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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
四章 獣王国進撃編
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三十四話「戦いの始まり」


「……イグニスか」


そこには、プラードが座っていた。

ここは、バーの地下にある部屋のような場所であった。

ここで、反乱軍のリーダーと骨折りたちは話をしたらしい。


「よう、プラード」


「無事たどりついたか、安心したぞ」


彼は、にこやかに笑った。

そこに悪意などは一切なかった。

彼に、ラミエルとの遭遇を伝えるべきだろうか。

しかし先ほど骨折りに不安要素を増やすから後にしろと言われてしまった。

確かに今回法王国の関与は薄いかもしれない。

情報を安易に増やすべきではないか。

だがやはり自分の脳裏にはラミエルが焦げ付いてしまった。

自分だけ警戒するのが理想か。


【天使】の影は、ラミエルのみ。

今回は、彼女が自分に会うための単独行動を行ったと考えるほうが理解できる。

うん、伝えないほうがいいかもしれない。


「心配ありがとう」

「心配もするさ。君たちは、大事な戦力だ。なにかあってからでは遅い」


彼は、いたって真面目にイグニスにそう返す。

大事な友人ぐらいは言ってほしいものだが。

まあ、確かに自分たちはあくまで各々の利益のために豊穣国に協力しているという形だ。

戦力として、何事もなくあってほしいのは当然の考えか。


「そういえば女王様はお前のことをかんがえていたよ」


女王デア・アーティオは酷くプラードのことを考えていた。

まるで恋をしたばかりの乙女のように。

その様子は、いままでとはかなり違かったらしく。

ペトラや、エリーダもかなり驚いていた。


「そうだな。彼女には、かなりの心配をかけている。この戦いは、彼女の望むものではないのに」

「……しょうがないさ。獣王国との闘いは、必要なことだ」


ここで引いてしまえば、豊穣国の土地は獣王国のものになってしまう。

女王デア・アーティオのそのあとの立場など悲惨なものだろう。

それに、獣王はアダムとつながっている。

ここで叩かなければ、今後どういった影響を及ぼすのか。

それを予期することは不可能に近い。


「ああ、必要なことだとはわかっている。だがそう割り切れるものではないさ。戦いなどないのが一番だ」


彼は、獣人としてはあまり戦闘を好んでいない。

それは、きっと本人の人柄と豊穣国で大半の時間を過ごしたということが影響しているのだろう。

イグニスはそう推測していた。

まあ、自分も獣人とはあまりかかわったことはないのだが。

それでも、プラードに好戦的という言葉はかなり似合わない。

自分のほうがよっぽど好戦的だろう。


一歩引いて、全体を俯瞰してみる。

そういったことのほうが向いている。

そのほうが適切かもしれない。

獣人たちの王という存在は、本人そのものが戦場へ立ち。

真正面から戦う。

そのため、戦死しやすく。

国の方針というものも変わりやすい。

むろん獣人の本質というものがあるためその根っこの部分というものは変わらない。だがこれが獣王国が不安定な理由だ。



現在の獣王は戦いを控えることで有名であった。

獣王の威厳と強さを持ちつつ、周囲の国に配慮できる。


そのため過去の十数年は安定しており、プラードを豊穣国に送ることも可能だった。

豊穣国との関係も良好であった。


プラードは案外父親に似ているのかもしれない。

それが人柄の部分か。

彼はそのことに気が付いているのだろうか。


「ああ、だからこそここでけりをつけるんだろう」


それに言及するのは気が引ける。

言わないことにしよう。


いま、ここに自分やセーリスク、骨折りがいる理由。

そしてプラードが現地の戦力と手を結んだ理由。


それは獣王を殺し、プラードが王となる。

そのためにここに来た。

彼も口では、あれこれ考えてはいる。

だがその心では決心はできている。


「……ここで因縁を終わらせる。あの父に引導を渡すんだ」


その眼は、決して絶望に満ちたものではなかった。

しかし希望に満ちたものでもなかった。

ただ彼は現状というものを素直に見つめている。

王を殺すという事実のみに視線を向けている。


「力を貸すよ」

「……ありがとう」


自分は、マールのため。

