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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
六章海洋国編
180/231

九話「襲撃③」


オキザは、槍をじっと見つめた。

抜く瞬間思った。

この槍、途轍もない魔力を纏っている。

国宝級だ。

オキザは、この武器が【国宝級】であることに気が付いていた。


「返してね。それ」

「嫌ですが」


まさに鬼に金棒。

身体能力で獣人を上回る彼女とこの槍の武器の相性は非常にいい。


だがその能力は未だ使っていない。

使いこなせないのか。

あえて使っていないのか。

それはわからない。

たがいまは千載一遇のチャンス。

逃すなんてありえない。


「私が使うまで!」


国宝級を振れる機会なんてあるとは思わなかった。

相手に再び使わせるわけにはいかない。

自分が使えば奪われることはないだろう。

そう思って振った。


「だメっ!」


フラーグムが、その行動を遮ろうとする。

しかしそれは間に合わなかった。


「なっ……!」


まるでその武器は自ら意思を持つように。

オキザの手を魔力で弾き離れた。

かなり強い力で弾かれた。

今でもオキザの手には痺れが残っている。


「……なんで?」


そして自らの意志を持つように、マールの手に収まった。


「だから言ったでしょ。使えないの……貴方にはね」


マールは、血によって汚れた顔でにこりと笑った。

私のものと愛おしそうにその槍を撫でる。


「どういうことですか……?」

「国宝級は、使用できるのはこの世で一人だけ。……この場合彼女にしか使えないんダ」


これは、国宝級を持ったことのあるものしかわからない。

自らしか使えないということはそういうこと。

武器が意思をもち、所有者を選ぶ。

所有者に相応しくないと思われたのなら、武器は使えない。

武器自身が拒むのだ。

つまりこの場合オキザは、ムクに認められていない。


国宝級を所持していないと気付くことのできない事実だ。


「残念だったね。次も私のターンでいいのかな?」

「くそっ……」

「【裂空】」


風を裂く剣撃が、二人を襲う。

オキザは、自らの鎧でそれを弾く。


ここは距離を詰める。

槍の殺傷力より、魔法のほうが威力は強い。


「ラファーガ」

「……っ!効くか!!」


風が頬を撫で、切り裂く。

血が、宙に零れる。

だがオキザはそれでも進んだ。


「終末笛!」

「風が止まった……っ」


大丈夫だ。

威力の強い魔法は見極めることができている。

宙を回転し、床を蹴り。

一歩一歩オキザは、マールに近づいていく。


フラーグムは、高い近接の戦闘能力を持っていない。


打ち合うことのできる自分が前に出るべきだ。

前に出れば、フラーグムにむかう攻撃は少なくなる。

オキザは、その判断により前に進む。


拳を振るい、マールを殴る。

しかしそれは避けられる。

槍がこちらに向かってくる。

オキザもそれを体を回転し避けた。

蹴りを繰り出すが、マールはいとも簡単に腕によってそれを受け止める。

フラーグムは、風弾を放ち場をかく乱する。


だがマールは動揺しない。

的確に正確に。

避けることのできるものは避け、躱すことができないと判断したものは槍で薙ぎ払った。


「……嫌になりますね」


的確にこちらの行動が潰される。


根本が違いすぎる。

身体のスペックというものが桁違いだ。

戦闘経験や動きでは、こちらが勝る。

だが身体能力、魔力の性能でごり押しされる。

スペックがそもそも違う。

そのことを何度も認識できる。


「諦めたら?」

「諦めるかっ!!」


彼女に再び殴りかかろうとする。

マールは強い突きをこちらに向けた。


「ぐぅうう!」


腕がもげそうだ。

腕に纏っている鉄に魔力を込め防御する。

槍は鎧に弾かれた。

その瞬間。

マールはオキザにさらに接近していた。


「突風よ。【ラファーガ・ドロール】」


風の槍が、オキザとフラーグムを襲う。

やっぱりそうだと、フラーグムは思った。

