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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
四章 獣王国進撃編
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三十六話「裸の王①」

「セーリスク!とまってください!」

「……角牛さん?」


彼の思考というものは、意外にも平静であった。

では、なぜ彼はあのような行動にでたのか。

そういったものを角牛は感じていた。


彼は、大きく深呼吸をしていた。

随分と長い距離を走っていたようだ。

確かに、先ほどの場所とはかなり遠い。

ネイキッドは、亜人でありながらすさまじい身体能力を持つ様子だ。

現時点、セーリスクは息を切らしている。

彼が特段遅いという印象は見えなかった。

ネイキッドが早すぎるのだ。

セーリスクの追跡を振り切っていた。

彼はどこに隠れたのだろうか。


「ああ、そうです。どうしたのですか。落ち着いてください」

「……すいません」


彼は、素直に謝罪というものをしてくれた。

それは、角牛にとってありがたいものであった。

もし彼が、これ以上の理解しがたい行為。

または暴れる様子であったなら。

ある程度の手段はとるつもりであったが。そうしなくて済んだ。


「話ができるのならそれでいいのです。獣殺しはどこへ行きましたか」

「姿を消しました」

「彼の魔法か……」


セーリスクたちは、ネイキッドの魔法によって彼を見失っていた。

彼の魔法とその技術はとても厄介だ。

セーリスクはその直感で。

角牛は、獣人特有の嗅覚で探ろうとする。

だがその気配すら探ることができない。

二人は、その現状に危険性を感じていた。

これはネイキッドが最も得意とする状況ということに。



「どうしますか」


セーリスクは、角牛に問う。

それはこれからの行動について。

このような状況になったのは、自分の失態だがネイキッドを追うという判断は間違っていないと確信していたからだ。

あの状況でネイキッドを野放しにすることが一番危険だと。

そういう認識をセーリスクは持っていた。

しかし今は、ネイキッドを見失い。

こちらの負傷もない。

引くなら今だ。

お互いに得も損もない。

そしてこれ以上損というものを与えられない対等の状態。

それが今だった。


「……獣殺しがこの城内に常にいると考えること。それ自体が負担となります。ネイキッドの発見。それを目標にしたい」

「わかりました」


現時点での脅威。

それは、桂馬や獣王。

そしてシェヘラザードと呼ばれる亜人の存在。

加えて獣のアンデット。

これらの戦力との戦闘で、最も邪魔になるのはネイキッドという存在。

彼は、自身を不可視にできる魔法を持つ。

それは、どの戦闘においても確実にネイキッドはこちらを邪魔することができるということ。

彼自身が、強い戦闘能力をもつ。

拮抗した戦いであれば、彼はその隙をつき確実に命を奪うことだろう。


そもそも角牛とセーリスク。

この二人が、ネイキッドの捜索に時間を使っているだけ。

それだけですでに反乱軍としてはマイナスなのだ。

ネイキッドの狙いが、戦力の低下、ヘイトの集中だとしたらこの時点で厄介極まりない。


「二人一緒に探すべきでしょうか」

「……そうですね」


角牛は、思考した。

それは、今後における分岐点。

いくつもある未来について角牛は想像した。

そして結論はでた。


「今は、離れましょう。時間が惜しい」


二人は、離れてネイキッドを探すことにした。


「わかりました」


セーリスクはその指示に素直に従った。

彼の懸念も当然だったからだ。

ネイキッドの発見に時間をかけていては、彼はきっとどれかの戦いに参戦してしまう。

角牛はそれを最も恐れていた。

しかしそれはひとつあることのミスを犯していた。

そのことに気が付かず、二人は離れる。


「いない……」


数分ほどあたりを見て回ったが、ネイキッドは見つからない。

獣の持っている能力。

それらすべてを生かしても彼を発見することはできない。

やはり自分は彼という存在を甘く見ていた。

獣王国において【獣殺し】と呼ばれるほどの亜人。

やはり自分では相性が悪いか。

そう角牛は考えた。


王城の探索もしたが、全くネイキッドは見つからない。


「やはり合流したほうがよさそうだ」


広く、部屋も多いがここまで見つからないのは想定外だ。

なにより、彼と接敵することを考えていた。

だが彼は真正面に戦うような人格ではないことを、角牛はある程度知っていた。


「セーリスク君はどこにいるだろうか」


そう思い振り返ったとき。

その瞬間隙が生まれていた。

静かに何かが空を斬る音がする。


「な、教えてくれよ。なんで俺がわざわざ二人いっぺんに相手するとおもったんだ」


背後にはネイキッド。

彼は、自身の肩と首の間に短剣を突き刺していた。

血はでるが、さほど多くはない。

しかしこの一瞬で、思考回路というものが鈍っていた。


「……お、お前は……」


鋭い痛みが、首に走る。

神経を太刀で豪快に切られたような気分だ。

しかし幸い、獣人特有の硬い耐久力のお陰で深くまでは刺さり切らなかったようだ。


全身の力で体を横にふり、彼を振り払おうとする。

彼は、跳び。

角牛の腕を寸前で避け、地面に着地する。

着地した音は、しっかりと耳に届く。

大丈夫だ。

五感はやられていない。

首を抑えながら、自身の聴覚などを確認する。

しかしやはりまだ痛みというものは感じる。

毒の可能性……それはあるだろう。


「いつのまに……来ていたんだ」


角牛は彼を鋭くにらみつけていた。

あくまでけん制だ。

戦闘の意欲は失っていない。

それを示すためであった。


角牛の身長というものは、二メートル以上はある。

ネイキッドも、身長はでかいがあくまで亜人の範疇だ。

先ほど跳ねるような音は聞こえなかった。

ということは、上か。

角牛は天井を確認する。

なるほど、確かに亜人程度の体重なら耐えられそうな装飾物がいくつもある。

自分ならできないと思考に外していた。

そう後悔する。


「おいおい、よそ見かよ」


彼は、自身の短刀を投擲する。

しかし速さなどは普通だ。

魔法をかけられた印象もない。

自身の武器で、弾き返す。

反射神経の鈍りも、違和感ない。


「流石だね。獣人様にはこれは効かないか」


彼は、彼自身の首をトントンと叩いて見せる。

煽りか。

しかし挑発には乗らない。

彼は首を刺してもまだ動けることに対して驚いていないようだ。

それも当然か。

獣人との戦闘経験を多く積んでいるはずの彼は、自身の耐久力というものを考慮しているはずだ。


「……お前らはそういうとこが甘いんだ。さっきの話に戻ろうか」

「さっきの話……?」


さっきの話とはなんだろうか。

いやあれかと思い出した。

自身とセーリスク。

二人がそろっている状態でネイキッドが戦いを挑むわけがないという話。


「わざわざ俺のことを警戒するなら二人で固まるのが正解。アンデットの警戒。獣王の発見。同時にしないといけないのはわかるが。最優先は俺のはずだ。探索のため距離を置いて離れる。これは愚策」


