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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
二章 異物の少女
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八話「一時の休息」

訓練場から出た三人は、シャリテの屋敷へと向かっていた。

その道には多くの人種で賑わっていた。

多くの人の楽しそうな会話で、マールの心は踊っているようだった。

その目は輝いていた。

シャリテの屋敷は大通りの、横に逸れた道の先にあった。


「人が多いな、それに様々な種族も…中立国の評判というのは本当なんだな」

「移住とかに対する考え方も寛容だしな。能力は高く求められるが、亜人の国の大臣の屋敷に働いている獣人なんかもいるぞ」

「妖精族はいるのか?」

「彼らはそもそも森や海、火山帯からの自然な環境を好んでいるからな。俺みたいな商人が資材目当てで出会うぐらいかな。この国にすら珍しいぐらいだ」

「私みたいな人はいるのかな?」

「半獣の人に会うことはできないよ。その理由は君も知っているだろう?」

「そっか…残念だな」


 その顔は下を向いているが、顔を見なくとも落ち込んでいることははっきりと分かった。

半獣という種族は厳密には存在はしない。そもそも半獣は亜人と獣人のハーフだからだ。

だからこそ、二つの種族の武器を扱うことができない半獣は嫌悪されなきものとして扱われる。たとえそれが奴隷として扱われても文句のいうことはできない。

この世界で最も人間に近いものそれが半獣なのだ。


「まぁ、ともかくその理由を知る人は少ない。半獣自体を差別する人はいないよ。だが半獣であることを明かすことはあまりお勧めしないかな。」

「それは…」

「獣人が一番であることを信じ切っている【獣人至高思想】の獣王国と、混ざりものを嫌う【天使信仰】の法皇国のせいだろ。」


獣人至高思想、天使信仰。

この両者に共通するのはこのどちらも自国が一番優れているという考え方であった。

獣王国は獣人がこの世でもっとも優れた肉体を持ち、

この世界で優秀なのは獣人であるとしている。

獣王国が人間を毛嫌いしているのはそういった事情もある。

法皇国は中立国の左上ほどの位置にあり、亜人が多いといった特徴がある。

そして同時に宗教国家でもある。

信仰しているのは天使。

すべての人種が天の使いの元では平等でありそれは平和だという信仰である。

特色として亜人の中でも天使と同様の外見をした人物をを天使が下りたという表現をし

死ぬまで祭り上げ信仰の対象とする。

国の上層部ほどその宗教での強い権限を持ち、

同時に天使を守護するものとして強い戦闘能力を持つ。

この二つの国はここ数十年で国力を確実に増しており、周辺国を飲み込む勢いだ。


「そうだな。半獣というのは人間ほどではないにしろ、この世界では嫌っているものが多い。明確な差別はないにしろ、血統を重んじる国では嫌悪感を出されるだろう。二人がこの国にまで来たのはそれが理由だろう?この二国は半獣の存在自体を排他している。しかし中立国付近を通るとしたらこの二つの国のどちらかは絶対に通ることになる。半獣のマールちゃんと亜人のイグニスが親子や姉妹の関係だとは到底思えない」

