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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
六章海洋国編
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十八話「万雷よ」

雷が床に落ちる。

攻撃は打ち消された。

衝撃波が、船員と法王国の兵士たちを襲う。


そらには、白い翼が舞っていた。

しかしそれは稲妻を纏い。

万雷を降らしていた。


「雷!?」


雷が落ちた場所は大きな穴が開いている。

直撃したら、即死だろう。


「あいつか……っ!」

「総員警戒!!」


宙には、彼女が浮いていた。

法王国第七位【神の雷霆】。

ラミエル。


「第七位だ!!!俺から離れろ!!」


彼女の金色の短い髪が揺れる。

アーガイルは、自身の金属に放電が集中することを恐れ周囲に呼び掛ける。


「もーだめだよ。ウリエル」


彼女は軽くウリエルに笑みを浮かべる。

ウリエルは、ラミエルがここにいることに驚いていた。

彼は彼女に問う。


「ラミエル……っ!君がなぜここに?」

「君が倒れたら、私の仕事が増えるんだから。先輩との二人っきりの時間を邪魔しないでくれる?」


セーリスクは、イグニスの姿を探す。

しかし彼女の姿はなかった。

ここに来たのはラミエルだけか。

安堵と同時に落胆を感じた。

心のどこかで、イグニスと会えるのではないかと考えた自分がいた。


「そうだな……すまない。助かった」


ウリエルは、自分を助けてくれた彼女に感謝を述べる。

だが、ラミエルはそれを素直に受け取らなかった。


「ふーん」


ラミエルは、ウリエルの油断の原因を見抜いていた。

そしてそれを指摘する。


「……君らしくないなぁ。いつもの調子はどうしたの?」

「!」


フラーグムに、強い感情を抱いている。

そんなことをラミエルはわかりきっていた。

これを指摘するのは、彼を信頼していたからだ。


「そうだな……」


ウリエルはそれに対して否定の言葉を発することはできなかった。


「図星?」

「……君に指摘されたのが、ショックだっただけだ」


彼女はウリエルの心を見透かしていた。

得たいと思っていても、得られない心をラミエルは知っていた。

だからこそウリエルに対して親近感を覚えていた。


「まぁ、私は先輩に手を出さなければなんでもいいけど」


もちろん、イグニスに異性としての関心がないのもある。


「あの人に……手を出すつもりはない」


その瞬間、殺意が明確にこちらに向けられたのを感じる。


「でもお前はだめだよね??」

「……!」


だめだ。

早すぎる。


「セっちゃん!」

「セーリスク!!」

「あははは!!!」


雷がほとばしる。

船中に雷が巡った。

雷がはじけ、氷と衝突する。

彼女は危険だ。


剣を振る。

しかし全て回避される。


「遅い。遅いよ」

「総員回避!!」

「下がれ!!ラミエルが魔法を使用している!」


フエルサが、部下たちに雷を躱すように指示する。

ウリエルも同様に、自身の部下に撤退の命令を下す。


「盾に隠れろ!!」


アーガイルが、さらに指示をする。

鉄の魔法を使用し、即席で盾をつくる。

雷は全て鉄に弾かれた。

しかしラミエルは、それらの様子を一切意に介していない。

彼女の目標は、セーリスクだけであった。

宙に羽ばたき、彼女はセーリスクを見下ろす。


「お前は。君だけは苛つくんだよねぇ……」


怒りの感情がこちらにも感じ取れる。

自分は、彼女の怒りを買っていたようだ。

どうせイグニスの関係だろう。


「……ちっ。イグニスさんは、お前の近くにいるじゃないか」

「先輩にとって大事な人は私でいいの。わかる?場所とか関係ないの」


