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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
六章海洋国編
172/231

二話「進化」

玉座の部屋。

アーティオはそこにいた。

彼女は寝転がり、けだるそうな顔をしていた。

幼い少女のような外見をしていながら、その内面は数百年も生きたような経験を持っている。


「……」


じろりとセーリスクを一瞥する。

やはり何度みても、この人の視線にはなれない。

ペトラと同じで、他人を自分とは別の生き物だと思っているタイプだ。

観察されている気分になる。

セーリスクはそう感じていた。


「エリーダ。そなたは、フォルトゥナをみてやれ。不安だ」


アーティオは、エリーダに指示をだす。

エリーダも即座にそれに従った。

どうやら、アーティオはフォルのことを心配している様子であった。


「はい。ではペトラ。セーリスクさん。あとはお願いしますよ」

「わかりました」

「エリーダ。フォルをお願いね」

「勿論ですよ」


これは仕方がないだろう。

自分としても、エリーダに診てもらったほうがいい。

安堵する。

エリーダは、王座の部屋から出て行った。

フォルの場所へ向かっていく。


リリィとアーティオの間は、自分とペトラでつなぐしかない。

ペトラも、アーティオの前に来てからは安定している。

彼女に任せても大丈夫だろう。

自分の口出しできることは少ない。


「はぁ……」


しかし彼女はいつものとは違う。

今回は、複雑そうな顔をしている。

呆れと動揺。

しかし今の物事に拒否感を持っている様子ではない。

そういった表情にセーリスクは疑問を持った。

どういった気持ちなのだろうか。


「……厄介そうなのを連れてきたな。ペトラ」

「ごめんね、アーテ。プラードもいないのに」

「よい。そなたが気にすることではない。こればかりは流れというもの。どうしようもない」


アーテはどうやらリリィとフラーグムの正体に気が付いていそうな雰囲気であった。


「貴方が……女王デア・アーティオ」


リリィもフラーグムもこの場においては、真剣な顔をしていた。

いや、気圧されていた。

アーティオの放つ威圧感を感じ取っていたのだ。


「そうじゃ。いかにもわらわが豊穣国女王デア・アーティオ」


アーティオは自らの立場と名前を名乗る。

しかし二人に対して友好的な態度はとっていなかった。


「そなたたちは……ここに何をしにきた?」


一貫して冷静な態度を保っている。

ペトラが連れてきたことに対して疑う気持ちはない。

それを加味したうえでも。

アーティオは二人の存在を信じ切ってはいないのだろう。


「まず私たちの名を名乗らせていただいてもよいでしょうか」

「許す」


二人ともアーティオの前に、膝をつく。

それが、二人のできる最大限の敬礼であった。


「私の名前は、法王国第二位【ガブリエル】。今は、リリィという名前を使っています」

「ほう。二位と会うのは、初めてだ。リリィ。よい名じゃ。そちらは?」

「第五位【ラグエル】。いまは、フラーグムと名乗っています」

「リリィに……フラーグムか」


二人は、法王国天使としての名前を名乗る。

それは二人にとってもう既に捨てた名であった。


「法王国天使が二人。それも二人とも法王国としての名を捨てた」

「はい。いま私たちは、法王国としてではなく個人として貴方様と話すことを望んでいます」

「……」


アーティオは、一位と六位がそろってきたことを思い出す。

あの時は、片方が一切敵意を隠すことなくこちらをみてきたから仲良くする気も失せた。

だが、この二人は違う。

何かを願っている。

そしてこちらと協力することを前提に話をしている。

話が通じるタイプだ。

拒否する理由はないと、この時点で判断することができていた。


「天使であることはなんとなく察していた。だが、まさか……イグニス以外にもおるとはな」


意外そうな顔で、アーティオは二人をじっと見る。

天使の立場を捨てた人物は、イグニス以外にはいない。

頭のなかに、イグニスのことを想い返す。

半獣の少女を救ったあの彼女を。


「……ああ、あの時からこのことは決まっていたのだろうな」

「……?」


イグニスが、マールをこの国に連れてきたとき。

それからすべての時が動き出した。