「俺もこの子を守るので必死だったよ。まぁ見た目で半獣なんてばれることはそうそうないんだけどな」

「さっきの謎の竜のこと、アンデットの大量発生。そしてマールちゃんのこと含めて俺の家で話そう。」

雑踏の中話をシャリテ達の話に注目するものなどいないが、

細かい詳細まで聞かれてしまうのは困る。

シャリテは話を締めくくり、二人を自らの自宅へと案内するのだった。


「ご主人様、お帰りなさいませ」

シャリテの屋敷に入ると執事がシャリテに感動しながら迎える。

「いつもより帰りが遅かったのでメイドと共に心配したのですよ」

「すまないな。心配をかけてしまったようだ」

「いえいえ、ご無事なら何よりです。そしてそちらのお二方は客人でしょうか?」

「そうだ、この二人には長い間この家に住んでもらうことになる。不満か?」

「ご主人の申しつけなら不満などありません。友人でしたら尚更です」

「執事さん、ご迷惑をかけてしまって申し訳ないです」


イグニスはこれからお世話になるであろう執事に挨拶をする。

シャリテの顔を汚さない為か、その口調はかなり丁寧だ。

気のせいだろうか、口調だけでなくその所作やしぐさだけでも上品であった。


「そんなに気にしなくてもよろしいのですよ。私は雇われの身ですから。ご主人さまの御友人を最大もてなすのみです。」

「そういってもらえて有難いです。私の名前はイグニスです。ほらマールも挨拶をしなさい」

「…マールです。よろしくお願いします……」


 マールは照れながらも執事に挨拶をする。

その顔は普段の桃色のような頬が軽く赤くなっていた。

執事はその挨拶が嬉しかったのか満面の笑みだ。


「おやおや、可愛らしい素敵なお嬢さんだ。貴方は優しい姉君様に大切に育てられたのですね」

「アカンサス、すまないがこの二人は長い旅路で疲れている。悪いが風呂を入れてくれないか。」


 この初老のお執事の男性はアカンサスというようだ。

馴れた動きで、シャリテの言葉に反応しメイド達に指示を出す。


「そうですね申し訳ない。ではお二方、風呂場までメイドに案内をさせます。」

メイドが二人隣の部屋から現れ、イグニスとマールにお辞儀をする。

「ここからのご案内は私たちがいたします。お気になさらずなんなりとお申し付けください。イグニス、マール様」

「そんなに丁寧にしなくても…」


イグニスはなおさら戸惑い始める。

そんなイグニスに気が付いたのか、シャリテはこう告げる。

「イグニス気にするな。お前は俺の客人だ。この家の家主、そして彼らの雇い主だ。堂堂とこの家を楽しんでくれ」


シャリテなりの気遣いもあるのだろう。

イグニスはそれを素直に受け取り甘んじた。

シャリテの好意を無碍にするわけもいかない。

なによりマールが安心できるものを今はふやしてあげたい。

そうイグニスは考えた。


「そうだな、気を付けるとするよ……」

「では風呂場に案内いたしますね。大きなお風呂なので二人でのんびりできると思いますよ」

「お風呂たのしみだね!」


 マールはお風呂という言葉に反応して喜んでいる。

メイドはそれに対し、可愛らしいなといった様子でクスっと笑う。


「イグニス様は亜人でしたね。魔力調節はお上手でしょうか?」

「自信はありますが……」

「この国ではお風呂に、温度調節用の火力魔法陣がついているんですよ。きっとお気に召すと思います!」


魔法陣は先ほどでてきた、魔法道具に書かれていた文字を円型として

作用する道具や物に書き込む陣だ。

この世界では基本的には亜人しか使用することはできないが、

中立国などの亜人や、獣人が共生する国では庶民にも用いられる。

しかし世界共通の一般にはコストが高いため使うものが少ないというのが現状だ。


「凄いですね。この国は」

「できることを最大限生かすという国の思考もありますからね。近くの国でも予算に余裕がない国や、魔法に頼ることを嫌う考え方もおおいので広まらないとは思います。だたシャリテ様はそこを商機だと思い率先的に自宅につけたという感じですかね。私たちもとっても助かります」

「メイドさんも他の国から…?」

「ええ、恋人と駆け落ちしてこの国に。雇ってもらえるか不安でしたよ」


やわらかく笑うメイドはとてもかわいらしかった。


「さて、お風呂場につきましたよ。タオルと、服はこちらで用意しておきますので。現在お召しになっている服もこちらで洗濯をしておきますね」

「ありがとうございます。」

「いえいえ、仕事ですから。それではお楽しみください」


メイドはお風呂場の手前の部屋から落ち着いた様子で出ていった。

シャリテという人物はここでも余程信頼されているようで、いきなりこの家に連れてきたイグニスとマールの様子を見てもなんら疑いの心を感じなかったのだ。


「それにしても、この国はほかの国と比べると平和ボケしているよな……」


イグニスは小さいころより住んでいた国のことを思い返した。

その場所はなにより自分が自分でいることが受け入れてもらえなかった。

あの国はどこにいても、何か息苦しくて生きている心地がしなかった。

あの国にいられたのは、憧れと支えその二つになってくれた存在がいたからだと

イグニスは考える。


「平和なことはいいことじゃないの?」


 マールは純粋にそう尋ねる。

マールは知らない。

贅沢なことだが、丁寧に整えられた場所でも苦しみを感じることはある。

だがイグニスはこの子に伝えるのはもう少し後でもいいだろうと考えていた。


「平和なことを羨ましくおもう人々もいるんだよ。そしてそれは戦争を生むことすらあるんだ」

「今はもう大丈夫?」

「うん、この国なら大丈夫だよ」

「良かった……また怖い人がくるのかと思っちゃった」





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