかよ、俺にとってはお前は二度と会いたくない相手だ」

「そういうなよ。俺の鎧を今でも大事に身に着けているのにさ」

「……ちっ」


その男は、笑った。

かつて自分を殺した仇敵を目の前にして、その男の感情は歓喜に近しいものだった。


「知り合いか?」

「かつて殺した敵っていえばわかるか?」

「!」

「アンデットだよな」

「ああ……だが」


意思が明瞭としすぎている。

法王ですら、自我を乗っ取られた瞬間があった。

【世界の意志】に触れたのか。


「なんでここにいる」

「ミヒャ……いや今は【骨折り】か。お前も【骨】に関する二つ名を手に入れるなんて縁とは不思議なものだな」


くくくと、彼は嗤う。

それ程、彼にとっては痛快なものだった。

【骨喰】である自分を殺した彼が、骨を折るものと名付けられている。

その事実が酷く面白かった。


「俺のことを調べてくれるなんて、よっぽど前の戦いが怖かったらしいな」

「いやいや、お前のことは調べるさ。警戒しねぇほうが馬鹿だ。ま、記憶を失ってたってきいて阿保だなとは思ったが」

「……」

「俺の力がそんなに欲しかったか?まぁ、代償に見合ったならなによりだ」

「有難くつかわせてもらってるよ」

「ははっ、絶望を味わったくせによくほざく。お前まだその鎧をつかいこなせていないくせに」

「……」


かつて骨折りは、【骨喰】の力を奪った。

そのおかげで、絶望を味わった。

内心複雑なのだ。

アダムを止められたのは、この鎧のお陰だ。

だが、ここまで執念を募らせたのもこの鎧のせいだ。

骨折りは、正直自身の纏う鎧に恐怖を抱いている。


「シオンはどうした?お前だけか」

「シオンはいない。お前はどうしてここにいる」

「わかってんのに、聞くのか?まぁいいか」


【骨喰】は、自分が殺した。

アダムとは違って、確実に明瞭に自分の意思で殺した。

それなのに、彼は再び目の前に現れた。

大方アダムに復活させられたのだろう。


「アダムからたたき起こされたんだよ。あいつが俺を起こさないわけがないだろ」

「……」


実際、数百年前の戦いでは【骨喰】に酷く苦戦した。

こちら最大の戦力である骨折りとシオンは、彼との戦闘で死にかけたのだから。

アダムの右腕。

そう言えるほどに、彼は強かった。

だからこそ、アダムは最後の戦いの為に彼を復活させたのだろう。


「で?そいつが、アラギのクローンか?」


そういうと同時に、彼は細い骨を高速で射出した。

アラギの眼寸前までいった時、その骨は蒸発して燃える。


「……舐めんな」


骨折りには、わかっていた。

【骨喰】が、そういった敵であることを。


「あっはは、そうだよな。そううまくいかねぇかぁ」


【骨喰】の肉体は変質していく。

それは、骨だった。

だが、鎧のように肉体を包んでいく。


「この数百年で、俺は死んでいた。死に限りなく近づいていた」


顔から骨が浮き出る。

それは外骨格のように彼を包んでいく。


「骨折り。俺は前の俺より強いぞ」


【骨喰】は、あばらに腕を突っ込んだ。

バキバキと、骨と肉が裂けるような音がする。

それは剣だった。

だが、剣というにはあまりに重く、分厚く。

そして醜かった。


「あっはあああああ」


【骨喰】の体は、あばらからさけるようにその剣を取り出した。


「骨身にこたえるよ」


そういい、彼は骨剣を地面にたたきつけた。

全方位から、骨の刃は強襲する。


「!!」


フラーグムは魔法を詠唱する。

天使の白い羽が広がった。

彼女の周囲には、水の百合が咲く。


「【ベネディクト・リリウム】!!!」


水で作られた鐘と笛は、大きな衝撃波を生み出した。

骨たちは、崩れて崩壊する。


「【終末笛】……じゃない。お前の後ろにいるのは、誰だ」

「私の親友だよ」


この力なら、イグニスの力になれる。

彼女は、そういい胸を張る。


「へぇ、面白いのがいるな。骨折り以外でも楽しめそうだ」

「イグニス!」

「!」


フラーグムが、大きな声を出す。

そのことにイグニスは驚きを持った。


「先に行って!この人は私が相手をする」

「一人では無理だよ」


ウリエルも同様に、前に出た。


「イグニスさん。私が彼女と共に戦います。先に行ってください」

「ウリエル……」


フラーグムは、隣にたつウリエルを見て頬を紅くした。


「君を一人にはしないよ」

「うん!」

「妬けるなぁ。彼氏。俺を置いていくなよ」


【骨喰】の周囲の魔力が高まっていく。

「!」


それは、【天使】以上の魔力。

彼はこれによって身体能力も異常に向上していた。

そして彼の周囲には、アンデットの瘴気も漂っている。

生半可な魔法は、彼には通じないだろう。

事実、数百年前の戦いではシオンと共に戦ってやっとだった。


「香豚」

「なんだ」

「二人じゃ確実にどっちも死ぬ」

「……経験か」

「ああ」


骨折りは断言している。

それは、予想ではない。

香豚には、そう感じ取れた。


「わかった。俺も残ろう」

「助かる」

「獣王様を頼むぞ」

「もちろんだ」


骨折りたちは、三人を置いて前に進む。


「いいのか?骨折りぃ?お前は俺と戦わなくて」

「お前のことなんてどうでもいい」

「ええ?ま、そうかよ。三人殺して、俺もあとからいくからよろしく」


くくくと彼は、笑みを零す。


「そいつらは、お前に殺されるほど甘くはねぇよ」

「はは、なら猶更楽しみだな」


意外にも、【骨喰】はこちらを追わなかった。

妨害されることを理解しているのだろうか。


フラーグムが、イグニスとセーリスクとフォルに声をかける。


「イグニス!セっちゃん!フォルちゃん!無理しないでね!」

「お前もな!」

「はい!」

「了解です!」


フォルもまた香豚に、声をかけた。


「香豚!お願いします!」

「お前もプラード様を頼むぞ!!」


骨折り達は、だんだん見えなくなっていった。

骨喰は、笑う。


「さぁ。骨の髄までやろうか」


戦いが始まる。

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