自分の宿命を思い出した。


「今の名を教えてくれたことに感謝しよう」


アーティオの態度が少し軟化したような気がする。

やはり法王国を捨てたということがおおきかったのだろう。

アーティオは、法王国をあまり好んでいない気がする。

異端者扱いされているので、それも当然なのだが。


「はい。できれば、今の名前で呼んでいただけると幸いです」

「わかった。ではリリィ。そなたたちが、天使の名を捨てた理由はなんじゃ?」


アーティオは、彼女たちの口からその過去の【名】を捨てた理由を聞きたがった。

しっかりと言語化された動機というものを彼女は信頼していたのだ。


「法王国に対する忠誠を失ったからです」

「ふむ。そして何を望んでいる?何が原因で法王国を見放した?」

「私が望むのは、アダム討伐。法王国は、アダムと繋がっています。私は、そのことを許すことができませんでした」

「成程。アダム……か」


アダムという単語を聞いて、アーティオは少し考えこむ態度をとる。

そして言葉を発した。


「そなたたちに伝えなければいけないことがある」

「どうしたの。アーテ?」

「ペトラもセーリスクも知るべきことじゃ」


それは、四人にとって驚くべきことであった。

アーティオの言葉を聞いて、声をあげる。


「獣王国。そして海洋国。この二つは、アダムとその配下の攻撃を受けた」

「なんだって……!?」


天使の二人は、納得した表情を浮かべた。

なにかしら思い当たることがあったのだろうか。


「獣王国は、プラードとその部下の力もあって撃退に成功。しかし海洋国は今もアンデットとの戦闘が続いている」

「そんな……」


どうやら自分たちが、機兵大国に行っている間にアダムは動き出していたようだ。

それも二つの国。

プラードは大丈夫だろうか。

海洋国もシャリテがいるので心配だ。


「海洋国。獣王国。この二つは国全体として、アンデットやアダム配下の脅威というものをあまり知らなかった。しかし今回の事件で……世界は、アダムの脅威というものを正確に知ることになった」


今まで、アダムは姿をさらすことはなかった。

自身の戦闘はアンデットや部下に任せて深追いはしない。

それが彼の行動。

だがそれは変わった。

徹底的に何か所も国をたたくというのは、今までの彼だったらしなかった。

アダムが本格的に動きだしたのだ。

姿を現して、攻撃を始めた。

それによって、他の国では大きな被害を生むことになった。


「そのうえで、そなたたちの話を聞きたい。なにがあった」


アーティオが最も知りたかったのは、ぺトラ達に機兵大国でなにがあったのか。

イグニスがいなくなったことも含めて、機兵大国であったことは今後の行動において重要なはずだ。


「ボクたちは、天使四人と接敵。イグニスとリリィ、フラーグム以外の天使との戦闘を行ったよ。その後にアダム配下の亜人と戦闘をした」

「……機兵大国でか」

「うん。それもボクの兄の眼の前で」

「ふむ……法王国も手段を選ばなくなってきたということかのう。ペトラの兄がいれば抑止力にはなると思ったのじゃが」


アーティオも、同じくペトラの兄であるソムニウムがいれば大丈夫だ。

そう思っていたのだろう。

だが法王国は、機兵大国との関係性を気にしていない。

むしろこれでは、天使という存在のためなら戦争をしてもかまわない。

そう言っているようなものだ。


「この動き。元天使の二人はどう思う?」


アーティオは、二人に問う。

この動きには一体どのような意味があるのか。

イグニスと法王国のことを深く知らないからこそ聞いた。


「ミカちゃ……第一位は、イグニスに対し異常に固執していました。おそらくアダムの手先になっている六位及び七位が、唆したのではないかと。ミカエルの持っている精神的な不安も意図的に与えられていたものだと思います」

「なるほど」


イグニスという人物が、法王国でどのような扱いだったのか。

そこまではアーティオも知らない。

だからこそイグニスという存在の彼らの認識。

それを正確にとらえることができていなかった。


実際今回は、ミカエルの心の乱れがおおきかった。

イグニスという存在が彼女の中で肥大化していたのだ。

それをサリエルかラミエルは利用したのだろう。


「天使たちの襲来は、自分たちの離脱によるものです。しかしそれは、あくまで理由付けであっただけ。彼らの狙いは初めからイグニスです。最優先事項は彼女だったと考えています」

