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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
六章海洋国編
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二十一話「法王国第三位①」


「世界が循環している……?」


セーリスクはその言葉に疑問を持った。

この世界の名前などはどうでもいい。

只の定義だ。

それよりも気になることがあった。

骨折りに視線を向ける。

しかし骨折りは首を横に振る。


「……これは俺も知らない。恐らくこいつだけが知っていることだ」

「……」


魔道具に映った彼の言葉は、まだ続いていた。


「この世界には、おとぎ話のような戦いが過去にはあった。勇ましい者達と魔の王の戦い。外の神と賢者の戦い。この世界は、一定の周期で争いが起こっていた。それぞれの正義を持ち、この世界に変化を与え続けた。人間の滅びもその一つだろう。今回は、それがアダムだった」

「……!」


ここでもでるか。

アダムに関する話が聞けるかもしれない。


「アダムは私たちが生み出した。この世界の魔力に適応し、亜人や獣人を超える存在として。人間の新たな可能性を、私たちは彼に願ったのだ。だが私たちは、気が付いていなかった。この世界における【意志】の重要性を」

「意志……ね」


骨折りがぼそりと言葉をつぶやく。

【意志】か。

【世界の意思】とはかかわりがあるのだろうか。


「この世界では、意識が現実に表面化する。魔法もその一種だろう。獣人の肉体の変化も、同様だ。始まりとなった者が、強き意志によってそれを為した。だが【アンデット】の魔法。あれだけはいけなかった。生と死。それはこの世界でも覆ることはない。だがそれを歪めてしまうことの恐ろしさを私たちはもっと警戒するべきだったのだ」


彼はアンデットの魔法について語っていた。

先ほど、それは人間に対する憎悪の原因と遺書にかいてあった。

彼がアンデットの魔法を生み出した人物なのだろうか。


「私たちは、愚かにもアダムにアンデットの魔法を組み込んだ。彼は恐ろしい速度でそれを理解し操った。その時点で彼を殺すべきだった」


声が一層低くなる。

男性は、深い後悔を持っていた。


「アンデットの障壁や再生能力は、通常の攻撃や魔法では破ることができない。可能なのは、細胞……いや肉体の再生を防ぐことのみ。つまり武器による殺害は彼には無意味だ」

「だろうな」

「だからこそ、【天使】と呼ばれる存在にはアンデットの破壊方法を教えた。知識を重んじる集団だ。彼らなら継いでくれることだろう。加えてアダムの肉体の損壊方法は二つ。熱と冷気だ。どんな生物でも気温には勝てない。死ななくても休眠状態には入る。肉体の再生速度を上回る熱か。肉体の再生を停止する冷気。この二つがあれば、アダムを殺せる。私はそう思う」


骨折りはつよく拳を握っていた。

当然だ。

熱か冷気。

炎の魔法を持つ彼なら可能性は高いだろう。

それに。


「僕の魔法でも?」

「ああ」


冷気の魔法。

自分しかいない。


「アダムは決して死ぬことはない。きっとこの言葉が聞かれているその瞬間でも彼は生きているだろう。だからこそ私たちは願う。アダムが殺されることを」


その男の眼は強かった。

明瞭な意思を持って、こちらを見ているような気がした。

誰かが絶対にこれを見る。

彼にはそういった確信があったのだろう。

彼の言葉はまだ続いた。


「……歴史の分岐点。時々奇妙な者が現れる。それはこの世界と接触したもの。世界の意思に触れた者」

「……」


彼も、やはり【世界の意思】を語っていた。

やはりこの言葉は重要な意味をもつようだ。


「彼らはみな一様に、世界の変化を願っている。それは破滅によってか。誰かの死によってなのか。それは別々だ。だがしかし、共通するのは絶望を味わった者だということ。当然だ。この世界を絶望したからこそ変化を願っているのだろうから。しかし私には疑問がある。アダムの本性を知ったいまこう思う。彼は決して……絶望を感じるような性格ではない。絶望を快感と思う人格だ。……アダム、君はどうやって世界の意思に触れた。君の中には……何が住んでいる?」


