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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
六章海洋国編
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六話「海運商会②」

二人は、こちらに背を向け館の中へと入っていく。

リリィも、フラーグムは彼女に対してなにも思っていない様子だった。

しかし彼女たち二人がメイドの違和感に気づかないはずはない。

ここは触れるべきではないだろう。


館の中も、豪華な装飾品で溢れていた。

矢鱈高級そうなツボや、置物が置いてある。

しかし自分には、もののよしあしなど微塵もわからない。

ただ高そうだなと感じた。


ここまで高そうだと好奇心より恐怖のほうが勝って一切触りたくなくなる。

壊してしまったら自分ではとても払えそうにない。


ここでもリリィとフラーグムは一切動じていなかった。

やはり彼女たちは、そういった高級なものに触れてきたのだろうか。

いや普段の彼女たちであったら、騒いでそうだ。

やはり意図的に抑えているのだろう。


よかった、安心した。

そう思った瞬間。


「セーリスク、警戒は忘れないように。フラーグムは、武器の準備を。いまここでアダムに襲われてもおかしくはない」

「わかっタ」

「……はいっ」


リリィの言葉に普段の穏やかさが消えた。

これが、本来の彼女なのだろう。

法王国第二位【ガブリエル】としての彼女。

フラーグムもいつもより引き締まったように見える。

先ほどまでの彼女たちとは違う。

法王国を支えるものとして、【強者】の個人としての彼女たちの姿。

その雰囲気は、イグニスにとても似ていた。


やはり自分はまだ彼女たちの全容というものを全く知らないのだと。

そう思った。


メイドの一人が、ドアをノックする。

自らの主に、目的の人物がきたことを伝えるためだ。


「お嬢様、豊穣国の方がお見えになりました」

「有難う。エリカ」


凛とした声が、セーリスクの耳もとに入る。

その声には力があった。

その声を聴くだけで従いたくなるような。

そんな力が。


ドアを開けると彼女がいた。

海運商会【エスプランドル】。

その長がそこにはいた。


「初めまして。豊穣国のお三人方」


彼女はにこやかに挨拶をする。

そして彼女に相対したとき理解した。

これがカリスマ性というものなのだと。

一目で人を従わせるものが、彼女にはあった。


綺麗にまとめ上げられた青色の髪。

高級であり、美しく丁寧に着用された服。

そして真っすぐと曇りない眼でこちらをみる黄色の眼。


宝石のような美しさがそこには、あった。

生まれながらの身分の違いというものをわかった。


「どうか、座ってください。私の名前は、ステラ・エスプランドル。気軽にステラと呼んでくださいね」


上品で甘美な声が耳に入る。

いい声だと感じたのはこれがはじめてかもしれない。


「お嬢様……」

「いいのよ、彼らと私たちは対等でなくてはいけない。そうでしょう?」

「はい……」


まさかあちらからそんな言葉を言われるとは思っていなかった。

リリィとフラーグムは無言だ。

この場の主導権は、自分に任せるということなのか。


「ならよかった。まずは、話をしましょう?紅茶はすきかしら?」

「嫌いではありませんが……」


話ができるほど、上等な知識なんてもっていない。

紅茶の話を振られたときは、リリィに任せてしまおう。


「なら私が今気に入ってる茶葉を出すわね。オキザ、エリカ。用意を」

「はい。お嬢様」


二人のメイドが、紅茶の用意をする。

透き通った茶色のような色をしていた。

柑橘系の香りが、花に通る。

その香りは、セーリスクの精神というものを落ち着かせた。


「やっぱり紅茶はいいものよね。話し合いは楽しくなきゃ」


一緒にお菓子のようなものが置いてある。

盛り付けや皿が、ともかくいいものだとわかる。

警戒する必要はないだろう。

ためらいなく一切れを口にいれた。

そのケーキの原料となったであろう穀物の味が、口に広がる。

甘すぎず原材料の卵や牛の乳の優しい味わいを強く感じることができた。


「美味しいナ」

「よかった。エリカは料理も上手なの。ね」

「恐縮です」


ステラの賛美の言葉に、エリカと呼ばれるメイドは頭を下げる。

ふとリリィを見た。

美しい動作で、紅茶を飲んでいた。

その光景が、まるで一つの絵画のようであった。

この場の雰囲気とリリィとステラの姿。

それらは、全てが綺麗に嚙み合っていた。

芸術のことはよくわからないが、この二人が一流の美貌をもつことは一目でわかった。


「……そうね。話をしよう。ステラ」

「ええ。勿論」


ステラも無論理解していた。

目の前の正体不明の人物。

明らかに豊穣国の雰囲気を纏っていない謎の人。

この人物だけは、自分の手で決して懐柔できるようなものではないと。


褐色肌の男性は、明らかに武人。

こういうタイプは名誉などは求めていない。

真っ当な説明をすれば、常識内の範囲でしたがってくれるはず。


「……?」

「自己紹介からでいいかしら?」

「ではまず……セーリスクです」

「フラーグムだヨー」

「有難う」


小柄で中性的な女性は、動きが読めない。

善性に偏った存在だ。

精神の在り方が、幼いのだろう。

だが二人の地雷である可能性は、ある。

簡単に触れるべき存在ではないだろう。


「リリィです。よろしくお願いね」

「ええ……素敵な名前ね。リリィ」


だが金髪のこの女性。

彼女だけがわからない。

情報をこちらに与えてくれない。

自分が今までかかわってきた人々。

商人とも、職人とも、戦士とも、傭兵とも違う存在。

決して金や損得で動くようなタイプではない。

加えて他の二人の指揮を執っているのは、恐らく彼女だ。

彼女自身も優れた魔法の使い手。

いや剣士なのか?

