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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
五章 機兵大国編
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泡沫の夢


夢をみた。

それは、温かい夢だった。

きっとあったもしもの話。


「おはよう。先輩」

「あ……れ?」


眼を覚ます。

その声は、自分の知っている人物であった。

ラミエルだった。

髪は金色の短髪。

髪の毛が、朝日を浴びて綺麗に輝いていた。

眼も同様に金色で、輝いたその眼は自分のことをじっと見つめていた。

服は、動きやすい服にエプロンを着ていた。

そのエプロンは、汚いというより使い古した感じだった。

朝のご飯を作っているのだろうか。

朝の陽ざしが目に入ると同時に、朝食のにおいが鼻腔の中に入り込んでくる。

このにおいはきっと目玉焼きだ。

胡椒と油のいい匂いが、食欲を誘発する。


そんなことを考えているとラミエルが顔を赤くしながらイグニスに語り掛ける。


「もう先輩。朝からそんなに見つめられたら照れちゃうよ」


彼女の人格はいつもと変りなかった。

だが、ラミエルはなぜここにいるのだろうか。

そして自分はなぜここに寝ているんだ。


「ラミエル……?どうして……?」

「……?その名前懐かしいね。今は、トゥルエでしょ?」

「ああ……そうだった。そうだね。ごめんね」


どうしてだろう。

なぜ自分は、トゥルエの名前を忘れていたのだろう。

思考が少しぼんやりとしている。

まるで記憶が靄に包まれているような感覚だ。

よく思い出せない。

なぜだ。

そんな思考をすることさえできない。


「もう、先輩。寝ぼけてるの?先輩の寝坊助さん」


トゥルエと名乗るラミエルは、イグニスの頬をつんと押す。

なぜだ。

この行為に、それほどの嫌悪感がわかないのは。

それどころか喜んでいる自分がいる。


「そうだね、寝ぼけているのかもしれない」

「はい、おはようのちゅー」


ラミエルが、自分の頬にキスをする。


「はいはい」


自分は慣れた様子で、それを受け止めた。

なんでだ。


昨日のことや、ラミエルとの関わりがよく思い出せない。

わからない。

自分が自分ではないようだ。


「おはようっ!おねーちゃん」

「マール!?なんでっ?」


そんなとき、部屋に入ってくるものがいた。

マールだ。

いつもと変わらないマールだ。

しかし服装や、体格は自分の知っているマールとは少し違う。

健康的にある程度ふくよかであり、服の素材もしっかりとしているものを新品できている。

身長も最後に見たときより大きい。

あれ、私の覚えているマールはこんな感じではなかったと少し混乱した。

それに最後ってなんだ。

また混乱した。


「なんでって?」

「なんで……マールとトゥルエが……」

「そりゃ一緒に住んでるからでしょ。ねー?」

「ねーー」


マールとトゥルエは、仲良しそうにお互いで笑顔を向け合った。


「まあ、先輩は私のものだけど」


ふふんとトゥルエは、鼻を鳴らす。

そんな顔をみて、マールはトゥルエをにらみつけた。


「違うもん、お姉ちゃんは私のものだもん!」


大きな声で、トゥルエに反抗する。

マールはやはりイグニスに対する独占欲というものがある様子だ。

しかしそれは可愛いもので、母親にかまってもらいたい子供のようだ。


「もうっ……!このっ!我儘ちゃんがっ!反抗期かっ!!」


大人げない。

本当にこいつ大人げない。

マールに対して、悪口は言わないもの大声をだしていた。

マールも、それに怯えず言い返す。


「だって!トゥルねぇだって、いつもお姉ちゃんと傍にいて狡い!!」

「狡くありません。当然の権利です。子供はとっとと朝ごはんでもたべてきなさーい」


いーと口の形をゆがめて、トゥルエはマールを煽る。

マールも、ご飯の誘惑には勝てない様子でその議論に退散する。


「ううううーーーっ!!食べてきますっ!!」


走るように逃げて、扉へ向かう。

べーと階段に降りるときトゥルエを馬鹿にする。

しかしトゥルエも負けじと同じ行動を返した。


「ちゃんと噛んでくるんだよっ」

「はいっ!」

「いい子!!」


いつものやり取りをこなすように、彼女とマールは会話をしていた。

会話内容こそ漫才みたいだが、そこにはトゥルエとマールのしっかりした絆を感じた。