彼女と初めてあったのは、獣王国で。

あの時は、その行動を予期することすらできなかった。

成長した今、それは変わったのか。


「……」


変わっていない。

攻撃のタイミングは前より思考できる。

しかしそれは意味がない。

雷の速度で接近するその魔法は、セーリスクの対応できるものではなかった。


「【雷霆】!!」


ラミエルが、手のひらに雷を放出する。

彼女の手は、雷のように発光する。


「ぐっ!」


氷の鎧に、雷が直撃する。

氷が砕け散る。

光に反射して、氷が輝いていた。

ダメージはない。

しかしそんなことに思考を回す余裕など介在しない。


弾かれたせいで、海に落ちそうだ。


「セーリスク!!」


アーガイルが、鉄を操り自分を拾おうとする。


「邪魔させてもらう」

「くっ」


伸ばされた鉄は、ウリエルによって両断された。

彼の持つ炎の剣では、鉄を斬ることなど容易であった。


「アーガイルさん!!」

「……!」

「僕は大丈夫です!!」

「……ああ!!」


【氷の王】はまだ途切れていない。

魔力は枯渇していなかった。


「全て……凍れ!!!」


全身から冷気を大量に放出する。

海に体が接触した。

そして数秒後。

半径数十メートル。

その海は凍りついた。

船が、氷に阻まれ停止する。


「へぇ?」


ラミエルは苛つきと関心の混ざり合ったようなそんな顔をする。


「ウリエル!私はあいつを追撃する」

「把握した!行け!!」

「言われなくても!!」


彼女は、魔法を詠唱しこちらに飛び降りてくる。


「【トゥエルノ】!!」


ラミエルの周囲に雷の球体が浮上する。

球体は、セーリスクに向かい急接近する。


「フラガ!!!」


片手に氷の剣を握り、フラガを呼び寄せる。

ずっとずっと考えていた。

雷の魔法を打ち消す方法を。


船の周囲が大きく揺れる。

気候が変わる。

風が強く吹く。

まさに万雷。

雷雨が降り注ぐ。

そこに立ち向かうのは、剣。

氷の剣であった。

セーリスクは魔法の詠唱を開始する。

彼の周囲の空気は再び凍り付く。


「氷の剣よ!!【グラキエース・ラミーナ】!!」


空中の水分を凍結させ、彼は刃へと変換する。

しかし目で追うことのできない速度で動く彼女には無意味だった。

高速で彼女は移動する。

羽根に雷を纏い。

火花を散らし、空中で音を立てながら響かせる。

それは天の使いとはいえない異形の者であった。


「応じろ!!【フラガ】!」


高速で動く彼女を、フラガは捕捉する。

その瞬間、彼女の方向から外れたはずの氷の剣は彼女へと追尾する。


「その邪魔くさい剣も壊してやるよ!!」


彼女はこちらへ向かう。

セーリスクは彼女への攻撃を諦め防御に専念する。

氷の剣を彼女の手にぶつけた。


「!?」


彼女の手のひらが強く弾かれる。

彼女は、空中を飛行し時間を稼ぐ。

氷の剣は、彼女を追い貫こうとする。

しかし彼女は一瞥もせずそれらのすべてを撃ち落とした。


「……」


唐突に彼女は無言になった。

今目の前でおきた事象を理解できていない様子であった。

思考に頭を回しているのだろう。


先ほどの攻撃を防いだとき、自分はなにをした。

氷の鎧はなにをしてくれた。

衝撃を防いだだけではない。

雷が体に走っていなかった。


「……驚いた。私の雷を流しているんだ。それ」


セーリスクの氷の剣は、雷が体に通過することを防いでいた。

そしてセーリスク自身もそう言われて気が付く。

この剣が、金属ではないからかと。


「……偶然だ」

「そうだね。ただの幸運だ。人生最後のね?」

「人生最後にするかは、これからじゃないとわからないだろう?」

「そう?君の頭は私の雷でとっくにおかしくなってるみたいだけど」

「壊れてるのはお前だろ。ラミエル」

「気安くその名を呼ぶな」


一瞬、彼女が視界から消える。