ステラは、そういった思考を頭のなかで加速させた。


「それじゃあ話は……」

「……」


それらすべてを加味したうえで、ステラはこう考えた。


「食べながらからにしましょうか。あれこれ考えるの、嫌なの」


まぁ、いっかと。

交渉とか立場とかどうでもいい。

海洋国には、戦力が足りない。

海運商会が、海洋国そのものに恩が売れればいいのだ。

自分の役割は、来訪者に悪意があるか否かの確認。

仕事は殆ど終わったようなものであった。

あとは彼らがどこまで仕事を果たせるか。


「ははっ。だね」


リリィも笑顔がこぼれる。

リリィのお眼鏡にかなったようだと、ステラは安心した。

心なしか、他の二人も顔が緩んでいた。

やっぱりだ。

いまこの状況において手綱を握っているのは彼女。

誰か一人と仲良くなんてできない。

三人と仲良くしなくてはいけない。

ステラはそう判断した。


「エリカ、オキザ!もっととっておきのお菓子を持ってきなさい!」

「は、はいっ!」


眼を輝かせてメイドに指示を出す。

こうなったら思い切ろう。

彼女たちとは徹底的に仲良くなろう。


もってきたお菓子をたべながら、話を進める。


「お嬢様……もう少し品というものを……」

「これから友達になりたいのに、品もありませんよ。堅苦しいのは私自ら取り払わなくては」


ステラという人物は、柔軟な思考の持ち主のようだ。

それに、会ったばかりのこちらを受け入れるだけの大きな器の持ち主であると話をしているとわかる。

自分でも思うが、この人は善人だ。

決して悪い人ではない。

リリィもそれを理解しているようだ。


「ねぇねぇ、セっちゃん」

「どうしました?」

「お嬢様。思ったより面白い性格で、意気込んできた私が恥ずかしいんだけど」

「知りませんよ」

「ええーー」


やばい、リリィも普段のペースに戻ってきた。

誰か手綱を握ってくれ。

そう思っていると、話は本題に進んでいた。


「つい先日。私の部下がアダムの配下により襲撃されました」

「……っ」


あちらからその話を振ってきたか。

有難い。


「エリーダを介して渡した書類には書いてあったはずです。海洋国擁する【双璧】。ロホ・シエンシアとアーガイルが敗北したと」

「彼らの状態は?」

「いまだ発見していません」

「……そうですか」


嘘ではないのだろう。

しかし死亡しているとなると、厄介だ。

アダムによってアンデットにされている可能性だってある。

天使並みの戦力のアンデットか。

考えたくもない。


「その時の戦い。ロホとアーガイル。加えて船員十数名の死亡はありましたが。それ以外の戦力は傷一つなく帰ることができました。……殿など務める必要はなかったのに……」


悔しそうに、ステラはつぶやく。

後ろのメイドも、なにやら複雑な顔を浮かべていた。


「彼らは、船での戦闘に慣れています。しかし万全の状態ではないのは確実。奇襲によって十数名の死亡を確認した時点で、二人によって逃走の判断がとられました」


ステラは、その時の状況を説明する。

成程、海の上で奇襲されたのか。

確かにその状態では鎧をまとっていない戦力もいたかもしれない。

痛恨のタイミングを狙われたわけだ。

ステラは、とある紙を取り出す。


「全ての者の話を繋ぎ合わせてできた絵。目を隠していた獣人。その姿です」


ステラから、絵を渡された。

上等な紙に書いてある輪郭のはっきりとした絵であった。

体格や体重は、プラード以上。

筋肉で肉体を包んだようだ獣人。

