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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
六章海洋国編
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十四話「神造兵器」


「皆さん、しっかり休めましたか?」


ステラが、みんなに話かける。

ステラの家に泊まってから二、三日たった。

全員体を休ませて、神造兵器調査の英気を養っていた。

神造兵器はまだ浮上していないらしい。


「もっちろんー」

「しっかり休めたヨ!」


今日から神造兵器の調査が始まる。

天使の介入、アダム配下との戦闘は避けられないだろう。

だが、予想外の事態も起きるだろう。

入念な準備が必要だ。


「それはなによりです。アーガイル、ロホ。二人とも大丈夫ですか?」

「大丈夫だ」

「あたしも」

「よかった。貴方たち二人が一番心配だったので」

「オキザは?」

「彼女はまだ。エリカが看病していますが……」

「わかった。あとで面みせにいくよ。あいつも寂しいだろうからさ」

「はい、ぜひ行ってあげてください」


オキザは、まだ身体の負傷が治っていなかった。

彼女の負傷は重いものであった。

ここ数日で、完璧に治すのも不可能な話だろう。



そんな時、異常は起こった。

エスプランドルの職員が、ステラの元へと駆け込んできたのだ。


「お嬢様!大変です!!」

「なんですか!?」


扉を開ける。

職員の息は荒れていた。


「神造兵器が浮上し……!こちらに近づいています!」

「なんですって……!?」


それは、神造兵器の異常であった。

ただ浮上しているだけだったのに、いきなり動きだすのか。

ただ正直予想の範疇ではあった。


神造兵器事態が得体のしれないものだ。

ここまで動きがなかったこと自体がおかしいことだったのだ。


「学者の見立てでは、あと数日以上の猶予はあると……」

「ですが、徐々に近づいています。どうか指示を!」

「……わかった。有難う。神造兵器浮上時の、資料に従ってくれ」

「アーガイル……」


職員は、部屋からでていった。

アーガイルは、既に覚悟を決めた顔つきになっていた。

彼は、ステラに語り掛ける。


「お嬢。俺らは、神造兵器の調査に向かう。どうせあと数日もすれば、突っ込む予定だったんだ。それが早まっただけだ」


たしかに、元々行く予定ではあった。


だが行動に関する話し合いが済んだわけではなかった。

アダム達に対する対処法もそこまで思いついていない。

現状は、出会ったら戦う。

それぐらいなものだ。

事態の急変に、その場にいた者の心は揺れていた。


「わかりました。直ぐに船の用意をさせます」


ステラは、アーガイルの言葉を聞き準備をする。

セーリスク達三人も気を引き締める。


「セっちゃん。いこうか」

「……はいっ!」

「グムちゃんも大丈夫?」

「うん!私も大丈夫!」

「よかった。じゃあ、装備を整えよう」


セーリスクたちも、戦闘の準備を始めた。

鎧を装着し、【応剣】を確認する。

リリィとフラーグムもそれぞれの武器の確認をしていた。


この感覚はあれだ。

なにも予想できず始まったコ・ゾラの襲撃の時の感覚に近い。

不安が、胸に押し寄せてくる。

戦いは、目前に迫っているのだ。


「ロホ、お嬢のこと頼んだぞ」

「任せな。お前らも頼むぞ」

「ああ」


元から探索のときは、ロホにステラの護衛を任せることになっていた。

ロホは、エスプランドルに残るようだ。

アーガイルとロホは、拳を突き合わせる。


「ステラはあたしとお留守番だ。な?」

「有難う。ロホお願いね」

「おうよ」


オキザがいない以上、誰かがここに残ることになる。

ロホの戦力は、大きい。

きっと彼女ならステラのことを安全に守ることができるだろう。


「港には、フエルサとあたしの部下がいる。そいつらに話をつけてある。同行してくれるはずだ」