まさか、敵に自身の思考の否定をされるとは。

わざわざ答えを教えるあたり彼も随分と変わり者のようだ。

こうして話している間にも、自身は休息をとれている。

今は、そのためにも話を聞こう。


「……」

「無言か。まあいいや」


しかし二人組であれば、ネイキッドは警戒して現れない。

これは角牛の思考のなかにもでもあったことだ。

だからこそいったん離れた。

どうせまた合流すればよいと考えたためだ。

だがその余裕の中に隙は生まれた。

ネイキッドはそこを的確に狙ったのだ。

孤立と合流の間。

気持ちの変化の部分に。


「お前らがするべきは、真正面に獣王という目標にいくこと。どうせ俺はその邪魔をしなければいけない。いくふりだけでもすればよかったのにな」

「……ちっ」


それもそうだ。

どうせ獣王のところに向かえば、ネイキッドと獣王の戦力の組み合わせでも人数有利というものを生み出せた。

骨折りや、プラード。

それらの戦力に頼ることもできた。

彼らに負担を与えたくない。

そう考えた自分の失敗だ。


「教えてください。なぜ獣王の味方をする」


角牛は、最も気になっていたことをネイキッドに質問をする。

それは彼はなぜ獣王の配下として反乱軍と戦っているという疑問であった。


「んー。それは俺にこたえる義務でもあるのか」


しかし彼はそれをこたえる気はなさそうだ。


「貴方は獣人を憎んでいるはず。その一番に立つ獣王は元凶のはずだ」

「なんか。どうでもよくなったんだよね」

「は?」

「いろんなことがこんがらがってよ。頭の中で。そうするといろんなことがどうでもよくなってくる。元凶とか、原因とか。過去とか……もうどうでもいいんだ。俺はただ目の前のすべてを壊したい、殺したいだけ」」