その異様な姿は、もはや獣人というより何かの怪物にでも例えたほうが早いだろう。


「鎖を振り回し、暴れたといいます。接近戦でも、中距離戦でも警戒が必要な相手でしょう」


ひとつ気になることがある。

その獣人は、体に鎖のようなものを巻いていた。

【双璧】と呼ばれるほどの実力者を二人跳ねのける実力。

獣王国でのあの情報。

セーリスクは、過去の記憶を頼りにある【国宝級】を思い出していた。


「……姿には心当たりはありません」

「そうですか……」


ステラは、その言葉を聞いて落ち込む。

彼らが、命からがら持ってきた情報が役に立たないことに落ち込んでいるのだろう。

だが、セーリスクは次の言葉を発する。


「でもこの武器には心当たりがあります」

「……本当ですか!?」


その言葉を聞いてステラは、驚きの声を上げる。

思わず立ち上がって、セーリスクの体を掴む勢いだった。

眼帯をつけたメイドが、それを抑える。


「お嬢様」

「……失礼」

「セっちゃんの言っている武器って……?」


フラーグム、リリィはその武器の存在を知らない。

なぜならそれは、獣王国と豊穣国間で共有した情報のひとつだからだ。


「……獣王国の国宝級【万里鎖リンネ】」

「国宝級……ですか」


獣王国の失われた国宝級のひとつ。

恐らく獣王とアダムとの密約で渡されたものだ。


「成程。私も詳細は知らないけど、【国宝級】である可能性はあるね」

「……【万里鎖リンネ】ですか。わかりました。その情報をこちらでも調べてみます」

「わかりました」


国宝級を持った盲目の獣人。

話を思い出すと、確か過去に飛鷹と角牛を襲った獣人だ。

獣王国の戦いでは、負傷により実力を出し切れていなかった。

恐らく飛鷹と角牛は、過去のほうが強い。

そしてその二人を圧倒した盲目の獣人。

二人が同一人物である可能性は高い。


「最低限この情報が役立って嬉しい……よかった」

「役に立たないことはないですよ。敵の姿を知ることができた。それだけでも大きな効果があります」

「そういっていただけて嬉しいです……」


彼女も、盲目の獣人の戦闘により生まれた犠牲に心を痛めていたんのだろう。

苦しんでいる様子が少し伝わった。


「状況、姿。それらは伝えることができた。次はアダム配下。その部下の姿を教共有したいのですが」


アダム。

彼女は、その存在のことを知っていた。

しかし自分だけアダムの姿を一切知らない。

見ておこう。


「アダムの絵はありますか?」

「ええ……あるけど……」

「?」


ステラは、何かをためらっていた。

少なくとも一瞬の迷いがあった。

再び同じ場所から紙を取り出す。

その紙には先ほどと同じような絵がかいてあった。


黒髪で黒目。

中肉中背。

どこにでもいるような青年だった。

しかしなにか。

何かが気持ち悪い。

紙越しに伝わってくる嫌悪感。

これが人間の呪い。

そう思うだけの何かがあった。


「これを書いた人は、一週間ほど高熱に襲われ……死にました」

「えっ?」


先に言ってくれ。

触るのも怖くなってきた。


「人間の呪いというものは、もはや伝承で終わるものではないのです。アンデットの呪い。彼はそれを使いこなしている」

「……」


やはりもうアダムという存在は、【人間】の枠に収まるものではない。

人間とアンデットの重なり。

その果てに生まれた怪物だ。


「豊穣国の人間の少女。及び過去の文献。それらを全て照らし合わせても過去彼のような人物は一人もいない。アンデットをまとめ上げる深層の怪物としての認識が正しいでしょう」

