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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
五章 機兵大国編
139/231

七話「目指す場所」


「まあ、というわけでわかっただろう。僕が君を心配する理由は」


そういって自身のボタンを留める。

彼女ははっきりとした落ち着きというものを持っていた。

しかし、セーリスクの中には少量の動揺があった。


「……納得したくはない」


それはセーリスクにとって了解しがたいものであった。

しかしそれはなんというか道理を得た。

彼女が家名を持たないのも、女王デア・アーティオに尽くすも。

そしていま自分を手助けしてくれることも。

少しの一つの道筋というものは通っていた。


「……ね。意外な共通点だろう」

「素直にそう言えるわけ……ないだろう。それに僕とは違う」


セーリスクはペトラの秘密をしった。

それは揶揄するにはいささか話というものが重すぎた。


自分は命を捨てようとしている。

それほどまでに勝ちたかった。

彼女はその命を守ろうとしている。

共通点などどこにもない。

しかし彼女は自分とセーリスクは似ていると。

そういうのだ。


ひとつ疑問におもったことをぶつける。


「……その義手も、胸にあるのと同じものなのか?」


ペトラの体は、正直今も健全とはいいがたい。

四肢は原型を失っている。

出血も多量にした影響で、いまもその後遺症は残っていることだろう。

幸い顔にはそれほど傷は残っていないが、それ以外の怪我というものがひどすぎるのだ。

彼女のこの怪我と、胸にある物体は関わりがあるのだろうか。

あの植物のようななにかは。


「なんだい?心配してくれているのかい?」

「ああ、そうさ」

「……ふっ。有難う」


照れることなく、彼女のことを心配するセーリスクに思わずペトラは笑いをもってしまった。


「これとこれは別物さ。義手や義足に関しては、ボクが自作したものだよ」

「なるほど。それは与えられた……ものなんだな」


彼女がいま身に着けているものは、彼女自身の制作のようだ。

そうなるとやはり、彼女が胸に身に着けているものの正体。

それが異質に見えた。

女王に由来するなにか。

それだけしかわからない。


「その胸にあるもの。それは一体なんなんだ」


セーリスクには解することができなかった。

なぜ今のこの瞬間まで、その情報を共有することはなかったのかと。

加えて、確実に豊穣の女王とかかわりのあると推測ができた。

明確な説明をセーリスクは欲しがった。


「んー、君には見せることはできるけど。説明まではいけないなあ」


ペトラは含みのある表現で、そう語る。

見せることはできても、説明はできない。

その理由を頭のなかで考察していた。

その異質な【モノ】がペトラに影響を与えていることはわかる。

だが、他にも理由があるのだ。

それを開示しない理由が。


「……いやもう察しはついている。言えない理由はわからないが」

「さっすが」


セーリスクは、女王デア・アーティオの秘密を知っている。

それは、豊穣の力。

そしてペトラの体の状態。

そして先ほど見せられたモノ。

それらを組み合わせれば、必然的に答えは生まれていた。

だが最後のなにかがわからない。

何かを彼女は隠している。

そしてセーリスクはその最後のものだけその推測というものをあてることができなかった。


「……それをみせてくれたということは僕は信頼されているということでいいのか」

「……まあ、そう思ってくれてもいいかな」

「そうか」


これは当然のことだ。

恐らくこの秘密は、彼女及び、豊穣の女王の生命線。

豊穣国における地雷。

それを彼女は抱えていた。

ともかくこれには深く触れないことにしよう。

そうセーリスクは思った。


「……あまり人を信用しすぎるなよ」

「君だけだよ」

「本気か?」


自分はともかく、イグニスさんやプラードがいるだろう。

彼らにはこの話をしているのか。

自分にだけ話を通す。

それだけはあり得ないだろう。


「ああ、これに関していえば、プラードですら知らない」

「プラードさんが……?」


それはセーリスクにとって最も意外なことであった。