そこで絵は停止した。

その瞬間、魔道具は破裂した。


「わっ!」

「ちっ……一回きりか。情報を極力漏らしたくなかったのか」


残骸を残して、その魔道具は壊れた。

これでは、もう使用することはできないだろう。


「……」

「骨折りさん?」

「……結局、アダムを生み出した本人でも、アダムの底を理解することができなかった。俺は何に憎しみを持っているんだろうな」

「……教えてください。貴方の正体はなんですか」


彼と話した時間は、数少ない。

しかしセーリスクは骨折りのことを信頼していた。

だが、彼は多くの秘密を所持している。

それを聞かなくてはいけない。

それを聞くタイミングだと思った。


「そうだな。お前にだけは絶対話さなくてはいけない」


骨折りは、覚悟を決めたように口を開いた。


「……俺は、数百年前。人間の滅びのとき、人間の味方となることでアダムと戦闘をした」

「……貴方もアーティオ様と同じように数百年を生きたのですね」

「ああ、今更嘘はつかない。無様に、必死に生き延びたせいで。記憶を失っていた大馬鹿野郎。それが俺だ」


自らを馬鹿にするかのように、彼は笑う。

人間の滅びの時代。

彼は、その時から生きていたのだ。

でもどうやって。

その答えは一つしかなかった。


「……貴方もアンデットの力を?」

「ああ、そうだ。セーリスク。俺は世界の意思に触れた。強く強く願ってしまった。この世界が憎いと。この世界は恨ましいと。どんな手段を使ってでもアダムをこの手で殺すと。世界の意思はそれに反応してしまったんだ」

