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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
六章海洋国編
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四十話「それは私の愛した花」

太陽のような火の塊は、敵に衝突する。

法王は、それを受け止めた。


「燃え尽きろ!!!!」

「私は……私はぁぁぁあ!!!!!」


業火に身が焼かれる。

熱く。

酷く熱く。

太陽に焦がれたものに罰を与えた。

その陽は、なによりもまぶしかった。

法王は、全身を焼かれていた。


「……これで……終わり……」


身が崩れていく。

業火の代償。

その身は、既に崩壊しかけていた。

半身はほぼ消滅する、視界も半分みえなくなっていた。

命の燈火が、あと少しで消えることを自身で理解していた。

ただミカエルはそれでも足を止めなかった。


「いや……まだ…………!」


油断は持たない。

全てが火に包まれていても。

原型が残っているのであれば最後までケリをつける。


「私が!!!終わらせる!!!!」


それが私の役割だから。

そう思い、前に進む。


「セーリスク!!!合わせろ!!!」

「はい!!!」


ミカエルの最後の攻撃を、骨折りは理解した。

出力の落ちた今なら、ミカエルの邪魔をすることなく援護できる。

セーリスクと共に、前に進んだ。


法王の体は、焔に包まれていた。

しかしアンデットの体だ。

ここからの再生もあり得る。

アダムからの干渉を受けてアンデットに成ったのであれば、猶更警戒が必要だ。


「【グラキエース】!!!」

「【ぺルド・フランマ】!!」

「神剣【フランベルグ】!」


その炎の塊に、三者が今出せる最大の魔法を撃ちだす。

再生の猶予は与えない。

いまここで終わらせる。

三人に油断はなかった。


「……!!」


だが、魔法ははじけ飛んだ。

骨折りの片腕が、宙に舞っていく。


「ちっ……」


やはりまだあいつは生きている。

透明な蝗を周囲に一気に放出したのだ。

だが、攻撃はこない。

防御だけに集中したのだろう。


「骨折りさん!」

「俺は治る!!壁をつくれ!ミカエルと一緒に退避!」


セーリスクは、氷壁を即座に生成する。

ミカエルが、その場所に退避する。


「……はっ……はぁぁ」

「……っ!」


熱すぎる。

とても人体が耐えきれる温度ではない。

ミカエルの体は、異常な熱源となっていた。

呼吸すらままなっていない。

到底戦える状態ではない。

この人物はどうやって生命を維持しているのか。

セーリスクにはそれがわからなかった。

ミカエルは、セーリスクにお願いをする。


「私を冷やしてください……」

「え?」

「これ以上温度を上げれば、私は燃焼しきってしまう。一度冷やしてほしい……」

「……」


治るのか。

これが。

一度冷やした程度では、改善できるとは思えない。

だが、状況は悪化する。

氷の壁を、蝗たちが捕食し始めたのだ。


「早く!!!!」

「……っ!」


その声に、セーリスクは応じる。


「【オムニス・ゲロ】」


ミカエルの身体を冷やしたのだ。

冷気と、業火が反発しあう。

蒸気が、ミカエルの体から漏れていく。

これで正しいのかセーリスクはわからなかった。

だが、ミカエルの指示に従い彼女の体を冷やし続けた。


「……はっ…はっ……もう一度!」


ミカエルの体から、激しい業火が燃え盛る。

勢いを失い炭のようになった体は、再び炎を燃やしていた。

蝗たちは、高熱を伴った剣戟により切り裂かれる。


「セーリスク!そのままミカエルの援護を!前線は俺が張る!!」


法王は、異形の姿へと変化していた。

その腕は、蝗のように細長く。

顔の半分は蝗のようになっていた。

だが、脚は液状のよう崩れている。

強烈な火の影響で変化が歪になったのだ。


「わ、わわわわ、わたしが……!!」

「うるせぇよ」


骨折りは法王の腹に剣をたたきつける。

法王は宙を舞う。

背中に羽根を広げた。


「あああああああ」


高速で、骨折りに突進する。


「こいよ…!!!!」


骨折りの体が吹き飛ばされた。

遥か後方、神造兵器の船首に激突する。


「……ぐっ……!!」


骨折りは全身の骨が折れたことを認識する。

身体が再生していく。

法王は、まだ骨折りを狙っている。

歪に変化した彼の腕は、骨折りの首を刎ねようと振り下ろす。


「糞がっ……!!」


その時、後ろから不思議な感覚を感じた。


「……なっ」


それは物語のような一瞬。

天使が大きな羽根を広げ。

自らの意志で、前に進む。

手を組み、自らの敬う神に祈る。

第五の天使は、笛を吹く。

祈りを込め、全てが救われるように願った。

あまねくすべてに届くように。

その音色は広がっていく。

空は晴れていた。


「私は祝福する。私は祈る。私は願う。それは、私の愛した花」


光が差す。

雷は止み、雹は終わっていた。

蝗の王に、彼女は相対する。


「友に捧げるただひとつの花」


私は、貴方を忘れない。

こんな私の手を引っ張って。

私と共に歩いてくれた貴方のことを。

せめていまだけは、希望を捨てないように。

思い出を胸にしまおう。


「【ベネディクト・リリウム】」


花が咲き誇る。

