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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
四章 獣王国進撃編
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三十二話「第七位ラミエル」


そんな時、見えないはずの三人に声をかける者がいた。

その声は非常に明るさというものを持っていた。

三人は、その声の持ち主に視線を向ける。


「せーん!ぱっい!楽しそうだねえ。混ぜてよ」

「えっ」

「僕ら以外に周囲に人はいませんよ。見られている?」

「そう、先輩だよ。先輩」


人をからかうような。

しかしその中に親愛が込められたような。

そんな声が耳に響く。


目の前の彼女は、三人に確然たる歩みを進めていた。

彼女は、確実にこちらを認識していた。

その指は、イグニスのほうへ向けていた。


焦りが、三人に染み渡る。


「なぜ……!なぜ??」


その中でも、鼠の蚤は自身の魔法をうち破られたことに焦りを持っていた。

信頼感が崩れたのだ。


目の前にいたのは、金髪に黒色が走るような髪型をした女性。

法皇国の制服を改造した独特な服をきた彼女は、イグニスに手を振り話しかける。


イグニスは、最初はだれだろうと思った。

その人物の顔を知らなかったのだ。


しかし今現時点焦りと警戒心を最大にしていた。

法王国の追手だと。

なぜこのタイミングでという疑問もあった。

今捕まるのは本当にヤバイ。

しかしこの場に二人を置いていくこともできない。

この二人が、法王国の戦士によって殺される可能性もある。

だからこそ自分だけがここで逃げるという選択をとることができなかった。



セーリスクもその様子をみて不思議に思う。

イグニスが全く動いていないのだ。

自分がどのような対処をとればいいのか。

想像ができなかった。


鼠の蚤も同様であった。

イグニスは豊穣国での亜人のはずだ。

そんな彼女は、獣王国での亜人の友人を持っているはずがない。

しかも、あの亜人には獣王国で育ったというような同郷の気配を感じない。

清廉すぎるというかきれいすぎるというか。

ともかく彼女は獣王国の出身ではない。

そんなことがわかっていた。


そういったいくつかの疑問が湧いていた。


しかしその金髪の亜人に軽快さ。

それがそれらの疑いをさらに絡ませていた。

彼女はいったいだれだ。


セーリスクはイグニスに問う。


「知り合いですか?イグニスさ……」

「セーリスクさん!駄目です!」


鼠の蚤は、イグニスに問うことをやめさせる。

そんな暇はない。

彼女が近づいている。

そして、なおかつ彼女は自身の魔法を看破している。

どう考えても、疑う要素しかない。


「え……っ」


セーリスクは、イグニスの顔をみて驚いた。

それは普段の彼女の様子からは想像できないほどの驚愕であった。

顔が青くなっていた。

少なくとも通常の思考というものを失っているだろう。


イグニスは普段の平静という物を失っていた。

イグニスは彼女がだれか知っている。

それはここにいてはいけない人物であった。


「そんな……そんなはずはない」

「イグニスさん?」

「セーリスク!!鼠さん!逃げるぞ!!」


それは、イグニスの最大限の焦り。

イグニスは、遅れた思考で全力で逃げようとしていた。

その声に、セーリスクは戸惑いを見せる。

鼠の蚤も戸惑いによって反応が鈍っていた。


「鼠!!魔法を頼む!」

「あっ……は」


そしてそれは致命的だった。

鼠の蚤は、魔法の詠唱を素早く簡潔に発声しようとした。

逃げるための魔法だ。

自分の魔法は誰にも認識できない。

そんな自信がすべて崩れた。


その瞬間、鼠の蚤の前には金髪の亜人が現れていた。