この戦いに臨んではいる。

だが不思議とこのプラードという人物にある意味縁というものを感じていた。

自分の力が、一つの国のため役に立つというのなら力を貸すのはやぶさかではない。


「……君も情報を得られるといいな」

「こんなところで見つかるとは思っていないけどな」


現在マールはアダムにさらわれている。

どういった理由で攫われたのか、はっきりとしない。

それだけが不明瞭。

意味がないことはないのだろう。

何かしらの意味がある。

多眼の竜は、そういうことを言っていた。

人間の少女と会わせろと。


どのタイミングで、アダムがマールを使用するのか。

それがこのタイミングであった場合。

その時自分は後悔するだろう。


「おい、何話してんだよ」

「骨折りかよ。いきなり来るんじゃない」

「つれないな。いいじゃないか」


プラードと話をしていると、骨折りがやってきた。

彼も話に混ざりたい様子だ。

後ろにセーリスクが立っていた。

彼は気まずそうにこちらに立っていた。


「セーリスク君。君もいたのか」

「はい。プラードさん。お久しぶりです」

「そう固くなるな。再開を悦ぼう」


四人は再び再開した。

一か月にも満たない短い期間だったが。

こうして別の土地で会えることはうれしいものだ。

お互いの顔をみて笑っていた。


そんなとき、プラードがある人物の名前を口にする。


「銀狼とは会っていないな?」


それは、反乱軍リーダ銀狼の名前。

鼠の蚤と同じく、軽くしか知らない人物だ。


「ああ、そうだが」


イグニスは、銀狼とは会って話をしていない。

彼と会うことができるのならすぐにでも話をしたいのだが。

しかしここにはその本人はいない。

どこかにでもいるのだろうか。


「それじゃあ。話をしよう」

「どこにいるんだ?」

「すぐにでも来るはずだが……」

「すまない。遅れてしまった」


そんな時、地下室の上から階段を下りこの部屋に入ってくる人物がいた。

それは狼の獣人であった。

イグニスは、初めて銀狼という人物とあった。

その人物は、ワイルドという言葉が似あう人物であった。

あらゆるものごとが成熟しきる時期。

少しの衰えが見える時期。

そういったものでさえも、彼は雰囲気として纏っていた。


「初めまして、イグニスとセーリスク」


彼は、二人に挨拶をする。

自分たちの名前は、骨折りたちから聞いていた様子であった。


「ああ」

「初めまして」


イグニスとセーリスクもまた返事を返す。

同時に彼の実力というものを計っていた。


少なくとも、セーリスクよりは上の実力の持ち主だろう。

コ・ゾラより強いといわれるとそれは微妙だ。

突破力より安定性。

それに優れていそうだ。


「反乱軍のリーダーとして、君らの貴重な戦力。その手を貸してくれること感謝する」


後ろには、鷹の獣人と牛の獣人が立っていた。

飛鷹という人物と角牛という人物だろう。

そして鼠の蚤の傍にも、豚の獣人が立っていた。

彼が香豚か。

これで、全員。

獣王国反乱軍の主要なメンバーということか。

見ている感じ戦力不足というものは感じない。

亜人である自分は、獣人の戦い方というものを把握しきれていない。

だがそのうえでも、彼らの戦力というものは十分に感じた。


ひとり鼠の蚤は、戦力に値しないが。

だが彼はそもそも、戦闘向きの能力を持っていない。

その汎用性の高い能力は、戦いとは別の場所で生かせることだろう。


「セーリスクです。よろしくお願いします」

「ああ、ありがとう」


セーリスクは、銀狼に握手を向け自身の名前を告げる。

やはりしっかり自らの口で、名前を伝えるのが礼儀というものか。


セーリスクの握手に対し、銀狼はしっかりと返していた。

イグニスも同じく、名前を告げる。


「ああ、イグニス・アービルだ。よろしく頼む」


イグニスは、自身の名前をしっかりと告げ彼に握手を向ける。


しかし銀狼の顔が、イグニスの名前を聞き歪む。

正確には、名前のアービルという部分を聞いた瞬間に。


「……アービル?」


彼は、再び複雑そうな顔をした。

難しそうな顔をして、こちらを向いていた。

彼は、一つの事項というものに対し疑問を抱いていた。

決して嫌悪感というものではない。

ただ彼の中に一つのつまりが生まれた。


「……ああ?そうだが」


イグニスはなぜだろうと考えた。

しかしその疑問が理解できた。

彼は、自身の苗字に疑問を持っているのだと。


「……偶然か。いや違うな?」


偶然?