彼女はどういうわけかイグニスの魔法を理解している。

完璧に模倣しているのだ。


「能力開放!ニル!」


国宝級の能力を開放し、前方に広がる風の魔法を全て打ち消す。

マールは、その光景を見てため息をつく。


「何度もやられたら退屈だよ」

「早いっ!オキザ逃げて!」


再びマールは、魔力を込め風の魔法を詠唱する。


「ラファーガ!!」


今度は打ち消せない。

時間が足りない。

フラーグムは、能力の開放を諦め空砲によってマールの風の魔法を弾き返す。

しかしそれでも範囲が足りない。

オキザは、自身の鉄の鎧がはがされ肉が抉れる感覚を覚えた。

耳にもかすり、耳の一部が削れた。


「オキザ!!」

「痛いですね……っ!!」


フラーグムは魔法を防ぐことができた。

たがオキザの距離は近すぎる。

それに、彼女は魔法を持っていない。

だから、マールの攻撃をそのままくらうことになった。


「望むところ」


近接戦闘がお望みなら、付き合ってやる。

そう言わんばかりに、オキザはマールと打ち合った。


槍の大きな薙ぎ払いが、こちらに来る。

避けられる。

身を深く沈め、それを避ける。

自身の上空に、大きな風圧を来るのを感じた。


そしてその直後、マールはオキザの頭めがけて蹴りをする。

オキザは、それも再び避ける。

そしてその隙をつき、槍を蹴り飛ばした。


「あっ」


その武器さえなければ、怖くはない。

拾う隙など与えない。

だが、マールは迷うそぶりすら見えない。

彼女はその武器に頼る気など一切なかったのだ。


「それも理解のうちっ」


【錬石】によって生み出した石を再び蹴ることにより打ち出した。

今度は五つ。

蹴りだした小石を、マールは全て防ぐことはできなかった。

腕の一部が折れ、ふとももの石が刺さる感覚を覚えた。

深く神経まで達するようなそんな痛み。

マールは、それを嫌がった。


「痛いよ……っ」

「ちっ」


嫌になる。

こっちがいじめているみたいではないか。


「勝機」


この隙を逃すわけにはいかない。

殴打で。

蹴りで。

オキザはマールを追い詰めた。


硬い。

硬すぎる。

相手の耐久値の底が見えない。

オキザは攻撃しているはずなのに焦りを覚えた。

敵の防御は微塵も揺るがない。


「オキザ!だめ!離れて!」


蹴りを彼女に当てようとした瞬間。

ぱしっと。

高い音が、その場に響いた。


「え」


足が捕まれていた。


「……じゃあ。私もそれする」


視認できるか危うい速度で、前蹴りがオキザの鳩尾にくる。


大丈夫、今度も耐えられる。

そう思った瞬間。

腹部が、捻じれる痛みを覚えた。

声がでない。

悶絶しそうだ。


吐きそうになる。

内臓がミックスされている気分だ。

歯を食いしばり、相手を睨みつける。


「負けるかっ……」


でも意志で耐えきった。

彼女の体に、タックルをする。

このまま押し倒して動きを封じる。


「え」


それが仇だった。

まるで、岩石のように。


「それだけ?」


その体は不動であった。

違う。

忘れていた。

彼女の体は、獣人だ。


「そう」


背骨が真っ二つになる感覚を覚えた。

顔面に二発拳を食らった。


「!?」


鮮血が散る。

膝蹴りで、鳩尾がへこむ。

息が止まった。


「これはお返し。最低限のね」


そのまま顔面をわしづかみにされ。


「じゃあね、ばいばい」


頭部を地面にたたきつけられた。

鼻の中が、血液で満ちる感覚がした。

口の中が折れた歯と血でスムージーになった。

オキザは、脳に強い衝撃を感じた。


「あ……っ?」


平衡感覚、記憶、自分の現状。

それらすべてが、グチャグチャになり交ぜられている気分だ。

私はどうなっている。

状況を理解する力すらもうなくなっていた。

オキザはそう思う余力さえなかった。


マールは顔面を踏みつけようとする。

しかしフラーグムは、空砲を撃つことでそれを遮る。


「ちっ」


オキザは、気を失った。

最後の一撃を食らっていたら、脳天は割れていただろう。


「オキザ……っ」


