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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
最終章 ヒューマンヘイトワンダーランド
218/231

一話「突入」


「何だこの光景は……」


それは異様としかいえなかった。

目の前にある光景は、植物で覆われていてかつてあったのものなど想起できなかった。


「……念の為聞くが、場所はあっているのか?」


ウリエルは、骨折りに問う。

それほどまでに違ったのだ。


「ここまできて間違えるわけねぇだろ」

「それもそうか」


場所は間違いない。

豊穣国がアーティオの影響で、変容したのは事実だ。

豊穣国の豊かな土壌は、アーティオの魔力が由来していた。

アンデット化によって異常が起きたのか。


「……」


セーリスクはその豊穣国の姿を茫然と眺めていた。

言葉がでてこない。

腕が震えていた。

現実として受け入れられていない様子であった。


「ウリエル。飛翔して敵を確認できるか。俺らが来ていることはばれている警戒は忘れるな」

「ああ」


ウリエルは、神造兵器から飛び立つ。

王城まで、離れているが視認できる程度だ。

徒歩での移動になるが、植物を渡って移動できれば時間は短縮できるだろう。


「……」


敵は視認できない。

植物が多すぎて、視界が確保できないのだ。


「無理だ。焼くか、斬るか。道を確保する必要があるだろう」

「敵……からの攻撃はないな」


好戦的なアダムであれば、既に攻撃をしかけていてもおかしくない。

だがそれでも、なにかしらのアクションも感じない。


「それで十分だ。降りてくれウリエル」

「ああ」


ウリエルが、神造兵器に戻る。


「今後の行動方針を決めよう」

「それが一番だな」


とにもかくにも行動を明確にしないと話は進まない。


「俺たちの目的は、アダムの撃破。それは変わりない」

「ああ」

「だが、その過程には付随した三個の目標がある」


骨折りは話を続ける。


「ひとつは、住民たちの生存確認。二つは、ペトラや獣王、女王デア・アーティオの現状確認。そして最後にアダム配下の完全撃破だ」

「成程」


ウリエルはその言葉に頷く。


「妥当だな。この状況では、住民の状態も外部からではまともに確認できない。現地に深く入り込む私たちが確認するのも当然だ。アダム配下の撃破も相手の戦力を完全に折るということでは必要なことだろう」