次の瞬間、彼女の短剣は自身の首元に刺さる直前だった。

首と、短剣の間に小さな電流が通る。

しかしセーリスク体を下げ回避する。

そのまま、自身の氷の刃に魔力を込める。

前腕に力を込め、こう名を発する。


「【骨折り】」


ラミエルの胴体にセーリスクの剣が直撃する。

胴体が冷気により凍り付いた。

冷気による体温の低下。

剣の直撃。


「がっ……は」

「見えない攻撃なんて慣れている」


お前は、ネイキッドより確かに早い。

比較できないぐらい早いよ。

だがお前にあいつほどの技術はない。

見えない攻撃をあいつほど使いこなしていない。

それなら自分でも感じ取れる。

お前はあいつより弱いよ。


「お前に、イグニスさんを渡すか。あの人はどこだ。場所を言え」

「……っ!!!!!!」


こいつを倒す。

今の自分にならそれができるはず。

いや、するしかないんだ。

こいつを倒し、イグニスさんの元へ。


「……調子にのるなよ……雑魚が……っ!!」


彼女は歯をむき出しにして感情を一切隠そうともしなかった。

明確な殺意。

涙をこぼし、不安定な感情のまま彼女はこちらを睨みつける。

どうやらこちらを敵として認識してくれたようだ。


「お前なんか!お前なんか!!!ただの石ころだろ!!私の邪魔をするなよ!お前なんか先輩に見てもらえない!話もできない!!仲良くなんてさせないんだから!!ふざけるな!ふざけるな!消えちまえ!!」


彼女の魔力が高まっていく。

躊躇なんてないだろう。

彼女はここら辺一帯を吹き飛ばす魔法を放つはずだ。

それも感情に任せたただの暴発に近しいものを。


「……っ」


今更だが、震えがくる。

法王国天使という絶対的な格上に怯えているんだ。

だがそんな場面など何度もあった。

何度も経験しただろう。

コ・ゾラの時も。

ネイキッドのときも。

サリエルとの戦いも。

ウリエルのときも。

自分は生きてきた。


「今さらだろ」


大丈夫だと、自分に言い聞かせる。

僕はまたあの場所に帰る。

愛する彼女のいる場所へ。

そしてイグニスさんも連れて帰る。

マールと再会させるために。


「【神の雷霆】!!!」


ラミエルの雷が、辺り一帯に降り注ぐ。

黄色い稲妻が、自身の足元に落ちてくる。


それは遅れてやってきた。

音が鳴り響いた。

そう考えたとき。

海にあった氷床は。

全て砕け散っていた。


「……」


何も聞こえない。

体が何も動かない。

自分がどんなダメージを負って。

なにをされたのか。

脳が思考を停止していた。


海に落ちた。


「……ここでか」


いままで何度も死に近いものを感じ取っていた。

だからこそわかる。

ここも、それなんだと。


「……まだ。……まだ」


抗えるはず。

いやだ。

諦めたくない。


視覚の一部に、雷を迸らせながらこちらに近づいているラミエルが見える。

彼女は今まさに自分に止めを刺そうとしていた。


「……まだいけるだろ」


自身の体にそういいきかせる。

往生際が悪いのなんて今更じゃないか。

醜く、汚く足掻け。

愚かでもそれでいい。


「……グラ……キ」


手の標準を彼女に合わせる。

その瞬間。

彼女の動きの変化を感じ取った。

警戒したのだ。

セーリスクの攻撃と。

雑魚の攻撃と侮らず。

敵としての最後の一撃を恐れたのだ。


そしてその一瞬は、セーリスクの命を救った。


「え?」


体が吸い込まれていく。

渦が巻いている。

自分がなにかに吸いこまれていくのを感じた。

ラミエルは、大きく口を開きなにか叫んでいた。


「あああ!!!こんなかたちで終わってたまるか!」


そうだな。

僕も終わらない。

待ってろ。

そのまま気を失った。

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