プラードに情報共有できないほど危険なものなのだ。

一体自分はなにを押し付けられた。

なぜプラードはそれを知らないのか。

自分にはそれが理解できなかった。

それとも彼女の秘密にはある決まりがある。

そんな可能性も含んでいるのか。


「おい、なんで僕にはさんをつけなくてプラードにはつけるんだよ」

「う……すまない」

「……そんなとこ含めてきにいっているんだけどさ」


彼女は、ふふっと笑う。

彼女は一体自分の何を気に入ったのだろうか。

セーリスクにはそれが理解し難かった。

一呼吸おいて彼女は語りだす。


「プラードだから。イグニスだから。骨折りだから話す。それもいいだろう」

「……」

「彼らには強さがある。信念もある。人格としても信用できる人物だ」

「うん」


彼女の言っていることに間違いはない。

豊穣の女王に関する秘密。

ペトラに関する秘密。

その両者は、どちらも豊穣国を揺らがせることのできる大きな秘密だ。


「でも君だから話すんだよ。命を投げ捨てるような危うい。そんな君だから」


彼女は彼女なりの理論で。

気持ちで。

それを語り、見せてくれた。

今この瞬間、彼女の心は真剣さで包まれていた。


「……これがボクが君には命を大事にしてほしいと思うその気持ち。その原点。わかった?」

「ああ」

「僕はあの方に命を救われた。僕は命を与えられた。その分、僕はあの方の国のために何でもしなくてはいけない。その果てにはセーリスク。君の存在も必要だ」


迷いなく。

その眼はひたすらに真っすぐだった。

主であるアーティオのために、すべてをささげる。

そのような覚悟を感じた。

そしてそこには狂気はなかった。

ただ純粋たる願い。

曇っていない願望がそこには込められていた。

これがペトラという才が、あの女王に尽くす理由か。

命を与えられた。

そういう理由か。


「わかったよ、ペトラ」


根負けだ。

先ほどの秘密を教えられた以上、自分も彼女に尽くさない理由がない。

それに彼女は自分の間接的な命の恩人だ。

彼女の魔法道具がなければ、自分はここまで戦うこともできなかった。

殆ど自分の願望をかなえてくれたといっても差し支えはないだろう。


「それならいいよ。アホリスク」

「なんだよ、アホリスクって」


随分と心外な呼ばれ方をした。

セーリスクはその呼び方に不満を持つ。

自分の頭というものはそれほど賢くないのは自覚しているが、そこまで言われる理由はないだろう。


「アホなセーリスクで、アホリスク。十分だろう」

「……不服だ」

「素直に応じな。アホリスク。君に拒否権はないんだから」

「はいはい」


こうなった彼女は変えられないだろう。

諦めて従うことにしよう。

なぜかこの語り合いを幸せに感じる自分がいた。


その時あることが自分の脳裏に浮かんだ。


「……僕の使っていた魔法道具。どうなっている?」

「そうだね。君を強くするためにはそれが最も必要なことだ」


彼女は腕の部分に装着されていた魔法道具を、取り外す。

ぷしゅーと冷気を発し、その装置は自ら外れた。

体には少しの出血が見られた。

どうやら棘によって体に差し込んでいたようだ。

しかし痛覚というものは微塵もなかった。

深く入ってはいないようだ。


「よしよし、十分働いてくれたようだね。流石!僕の可愛い装置ちゃん」

「……」


魔法道具に対し、頬擦りをする。

丹念に愛情を込めて撫でている。


彼女の趣味にあれこれいうつもりはない。

だが、さすがにどうかと思う。


「おっと失礼、君の存在を忘れかけていたよ」


そう思うなら、その機械をなで続けるその手を止めろ。

セーリスクはそう考えたが何も言わなかった。


「うん、最大出力三回分の決まりはしっかり守っていたようだね」

「……というか先に体のほうが耐えきれなくなった」


それは、その魔法道具を渡されたときに言われた言葉。

この道具は、セーリスクの全力の魔法に三回しか耐えることができないと言っていた。

それ以外であれば、十分に対応できる。

しかし今回戦った相手は、は、全力をだしても届かない相手であった。


「……ふーん。まあ、だろうね」

「わかっていたのか」

「いやいや、むしろ三回使えるまで調整できたことを誇りたいね。それほど君の魔力というものは暴れまわっている」