何の話だろう。

確かに、この世界の苗字はその一族の成した功績によって付けられることがある。

【ウィダー・シャリテ】の【シャリテ】。

【エリーダ・シエンシア】の【シエンシア】。

このように、一族の名前は何かを表す。


【イグニス・アービル】の【アービル】は技巧を表す。

これは、創作物でなにか偉業を果たしたのだ。


ペトラも過去に一族の名前というものを持っていたらしいが豊穣国に入ったとき捨てたらしい。

ともかく、その一族の名前はあまりかぶるということは少ない。

それに小さな偉業、大きな偉業様々であるためその名前の意味をそこまで気にしない。


「どうしたんだ。銀狼」

「ひとつ聞きたいことがあるんだが。これは問い詰めるわけではない」



彼は、すこしためらいながらもイグニスに質問をする。

その気配には敵意というものがなかった。

そのためイグニスは素直に顔を向いて聞いてみる。


「この名前を知っているのか」

「うん。俺の知っているアービルという人物は、海洋国出身の老人の男性のはずだ。孫か?」


銀狼は、自身の名前である【アービル】という名前を知っていた。

なぜだろう。

彼が、獣王国出身でそのまま反乱軍に属しているのならアービルと知り合っているはずがない。


「いや違う。養子のようなものだ」


イグニスは、その疑問を即座に否定した。

アービルという名前は、その銀狼のいう人物に与えられた名前。

騙っている名前ではない。

そもそも苗字を騙って得られるメリットはほとんど存在しない。

自身は、その人物に恩義を感じているからこそこの名字を名乗っていた。


「養子か。なるほど。彼であればあり得るか……」


彼は、イグニスの返答に対して納得をしていた。

なにかしら彼との繋がりがあるのだろうか。


「銀狼はどこで彼と知り合ったんだ」


イグニスは、アービルと知り合っている彼に興味がわいた。

そして彼はこう語る。


「偶然のようなものだ。飯を食わせてもらった恩義という……のかな」

「なるほど」


アービルは、自身が法王国を抜け出して海洋国に逃げたとき。

その時に命を救ってくれた恩人だ。

銀狼も、似たような経験があったのだろうか。

イグニスの知っているアービルという人物であれば納得はできた。

そのような人物であれば、確かに銀狼も救っている。


「そうか……彼は元気か?」


彼は、心の片隅に思い出を浮かべながらそう語る。

しかし海洋国から機兵大国に逃げて以降。

彼との連絡はうまく取れていない。


「俺も今は知らない。元気にやっているんじゃないか。俺が最後に会ったときは元気だったよ」

「それならいい」


イグニスが最後にあったとき元気だったという話をきいて、銀狼はほっとしていた。

彼はアービルという人物を心配していたのだろう。

そんなことを考えていると、ふとアービルに会いたくなってきた。

この戦いが終わってマールを取り返せたらいつか海洋国にいってその老人に会いに行こう。

そう思った。


「話を変えてしまってすまないな。本題に入ろう」

「ああ」


今回の話は、獣王との戦いに関するもの。

時間には余裕はあるが、遊んでいる余裕はない。

本題に入らなくては。


「現在の獣王の動きは?」

「数週間前から変わらず。王城の上部。そこの付近から全く動いていない」

「王城の構造はどうなっているんだ」

「三つの建物から成り立っている。そこに橋が架かっている形だな」


複雑な構造になっていない様子であった。

飛鷹が、その王城の図形のようなものを用意する。


初めてそれを視認する自分でも、覚えられるくらい単純明快な形。

迷ってしまうことはなさそうだ。


「獣王がいる建物はどこだ」

「まあ、真ん中の建物だ。獣王国の紋章が彫られているからわかりやすい」