「わかった」

「無理すんじゃないよ」

「わかってる。行ってくる」


セーリスクたちは出発した。

行き先は当然港だ。

アーガイルは、ぼそりと言葉を発した。


「……まさか、動き出すとはな。面倒くせぇ……考えることがたくさんだな」


アーガイルは、精神的に少し荒れていた。

エスプランドルの襲撃の時点で、彼にとって対処しようがない事態であった。

それがここにきて、再び動きだした。

こちらの態勢は、整えることはできていない。

状況は、万全といえる状態ではなかったのだ。


「明らかにアダムが関わっている。警戒が必要だ」

「わかっている。神造兵器になにかしらの手を加えたんだろうさ」


神造兵器は、人間の遺産に関わっているという。


「【神造兵器】か……」


アーティオの言葉を思い出す。

過去の【人間】との戦い。

この世界に、生存しようとした彼らはこの世界に何を残そうとしたのか。

それが気になった。


「なにか思い当たることでもあるのか?」

「いえ……ですが」

「なんだ?」

「……ここまで意思を残す当時の人間の憎しみは、どんなものだったんだろうと」

「……」


少しの沈黙が続く。


「……んなもん。考えたって飯の種にもならねぇよ」

「アーガイルさんらしいですね」

「だが……」


彼は続けて言う。


「そこまでして生きたかった。残したかったのだと思うとやるせない。でも理解は誰もできねぇだろうさ。憎しみなんて。そんなもんなのさ」

「……」


彼の言葉が、やけに心に残った。


「アーガイルさん!」

「来たぞ、フエルサ。どうなってる」

「数十分前から唐突に浮上して、明らかにこちらに近づいてます。恐らくですが、このままいくと港に直撃するでしょう」

「……まずいな」


港に直撃するかもしれない。

その言葉を聞いて、アーガイルの顔色が変わる。


「明瞭になにかの意志があるのか、それとも操作できるものがあるのかで対処が違う。中にはいるべきだ」


リリィが、神造兵器に近づく提案をする。

アーガイルもそれを肯定した。


「ああ、そうだな。悩んでいる時間はない。早急に船に乗り込もう」


セーリスクたちは、船に近づいた。

しかしリリィは動かない。

フラーグムは彼女を心配する。


「リリィ?」


リリィはなにか考え込んでいる様子だ。

彼女は口を開いた。


「私はここで君たちを待つ」

「え?リリィさん?」


彼女の提案にセーリスクは驚きを持った。

神造兵器での戦闘に彼女は必要なはずだ。


「元々アーガイルとは、話していたことなんだ」

「……そうだな」

「もしも戦闘が終わって無事帰ることができても港が占有されていては、状況は厳しい。誰かが、ここは守らなければならない」

「……わかりました」


嫌だが、納得するしかない。

リリィの考えがあるのだ。

自分はそれに従おう。


「アーガイル、きっとここには法王国天使が複数来る。警戒を」

「……ああ」


それは、天使の襲来。

フラーグムと自分が固まっていれば、天使全員の襲撃もあり得る。

だが、せめて自分とフラーグムが分かれて居れば戦力は分散することができるだろう。

そのことを考えると、自分はここで待機してエスプランドルにも神造兵器にもどちらにも応援にいける位置にいたほうがいい。

そう思っていた。


「セっちゃんたちのこと頼むよ」

「……本当にいいのか?貴方が二人に付きそったほうが……」


アーガイルは、自分が港にいたほうがいいと考えていた。

彼らは三人で固まったほうがいい。

その方が、戦闘で協力しやすい。

だが、リリィはそれを否定する。


「セーリスクくんもグムちゃんも立派な戦力だ。自分がいなくては回らないなんてことはないよ。船の上では、君の方が慣れている。彼らの力になってあげて」

「そうか……」


自分は一人である人物を迎えなくてはいけない。

彼女は心にある確信を飼っていた。

ミカエルは、確実に自分の元へ来ると。

自分はそれを待たなくてはいけない。


