十六話「骨折りとの戦闘」
「骨折り……」
そういわれた男は、顔も見えないがなぜか笑ったような気がした。
「やあ、やっぱり俺って有名人だな」
「なぜおまえがここにいるんだ」
「なぜって、それは俺があの羊男をさらった張本人だからさ。風使いのねぇさん」
イグニスは二つのことを疑問に思う。
なぜ【骨折り】が自分が風の魔法を使う剣士であることを知っているのか。
なぜシャリテをさらったのか。
しかしこの二つに関連性はあるかもしれない。
それをさぐるべきだろうか。
「まあ、疑問は尽きないだろうな。悩むことはあるだろう。だがそんなことの前にお前の実力が知りたい。剣をとれよ、風使い」
そういい、骨折りは自身の代名詞である厚く重い太い剣をイグニスに向ける。
あくまで実力を探ることが目的か。
どうやら戦いは避けられないようだ。
「おまえが戦わないと、この剣はお連れのちびちゃんにも向けられることになるぜ?」
「あの子のことまで知っているのか……」
「得体のしれない相手に名前を出さないところは感心だね。だが何もかもが足りない」
どうやらマールのことまでばれている。
骨折りは、この国に入った時点で見張っていたのだろうか。
そんなことを考えてるうちに
骨折りは、イグニスに向かって走る。
その速度は常人では目で追えないほどの速度だった。
イグニスは不意をつかれ骨折りによって、肩で吹き飛ばされる。
ふきとばされたイグニスは受け身を取る暇もなく地面に打ち付けられる。
「舐めると、死ぬぞ。今お前の目の前にいるのは紛れもなく世界最強なんだから」
確実な殺意と言葉を向けて骨折りはイグニスに敵対するのだった。
イグニスの視界は真っ白になった。
純粋の体格差はともかく自身より戦闘技能の上の者からの一撃は
頭の思考を止める以上の効果を為した。
だが辛うじて剣を手放していない。イグニスは即座に攻撃に移ろうとした。
しかしすぐ目前に骨折りは迫っていた。
「止まるなよ」
骨折りは剣を上段にあげ、地面に振り下ろす。
相手が並みの腕ならば、腹を切ることにも賭けたが、相手は骨折りだ。
イグニスは怯えることなく、横に回転をし回避した。
想像通り、骨折りはその重い剣に反し素早い一撃を地面に向けた。
回避に集中していなければ、自身の腹にその一撃は当たっていただろう。
その衝撃によって、地面は軽く抉れる。
「よけてばっかりでは、話にならないぞ」
「よけてばっかりのわけがないだろうが」
イグニスは、魔法の構築を開始する。
骨折りはその隙を見逃さずに攻撃に移る。
しかしイグニスは骨折りの攻撃速度を上回り、風の魔法を叩き込んだ。
「突風の痛みを知れ!ラファーガ・ドロール!」
突風の魔法をイグニスは行使する。
イグニスの魔法が、骨折りに直撃する。
しかしその攻撃に、骨折りは動じていなかった。
衝撃によってすこし動いただけであった。
傍目からみてもダメージは全く通っていないことが予測できる。
「悪いな、この鎧は特別製でな。そんな即席の魔法では全く効かない」
骨折りの金属の鎧は鈍く光る。
その光は絶対的な防御力を誇っているようだ。
いったいどんな素材でできているか気になるがそんな場合ではない。
イグニスは即座に次の攻撃に移る。
「何発でもぶち込むだけだ」
そういいイグニスは、自身の魔法を連続して骨折りにぶつけた。
「残念だな、根本的な火力が足りていない」
骨折りは、先ほどのように鎧だけで受け止めることはせず剣で弾き飛ばした。
風の魔法は、何発か鎧に当たるがその他は剣によってはじかれた。
「普通のやつなら、この魔法で沈むことだけはみとめてやるよ。だが魔法はただの物理現象の発展だ。俺の剣で防がれるようじゃ甘いな」