十一話「入浴後の団欒」
「まぁ……悪いやつではないんだろうね」
「もっと話したかったな……」
自身が心から気に入った作品。
その製作者と話していたことにマールは内心心が躍っていたようだ。
「ダメだよ。マール。ああいう人は大体変態だから」
イグニスはマールに注意を促す。
ペトラのように何かが突出してる人物こそあぶないのだと。
「からだ冷えちゃったね……」
「体を洗ってお風呂に入ろうか」
イグニス達は体を洗い、お風呂に入った。
長旅の疲れもあったのだろう。お湯が五臓六腑に染みわたり、体は溶けていくようだ。
体の汚れもお湯にながれていき、体と心がお風呂によって清められていくのを体で実感していた。
「うわぁ……きもちいい…‥‥」
温かいお風呂に浸かる経験がすくなかったマールはともかく
イグニスもそう心から感じていた。
普段ため込んでいた心と体の疲労、
それと小さなストレスによるものが余程大きかったのだろう。
イグニスは心のなかでこれからもっとマールと穏やかに過ごせる時間を増やしたかったのだがと
こころの中で悔しく考えた。
その心に映るのは先ほどペトラが言った戦争だ。
戦争になれば、この国に平穏はなくなる。
マールに幸せは来ることはない。
「マール。」
「なぁに?おねぇさん」
「お風呂はきもちいいかい?」
「うん、とても気持ちがいいよ」
「お風呂から上がったら、シャリテさんと一緒に話そうか」
「うん……」
マールはお風呂の中にいる至高の時間を手放すのが余程口惜しかったようだ。
そのあとしばらく湯につかったあとでものぼせる直前まで出ることを嫌がっていた。
お風呂からでた二人は、着替え場に入った。
そこには先ほどまで来ていた服は既にもうなくなっており
代わりにメイドが用意したであろう簡単なつくりの服が置いてある。
しかしその布の気持ちよさに二人は感嘆した。
簡単なつくりとは言えど、材質は非常に着心地の良いものであった。
体をふき、服を着終わったころ、メイドが着替え場にはいってきた。
「お風呂気に入ってくれたんですね。随分長い間入っていたので心配になってしまいましたよ」
お風呂から出て服を着替えた直後、それに気づいたメイドはイグニス達にそう声をかけた。
イグニスたちからすればお風呂が長引いた原因はほかにもあるのだが
それを事情を知りもしないメイドに教えるわけにはいかない。
「ええ、とても気持ちがよかったですよ。マールなんかのぼせるまで浸かってしまって」
「私まだ入れたのに……」
無理やりだされたことを悔しそうにつぶやくが、その顔は真っ赤だ。
イグニスが無理やりお風呂場から連れ出さなければ失神直前までいっていただろう。
そんな二人をみてメイドは笑う。
「とても仲がいいんですね。お二人を見てると本当にイグニス様がマール様を大事にしていることがわかります」
「そうみえますか?」
そうイグニスは否定せずに照れながらにやける。
「ええ私には妹がいましたが、なかが良くなかったので羨ましいです」
「あたりまえだよ!私もお姉さんのこと大好きだもん」
「それならよかったです。これからも仲良くしてくださいね」
クスっとメイドは幸せそうに笑う。その顔はやはりかわいらしかった。
柔和なその笑顔は、イグニス達の心に温かさをもたらした。
「メイドさんは笑うと可愛らしい顔をしていますね」
「うん!メイドさんの笑い顔本当に幸せそうだよね」
そう二人がメイドに伝えると、余程恥ずかしかったのだろう。
メイドの顔は耳まで熱くなっているようであった。
「やめて下さいよ……私あまり褒め馴れていないんです」
メイドはそのほおずきのように真っ赤になった顔を手で隠した。
「メイドさん、隠しきれていないよ?」
「これ以上言うのはやめてあげようね」
イグニスはからかうマールを優しく止めた。
「そうして下さるとうれしいです……ではシャリテ様の元にご案内しますね」
メイド①について。
シャリテ家には、メイドが複数人存在します。
今回はそのうちの一人を紹介。
なまえはフクシア。
猫の獣人です。
元々はシャリテと同じく、獣王国の出身。
恋人と付き合う中で獣王国の違和感に気付き恋人と駆け落ち。
その過程で、家族と喧嘩になっています。
弱点は、恋人と誉め言葉。
褒められるとすぐさま顔が赤くなります。
恋人も同じく猫の獣人。性格も真面目な人物。
日々書類作業に追われ、家に帰ってフクシアに癒される日々。