一連の行動が早すぎて、介在する余地がなかった。

至近距離では、完璧な援護ができない。

彼女自身それを理解していたのだろう。

こちらの射線を遮る動きがあった。


「ふふふ……」


彼女は嗤っていた。

血にまみれたからだで、顔を恍惚としていた。

そして彼女はこちらを見る。


「ねぇ。次は貴方の番ね」

「……っ!」


大丈夫。

私は、この窮地を生き延びる。

そして彼に会うんだ。


そんなとき、後ろから足音が聞こえた。

コツンコツンと。

冷静に、焦らず。

ゆっくりと。

まるで怒りを押し殺し、現状を理解する時間を自分に与えているかのように。

整えられたスーツ。

長髪だが、整えられた髪型。

光沢感のある上質な革靴。

顔には怪我が目立ったが、厳しさも優しさも内包した顔。

そんな眼鏡の男性がこちらを睨んでいた。


「なぁ。俺の可愛い部下に手をだしているのは、どこの馬鹿だ?」


【鉄葬】アーガイル。

彼は、明確な怒りをもってマールに殺意を向けていた。


「だれ?貴方」

「……」


アーガイルは、こちらを静かに見つめる。

いや正確には、ボロボロになったオキザをみていた。


「……オキザ。よく時間を稼いだ。そこの嬢さんもありがとう」

「ねぇ?誰?誰なの怖いよ」


マールは、アーガイルのことを知らなかった。

しかしフラーグムは知っていた。


「【鉄葬】……」


鉄葬アーガイル。

海洋国において天使と同等の実力をもつといわれる人物。

本当に彼は生きていたのだ。

いままで何をしていたのだろうか。


「ようクソガキ。お前には語る言葉はないよ」

「貴方も言葉遣いがひどいね」

「……俺の嫌いなものを教えてやろうか?」

「?」


話を一方的に広げるアーガイルに、マールは疑問を持った。

一応聞いておこうか。

そう思った。


「なぁに?」


深く息を吸い、精神を落ち着かせる。

怒りが、ぐつぐつと彼の中で煮えたぎっていた。


「ひとつ、礼節を知らねぇクソ餓鬼。ふたつ。加減の知らねぇ馬鹿。三つ。身内を傷つける阿保。オメデトウ。てめぇは見事にみっつ満たしてるわけだ」

「それは嬉しいことなの?」

「ああ、嬉しいことだ。喜べよ」

「?」


アーガイルの手元に魔力が集中する。

いつだ。

いつからためていた。

それに気づけなかった。


「俺は遠慮なく……お前を倒せる」

「!?」

「不遜な鉄よ!!【アロガンス・フェッルム】!!」


鉄の塊により、マールは吹き飛ばされる。

壁にたたきつけられ、地面を転がる。


「……!」


地面に伏す。

いまのたった一撃で。

不意を突かれた。

油断したとマールは思った。


「おお、硬いな。まあ、それも予想どおりだ」


鉄の魔法により、鉄球を生成する。

複数の鉄球が、棘を生やしマールを狙っている。

マールは、アーガイルという人物に対して警戒心をむき出しにした。

尻尾や耳に生えている毛が逆立っていた。


「まだ前菜だ。たんと味わえよ」

「……」


マールは、地面を転がり竜槍ムクを拾おうとする。

しかしそれは邪魔された。


「!?」


空砲により、ムクは自らの手からより離れた。

フラーグムのほうを睨む。


「させない」

「それがお前の武器か」


正直助かった。

アーガイルはそう思った。

オキザのことを素手で殴り倒すやつに武器を持たせたくない。

あれは誰だ。

だが頼ることができるのは彼女しかいない。

フラーグムのほうをむき、こう語る。


「オキザのこと見ててくれ」

「うん!」


有難い。

幸い味方のようだ。

これで、倒すことに集中できる。


「【オーディオ・フェルム】!!」


鉄球を敵に飛ばす。

しかしその俊敏な動きによって、全て躱された。

身体を柔軟に動かし、獣のように壁を走り回る。


アーガイルは、素直に感心した。

速いと。

魔法による身体能力強化だけではこうはならない。

もし魔法だけでこの速度を維持しているとしたら、それはそれで絶対に勝てない。

だがこいつがそこまで魔法の扱いに熟知しているとは思えない。

素の身体能力が異常なのだろう。


アーガイルは、冷静に敵の体を考察する。