彼は虚空をつかむように、何かを手で包んだ。

そうして拳を握る。


彼は疲れたような笑みを浮かべる。

それは、きっと意図的に出していない。

滲んだ彼の本心。


彼の笑顔は狂っていた。

彼は既に壊れているのだ。

この世界で。

なぜかその一瞬彼の背後に多くの死体をみた。

その足元にないはずの血の池を見た。

彼の手は、血に染まり。

彼の足は、多くの手に掴まれていた。

これを見せるのは誰だ。

彼に命を奪われた亡霊か。

それとも彼の殺意か。


いつのまにかに、大きく息を吐いていた。


「……狂ったか」


静かにそう悟った。

今の自分では、彼という人生を納得させるだけの言葉を持たない。

理解はできても、修正させることはできない。


「狂わせたのはお前らだろうが、獣共」


角牛は武器を持つ、それは戦斧であった。

一メートルを容易に超えるその巨大な武器は、確かな重量を持っていた。

重さも人一人というものを超えているだろう。

獣人でしか、持つことのできない武器。

破壊力も相当ありそうだ。

確かな輝きをもってその武器は輝く。


ネイキッドも、武器も持っていた。


「怖いねえ……」


彼も同様に武器を構えた。

それは、対の短剣。

なんの装飾もなく、どこにでもあるような。

ありふれたような武器。

それは、熟練の職人が彼のため誂えた。

そう決して言えないような出来であった。

それは、角牛の武器と比べるとまるでおもちゃのようであった。


しかしどこかに【格】というものを感じた。

その武器は、彼に深くなじんでいた。

そんな気配を感じた。


「そんなもので、私に勝てるとでも?」

「それは俺のセリフだよ」

「……なに?」


武器の優劣はこの世界において少ない。

だからこそ侮るつもりはないが、ネイキッドの武器は自身の武器と比べてかなり小さいものであった。

一撃でも自身の攻撃を受け止めたら砕け散るだろう。

そんな想像が容易にできた。

しかしネイキッドは、そんなことを一切気にしない。

むしろ逆だというのだ。


「武器なんざ、でかければいいってもんじゃない。敵を殺す一撃。それだけ。それを加えることができればなんだって武器になるんだぜ?」


それはそうだ。

今の現状。

先ほど彼になされたことはなんだ。

致命の一撃ではないが、自身の急所となる肩に既に攻撃をされている。

もし少しでも場所が違えば。

もしもっと深く刺さっていたとしたら自分の命というものはその時点で終わっていたことだろう。


「……」

「おもちゃのようなナイフでさえ。……お前を殺すにはそれで足る」

「そうか、言いたいことはそれだけか?」

「ああ、あとひとつあったよ」

「なんだ?」


彼には、まだ角牛に伝えたいことがある様子だ。


「周囲に味方はない。加えてなれない亜人との戦闘。加えて首への負傷。……今は強がっているが体への負担は相当なもののはずだ」


ネイキッドは、角牛の現状というものを冷静に見つめていた。

それは、狩りをする人物の眼。

ネイキッドは既に、角牛を獲物としてみていた。


「……!」

「強がるなよ、獣風情が」

「愚弄するか……」


彼は。

ネイキッドは、角牛のことを侮辱した。

それは、獣人の戦士として言われてはいけない言葉であった。

怒りが頭に上る。

しかし角牛は、焦らない。

落ち着くことを優先した。


「ああ、愚弄するさ。これだけでお前が判断を誤るなら安いものだ」


ネイキッドは、あくまで挑発だけに徹する。

彼は、獣人が何をされていやか最もわかっている。


「……」


彼は、決して愚者ではない。

戦闘における判断。

そういったものにおいて彼は自分より優れていた。


「逃げたいだろう」