建物はいくつもあった。

武器庫や、火薬庫。

ある程度の施設は、王城付近にまとまっている様子だ。


なるほど、現在の獣王の位置。

そして建物の構造というものはある程度把握できている。

場所に関しては、警戒する必要もないだろう。

あちらも毎日王のいる場所を変えてはその分隙というものも増えてしまうはずだ。

王の隠れる場所はそこまでないと考えていい。


そしてもうひとつきになることがあった。

それは兵士の戦力。

獣王国の兵士は、アンデットに変化しているものも多くいるがそれでも全員をアンデットに変えるなんて愚行は起こさないだろう。

そして戦力として把握することは間違ってはいない。


「兵士の数は?」

「かなり減っているな。それがアンデット化によるものなのか、単純に国を出たのか判別はできていないが」


アダムと獣王の判断次第か。

単なる兵士が、獣のアンデットのように変化していた場合。

戦力差というものは変わってくる。

そもそも獣のアンデットというものの個体差が激しい。


「アンデットが出た場合の対処はどうする」

「反乱軍の一員に対処をお願いするが……単なるアンデットではない個体もいるのだろう」


銀狼は、獣のアンデットのことを知っていた。

確か、獣のアンデットは獣人がアダムによるアンデット化によって生成されたものだったか。

獣王国などそれを生み出すのにぴったりの場所だろう。

表面上の戦力が均等だからといって油断できるものではない。


「ああ、豊穣国では獣のアンデットという個体を討伐した。その戦闘力は、個体差はあれど一般的な兵士では太刀打ちできない」


プラードは冷静に獣のアンデットに対する評価を下す。

特に目立った獣のアンデットは四匹のみ。

豊穣国豊穣を責めた個体。

多眼竜、シェラザードと共に骨折りを追い詰めた個体。

それ以外は、特に強いという印象を受けなかったという。

獣のアンデットには個体差がある。

それを目視で判断できないのは、あまりよくはない。


「なるほど……ここで反乱軍の一員の命をなくすのは惜しい。今後を考えて逃走させることも視野に入れたいが」


銀狼は、絶対負けるという戦いに戦力をあまり投下したくはない様子であった。

それもそうか。

むやみに戦力を失うと今後の戦いで不利に回る可能性が高い。


「……せめて時間稼ぎだな。今までの傾向で、普遍的な戦力に強めのアンデットを充てるとは考えにくい。セーリスク。君には獣のアンデットの対策を任せたいがいいか?」


しかし現在獣王国の兵士と反乱軍の戦力はなんとか均等にもっていけている形だ。

これ以上減ったら、こちらが不利になる。

しかし逃げるなとはいえない。

彼らの戦力にお願いできるのはせめて時間稼ぎで精いっぱいか。

獣王討伐には、時間制限がありそうだ。


「はい。わかりました」



セーリスクは、少しの不服を持ちながらもプラードの頼みに応じる。

自らの願望というものを優先し、状況を不利にするのは幼稚だと考えたためだ。


「君がある人物との決着を望んでいることは把握している。だがいまは我慢してほしい」

「……はい」


プラードも、ある程度知ってはいる様子であった。

しかしそれ以上は言及しなかった。

セーリスクのことを信頼しているということか。


「香豚。お前も頼む」

「わかった」


銀狼も、同じく香豚に指示をだす。

獣のアンデットへの対策は、セーリスクと香豚でするようだ。

この二人であれば、遅れをとることはないと考えたのだろう。


「よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ。期待している」


人格的な不一致はなさそうだ。

獣のアンデットは二人に任せることにしよう。