「本当にありがとう」

「別に……」


三回か。

一度目は、ネイキッドに体を刺されたとき。

二回目は、【骨折り】を繰り出したとき。

三回目は……虚ろだが最後の攻撃の時だろう。

むしろその最大出力三回を耐えきられた。

そう考えてしまうのは愚かなのだろうか。


「……そう思い悩むなよ。アダム配下の【獣殺し】。ネイキッドと呼ばれる男は、強すぎた。君の魔法を耐えることのできる彼が異常なだけだよ」

「そうか……そうだよな」


それでも、あの時確実に止めをさせた。

強くなりたい。

これ以上の強さが欲しい。

その願望は、戦いの回想に及んでいた。


「今後の調整次第では、その回数も増えるだろうけど……基本的には、君の体を壊さないほうが優先だろうね」

「どうすればいいと思う?」

「……実際完全なコントロールは無理だね。君の力は突然変異に近い」

「突然変異?」

「例えばだけど、水が一リットル入る桶に、二リットル入ったらどうなる?」

「溢れる」

「そうだ。要するに溢れているんだ。器が足りてない。多くの水であふれてしまっている。君はその溢れた水を振り回しているに過ぎない」

「……」


器というのは、体の耐久力。

水というのは、魔力や魔法。

器が足りていないせいで、自分は自傷することになっているということか。

それはもう既に分かり切っていることだ。

ならその対処はどうすればいいのか。

振り回されてばかりの自分ではその想像はできなかった。


「その器は、どうやって埋めればいい?」

「それこそ数年単位でやる話だ。根本的な話をするなら、敵から攻撃を食らうな」

「……どうやって?」


敵から攻撃を食らうな。

そんなことできていたら、とっくにやっている。

セーリスクのその質問に、ペトラは目をそらす。


「それは……君が考えることだ」


まあ、その通りなのだが。

弱いから、敵の攻撃をくらい。

弱いから、三度のチャンスで敵を殺しきれない。

何だ結局やることは変わらないではないか。


「……ともかく、君自身での自傷。敵から受ける攻撃。それらを総合すると当然だが、体なんて耐えることができるはずがない」

「当然だな……」

「実際、今回も一週間近く君は意識というものを失っていた。これが何度も続いてたら話にならないよ」

「……僕はかなり寝ていたのか」


一週間近くという言葉に反応する。

そこまで自身の体がボロボロだったのか。

数日程度だと。

その程度に思っていた。


「……まあ、呼吸とかは安定していたし、そんなに心配はしてないけど……よく戻ってきたよ」


事実、セーリスクの体の損傷というものはかなりひどかった。

獣人であれば、回復できる。

だが亜人であれば、そうはうまくいかない。

体力も魔力も、気力でさえもそのすべてが枯れていた。


人体の臓器というものは、殆どが短剣により貫かれている。

体表の組織は、氷により凍傷を負っていた。

血管の組織も殆ど血が通っていない状態だ。

体の壊死。

それに近しい状態まで達していた。

それが回復したのは、彼が氷の魔法というものに体が適しているからだろう。


ペトラはセーリスクを信じることができたが、どう見ても命の瀬戸際であった。

魔法道具や、回復の薬を使っていなければ死んでいた。

彼の怪我というものはそれほどまでに酷かったのだ。


「関節とかも固まっているだろうし、しばらくは激しい運動なんてもってのほか。わかったね!」

「……ああ」

「聞いてる???」

「聞いてるって」

「まったく、アホリスクが」


だがセーリスクは、別のことを考えていた。

頭にはいくつものことが同時に浮かんでいた。

今後のこと。

ライラックのこと。

イグニスや骨折りのこと。

それらのことが同時に並んでいた。


しかしペトラにはそんなことは全くわからなかった。

そんな時彼女がやってきた。


「セーリスク!」

「……イグニスさん?」


黒髪の彼女がいた。

イグニスだ。

見慣れた顔が無事であることに心に、少しばかりの余裕というものが生まれた。


「よかった。気がついたのか……体は無事か?」


彼女は心配そうに彼に声をかけた。

セーリスクとこうして話していることに戸惑いも入っている様子であった。


「……はいなんとか」


セーリスクの怪我の様子を知っているイグニスは、率直にその体について状態を聞く。