「……は?」

「逃げたいだろうといったんだ。逃げたくはないのか?」

「……ここで逃げたらお前を逃す」

「その結果死ぬとしてもか?」

「ああ」


その瞬間、脚に鈍痛が響いた。

脚に視線を移すと、剣が刺さっていた。

魔法による発射。

剣は角牛に目標を定めていた。


「……これは」


それは短剣ではない。

きっとどこかに置かれていたであろう、長剣。

いつだ。

いつ準備されていた。

そして気づいた。

彼は、確実にかてる勝算を立て終えたからこそいま奇襲したのだと。


「軽率に言葉を吐くな。お前には覚悟が足りない。あいつのような。死を真正面から見る。そんな覚悟が」


ネイキッドの脳裏には、セーリスクが浮かんでいた。

しかし角牛は、その戦いをしらない。

故にネイキッドの言葉の意味を理解することができなかった。


「……何の話だ……?」

「お前さ。怯えすぎた。何に怯えている。獣人と亜人の力関係だぞ?首に刺されたときお前なら俺のことを最低限捕まえるか負傷させることができたはずだ」

「……」


ネイキッドの話は間違っていない。

亜人は、魔法により身体能力を強化できる。

しかしそれは獣人と比べたらほんのわずかのものだ。

獣人と同等に身体を強化できる魔法。

そういうものを扱えるものはいるだろうが、それはその個人のもの。

ネイキッドの身体強化はその域に。

獣人の域に達していない。

先ほど身体を刺されたとき、角牛が体の一部を掴めばその骨を折ることもできただろう。


「お前は、戦いというものに恐怖している。死兵にはなり切れない」

「……くそが!」


彼は、角牛の本質というものをついていた。

戦いに恐怖した獣。

戦いに赴くことができても、死の一歩前に踏み出すことのできない欠陥品。

それは獣人としては、間違っていた。


だからこそ、ネイキッドは会話を挟み死というものに徐々に近づけた。

角牛が、死兵となる選択支をつぶし続けた。


角牛は、自身の足に刺さった剣を抜いた。

ネイキッドは既にこちらに向かっている。


「ぐぅ……!」


痛みはある。

走ることはしばらくできない。

ならここで踏ん張るのみ。

自身の死のにおいが近づくのを感じた。


皮膚の表面を薄く切られた。

血が滲みでてくる。

しかし深くはない。

痛みもそれほどなかった。

出血が、獣人特有の回復力により収まってくる。

しかしネイキッドは攻撃の手を一切躊躇なく緩めなかった。


斧を振る。

ネイキッドは、その斧を躱した。

跳び、廻り、空中で回転をする。

ネイキッドの着地地点を予想し。

そこに再び斧を振る。

ネイキッドは着地をする。

その上半身に、角牛の斧は来た。

しかしネイキッドは、上半身を後ろに反りその攻撃を避ける。

上半身をもとの場所に戻す勢いのまま、ネイキッドは角牛の太ももに右に持っている短剣を深くずぶりと刺した。


「……!」


角牛は、痛みというものを口にはしなかったが、その二十センチ以上あるはずの短剣はその全長のほとんどが角牛の肉体に入っていた。


突き刺し、その勢いで前に進む。

ネイキッドは、角牛の腹をもうひとつの短剣で切り裂いた。

刃は角牛の肉体により刃こぼれする。


「まじかよ!」


ネイキッドはその様子をみて、驚愕する。

自身の刃が通らないと思っていなかった。


「効くか……っ!」


角牛は、斧を手放し自身の腕力で殴り返す。

ネイキッドは先ほど刃こぼれした短刀で、受けようとする。

既に刃こぼれしていた短刀に耐久力はなく、短刀は砕け散った。

腕を十字で固め、防御していたネイキッドは、角牛の殴りを食らうこととなった。


「いってぇ!!ははっ」


ネイキッドは、角牛のその強大な腕力により吹き飛ばされた。