「ふむ……」


自分たちの思っている以上にイグニスの価値は高かった。

それは精神的支柱という意味も、戦力としての意味でも。


彼らは初めから理由が欲しかった。

天使二人の離脱というのは、天使を四人動かすことができるちょうどいい理由だったのだろう。


強硬的な行動にでたのは、恐らく第一位。

だが、そこまで導いたのは。

イグニスの戦力を欲しがっている人物。

同時にこちらにイグニスがいることを煙たがる人物。

法王か、アダム本人。

どちらかだろう。


「イグニスの所在を掴むことは可能かの?」

「……恐らく無理ですね。一位や七位がそこを気にしないはずがない。徹底的にイグニスの居場所を隠すはずです」

「なるほど、イグニスに関しては放置するしかなさそうじゃのう」

「えっ」


セーリスクは思わず声をあげてしまう。

そんなにあっさりなのか。

あそこまでこの国のために戦ってくれたイグニスさんを見放すのか。

そう思ってしまった。


「どうした。セーリスク。思うことがあれば、言っていいのじゃぞ」

「……イグニスさんの戦力は、骨折りさんと同等かそれ以上です。ここで見捨てると……」

「見捨てるとは言っておらん。今は、後回しにするべき。といっておるのじゃ」

「それでも……」


彼女の言葉を否定したかった。

自分は、イグニスに命を救われた。

何度も何度も救われた。

すれ違いも多少あったけど。

彼女は自分の恩人だ。

少しでも早く彼女を救いたい。

それはマールを助けるためでもあった。

彼女はこの国に必要だ。

そういいたかった。

でもそれは遮られた。


「セーリスク」

「……ペトラ」


ペトラは、優しく首を振る。

それはダメだよと。

優しく子供に向ける視線のように。

いつものトゲトゲしい彼女はいなかった。

ペトラは、セーリスクの気持ちというものを理解したうえで柔らかく彼を否定した。


「イグニスをこれ以上探すだけの戦力や余裕はこの国と獣王国にはないんだよ」

「……っ」


わかっている。

アダムとの戦闘で、この国は疲弊している。

この国とある程度の距離間を保っていた三つの国もアダムによって襲われた。

他の国に助けを求めることはできないだろう。


「これ以上深追いすると、豊穣国は法王国と戦争になる。機兵大国の手助けがあってもそれは避けるべきだ」

「戦争……?」

「ああ」


一番恐れる事態は、いまこの状態での法王国との総力戦。

法王国近辺は、法王国の味方をする。

それに対して、こちらは武力というものを今まで持つことのできなかった国だ。

確実に負ける。

今までは単騎での少数精鋭による戦闘が多かったから勝つことができた。

しかし多数での戦闘となると話は別だ。

広範囲高威力での攻撃が可能な亜人を多数持っている法王国の勝ちだろう。


「アダムが求めているのは、戦争。漁夫の利じゃ。狙われる隙を作ることは、一番やってはいけない」


アーティオも、ペトラの意見に賛成する。

しかしそれは、戦力差からくるものではなかった。

アダムという横やりを恐れるからこそでるものだった。


「アダムの狙いは、国が消耗すること。アダムとしてはどちらが勝とうが負けようがどうでもいいんだ。ボクたちは、国同士で争うわけにはいかない。確実に最小限に戦いに勝つ。だからこそ獣王国の時も獣王だけを狙った。今回も同じだ。それがわからないわけじゃないだろう。君は」