視認で得ることのできた状態はかなり良くなっている。

しかし体の中はそうはいかない。

体内の状態というものをイグニスは心配していた。


「いやいや、どう見ても無事ではないでしょ」

「そうなのか?」


セーリスクは自身の体の状態を知らない。

そこまで言われるほどなのか。


「……」


それに対して、イグニスは無言であった。

それは二人にある隠し事をしていたからだ。


実は、イグニスはこっそり鼠の蚤にかけた魔法と同じものをセーリスクにかけていた。

当然ペトラはそれを知らない。

そして自身の視認することのできる小さな光たちは、セーリスクが助かることも教えてくれていた。

だから体というものはもっと回復しているものだと思っていたのだ。

だがペトラが言うには、そこまで回復に至ってないそうだ。

彼の膨大な魔力によって妨害されたか。

そういう疑問を持つ。

しかし助かることはわかっていたので、イグニスはそれほど干渉していなかったのだ。


そしてセーリスクもまだ二人には話していないことを所持していた。

尤もペトラのはなしによって機会を失っていただけなのだが。


「あの……これだけは話しづらいのですが」

「どうした?何でも言ってみろ」

「どこか痛むのかい?」


二人は、セーリスクのことを深く心配していた。

どうしたものだろうか。

彼女たちをこれ以上心配させるのは気が引ける。

しかし自分の今後を考えるうえで、この不都合はダメだ。

素直に白状してしまおう。


「……実は、目が見えなくて」

「……!」

「どっちが!?」


二人の顔が硬直する。

驚きに満ちていた。

当然のことだ。

その場に焦りが走る。


「早く言えよ!アホリスク!」

「エリーダさんを呼んでくる!」


セーリスクの突然の告白というものに、二人は当然焦りをみせる。


そのあとは早かった。

他の患者を観察していたエリーダをイグニスは呼びだした。

エリーダも急ぎセーリスクの元へと急ぐことにした。


「セーリスク君。起きたのですね」

「はい……」

「目が見えないというのは本当ですか?」

「右目が」

「……どこまで見えますか」


エリーダは、右目をじっと観察する。

確かに通常とは異なる違和感があった。

しかしこの状態は、通常の眼の疾患というものではない。

これは視力の劣化ではない。

なにかしら自分の知らない異常というものが起きていた。


「光が入っている程度ですね。殆ど朧です」

「殆どの視力を失っていますね。一時的な可能性はありますが……」


言葉を濁す。

この状態に対し、断言することはできなかった。


「治せそう?」


ペトラはエリーダに対し、その回復が可能か問う。

しかし彼女は首を横に振る。


「わかりません。ですが魔法の影響ということだけはわかります」


そしてエリーダは、この状況を魔法により起きた状態だと判断する。

イグニス、ペトラ、セーリスクの三人は思わず無言になる。

魔法の影響で眼が見えなくなる。

その状態というものに三人は知識を持っていなかったのだ。


「どういうことだ?」

「目に魔力が多く残存しているのです。原理はわかりませんが、彼特有の魔法の暴走の影響でしょう」

「あれか……」


イグニスも、ペトラもセーリスクの体の異常さというものを深く知っていた。

だが止めることはしなかった。

彼が求めていることだとわかっていたから。

だからこそペトラはそれを抑えるための魔法道具を与え。

イグニスは戦うための術を与えた。


だがいま現実に形となって、結果がでた。

そのことを少し後悔している。

ペトラも同じような状態だろう。


「ペトラ。貴方の魔法道具でも制御はできなかったのですか?」


エリーダはあることを疑問に感じていた。

なぜペトラの魔法道具という一級品を装備してこのような状態が起きているのか。

それが理解しがたいものであった。


「いいや。できてたさ」

「……ではなぜ」

「こいつ……僕の魔法道具を壊すんだ」

「……ふむ。なるほど。つまり耐久値を超えたうえで……自身の体に損害を与えている?」


エリーダは、改めてその状態に驚いていた。

ペトラのつくる魔法道具というものは一級品といっても差し支えはない。

だがセーリスクは容易にそれを破壊してしまう。