純白の花が、海に広がっていく。

鐘の音が、空に響いていく。

第五の天使がラッパを吹く。

笛はどこまでも音を広げていく。

フラーグムの背中の羽根は、彼女の体を大きく包むように広がっていた。


「フラーグム……?」


ミカエルが、彼女の姿を見る。

彼女は、魔法を覚えていなかった。

いや使用できなかった。

だからこそ国宝級に戦闘能力を依存することとなっていた。

でも今芽吹いたのだ。

それは、彼女だけの特異な魔法だった。


「……!!!」


法王の腕と腹部が破裂する。

いや衝撃波により破壊された。

衝撃波は、さらに法王の肉体を破壊していく。

それは【破壊】の魔法。

終末笛の能力だった。


「終末笛の魔法……」


だが効果はそれだけでは終わらなかった。


「傷が……」


ミカエルとセーリスクが衝撃波に触れたとき。

ミカエルとセーリスクの傷が癒えていく。

出血は収まり、多くあった傷は閉じていく。


「敵と味方を判別しているのか」


敵には衝撃波による攻撃を。

味方には回復の魔法を。

フラーグムの魔法は、二つの効果を持っていた。


法王の身体は、さらに破壊された。

法王が絶叫する。


「あああああああ」


更に法王の体に雷が降りそそいだ。


「私もいるからねーー」

「ラミエル!」


衝撃波と雷撃の二重の攻撃。

法王の身体はさらに損傷を負った。


「ミカエル!」


後ろから声がした。

イグニスだった。

彼女は船からミカエルを呼ぶ。

ああ、いつも君は変わらない。

ずっと泣き虫な女の子のまま。

私が傍にいないとすぐ泣いてしまうんだから。

いつだって君は私の妹だった。

意地を張るのももうやめよう。


「……ふっ」


死にたがりもいい加減諦めよう。

自分の役割はこれからも続いていくのだ。

彼女の姉として、この先も生きていくのだから。


「貴方は許してくれますか」


心の中に、一人の女性が思い浮かぶ。

彼女は不思議と笑っている気がした。

これで最後にしよう。


「引導を渡す。法王よ」


剣に、業火を纏わせる。


「私はこの先の道を切り開く」


氷の上を走る。

既にボロボロになった羽は、焔に包まれる。

前に進んだ。


「私は、法王国天使第一位【ミカエル】。貴方の命をいま終わらせます」


だが法王は抵抗しなかった。

法王の胸に、剣が刺さった。

深く深く心臓を穿つ。

血は溢れなかった。

ただ単調に、その剣は肉を断っていく。


「……」

「……え」


法王はただ茫然と、胸に刺さった剣を見つめる。


「貴方は……これを望んで」


ミカエルは理解した。

彼の望んだことを。

彼は自ら踏み台になろうとしたのだ。

新たな亜人たちの時代の。


「そうか。終わりか」

「……」


彼は正気を取り戻していた。

彼はさらに口を開く。


「素晴らしい。この先を見れないことが悔しいが、敗者は去るさ」


肉体は崩れ去っていく。

アンデットの力は失われていた。

周囲に滞空していた蝗たちは消えていく。


「蝗が……っ」

「これで完全にやったな」


骨折りが、ミカエルに近づいていく。

セーリスクも息をついて、その場に座り込んだ。


「きっと君たちなら乗り越えられる。アダムを倒せるさ」

「……お前にいわれなくてもやるさ」

「ふ……そうだな」


肉体は灰になっていた。

風が運び、それは海の彼方に飛んでいく。

その行き先を知るものは誰もいなかった。


「終わったぁぁ!」


ラミエルが歓喜の声をあげる。

彼女の周囲には、空気がパチパチと音を鳴らしていた。


「お前が真っ先に喜ぶなよ」


セーリスクは、しかめっ面で彼女をみる。

ラミエルはその言葉を一切気にしていなかった。


「いいジャン別に。終わったのは、いいことだしさー。小さいこと気にしてるともてないよ?」

「お前には言われたくない。イグニスさんにまともに相手されていないくせに」

「え?なんかいった?もっぺんいってみなよ?焼くから?」

「痛いからやめろ」


ミカエルがその場に倒れこむ。

骨折りが真っ先に近づいた。


「長く持ったほうだ。お前ら喧嘩やめろ」

「は、はい」


骨折りはミカエルの様子を観察する。

その体は生きているのが不思議なぐらいだった。

だが、明らかに回復した瞬間がある。

そのおかげで、今も命を保てているのだ。

骨折りはフラーグムを呼ぶ。


「おい、フラーグム。こっちこい」

「うん!」


フラーグムはミカエルをみる。

そしてその様子に驚いた。


「酷いっ……なにこれ」

「これでもマシだ。……もう一度さっきの魔法をかけられるか?俺が神造兵器に運ぶ」

「うん」


骨折りはミカエルを抱きかかえる。

氷の上ではまともな処置もできない。


「撤収だ。海洋国に帰るぞ」

「了解です」

「はーい。りょうかーい」


神造兵器に全員が乗る。

途中でウリエルを回収しなくては。


「海洋国も、蝗がいなくなったかな」

「そうだろうさ」」


そんなとき、セーリスクの胸元で何かが鳴る。


「ん?」

「なんだよ?なんか持ってたっけ?お前」

「いやペトラが……」


それはペトラに渡されていた魔道具だった。

よくわからないが、光っている部品を押す。


「セーリスク……」

「ペトラ!?」

「お願い……助けて」


豊穣国に危機が訪れていた。


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