主な外見の特徴は、亜人。

だが、体についた尻尾や耳。

筋肉のつくり。

完璧に獣人だ。

体格は、180にみたない程度。

だが筋肉の密度は、獣人以上だろう。

これらの要素をもって、アーガイルはマールの正体を理解した。


「お前、半獣か」

「うん。そうだよ。だから?」

「……そうだな」


この際、なぜ半獣が生きているのかは問わない。

大事なのは、敵対していること。

殺すことはできない。

確実に捕縛して、情報を聞き出す。


「突風の痛みよ!【ラファーガ・ドロール】!」


マールは魔法を詠唱する。

風の槍が、こちらに来る。

だがアーガイルは、それを鼻で笑った。


「それは悪手だろ」


鉄の壁を生み出し、自らの前に出す。

穴が軽くあくが、鉄は全ての風を防いだ。


「!」

「相性ってもんがあんだろ。火だったら溶けるが、鉄が風に負けるか?」


魔法同士にも、相性はある。

確かに敵の魔法は強力だ。

だがそれは人体に対してのみ。

アーガイルの魔法は鉄の魔法。

魔力によって強化された鉄は、より頑丈に。

貫通することのできない頑丈さを生んでいた。


「確かにてめぇの魔法は強力だ。だがまともに相手をする道理はこっちにはねぇよ。」


苛つきを持っていた。

アーガイルは、マールのことを酷く敵視していた。


「オキザを一方的にボコったのは、褒めてやるよ。大したもんだ。だがそれはてめぇの戦い方とオキザの戦闘スタイルの相性が悪かっただけ」


アーガイルは、マールの弱さというものを淡々と指摘していく。


「中途半端で粗削り。……お前は弱いよ」

「壊れるまで……やる」


マールはさらに風の槍を生み出す。

暴風のように。

嵐のように。


「暴風よ、槍となれ。【ランサ・ウルカーン】」


嵐のような暴風が、鉄の壁を襲う。

だが、それでも無意味だった。

鉄の壁は、不動であった。


「無意味だ。諦めろ」


アーガイルは自身の魔法に自信を持っていた。

決して、その程度の魔法で崩れるものではないと。

だが、マールの狙いはそこではなかった。

暴風のように降る槍の中に、ひとつ軌道が違うものがあった。


「……ラファーガ!」

「どこに向かっ……」


風は、槍に向かって放たれていた。

彼女の狙いというものを正確に図ることができなかった。

槍は、風とぶつかり宙に舞う。


「こい、竜槍ムク」


マールは、跳ねた。

軽やかに飛ぶように。

そして意志を持つように、ムクはマールの手元に収まる。

彼女は、槍を構える。

そして告げる。


「【裂空・風穴】」


それは、剣の軌道ではない。

突きという一点のみ。

視認できない速度で、その槍は突きを放つ。

アーガイルは自身の命の危機を感じた。

それは経験だ。

この魔法は、自分の魔法を突き破ると。


「あ……ぶねぇ!!」


アーガイルの鉄の壁を容易に突き破った。

アーガイルの首元に、風が通る。

間一髪で避けることができた。

彼女は、まだ攻撃をやめていない。


「【裂空】二連」

「【フェルム】!」


流動化した鉄と、マールの攻撃はぶつかり合う。

高い金属音がその場に響いた。


「硬い……」

「【サーベル】!!」


マールを囲むように、鉄が巡回する。

そしてその鉄の塊から、鉄の刃は射出された。


「無駄、見えてる」

「そうかよ!!」


弾かれ、避けられる。

その眼光は鋭くこちらを見ている。

最初の一撃のせいで、相手のことを本気にしてしまったようだ。

アーガイルは思考する。

このままでは、こちらの魔力切れで攻撃はできなくなる。

ならどうするか。


「ごり押しで潰す」


最大の一撃を再び当てる。


「やってみなよ」

「それは犠牲。命を断ち。処刑するもの」


詠唱し、魔力を込める。

そしてそれには隙があった。

マールはそれを逃がすことはなかった。


「詠唱なんてさせ……」


走ろうとした。

前に向かった。

でも自分は転んでいた。


「え?」

「終末笛。能力開放」


動作の停止。

足のみに集中させ、動作と身体強化を打ち消した。

その認識の違いが、転倒につながった。