高速の移動だ。

視界にとらえることができないその移動。

それを理解することができなかった。



「遅いよ」


電撃が走った。

脳裏に雷が想像される。

それは神の怒り。

法王国にとって雷とは偉大なものであった。

知識神を信仰する法王国は雷を恐れていた。

それは、彼らの神は雷を扱う神によって一度食われたからだ。


この世界に雷を再現しようとする魔法はなかった。

それはこの世界において禁忌とされるものだから。

しかしこの世でただ一人それが許される亜人がいる。


それは雷の魔法。

鼠の蚤と、セーリスクはその攻撃によって全身のしびれを感じた。

動くことができない。

息すらまともにできなくなっていた。


その人物のたった一撃。

それだけで二人は地に伏し行動が不可能になっていた。


「あ……ああ」


眼と口を広げるので精いっぱいだった。

思考は動いているのに、体だけが不自由になっていた。

これはなんだと、二人は理解できなかった。

雷というものを扱えることを知らなかった。

雷というものを知ってはいても、電撃の存在を人は知らない。


この魔法を使えるのはこの世界でただ一人のみ。

それは法皇国の天使第七位。

「神の雷霆」ラミエル。

天使の一人が目のまえに存在していた。


「なぜだ……なぜ七位がここにいる!」

「先輩……そんな悲しいこと言わないでよ」


ラミエルは悲しい顔をしていた。

それはあることに対する悲しみであった。


「悲しいこと……?」

「名前で呼んでよ??ねえ、先輩」


同じ天使であり、仲のいいはずのイグニスが自身の名前を呼んでくれなかった。

それだけで、彼女の心の仲は悲しみに包まれていた。


「ちっ……ラミエル……」

「はい、先輩」


言葉の語尾にハートマークがついているような。

そんな言葉で、ラミエルは語る。


これは嘘偽りの口先だけの言葉ではない。

彼女は心底イグニスという存在に惚れているのだ。

イグニスを崇拝し、尊敬している。

それが第七位ラミエルという人物であった。


「四位と五位にはあったんでしょ?なんで私のことは呼んでくれなかったんですか」


確かに、四位と五位。

ウリエルとラグエルとは話をした。

しかしその場には、彼女はいない。

そしてこの二人も、あの場での話を他者に話すような人物ではない。

では、なぜ彼女は彼らと会っていることを知っている。


「なぜお前がそのことを知っている」

「私の情報網舐めないでよ。先輩」


彼女は、ベロをだして子供のような無邪気な顔をしていた。

確かに、彼女であれば自分ですら知らないような情報を手に入れる手段というものを知っているかも。

しかし天使と自分の会合。

その事実を知ることのできる能力をイグニスは数人しか知らなかった。

そしてそのうちの一人は、【天使】だ。

そしてそいつは自分のことを嫌っている。

どうせだ。聞いてしまおう。


「サリエルは知っているのか?」


第六位サリエル。

彼は、自身の能力と所持している【国宝級】の能力を組み合わせることができる。

それによって情報を得る手段というものに優れていた。

イグニスはラミエルが、サリエルによって情報を得たのか聞いてみる。


「ううん。サリエルは先輩のこといま一番嫌いだから知っていても極力無視するとおもうよ」


しかし彼女はそれを否定する。

そのうえ、サリエルはイグニスに対し関心を持たないようにしているようだ。


「は?」


イグニスにとってそれは意外なものであった。

サリエルという人物は、本当に自分に固執していた。

ウリエルの話でも、そのことは変わらないと思っていたが。

なにか心変わりするものでもあったのだろうか。


「えっとね、今はサリエルにとって先輩はどうでもいいみたい」

「どうでもいいだと?」


あれほど、自分というものに固執していたサリエル。

そんな人物が一気に関心をなくす?