「だよね……」


海洋国も同じことを考えていたようだ。

あれは人間ではない。


「海洋国ですら彼らと戦い合う戦力を持ちません。狡知をもち、悪辣で、異常。一騎当千の部下、無限に湧き続ける戦力。そしてそれをまとめ上げる統率力。裏で暗躍する策略」


ステラは、アダムの能力を述べる。

それは、敵にしたくない要素を全て持っていた。


「……恥ずかしいことですが、私たちは彼らと戦い続けることのできる戦力を持ちません。短期決戦、早期決着。……貴方達には彼らとの戦闘をお願いしたいのです」

「……」


先ほどの穏やかな雰囲気が消えた。

しばらくの無言が続いた。


「これは強制ではありません。アダム配下及びアダムとの戦闘は、死亡または長期の後遺症が残るでしょう。生半可な覚悟を持っているほうが、邪魔になりえる」

「……彼らの戦力の認識を貴方がたはどう考えているのかな?」

「……アダム配下。それぞれ単騎でも天使と同等かそれ以上の実力を持つと考えています」

「……それは同感ですね」


シェヘラザード以外のアダム配下と戦ってきたからわかる。

彼らは全員が天使以上の実力を持つ。

コ・ゾラも、ネイキッドも、天使に劣るとは思えない。

ラミエルとサリエルに関しては、【天使】そのものだ。

厄介なことをしてくれた。


「彼らの首魁であるアダムという男。彼らをまとめ上げるその一点においても彼の討伐には天使と同等の戦力三人以上が不可欠だと私は考えていますが……」

「同意だけど、たぶんそれでも足りないよ?」

「……わかりますが、天使相当の戦力なんて中々見つからなくて……」


海洋国最大の商会ですら、見つけることができないようだ。

まぁ、それもそうだろう。

ここ最近実力者が出てこないのは、アダムがかかわっている。

アーティオはそう結論づけていた。

自分の味方にならないであろう今後成長する種を既に摘んでいるのだ。

だから見つからないと彼女は言っていた。


「私たちが、ロホとアーガイルの敗北を知ったとき真っ先に行ったのは豊穣国との連携です」


豊穣国には、エリーダ・シエンシアがいる。

連絡を取ることも容易だったのだろう。

直近にも、豊穣国はロホ・シエンシアの力を借りている。

恐らくだが、対価として魔道具か豊かな作物を送ったのだろう。


「戦力が足りなくなることを恐れてですか?」

「確かに、ロホとアーガイルは決して代替できる存在ではありません。ですが理由は他にもあります」


しかしその答えは、確信をつくものではなかったようだ。

ステラが軽く首を横に振る。

そして、眼帯を付けたメイドに指示を出す。


「……この人達には伝えても大丈夫よ。オキザ」


少しためらいつつ、彼女はステラの指示に従った。


「はい、お嬢様」

「……?」


眼帯をつけたメイドがこちらに近づいてくる。

その言葉の後、オキザは自身の服の腕の部分を捲った。

セーリスクは、その物質をみたとき少し声を漏らした。


「えっ?」


銀色の物質。

それは液体のようにうごめいていた。


「オキザはとある事情で、【鉄葬】の魔法を纏っています」

「……アーガイルの……?」

「ええ。それが理由です」


彼女の体の一面。

それらすべては、鉄のようなもので包まれていた。

だがそれは流体で、今でも動いている。

魔力の影響も相まってまるで生物のようだ。

その光景をみて、あることを思い出す。

ペトラのことだ。


「オキザ。もういいわ、有難う」

「……はい」


オキザは、後ろにさがりエリカと呼ばれたメイドの隣に並ぶ。

リリィはとある仮定を頭に生み出していた。

それは、アーガイルがいまだに生きているという仮定であった。


「魔法が解除されていない……?生きているのかな?彼は」


そしてそれは間違っていなかった。

ステラはそれを肯定する。


「ええ、推測ですが……何らかの目的でこちらに近づけない。またはたどり着くのが困難な状態にある。そう読むべきでしょう」