「くっ」


立ち上がろうとした。

足には、鎖がつながれていた。


「もう逃がさねぇよ」


にこりと、アーガイルは笑みを向ける。


「【サクリファイス・フンゴール】!!」


マールの上に、大きな刃が生成される。

鉄は、細かな粒子となり刃は、形どられた。

そしてアーガイルは、魔法を完成させる。


「落ちろ」


マールの体に、自身の体以上の大きさの刃が振り下ろされた。

だがしかし。


「うううぅう!!」


マールは未だ耐える。

その強化された身体で。

百キロ以上の鉄の塊を筋力で耐えた。

そしてその同時に、アーガイルの攻撃は終わっていなかった。


「【鉄葬】」

「!?」


マールの体に乗っていた鉄が変化し、マールを包む。

そして、拘束し動きを封じる。


「【アイアンメイデン】」


自分の体から、棘がでる。

事実、棘は自分の体を貫通して裏まででていた。

内臓を、金属が通り抜ける感覚がする。

マールはその場で吐血した。

そしてそのまま気を失いそうになる。


「よう。これで終わりだ」

「……はぁはぁ」

「息をするのでやっとだろ?正直おれも引いてる。お前硬すぎ」

「……」

「お前にはいろいろ聞きたいことがある。そのまま拘束して連れてくぞ」


戦いは終わった。

アーガイルは、マールに勝利した。


「お嬢さん、有難う。おかげでこっちの魔法を当てることができた」


彼は、フラーグムに感謝をする。

オキザの保護に加えて、こちらの戦闘のサポートまでしてくれた。

彼女には感謝だけで、済ませることができない。


「オキザの状態は……?」

「回復の魔法を使っタ。もう大丈夫」

「回復魔法を……?器用だな。有難い。身内には戦闘と回復ができるやつなんていなくてな」

「でも気休めだよ。早く医者に見せないと危ない」

「ああ、オキザの命を失うわけにはいかない。急ごう」


正直慌てていた。

だからなのだろうか。

彼の接近に気が付くことができなかった。


「まぁまぁ、落ち着いて。弱いものいじめはよくないよ」

「!?」

「よ!おつかれさま。マール」

「あ……だむ」

「無理しすぎだよ。無駄な努力ほんとーお疲れ様」

「……っ」

「アダムだと?てめぇが?」

「ん?」


しばらく考え込んで、アダムははっと思い出したように発言する。


「あー、【酒乱】のほうとはあってたか。【鉄葬】。君はシンプルすぎてつまらないんだよね。鉄を操るだけってさ」


彼は、会話そのものをめんどうくさがっていた。

アーガイルには興味がないのだろう。


「まあ、面白いやつがなぜかここにいるから今は見逃すよ。感謝してね」

「は?」


アダムは、フラーグムのほうをじろりとみていた。

自分がラグエルであることには気づかれているだろう。


「で?何しに来たんだ?談笑で終わるなら有難いんだが」

「まっさか。いま、その子を確保されると困るんだよね。返してもらおうか」

「素直に返すとでも?」


喧嘩を売るように、アーガイルは即答した。

しかしフラーグムは、それを拒否した。


「ダメッ!」

「な、なんでだ?」

「お願い。この子も助からない……」

「……っ!」


いまオキザの命が危ない中で、アダムと戦闘になればどうなる。

彼は最悪だ。

オキザのことをアンデットにするかもしれない。

もしもされなくても戦闘の影響で、本当に彼女が死んでしまう。

自分たちが、アダムと戦う選択しはないのだ。


「うんうん、それが聡い。僕も無駄は嫌いなんだ。いま君たちを殺す理由は僕にはない。惨めな人生を送りたくなければ諦めなよ」

「……ちっ!」

「お願い」

「わかってるよ。……わかってる」


アーガイルは諦めたようだ。

アダムとの戦闘を拒否する。


「はいはい、じゃあその子はもらうよ」


アダムはマールに触れる。

何かを確認しているようだった。


「うんうん、良好。次も頑張ってね」

「あ……だ……」

「じゃあ、ばいばいー」


アダムはその場から去った。

不愉快な感情だけが、彼らに与えられた。

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