あり得ないとイグニスは感じた。

そしてそのことになにか違和感を持った。

サリエルは、豊穣国関連で動き出しているのではという推測が働いた。


「そんな怖い顔しないでよ。せっかくのイケメンが台無しだよ」

「どういうことだ。話せ」

「今の言葉遣いも好きだけど、私は前のほうが好みだったな……。えっとね。サリエルには今の先輩よりも優先するべきことができたみたい」

「なんだそれは」

「うーーーん。ごめんね、さすがに先輩でも話せないや」



やはりだ。

自分が知らないとこ。

知らない部分で、天使が暗躍している。

彼らは、なにかを起こそうとしている

イグニスの中で、確信に変わった。


「こっちは力づくで……きいてもいい」


剣を抜く。

想定とは違ったが、攻撃はすでに行われている。

暴力で、無理やり黙らせてやる。

イグニスのその剣が、光を受けて輝いた。

いつの間にか眼光も鋭くなっていた。


ラミエルの体は、細かく震えていた。

喜びや期待で興奮し、震えていた。

ゾクゾクと、そんな擬音が体に走った。

彼女は心底イグニスのことが好きなのだ。


記憶の脳裏に住んでいる天使の時のラファエルと映像が重なる。

ああ、やはり彼女はあの時と変わっていない。

弱くなっただなんて嘘だ。


彼女のその鋭い視線を体感しその体は悦んでいた。

思わずその体を抑える。

ダメだ。いまではない。

今気持ちよくなってはいけない。


恍惚の表情を彼女は浮かべる。


「先輩たら大胆。でもそれベットの上で言ってくれないかな?」

「なにを……」

「がっ……」


セーリスクと、鼠の蚤の体には更に強い電撃というものが流れていた。

燃え尽きるほどではないが、体には強い負荷がかかっている。

彼らが、気絶する前に止めなくてはいけない。


彼女は、会話の中で魔法を一切緩めていない。

どんなに油断してそうな見た目だろうが彼女も【天使】のひとり。

甘えをみせるような人物ではない。


「後ろの人質君忘れていない?薄情だねえ」

「……すまない。やめてくれ」

「そうそう、それでいいんだよ。私も先輩とは戦いたくないしね」


ラミエルは満面の笑みで、そう語る。

その顔は、若干の赤みを保っていた。

彼女がイグニスと話すことができてうれしそうだ。


「お前の目的はなんだ」

「目的なんてないよ。先輩と話したかった。それだけ」

「面倒くさいやつになったなお前は」

「先輩は昔よりかっこよくなったね。今も好き。昔はもっと好きだけど」


戦闘を開始しようとした。

ここで、ラミエルから情報を引きだせればなにが進展するかもしれない。

そんなあやふやなものに賭け武器を抜くがそれどころではなかった。


「それに先輩少し焦っている。珍しいね」

「ちっ……」


こいつと話していると話が進まない。

それに心の奥底に入られている気がして気持ちが悪い。


「ひとついいことを教えてあげるよ。先輩」

「……なんだ?」

「アダムとつながっているのは天使だけじゃない」

「!?」


ラミエルの口から、アダムという単語が出ている。

やはりそうだ。

天使たち全員はアダムのことを認識している。


「先輩はこれを言えば伝わるでしょ?」

「ああ……」


最悪の想像だ。

天使のひとりが、アダムとつながっている。

そんな憶測は心の奥底にあった。

しかしそうではないのだ。

天使ではない。

それ以上のあるひとりがアダムとつながっている。


だからこそ、指示系統の違いで多眼竜とミカエルは戦うことになった。

それは法王国において一番アダムとつながってはいけない人物。

その答えをイグニスは信じたくなかった。


「なんでミカエルが先輩にたどり着かないのか。それぐらい察してよね」

「お前……!」


ミカエルのことを話に出された。

嗚呼、彼女もこのことに関与しているのか。

そして彼女が苦しむ原因は、お前なのか。

そう思った瞬間、なにかがあふれそうになった。

しかしあることによって停止させられる。


「もう!後ろの彼のこと忘れてない?」

「イグニスさ……ん」


この瞬間もセーリスクと鼠の蚤は人質だ。

手は出せない。

雷の魔法が段々と段階をあげて強まっていくのを感じた。

ダメだ。

ここで手をだしたらこの二人は死ぬ。


「……!やめてくれ!!」

「先輩。大好きだよ。だから頑張ってね」


彼女はイグニスの頬にキスをした。

それは、怒りも嫉妬もない純粋な愛情であった。


そういって、第七位ラミエルは嵐のように去っていった。

天使の羽のみが、その場にひらひらと落ちていく。

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