そしてアーガイルもその何かに気が付いていた。

彼女は、明瞭な意思を持ってこの港に立とうとしていると。

自分はそれにこれ以上言及してはいけない。


「わかった。いくぞ」

「……リリィ」


フラーグムは、リリィのことを心配している。

胸騒ぎが起きていた。

友人として、彼女の傍にいれないことが悲しかった。


「グムちゃん。大丈夫だよ、いってらっしゃい」

「うん……!」


だが、リリィには自分が変わったということを見せたかった。

自分は、強くなった。

そうおもいたかった。


「セっちゃん!」

「はい!」

「がんばってね」

「リリィさんも!」


船に乗る。

中には、フエルサとその部下がいた。


「探索は、アーガイルさんたち数名で行います。俺らは、船の警備を」

「把握した」


船は出発していく。

当然目標は、神造兵器。

しかしそれを遮る敵がいた。

彼らは、羽根を生やし。

白い服を纏い、仮面をつけていた。


「予想通りというか、なんというか……呆れるな」


法王国天使第四位。

ウリエル。

彼は、宙に浮きこちらをみていた。


リリィの考え通りだ。

言葉がそのまま形になったのを見て、アーガイルはため息を吐いていた。


彼らは、こちらの船に勝手に乗り込む。


「武器を構えろ」

「了解っ!」


フエルサが、部下に指示をだす。

船員はそれに従って、武器を装備した。


「進んだままでいい。話をしよう」

「……」

「法王国……」


セーリスクは機兵大国での戦いを思い出した。

フラーグムも同様だ。

彼の姿を見て、心の中がかすかに揺れていた。

機兵大国での記憶を思い出す。


「ウリエル……」


アーガイルは、怒気を隠そうともしなかった。

ここまで干渉してこなかった法王国が、このタイミングで関わってきた。

対処が遅すぎる。

そう何度も思った。

海洋国のアンデットの大量発生に関して、彼らはなにもしてこなかった。

だが、この神造兵器に対しては即座にここにいる。

これでアーガイルの中の彼らに対する警戒心は最大となった。


「あからさますぎて突っ込む気も失せる」

「……何の話だ」


セーリスクは考える。

ウリエルは、アダムのことをどこまで知っているのかと。

彼らが、アダムの味方をしているのか。

それともあくまで法王国としての立場を捨てられないから、味方しているのか。

それがわからない。

法王国天使の中で、ウリエルとミカエルの考えがいまだに読めない。


フエルサが、ウリエルに対し怒りをみせる。


「法王国!ここは、海洋国の領海だ!なぜ踏み込んでくる!」


当然だ。

機兵大国の時でも思ったが、彼らはいささか強引すぎる。


「アンデットの退治のためだ」

「なぜアンデットと関わりがあると断言できる」

「神造兵器はアンデットを生み出す。それが、法王様の判断だ」

「……」


めんどくさいとアーガイルは思った。

だが、ここで無暗に否定できない。


法王国の【知識】とは、法王の判断とは彼らにとってはそれほどまでに重い。

それが、彼らの行動原理なのだから。

価値観が違うと考えないとそもそも理解できない。


「なら止めるのを協力しろよ、それぐらいの柔軟性ぐらい持ってんだろ」

「いや、法王様からの指示だ」

「?」

「神造兵器に関わるもの全てを退けろと。これ以上神造兵器に関わるなら殺す」

「……殺すとはずいぶん物騒だな」

「大人しく従え」

「……」


ここまで、法王そのものが圧をかけてくるか。

アーガイルは違和感を抱いた。

いつもとは違う。

そう思ったのだ。

ここでアーガイルは、理解した。


「……アダムのことは知ってんのか」

「知っている。だからどうした」

「はぁ……まじかよ」


法王は、アダムの仲間だと。

アダムは彼らになんらかのメリットを与えているのだとそう考えた。

ここまでくると、もう引けない。

最悪の事態だ。

天使とアダムが組んでいるなんて。


そして彼らの指示を聞いている余裕なんてない。