通常魔法というものは、魔法を生み出した本人が死亡したとき解除される。

それは、魔法を持つものの【意志】が消えるからだ。

だからこそ魔法の影響力というものは永続的ではない。

国宝級が残り続けるのは、【世界の意志】を超えるほどの【意志】があるから。

だが、オキザの体にまとわりつくそれは【国宝級】ではない。

つまり彼は、まだ生きていて意志を持っているということだ。


「そうだよね」

「勿論、これは海洋国にですら伝えていません」

「私もその方がいいと思う」


オキザは、常にアーガイルの魔法を纏っている状態だという。

なぜそうなっているのか聞いてみたいが、触れるべき点ではないだろう。

自分の体も、ソムニウムがくれた国宝級とペトラの生み出した魔道具によって生死が保たれている。

だからこそ関心が湧くが、簡単に触れてはいけない気がする。


「アーガイル。そしてロホ。二人の戦力がある状態で豊穣国と連携する。なんとかそれを果たすことができそうです」

「なるほど、君はそれを狙っていたんだね。なら【鉄葬】自ら顔を出すのを待つしかないか」

「……ん?」


疑問点が湧いてきた。

自分には全くこの会話の意味がわからない。


「あれ?」

「ん?なんで伝えないんですか?」


何がだめなのだろうか。

二人が健在で、そのうえで戦力を要請する。

それでもいいじゃないか。

セーリスクがその説明を理解できなかったことに、ステラは戸惑った。


「わかりにくいですかね……?」

「あー、これは戦士と商人の違いだねー」

「海洋国は、豊穣国に貸しをつくりたくなかったんだゾー」

「成程……?」


フラーグムが自分にも説明をしてくれている。

もしかして理解できないのは、やばいのか。

ステラが、少し慌てたように自分にもわかりやすく説明をしてくれた。


「余程危機的状況でもないと、他国を頼るなんて手段はとることはできません。それが国というものです。貸しをつくると厄介ですからね。現にいまですら、商会としての仲介を通すことで貴方がたとの接点が生まれています。彼らは死亡または行方不明だと海洋国が認識している状態が有難かったのです」

「ほう……」


随分とわかりやすくなった。

書類にも、アーガイルとロホの詳細が書かれていなかったのはこんな理由があったのか。

ステラという人物は、損害を生みたくない。

海洋国は多少の損害を受け入れたうえで海洋国単体での解決を目指したのだろう。

実際少し前までは、アンデットに対する対処はできていた。

あくまでアンデットだけだが。

だからこそ認識の違いが生まれた。

ステラは既に海洋国単体での問題の解消を諦めている。

敵の強大さというものを認識している。


「法王国には要請しなかったのはなぜかな?」

「法王国は信じるに値しません。勘ですがきな臭い」

「うん。その認識は間違っていないよ」

「獣王国も頼るには遠すぎる。機兵大国は、そもそもソムニウムのワンマン。消去法で豊穣国でした」

「正直ですね……」

「もうあなた方には腹を割っていますし……」


ステラという人物は、正直な人物だ。

しかもそれを使い分けることのできる稀有な人物。

その優れた目で、人物を認識することができた。

三人とも信じるに値する傑物であることも。

ステラの商人としての最大の才能は、眼。

能力及び人格またはそれに付随する微細な事項。

そういったものを見分ける才能。


だからこそ彼女は三人を信じた。


「この国にはね、素敵なものがいっぱいあるんだ。私はそれを守りたい」


私は私の国を守るため。

責務を全うする。

自分のやるべきことはいつもと変わらない。

橋渡しだ。


「改めてよろしくね。リリィ、フラーグム、セーリスク」

「ええ」

「はい」

「うン!」


そしてその瞬間。

その部屋は、爆発に包まれた。

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