「そうだな……」

「まぁ、そこにいる天使二人を交渉に使えればなんとかなるんだろうけど。せっかく手に入れたカードだ。本人の意向もあるし。それはできない」


わかっている。

イグニスがいくら強大な力を持ってようとそれは【個人】だ。

国という集団の利益を失ってまで、手に入れなければいけないものではない。

リリィと、フラーグムも再び法王国に戻るという選択はしないだろう。

自分も強要したくはない。

いま現時点で、イグニスを取り戻すという選択はないのだ。


「……すみませんでした」


セーリスクは、アーティオに対して謝罪をする。

頭を下げた。

しかしアーティオはそれほど怒りを持っていなかった。

まるで子供の癇癪を受け入れる広い心を持っていた。


「謝るものではない。そなたがイグニスに肩入れしているのは、十分わかっておる。そしてこの国を愛してくれていることもの。だからいまは我慢というものを覚えてほしい」

「はい」


今は、我慢だ。

力をためろ。

時が来る。

その時に骨折りさんと協力すれば、イグニスさんは取り返せるかもしれない。


「イグニスに関しては、一時的に保留じゃ。取り返す判断は、状況に任せる。それでよいな」

「わかりました」

「わかったよ。アーテ」


リリィとペトラが、その言葉にうなずく。

こちら側の頭脳が、そういったのだ。

自分は大人しくしていよう。


「そなたらがみたアダムの配下というのはどのような姿をしていた?」

「黒布を纏っていた亜人だね。姿を変える魔法を使っていた」

「ふむ……姿を変える魔法か。この国に入っているとしたら厄介じゃの」


黒布の亜人の姿を思い出す。

黒い布に包まれていたからよくわからないが、舌に何かしらの紋様が刻まれていたことを思い出した。

いや、あれが本当の姿という確証もない。

聞くのをやめておこう。


「ねぇ、アーテ。半獣の子と出会ったんだ」

「半獣と……っ?」


アーティオは、半獣という単語に強く反応した。

なにか思い当たることがあるのだろうか。

イグニスの話であれば、アーティオとマールは関わりがないはずだ。


「えっ……うん」


そこまで強く反応を示すとは思っていなかった。

ペトラは動揺する。


「彼女はアダムの配下になったのか」


眼を見開いて、彼女はペトラに問う。

様子がおかしい。


「うん。そんな感じだった。でも黒布を被った亜人とは仲が悪いみたいで言い合いをしていたんだ。僕たちはそのおかげで逃げ切れて」

「そうか」

「……?」


アーティオも、何かを知っている。

それもマールに関わることを。

骨折りと話をするときも、様子が違った。

きっと彼女は、自分たちの知らないことについて多くを知っている。

それを聞くしかない。

セーリスクはそれについて彼女に尋ねた。


「アーティオ様。マールについて何を知っているんですか」

「なにか……とはなんじゃ」

「マールの存在です。半獣とはいったいなんなんですか」

「……」

「ちょっとセーリスクっ」

「ダメだ。僕はこれだけでもきかないと」


リリィが言っていた。

半獣は人間と対を成すと。

骨折りが守っている人間の少女。

【人間】は過去に滅んだ種族だ。


そしてまずまともに育つことすらできない【半獣】という種族。

この二つは似て非なる存在だろう。

しかしセーリスクは、その繋がりに違和感を覚えた。

この二つの関わり。

それについてアーティオは知っている。


骨折りの性格の違和感。

イグニスの異変。

自分はここでこの話を聞かなければ、この人のことを信頼することはできない。

ついていくことはできない。


「……進化という言葉を知っておるか」

「進化……?」

「この世界は変化している。生き物は、それに適応しなければいけない。その過程を進化という」


彼女が何を語ろうとしているのか。

全く予想ができなかった。

世界に対する適応。

それは一体どういうことなのか。


「セーリスク。そなたは、自身の魔法に適応した。自身の体すら壊す魔法と向き合い進化した。変化に対応したのだ。こういえば、わかりやすいか」

「……」


成程。

そう思った。

対象に与えられる変化。

そしてそれに適応すること。

それを進化ともいえるのだと。


「そう……半獣とは進化の過程なのじゃ。獣人と亜人が交わり。獣と魔法の力を手に入れた姿。これは進化といえるじゃろう。だが、それはこの世界に適応することができなかった」