「……」


彼は強く拳を握っていた。


「そして俺は、記憶を失う代わり完全にこのアンデットの体を手に入れた。記憶を取り戻したのはごく最近だ」


骨折り。

彼もまた世界の意思に触れた人物であった。

セーリスクはその事実に声がだせなかった。


「……貴方の望みはなんですか」

「アダムを倒すこと。ただそれだけだ」


骨折りは、セーリスクの体を掴む。


「頼む。セーリスク。お前の力を貸してくれ」


強く彼は懇願してくれた。

すてないでくれと。

俺の為に死んでくれと。

彼はそう言っていた。

だがセーリスクは、それに対し骨折りの腕を片手で強く握る。


「貴方に言われなくても、僕はこの戦いからは逃げられません」


マールとイグニス。

アーティオの願い。

それぞれの国で得た戦いの記憶。

それらが、セーリスクに告げていた。

お前は、もう逃げられないと。


運命が進むごとに、自分のしがらみが増えていくことを感じる。

そしてなにより、この世界で起きていることをもう見逃したくない。

そう自分が、願っていた。


「骨折りさん。僕は死んでも貴方に力を貸します。絶対にアダムを殺しましょう。この世界の悲しみはそれで終わらせる。貴方の苦しみはそれで消えますか」

「……ああ。有難う」


彼の顔には安堵があった。

信頼できる友を、骨折りは得たのだ。

そう骨折りが言った瞬間。


船が揺れた。

足元が揺れる。

思わず倒れそうになる。

アラギは骨折りに捕まっていた。


「なんだ……?」


骨折りが周囲を確認する。

部屋からでた。


「攻撃ですか!」

「いや違う……動いているんだ!」

「え!」


思い出した。

そもそも神造兵器が、海洋国に向かっていたから自分たちは船でここまできたんだ。


「そうだ!この船は、海洋国に真っすぐ向かっているんです!」


骨折りが、何かに気が付いた様子をみせる。

彼はその答えを見つけた。


「なんでこの船が浮き上がったのかわかったぞ……直接ぶつける気なんだ」

「あ……」

「こんなもん、ぶつかって爆発でもしたらどこまで被害があるかわからない。止めるべきだ!」

「はい!!」

「こっちだ!ついてこい」


骨折りはアラギを抱え、一直線に走り出す。

ちかちかと、発光する光が目にちらつく。

走るたびに、金属的な音が耳に響く。


「どこに向かっているんですか」

「俺の覚えている形ならこの先に、操縦するための場所があるはずだ!」

「わかりました」


骨折りと同じ道をたどる。

その先には、大きな空間があった。

ガラス張りのような部屋で、周囲には外の風景が全面映っていた。

ひとつぽつんと席がある。

そこに彼女は座っていた。


「……ラミエル……」


金髪の髪が揺れる。

纏まった黒髪は、目立って見えた。

彼女は笑う。

しかし目は笑っていない。

彼女の怒りは満タンだ。


「あははぁ。やっぱりきた。神造兵器の中に入ったってことはわかったんだけどね。こうやって嫌がらせすれば君はすぐこっちにくるでしょう?」


ラミエルは、セーリスクを指さしていう。

彼女の体には、雷が帯電していた。

魔法を放つ直前か。

戦闘の準備は終わっているということか。


「ラミエルか。すぐこの船を止めろ」


ラミエルは、骨折りのことをじっと見る。

そして、にらみつける。


「君もいたんだ。……でもお前の指図なんて聞く義理ある?引っ込んでたら?」

「無茶すんな。お前の体が限界なのは、一目でわかる。馬鹿みてぇにぶっぱなしたな?」

「……」

「引け。大人しく。そこまで馬鹿じゃねぇだろ?」


骨折りは彼女を視認して気が付いていた。

以前戦った時より、体感できる魔力が少ない。

抑えているでは、説明ができない。

恐らくだが、セーリスクの体に殆ど放電しきったのだろう。

だが、それは失敗した。

セーリスクも仕留めることができず、魔力も使い果たした。

この戦い。

既に彼女はできることがすくない。


「だから?私は、お前らが嫌い。だから邪魔する」

「そうかよ」


骨折りは、自身の剣を構える。

セーリスクも同様に、氷の剣を生成する。

しかし骨折りは、セーリスクの前に腕をだす。

前にでるなということか。

セーリスクはうなづく。

そして、アラギを守る形で後ろに下がる。


「足手纏い抱えて。私に勝てるとでも?」

「お前じゃ、それで十分だ」

「ほざいてろ!!」


ラミエルが全身に雷を纏う。

羽根が電流により燦然と輝きを持つ。

風をきるような音が周囲に広がる。

そして次の瞬間。


「……っ!!」

「あははぁ!」


ラミエルは骨折りの剣に蹴りをいれていた。

剣を介して、骨折りの体に電流が流れる。


「これでも喰らってろ!!」


たった一撃。

でもいまだせる最大の電力。

骨折りの再生でも数秒以上は絶対にかかる。

動きは停止するはずだ。


「……うるせぇよ」

「え」


確かに電流は流れた。

だが以前それは無意味だということを体で思い知ったはずなのに。

ラミエルは同様の行動をしていた。

骨折りの体には電流が流れる。

全身が熱を帯び、筋線維が破壊され。

神経が、壊れていくなか。

骨折りの脳は、冷静に次の攻撃を繰り出そうとしていた。

彼の肉体の再生は、電流が流れた一秒後。

もう終わっていた。


骨折りは苛つきで歯ぎしりする。

俺の邪魔をするな。

そういわんばかりに、怒りを魔力に変換する。


「再生が……」

「炎よ。すべてを晒し。すべてを壊せ」


骨折りは、魔法を詠唱する。

それは、破壊の炎。

爆発の魔法。

詠唱が進む。

骨折りの魔力が上がっていく。


「あ」


ラミエルは死を目前にした。

この距離では耐えきれない。


「ぺルド……!!!」


しかしそれは遮られた。

鋭い風の槍によって。


「【ラファーガ】」

「!!」


骨折りの腕がはじけ飛ぶ。

風の槍は、彼の腕を跡形もなく飛ばしていた。


「……!お前は」


骨折りは眼を見開く。

その人物の格好をみたからだ。

セーリスクは思わず涙を零しそうになる。

その人物との再会が悲しかったからだ。


「……貴方は」

「その子をいじめないで」


白い仮面をつけていた。

でもわかる。

あの人には、一目で気が付く。


「イグニスさん……!」


イグニス・アービル。

彼女は以前の服装を捨て、法王国天使としての白い衣装をまとっていた。

そして彼女は言葉を発する。


「私は法王国天使第三位。【神の癒し】ラファエル」

「……!」

「貴方は誰?」


その言葉に絶望した。

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