このまま、待っていたら神造兵器はこちらに突っ込んでくる。

どうする。

天使との戦闘。

加えて、アダム配下との戦闘。

同時にこなせる自信はない。


「加えて、私には君たちと関与する理由がもう一つある」

「?」


まずいとセーリスクは思った。

それを察するように、ウリエルはじろりとこちらを見る。

明らかな敵意だ。

フラーグムも動揺が体にでていた。

汗がにじむ。


しかしフエルサとアーガイルはそれがなにかわかっていなかった。

ウリエルにそれを問う。


「なんだ」

「法王国五位【ラグエル】。彼女をこちらに渡せ」

「ラグエル……だって?」


なぜ彼はそんなことをいうのだとアーガイルは疑問に思った。

しかし脳の中の推測は即座にとある人物を思い浮かべた。

数日前にこの国に来た人物。

フラーグムだ。


「君か……っ」

「……うん」

「フラーグムさんが、法王国五位か……」

「これ以上話をややこしくすんなよ……」


最初に、天使四位が来たことがそもそもおかしいと思った。

だが、神造兵器の優先順位はそれほど高いのかと。

それで納得していた。


だが、他にも理由があったのだ。

同じ立場の【天使】を回収するという理由が。


「ウリエル……!もうやめテ!」

「……ラグエル。君こそもう諦めろ……無駄な抵抗だ」

「そんなことない……っ」

「違う。無駄な抵抗なんだ……この国は、もう……」

「どういうこと……教えてよ。ウリエル……」

「……」


フラーグムは、懇願する。

彼が敵であるということが耐えきれなかった。

ウリエルも、複雑な気持ちを心に持っているようであった。

しかし彼が、こちらの味方になることはない。

彼は、法王国天使四位なのだ。


「念のため聞くが、フラーグムさんを渡せば素直に引くのか」

「……それとこれとは別だといいたいところだが」

「……」

「私が交渉しよう。ラグエルを連れて帰還するまではこちらからは手を絶対にださない」

「……」


以前、ウリエルのフラーグムに対する態度を考えれば当然か。

彼の中のフラーグムの重要度は高い。

任務より、彼女のことを優先する。

ここでフラーグムを渡すということもできるが。

自分としては絶対に渡したくない。

セーリスクはそう考えた。


「フラーグムさん……ダメだ。今の法王国に行けば貴方は……」


殺される。

そうでなくても、イグニスと近い状態にはなるだろう。


「……」


フラーグムは、答えを出し切れていなかった。

ここでウリエルについていくべきなのか。

それとも拒否し、彼らと戦うことを選ぶべきなのか。

板挟みになっていた。

だが、言おう。

彼を拒否しよう。

そう口に発しようとしたとき、アーガイルは言った。


「……おい」

「ん?」

「選択を与えてくれたのはありがてぇが、やり方が気に入らねぇ」

「……気に入らないか。私情を優先するのは、理解しがたいな」

「お前こそ私情が漏れ漏れだぞ。拗らせ野郎。女性をまとも口説けねぇやつにはいわれたくねぇな」

「……うるさい。お前に何がわかる」

「わかりたくもねぇーよ。ママにキスのやり方でも教わってこいよ。ばーか」


アーガイルは、それを否定した。

彼女は、オキザと共に戦ってくれた。

少なくとも彼のなかでフラーグムはオキザの恩人であった。

安易に、法王国に渡すなんて決断はできなかった。

それに、ステラも守ってくれた。

渡せるか。


「アーガイルさんっ……」

「はは、案外お前らに情が湧いてんだな」

「ありがとウ……」

「嬢ちゃん。君はもう少し胸を張りな。変な男に捕まってんじゃねぇぞ」

「う、うん」

「……」

「フエルサ、武器を取れ」

「……貴方も頭と似てますよね」

「はっ」


「総員!ぶちのめすぞ!!」

「了解!!」

「最初から力づくでいくべきだったか」


ウリエルはため息をつく。

そして剣を構えた。


「【罰剣】……」

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