ウリエルは、さらに言葉をつづけた。


「その言葉に異論はない。だが、ひとついいか」

「なんだ?」

「デア・アーティオは、どうする」

「……」


当然の疑問だ。

骨折りは今ペトラやプラードと同じ括りにアーティオをいれた。

アーティオからの敵意が確認できるまで、彼女に対して剣を抜くな。

そう言っているのかとウリエルは改めて聞いたのだ。


「……デア・アーティオに関しては俺らが決めることじゃない」

「……」

「プラードとペトラに決めてもらうんだ」

「……悠長だな。被害が増すぞ」


骨折りの言葉にウリエルは苛つきを持った。

それも当然だ。

既にデア・アーティオはアンデットとして成った。

その過程の中で、命を失う住民もいたはずだ。

そしてその被害の過程はこれからも増えていく。

その中で、生存が確認できていないものに判断を仰ぐだと。

ウリエルは、骨折りの言葉の意図が理解できていなかった。


「ウリエル……っ」

「なんだ?」

「そんなに怒らないで」

「フラーグム。君の気持ちはわかるが……」

「ううん。これはきっと彼らにとって必要なことなんだ。だから部外者の私たちが口出しできることじゃないの」

「……そうか」


フラーグムの言葉を聞き、ウリエルは素直に受け入れる。


「骨折り。正直言って君の言葉の意図はわからない。だがそれは些事だ。私の役割は、天使としてアンデットを使役するものを滅ぼすこと。だから追及しない。それでいいか」

「……助かる」


なんとか収まったようだ。

骨折りは自身が変なことを言っている自覚はあった。

それでも、アーティオを撃破する前に二人を回収したいという気持ちがあったのだ。


「骨折り」

「なんだ。イグニス」

「やっぱ。お前変わったよ」

「お前にはいわれたくねぇよ」

「だよな。お互い様か」



片方は、過去を取り戻した。

片方は、姉の存在を再び胸に引き戻した。

短い期間で、様々なことがあったものだ。

お互い笑った。

初めてかもしれない。

骨折りと話していてこんな気持ちになったのは。

その間にセーリスクが入る。


「お二人とも、結構違いますよ」

「「だからお前には言われたくないんだよ」」

「酷くないですか!?」


お前には言われたくない。

お前は変わりすぎだ。

関わった時間は、数週間にも満たないだろう。

だが、戦場を共にして彼らの中には友情が芽生えていた。


「……よし、じゃあ船を降りるか」


そんな時声が聞こえた。


「……私応援しているからね。天使さん」

「!」


骨折りの耳元に、【アラギ・マコト】の声が聞こえる。


「……ああ」


数世紀の因縁。

やっとここで終わらせられる。

骨折りの体に熱がほとばしった。


船から降りた場所は、草が生い茂っていた。

しかし豊穣国にあったような植物ではない。

もっと、頑丈なツタのような植物だった。


「見覚えがあるか?」

「いや、ないな」

「そもそも古代の植物という可能性がありますね」


それぞれ、その植物を観察する。

しかし全員一致して見覚えがないという感想だった。


「まぁ、いちいち確認してもしょうがねぇか」


どうせ前に進むことしかできないのだ。

ウリエルと、骨折りがつたをきった道を開こうとする。


「!」


しかし斬る必要はなかった。

植物が自ら道を作ったのだ。


「……驚きだな」

「ああ」


植物に意思がある。

デア・アーティオはまだ意識を残しているのか。


「警戒しろ」


後ろの全員に対して、注意を促す。

現状理解できないことだらけだ。

意識を向けさせることは必要だろう。


歩いていくと大きなつぼみがあった。

明らかにそこだけ浮いている。


「……」


罠か。

そう思った。

だが行動に起こす前に、植物が花を開く。

そこから声が聞こえた。


「私が、この不思議な体になったのは十二歳の時だった」

「!?」


それはデア・アーティオの声だった。


「母は泣いていた。父は喜んでいた」


それは寂しげな声で、痛々しい独白だった。


「きっと母はこの先の私を憂いていたのだろう。だが父は私が生存できることを喜んでいた」


植物で、泣いている女性と笑顔を浮かべる男性が象られる。


「戦争は、長く続いた。何日も何日も死んでいく友人たちの顔を見た。友人との思い出を考える度に吐きそうになった。数年たつとあることに気が付いた。成長が止まったのだ」

「……」

「異常な力を得た代償か」

「私は子を孕めないからだとなったことにその時気が付いた。背も伸びない。おなかも減らない。ずっと子供のままですすむことのできない自分の体が怖かった」


アーティオは泣いていた。

彼女は小さい体のなかで、どれだけ強い絶望を持っていたのだろう。


「数十年がたつと、私を神のように扱う人々が増えた。人間を新たな存在へと変える神だとか。神聖視されることが耐えられなかった。私は逃げたんだ」


道を進んでいく。

その先には、住民たちの町があった。


「ここは……」


セーリスクが走っていく。


「セーリスク!?」


危険だ。

警戒心が足りない。


「覚えていますか!?イグニスさん!ここはライラックが住んでいた町だ!」

「……あっ」

「探しましょう!」


イグニスとセーリスクは、ライラックを探す。

しかし街を走っても、どこまで行ってもツタしか見えない。


「糞……っ!クソ!クソ!!!!」


焦りが滲む。

住民たちの姿がみえないのだ。

生存者はいないのか。


「……いや……あれを見てください!!」


フォルが何かを指さした。


「ん?」


そこには、明らかに目立つようなコブがあった。

大きさ的には、成人した男性が丸々入る大きさだろう。


「……イグニスいけるか」

「ああ」


イグニスが丁寧に、そのコブを切り取る。

強い金属音が響くが、そのツタは綺麗に切れた。


「あっ……」

「ビンゴだ」


想像通り、男性が気を失っていた。

イグニスが男性の状態を確認する。


「脈は感じる。呼吸は浅いが、生命にかかわるほどではない。多分軽めの脱水状態なのかな」


骨折りが問う。

明確に男性の状態を知りたかった。


「まとめると?」

「命に別状はない。多分保護されてたんだ」

「……成程」

「どういうことだ?」


香豚が、骨折りに聞く。

その男性の状態が理解できなかったのだ。


「この惨劇を引き起こしたのは、デア・アーティオだが。最も国民を守ろうとしたのもデア・アーティオだったんだよ」


状況は悪くない。

国民たちは、死んでいたわけではなかった。

ただ厳重に、体が保護されていたのだ。

その保護が手荒すぎて気絶していたのは事実だが、これなら死人はほぼいないだろう。


「アーティオお前、さすがだよ」


アンデット化しても猶、その意志は残っている。

彼女の国民を思う心は消えていなかったのだ。


「憂いが一つ消えたな」

「ああ、これならペトラとプラードも安全かもしれない」

「何よりだ」


そう一番の喜ぶことは、ペトラとプラードも同じような安全地帯を確保しているかもしれないということ。


「俺らは、敵をぶったおすことに集中できるということだな」

「ああ!もっと前に進むぞ」


イグニスがセーリスクに声をかける。


「よかったな。セーリスク」

「……はい、安心しました」


胸の中に空いていた何かが埋まる感触がする。

やっぱり自分はライラックのことが好きだと実感できる。

目の前に彼女は眠っていた。

自分が最後に会った二人の家で、彼女はツタにくるまれていた。

息を感じる。

鼓動も感じる。

彼女の指には、綺麗な指輪がはまっていた。


「よかった……本当によかった」


安堵感は、静かに涙を与えた。

そしてその様子をフォルトゥナはじっとみていた。

その人をみると狂おしい何かが胸の中に溢れた。


「その人が、貴方の大事な人なんですか」


ああ、これはきっと嫉妬なのだろう。

いいなぁと思った。


「うん」

「なら……守らないといけませんね」

「ああ……」


私もその糧になれるだろうか。


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