自分はこの光景を初めて見る。

だが、心は違う。

いつも見ている光景のように。

心は、非常に落ち着いていた。


「大切にしてくれているんだ……ね」


トゥルエの性格を考えると、自分以外の扱いはかなり雑だったはずだ。

そんなことを考えると。

マールの存在は、彼女にとってかなり大きいのではないだろうか。


「……?」


その言葉に、トゥルエは疑問を持った。

だが、間を置いて言葉の意味を理解したかのように彼女は語る。


「……まあ、そりゃ私と先輩の子供みたいなもんだし??実際可愛いし?宝物だし?」

「……っ」


顔を真っ赤にしながら、イグニスのほうをみる。

驚いた。

まさかトゥルエが精神的にこんなに安定することがあるなんて。

その顔は、母性そのものだった。

彼女は人並みの幸せというものを実感しているのだろう。


「子供は持てないと思ってたからさ……嬉しいよね。正直幸せだよ」


彼女は、笑顔をイグニスに向ける。

そこには曇りはなかった。

彼女は幸せというものを見つけていたのだ。

思わず自分の顔も赤くなってしまった。


「もう、先輩たら照れないでよ……こっちまで恥ずかしくなるでしょ?」


マールがひょこっと階段から顔を覗かせる。


「さっき、私のことたからものっていったー?」

「言ってないからご飯たべてなさい」

「はーい」


マールが再び一階に降りる。


「まあ、確かに先輩と二人っきりじゃないのは悔しいけど……可愛いなあとは思えているよ。私たちの大事な……。大事な子供だもん……」


えへへと、にやにやしながらトゥルエはマールのことを語る。


「……いつもありがとうね」


口からは自然と感謝がこぼれていた。

考えることが、あったはずだ。

やらなければいけないことがあったはずだ。

なのに、口が勝手に感謝を発していた。

この世界を受け入れていた。


「どうしたの先輩?今日は本当に様子が違うよ」

「今日はちょっと疲れているのかもしれない……」


事実そうだった。

頭はまだはっきりとしない。

記憶も明瞭ではない。


それは、外からみてもわかるようでトゥルエはイグニスのことを心から心配していた。


「そうなの……?あっ、そうだ。それならコーヒーをいれてくるよ。先輩すきだったでしょ?」

「ああ……」

「愛情いっぱーいこもったコーヒー淹れてくるからさ。待っててね……イグニス」


トゥルエが頭にキスをする。

しかしそれでも記憶は目覚めなかった。


「うん……」


慌てながら、トゥルエは階段を降りて行った。

きっとコーヒーを入れに行くのだろう。

部屋のなかにひとりになった。

このままベットの中にいるのもダメだろう。

二人がいる一階まで降りよう。

そんな時頭痛がした。

声が聞こえる。


おきて。

そんな声がした。


「誰だ?」


おきてください。イグニスさん。

また声がした。


「誰かな……?」


声は聞いたことがあるのだが、顔が思い出せない。

なんでだ。

わからない。


「起きなきゃいけないんだ。いかなきゃ」


そうだ。

自分にはいくべき場所がある。

その場から動き出した。

一階から声が聞こえる。

トゥルエとマールだ。

その会話は楽しそうだった。

自分の話をしている。

でもダメなんだ。

ここから離れないと。

ずっとここにいたいと思えてしまう。


「イグニスさん」


二人とは違う声が聞こえる。

誰だ。


「イグニス」


誰だ。わからない。

階段を降り切った。

そこには、トゥルエとマールが椅子に座ってご飯を食べていた。

幸せな家庭がそこにはあった。

どこにでもあって、どこにでもないような。

そんな幸せが目の前にあった。

もう手に入らない。

もう見ることができない。

そんな幸せ。

涙がこぼれていた。



「先輩どうしたの?おいで」

「そうだよ。お姉ちゃん。早くおいでよっ」

「そうだよね。わかってる……けど」


自分はこの声をおもいださなければいけない。

だれだ。

この声は、一体。


「今日はご飯食べたらなにするの?トゥル姉っ」

「えっとねえ……」


視界が真っ白になっていく。

消えていく。

忘れていく。

だめだ、何かを失いそうな感覚を覚える。

寂しい。

寒い。

待って、いかないで。

置いていかないで。

ずっとこの場所にいたい。


「待って!!!!!」


記憶から自分は飛び出した。

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