十話「介入者の疑問」
「だれ…!?」
マールの顔は驚きに包まれ、驚愕の声をあげる。
考えもしなかった事態に二人は慌てふためいた。
イグニスもおおよそ想定できない事態に戸惑い、行動が止まってしまったようだ。
「やあ、僕の名前はペトラ。さっきもいったけどこの魔法石の作成者だ」
「どうやって、話しているの……?」
マールは声の主の女性に疑問を投げかける。
「それについては細かい説明が必要になるなあ。長いけどいい?」
その声はいかにも気怠そうだ。
イグニたちが警戒していることには、
気にもかけないでペトラという人物は自分のペースで淡々と話していく。
「いや、その魔法の原理はあとでもいい。君はどうして俺たちに接触してきたんだ」
イグニスの顔は疑いと警戒で満ちていた。
シャリテの話が本当であれば、この魔法道具の作成者はこの国の王宮に閉じこもっているはずだ。人とも関わらないと聞いた。
それが今こうして、自身の魔法道具を使って接触してきているこれは明らかに不自然だ。
「まぁ、簡単に話すと僕らは君らがどこかの国の間諜なんじゃないかと疑っていた」
マールはその場の雰囲気に気おされ、思わず息を呑んでいた。
「俺たちは間諜ではない」
「口ではいくらでも言えるさ。だが間諜にしても不自然だなともってね」
「不自然?それはどういうことだ」
「うん、君みたいなひとだったらわかるだろう。この魔法道具にはある程度の複数の魔法が術式として書かれていることに」
門番は、この魔法道具は中立国において重要な役割を持つといっていた。
そして同時にそれはマールを守るものだとも言っていた。
事実イグニスはこの魔法道具を見たとき、
簡易的な防御魔法が書き込まれていることを確認していたのだ。
だからマールにこの道具を持たせることにはそれ程の危機感をもっていなかった。
しかしこの魔法道具越しの女性はマールに干渉しに来ている。
それはこの道具に、防御以外の魔法が書かれていることとなる。
そして魔法道具の製作者つまりこの女性が
イグニスですら気付くことのできない魔法に関する能力をもっていることとなる。
「少しだけ教えると、この魔法道具には、防御機能の他に持ち主の干渉機能と周囲半径数メートルほどの探知機能がついている。防御機能は説明するまでもないけど、接触と探知についてだけは話そうか」
そういって魔法道具の声はこの道具の機能について喜々として話し出した。
最初に説明したのは【干渉機能】ついて、それは持ち主の場所の特定だそうだ。
それの副次的な効果によって遠距離による会話が可能なのだと女性は言った。
次に説明したのは、【探知機能】。これは持ち主の周囲半径数メートル魔法道具に込められている魔力によって探知するというものだ。
主に持ち主が危機的状況に陥らない為に入れた機能だと女性はいった。
「でも君ら二人を探知して分かった。まさか半獣の子と、法皇国のお客様が二人で行動しているとはおもわなかったよ」
「どうして俺が法皇国の出身だと気付いた」
「おや、気に食わなかったかな。魔法道具で得られた情報はこの国でも僕かそれ以上の立場の人物しか知られないからそこは安心していいよ。なんで気付いたかっていうと癖かな」
「癖……?」
「法皇国は整いすぎてる。綺麗さが国民の魔力や体にも出てるのさ。そんな量産品といえど僕が丹念込めて作ったものだ。探知した人物がどこの出身かぐらいはわかるんだよ」
「まぁ、細かい正体や、能力は全くわからないんだけどね」とペトラは軽く付け足す。
「結局何が目的でこんな魔法道具を使ってまで連絡してきたんだ」
とげとげしい口調でイグニスはペトラに問い詰める。
「そうだそうだ。質問とアドバイス一つ。まずは質問。法皇国のお客様は何をお求めかな」
「安住の地を求めただけだ。この子が二度と苦しまなくてもいい場所を」
「半獣の子の為にそこまでね。低い声に反して君意外と優しんだね。それには法皇国の立場を捨て助けるほどの価値があるということかい?」
「価値とかそういうもののために助けたつもりはない」
「なるほどなるほど。君たち二人にはより一層興味が強まったよ。君自身にも……そして半獣という人種。この子自身の特異性…正直研究者からすると違和感がのこるがね」
「違和感…?それはなんだ」
「いやまだ断定はできないよ。いつか時期が来ればまた君たちに伝えよう」
「アドバイスのほうは?」
「アドバイスはただの情報。この国はやがて戦火に見舞われる。ただそれだけ。その子をどこかに預けて戦う覚悟を決めた方がいいよ。ささやかなアドバイスだ」
中立国が戦火に見舞われる。
それはこの平和な国で戦争が起きるということをそのまま示していた。
「自分の国が襲われるっていうのにやけに冷淡だな」
その情報を聞いたうえでもなお、イグニスはその声の主を警戒していた。
「僕は別に研究ができればどこだっていいしね。それに僕はこの国を愛してるんじゃない」
「それはほかに愛しているものがあるといううことか?」
「そうだね。僕はこの国を愛してるあの方を愛してるんだ」
「あの方とは誰なんだ」
「この国にいれば嫌でも耳に入るよ。きっと君ならいつか会う機会もあるさ」
「結局俺らは信用されたってことでいいのか」
「信用というより要は敵意があるか否かだね。法皇国の間諜が内部にいるなんて笑いごとにならない。だが君たちはむしろこれからの事態の貴重な人材になりそうだ。またその半獣の子も含めて連絡するよ。ほかに何かあるかい?」
ペトラは話を締めくくろうとしていた。
そしてマールは恥ずかしそうにペトラに声をかける。
「あっ……あの」
「なんだい、半獣の子。何か文句でも?」
「いや…こんな綺麗なものを作ってくれてありがとう」
「おおっ……そうかい。それなら大事にしてね……」
そういいペトラは魔道具による会話を一方的に打ち切った。。
突然きた嵐がすっと去っていった。
そんな感覚に陥ったイグニスとマールは少し戸惑って立ち尽くしていた。
ペトラ。
この世界における魔法道具の超が付く天才。
一つの物体に多くの魔法を込められるのはこの人物だけ。
魔法技術の繊細さという意味では世界でも片手に入るレベル。
普段は中立国の王宮におり、研究しつつ道具を生み出すか
敬愛する「あの人」の顔を眺めているというかなりの変人。