後ろ側に転がり、勢いを殺す。

回転のまま、脚を立てる。

ネイキッドにはそれほどダメージを与えられなかった。

脚の踏ん張りがきかなかったのだ。

普段であれば、この一撃でネイキッドの骨など容易に砕けた。

しかしそれはできなかった。

脚の負傷により、体の感覚が変わっていたのだ


彼は笑っていた。

戦いというものを楽しんでいた。


腕の表面が、微かに切れる。

しかしこのような怪我は大したものではない。

失敗したのは、自身の負傷だ。

先ほどの、長剣の飛来。

加えて、太ももの短刀の突き刺し。

体一か所に対するダメージが尋常ではない。

自身の体が、一歩も動かせないことを自覚した。


「身体の部位。局所的な破壊。それは基本だろ」

「……それもそうだ」


身体能力に頼り切っている獣人は、体の一部に重大な欠陥を抱えるとそれだけで戦闘において不利になる。

亜人であれば、種族の特徴である【魔法】がある。

しかし獣人にはそれがない。

たとえ時間をかければ治る怪我であっても、その戦闘の場面で治ることはほぼない。

現状でネイキッドがとった選択。

それは角牛の足を破壊すること。

角牛は、その場から逃げることが不可能になった。


角牛は自身の足をみる。

回復薬や、回復の魔法も込みで考えれば、この負傷はなんとかなる。

しかしネイキッドがそんな余裕を与えるはずがない。


「……察したろ。お前じゃあ俺に勝てん」

「ですね」

「覚悟は決まったか……」

「……はい」


もはや諦めの境地に入っていた。

近接戦において優れているはずの亜人にここまで圧倒されては何も言えなかった。

彼は慣れているのだ。

獣人と戦うということに。

亜人との戦闘経験を積んでいない自分には、なれないことが多々あった。

しかしそれを言い訳すること。

それは矜持が許さなかった。


ネイキッドが魔法を詠唱する。

それは自身の死へのカウントダウンだった。


「姿を現せ。裸の王よ。ギムレス・パシレウス」


空中からいくつもの刃が、その透明を解除し襲い掛かる。

ネイキッドは、既にこの場に全方位の刃の結界を築いていたのだ。

刃は高速で、角牛を目標へと定めていた。

全方位から角牛を貫いた。

角牛は全身から血を流し、膝をつく。

その眼は光を失いかけていた。


「ただ単に攻撃したんじゃ。お前を殺すのに糞みたいな時間がかかる。すまないな」

「ぐ……」


強い。

ただひたすらに強い。

その言葉しか似合わなかった。

ネイキッドは、【獣殺し】と呼ばれる男。

それは、彼の獣人に対する強さを表している。


ネイキッドは足元に落ちている刃を拾い、角牛の元へとくる。


「……」

「……なんだ」


ネイキッドは、さらに角牛に一撃を加えた。

それは、鳩尾への刺撃。

角牛は、口から血を零した。


「ごぽ……っ」


不快感を感じさせる音が、自らの口からあふれ出した。

やばい。

そうとしかいなかった。

難解な表現を思考に浮かべる余裕なんてなかった。

一センチ一センチ。

じわじわと自身の体の中に、金属が通されていく感覚を味わった。

それは明確な死の意識だった。


「な、いったろ。お前にはこれで足る」


何度も何度も獣人との戦闘経験を積んだ。

その経験は、確実に命を奪うため養われてきたもの。

それは確かに、角牛という壁を壊していた。


「お前は餌だ。氷野郎を殺すまでは殺さない。精々生きろよ」

「……」


心の中で、角牛はセーリスクに対する謝罪を行っていた。

すまない、セーリスク君と。

彼に対する後悔が頭の中に巡っていた。

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