破壊したうえで、さらに自身の体に悪影響まで及ばしているのだ。


「ポテンシャルが高すぎるんだよ。突然変異としかいいようがない」

「……なるほど」


だが、こうなってしまった以上はどうしようもない。

エリーダは現在のセーリスクの現状に結論を述べる。


「ともかく現状はわかりました」

「本当か?」

「流石」

「……これは魔眼ですね」


【魔眼】。

彼女はそう語る。

その単語に対し、二人は聞き覚えがあった。

しかし当の本人は困惑していた。


「魔眼……」

「魔眼ってあの!?」

「……魔眼ってなんですか?」


三者三様それぞれの反応を示す。

イグニスは納得。

ペトラは驚愕。

セーリスクは疑問。

それぞれ違う感情を持っていた。


納得を示すイグニスに、エリーダはあることを述べる。


「……イグニス。天使第三位の貴方であれば知っているはずでしょう」

「ああ」


エリーダは、イグニスが魔眼に対してある程度の知識を持っていることを知っていた。

ペトラはイグニスが天使であることをいってもいいのか、そのことを疑問に思う。

セーリスクの顔をちらりとみる。


「ここで言っていいの?」

「僕はもう知っています」

「なら……いいか」


セーリスクは既に七位ラミエルとの邂逅でイグニスが天使であることを知っている。

エリーダは、その情報を既に情報共有の機会で知っていた。


「はなしますよ?」

「ああ」

「第六位サリエル。彼は魔眼の使い手だったはず」


法王国の天使。

第六位は特殊な目を持っていた。

それは、監視の能力。

【神の命令】として働く際、相手を見張り拘束する能力を彼は持っていた。


「そうだ。やつは魔眼が使える」

「能力は?」

「……視覚の増殖。あるいは拘束」

「増殖とは?」

「あいつは目を増やせるんだ。増やせるという言い方もおかしいが、目の場所を自由に動かせる。それがやつの能力」

「……」

「拘束は?」

「そのままだ。見た相手を拘束する。持続時間は十秒以下。だが相手によってはそれを強くすることもできる」


対人戦におけるその能力の強さに、三人は思わず静かになる。

最初に口を開けたのは、ペトラだった。


「魔眼というのは、人によって能力が違うんだ。ならセーリスクの能力はなんなんだ」

「……それはどうでしょうか。見当もつきませんが」

「イグニスはわかる?」

「んー。それはわからないな」

「……魔眼の使い方も?」

「ごめん」

「……」


イグニスは全く役に立たなかった。

だしたのは、魔眼の使い手であるサリエルの情報のみだ。


「情報が足りませんね……」

「だな」


ここに魔眼の使い手は一人もいない。

魔眼の知識をもつイグニスですら、その使用方法に察しすらつかなかった。

それも当然だ。

セーリスクの体質というものは異質すぎる。

自分の持っている知識では、先天的なものが多かった。

後天的というのも滅多にいないだろう。


「うん。なんとなくわかってきた」


ペトラは、その頭脳である推測を立てていた。

それは一つのまとまりというものを持っている。


「本当であれば、一緒に耐えられるだけの身体が伴うはず。だが彼の場合それは未成熟だ。いま全力を出し切る器ではないんだよ。それ故、その眼は変質した」

「それはそうだな」


それは納得できる。

セーリスクの魔力が強すぎる。

それを原因として、それに耐えきれるようセーリスクの体は変化しているのだ。

本来であれば、魔力の影響によって亜人に体の変化というものは生まれない。

彼に変化が生まれているのは、彼故の特殊さが起因だろう。


「なら知識で補う」

「……どうするつもりだ?」

「エリーダひとつお願いがある」

「言ってみなさい」

「僕は豊穣国に帰還して、準備ができ次第機兵大国に向かう」

「なっ」


機兵大国という単語にイグニスは反応する。

なんだと。

タイミングが良すぎる。

これも【世界の意思】か?

そう疑ってしまうほどに、ペトラの提案してきたものは都合のいいものであった。


「そこなら、ボクの故郷なら……セーリスクの眼と体を治す方法があるはずだ」


彼女はそう断言する。

自分の知識が役立たないはずはない。

そう力強く認識していた。

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