「……ここでこちらからあるひとつの情報を開示しようと思う」

「なんだそれは?」


プラードがあることを話す。

それは、豊穣国のメンバー全員がそろった場合話すと決めていたこと。


「現在、豊穣国は獣王国と戦争をしている状態だ。そしてその間にはある戦力が混じっている」

「……ある戦力とはなんだ」

「謎の人物としかいいようがない。アダムと自身を名乗る男。そいつは【人間】だった」

「……人間だと……??」


飛鷹、角牛や香豚。

そして鼠の蚤の顔つきが一気に変わる。

唯一変わりなかったのは、銀狼だけであった。


「なぜ人間が、獣王と手を組んでいる。それに男だと!?」

「……待て。落ち着け。香豚」

「落ち着けと?落ち着いていられるか。人間は、獣人にとって憎むべき存在のはずだ」

「それより先に聞くべきことがある。なぜこのタイミングで話した」

「……ひとつは、豊穣国の戦力全員がそろったほうがいいと判断したため。ふたつはぎりぎりにすることで。この反乱というものを中止になる可能性を避けたためだ」


理由は、ほかにもいくつかあるが主な理由はそれであった。

準備がある程度進んでしまえば、彼らはやめることができない。


人間に強い恨みを持っている獣人がどのような判断をとるのか。

そういったものを考えることができなかった。


「なるほどな。いまここまで聞いてしまえば、俺たちは引けない」

「ああ、すまない。とれる手段がこれだけであった」

「……その人間ていうのは本当に男なんだな」

「ああ」

「骨折りが、人間の少女をさらったのは知っている。それとの関連性はかなり強いと考えているが」

「いや……それは考えられるが、アダムという人間は人間の少女に現在それほど関心を持っていない」

「つまり人間の少女と獣王国との戦争。それらに、因果関係は少ないと」

「ああ、私たちはそう考えている」

「……お前らどうだと思う」


銀狼は、後ろにいる四人に話を聞く。

仲間からの思考というものを取り入れたかったからだ。


「……いまここでプラード様が嘘をつくとは思えません」

「それに【人間の少女】。その問題がなくとも、獣王が戦争を仕掛けていたのはどちらにせよあったのでは」

「だよな……」


しかし結論は、人間の少女をさらっていなくても戦争という事態は起きたのではないかという事実。

そういったものであった。


「……人間の少女は元気なのか?」

「ああ、お前らの知らないところですくすくと育っているよ」

「それはよかった……なんて言えるような立場ではない。人間と獣人。その過去に固執し、あのような幼い少女を助けなかったのは俺らの失態だ」

「気にするなよ。結局は俺が助けた」

「そうか。すまない」


銀狼は、骨折りに対して謝罪をする。


きっと彼らも、獣人として人間との過去を持っている。

その中で、無理やり納得するしかなかったのだ。

多くの住人が人間の少女に罪を持たせることを。

殺すことによって、その罪をすべて消そうとしていた

忘れようとしていた。

だからこそ彼らは人間の少女を助けなかった。


半獣の少女であるマールと重ねてみるとどうだろう。

自分はいまここで暴れていたかもしれない。

骨折りはどういった感情をいだいているのか。


それに彼女は、本来死刑というところまでいっていた。

その結末に至るまで反乱軍の誰一人として助けの手を向けることはなかった。


その事実。

結局は、こいつらも獣人であることには変わりない。

イグニスとは違って。骨折りは、そのような考えに落ち着いていた。



「そうだ……ひとつ聞きたい」

「なんだ」

「人間の少女。その死刑に関することだ」


骨折りは、その時気になっていることがあった。

あの瞬間。

人間の少女の死刑において、場にいたと思われる反乱軍メンバー。