「うん……そうだね。半獣は普通十歳を超えて生きることはまずない。歪な魔力の使い方がもたらす副作用だ」


かつてエリーダに聞いたことを思い出す。

獣人も亜人も魔力を使えることには、変わりない。

獣人は獣の外見に魔力を使い、亜人は魔法に魔力を使うからだ。

どちらも魔力を失えば生命の維持はできない。

だからこそ半獣は、歪な魔力によって命を落とす。

そんなときふと思った。


「……じゃあ……【人間】は?」


魔力や魔法のない世界など考えたことはない。

生まれたときから、この世界は魔力に触れている。

では、人間は一体なんなのだ。

魔力を持つことのできない人間は、この世界でどうやって生きていたのだ。


「己の体にないものを、その体が受け入れると思うか?」

「……っ」

「無理だね。成程、話が見えてきたよ」

「だから滅んだ。【人間】は、魔力のある世界に適応できなかったのじゃ」


わかりやすい説明だ。

水に満ちた水中を、自分たちがいきれないように。

人間は、魔力に満ちたこの空間を生きることができなかった。


「じゃが……過程が違う。魔力は元々あったものではない」

「過程が……違う?」


何が違うのかわからなかった。

人間は、環境に適応できなかった。

それだけの話ではないのか。


「はじめ……【人間】と【妖精】の世界は隔たれていた。同じ大地に生まれても両者を分かつ空間があった」

「待ってっ……それはいつの話ですかっ」


リリィもその言葉を聞いて、驚きを隠せなかった。

それは、きっと数百年以上過去の話。

本や知識としてすら残っていない昔の話。

彼女は遠い過去の記憶を話していた。


「当然わらわが生きていたころの話ではない。これは、聞いた話じゃ」


そこに嘘はなかった。

誇張しているということでもないだろう。

彼女が、信頼している人物からその話を聞いて今それを話しているのだ。


「それがあるきっかけで崩れたという。境界はなくなり二つの接点が生まれた」

「きっかけというのは?」

「星が降ってきたと聞いた。世界の境界を壊すほどの」

「星……?」


それほど大きな力をもった星というものを想像することができなかった。

それに降ってきたとは隕石のことか。

隕石が、この世界を揺らがした。

彼女はそう言いたいのか。


「やがて長いかかわりを経て妖精と人間は混じり合い。そうして【魔人】が生まれた」

「【魔人】……?」

「ひとつ前の種族じゃ。亜人と人間と獣人を歪に混ぜた姿とでも思えばよい。気にするな」


【魔人】がなんなのかとても気になるが、あまり関係はないらしい。

いま聞くのはやめてこう。

アーティオは再び話を進める。


「【人間】と【魔人】は、戦いを繰り返した。最後の戦いで人間は魔人に打ち勝ち。魔人の能力を手に入れた。それが【亜人】や【獣人】となった」

「え……つまり人間はボクたちの……」

「祖先じゃ。亜人や獣人の原点は人間にある」

「じゃあ、なんで争いを……なぜこの世界は人間を」

「もう少し話をきくのじゃ」


結論を焦るペトラをアーティオが制する。

こうなるペトラも珍しい気がする。

まあ、当然か。

いま自分もこの話がよく理解できない。


「【亜人】や【獣人】が増えやがてこの世界には魔力があふれた。命が循環し、生まれ満ちて魔力を持つものが増えた。そして世界によって変化が与えられた」

「変化とは……?」

「この世界に魔力が満ちたのじゃ」

「でもそれじゃあ……人間は」

「そう、生きることはできん」


妖精と人間という隔たれた世界に魔力が満ちた理由がわかった。

しかしそれでは、人間は耐えることができない。

魔力の満ちた空間に人間は生きることができない。

先ほど言っていたはずだ。


「世界の変化に、適応できなくなった人間は何をしたと思う?」


頭の中にある技術が思い浮かぶ。

それはこの世界に生きているものであれば、だれでも知っているもの。


「……まさかそれがアンデット」

「そう【アンデット】になる魔法は……人間がこの世界に残るための最後の手段だったのじゃよ」

「そうか……なんで……人間が戦争を起こしたのかわかった」


人間が他種族に戦争を起こしたのは、この世界の魔力を減らすためだ。

そして魔力が濃い状態でも生き残るために、自らを不死の状態へと変化させた。

自我を失ってでも彼らは同族のために生きようとしたのだ。


「だが同時にあることを試そうとする人間もいた」

「あること?」

「それは、魔力ではなく妖精の力を借りて生きようとする人間たちじゃ」

「妖精の力を……」


魔力は、魔法の力。

妖精は自然による力を借りることができる。


「妖精も魔力を持っているが、それはか細い。大部分が自然の力だからこそ、人間には耐えきれるものであった。魔力そのものは」

「それじゃあ……まるで他のものは」

「ああ、妖精は大部分は自然。人間は、妖精と同化することで自然に取り込まれた。つまり死んだ」

「死んだって……」


彼女は淡々とその事実を告げた。

アンデットになることも、妖精と同化することもそれらは苦渋の策のはずだ。

しかし彼女は、そのことになんの感情も抱いていない様子であった。


「ああ、勿論耐えきれるものはいた。わらわのようにな。耐えきれてしまったといった方が正確か」


セーリスクはその言葉で察した。

アーティオの正体を知った。


「……貴方は、その時に生きていた。目の前でその光景をみたんですね」

「そうじゃ。わらわは【妖精】の力を込められた最初の人間なのじゃよ」


彼女は、セーリスクたちの目の前で衝撃の事実を告げる。

その言葉に、セーリスクたちは何も言うことができなかった。


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