それらに聞きたいことがあった。


「……こちらの把握していることは少ないぞ」


しかしそんな銀狼たちであっても現状知っていることは少ない。

骨折りは、彼らに何を聞きたいのか。


「それでもいい。あの時、人間の処刑の時。獣王は多くの住民を集めて何かしようとしていた。そのなにかを知っているか」

「……いやわからない。それは初耳だ。しかし納得できることがある」

「……納得できること?」

「あの時、あの異様な雰囲気。それに惑わされて多くのものが気づいてはいなかったが、あの周囲には永銀のにおいが強く感じた」


その瞬間、骨折りのなかの何かがひどく動いた。


「なんだと……」

「ああ、骨折り。お前の介入で不発に終わったのだろう。だが、それ以降だ。永銀によるアンデット化が増えたのだ」


やはりあの処刑には意味があった。

獣王が人間の少女を見世物にし、多くの住民を集めたことには意味があったのだ。


「また……人間の過去と同じことを。その罪にあの子に擦り付けようとしたのか……?」


骨折りは静かに怒りを持っていた。

確実にキレていた。

人間の罪。

それはこの世界においてアンデットを生み出したこと。

それによって【人間】は滅んだ。

しかしアダムと獣王は再びそれを再現しようとしたのだ。

彼女にすべての罪をなすりつけることによって。


「獣王は殺す」

「おちつけ、骨折り。お前があの少女に親心というものを持っているのは知っているが今は冷静になるべきだ」

「……そうだな。すまない」


プラードは冷静に、骨折りをいさめる。

最も大きな戦力である彼が勝手に動いてしまってはこれからの行動が破綻する。

それはあってはいけない。



「そのアダムとかいう人間の男。そいつの戦力は?」

「亜人が二人のみ。ひとり獣人だったがそいつは始末した」

「亜人が二人ね。負担に感じる量ではないが、警戒しておこう」

「その亜人の片方は【獣殺し】だ。警戒は万全にしておけ」

「獣殺しが、人間の配下か、ややこしくなってきたな」

「獣殺しであれば、獣人での戦闘は絶対に避けたい。そちらの亜人である三人で対処をお願いできるか」

「ああ、もちろんだ。獣人では彼には絶対に勝てない」


獣殺しという単語を聞いて、セーリスクがピクリと反応するが何も言わなかった。

同じく鼠の蚤も、反応しているがそれは自身の魔法を酷似する影響からだろう。



「獣王の配下における警戒すべき人物はひとりだけだな」

「ああ、国宝級の所持者だ」

「そいつは骨折りで止めるとしよう」


国宝級所持者桂馬。

彼は、骨折りで止めると話は一致していた。

国宝級の農協の強弱というのは読みにくい。

だからこそ確実に勝てる骨折りで倒すべきだろう。


「プラード。これ以上俺らに隠している情報はないな」

「ああ、人間がもうひとりいる。それ以上に秘密な情報なんておもいつくか?」

「いやないな。あったらそれこそ泣けてくる」


今回は、天使のことは話さないことにしよう。

天使が介入してくる理由は、主に自分のせいだ。

もし現れたとしても自分がその現場から離れれば気を引くことができる。

これ以上情報を増やすことによるメリットは少ない。


「これで、情報共有の時間は終了だ。戦いは数日後。獣王国王城に!」


銀狼が大きな声で宣言する。

それは彼なりの決意の表明であった。


「俺たちの未来はここから始まる。友よ。そして戦友よ。われらの愛するもののため。守るべきもののため。命を尽くし。勝利をつかもう」


その眼には未来が移っていた。

彼らの未来は、勝利から始まる。

獣王との闘い。

それは今この瞬間から始まっていた。



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