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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
二章 異物の少女
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七話「青年の解氷」

「……イグニスさん」

「おや? 女性呼ばわりは終わりかな」

「からかうのはやめて下さい……僕の負けです。先程は失礼な発言申し訳ないです」


そうセーリスクはイグニスに対し、頭を下げる。

そこには心からの謝罪が溢れていた。

大人顔負けの体格と技術を持っておきながら、その心根は純粋のようだ。

イグニスは負けを素直に認めたセーリスクに感心した。

そんな二人に、シャリテと門番は駆け寄り声をかける。


「実力で人を見るのも、先入観で人を見るのも関心しないな。セーリスク君」

「シャリテさん‥‥‥すいません。」


 シャリテはセーリスクの悪いところをそう指摘する。

今までのセーリスクの態度は余程表面に現れていたようだ。

そしてセーリスクは自らの未熟さに気が付いたようで改悛の念にとらわれる。


「俺のこと利用したんだろ?」

「彼がいたのはほぼ偶然だった。しかしイグニスほどの実力があるなら、優位に立ちながら勝つことができるだろうと考えたまでだ」


 シャリテは自分のかんがえていたことがうまくいったようで、

まるで悪戯がうまくいったような子供ような笑い方をした。


「有望株の改善、そして俺の実力確認。一石二鳥をすかさず狙うなんてなかなか食えないな」

「セーリスクを圧倒できる人材は本当に有難い。こいつは実力が高い上に、真面目で頑固なんです。イグニスさんがここの門番の指南に入ってくれるなら是非ともお願いしたい」

「まぁ、時々ならな。俺としてもこの国に慣れる時間が必要だ」

「イグニスが訓練に加わるタイミングにおいては俺が考慮しよう」

「そこまで面倒をみてくれるのか?」

「当たり前さ。俺の護衛としてここの訓練に派遣されるんだからな。所属としたらどちらかというと俺の商会の方だ」

「そうか、変わらずお世話になりそうだな」

「気にせずお世話になってくれ。命の恩人には足りないぐらいさ」


 シャリテはイグニスにとことん尽くすつもりでいるようだ。

だがイグニスはこの一件で少しは借りを返せたかなと考えた。

同時にこれからもお世話になりそうだなとも。


「イグニスさん。あなたはどこでそこまで強くなったのですか?」


セーリスクは心からの疑問をイグニスに投げかける。

慢心したつもりはない。

今までの人生で手を抜いたこともなかった。

だからこそ疑問に思った。

そこまでの鍛錬を積み重ねれば、そこまでの境地に至れるのか。

そしてそれは単なる才覚なのか。それが知りたかった。


「俺も強くなりたくてここまで鍛えたわけじゃないさ。あと他に一つ言っておくと俺より強いのは俺が知ってるかぎりでも相当の数はいるさ。世界全体で考えたら俺で精々上の下レベルだ」

「外の世界はそんなにも強い人がいるんですね。だだ僕の中では貴方が圧倒的すぎて…」

「弱さを恥じることはないさ。才能でいったら君もいい線をいってると思うよ。実力があっても、大切なひとを守れなかった人はいくらでもいる。君は守るべき人を自分の守れる範囲で守るんだ。それでいいんだよ」


そう語るイグニスはどこか寂し気であった。

彼女は大切な人を守れなかった。またはそれを失った経験があるのか。

セーリスクはそんなことが心に浮かんだ。

しかしそれを聞くのは思いとどまった。

それをきくことによって自分を打ち負かしたほどの実力者の気を損ねることを

恐れてしまったのだ。


「そうですか……。僕ももっと強くなれるように頑張りますね」

「そうだね、俺もこれからの君には期待をしておくよ」


 表面上の言葉か心からそう願ってくれているのかはわからない。

だだ青年は自分以上の実力者の期待という言葉に応えたかった。


「イグニスそろそろ俺の商会の案内もしておこう」

「では私もお役御免ですかね」


 門番、セーリスクとの時間はここで終りのようだ。


「そうだな、すまないここまで付き合わせてしまって」

「いや私もいいものを見れたよ。ではイグニスさん中立国を楽しんでくださいね。マールちゃんもシャリテさんのところではおとなしくしているんですよ」


「うん、おじさん有難う」

「あぁ。もう既にここはいい国だと確信をしているよ」

「ではまたな、また顔を出しに来るよ」

「いつでも来てくださいね」


そういってイグニスとシャリテとマールは訓練場からでていった。

セーリスクは一気に力が抜けたようで、背中から土に大きくたおれこむ。


「ねぇ、先輩。僕もあれぐらい強くなれますかね」


 そうセーリスクは門番に子どもがするような素直な口調で問いかける。

その様子は、忖度や過大評価はいらないといった口ぶりであった。


「どうでしょうね。彼女以上の強さということであれば…少し昔獣国の王という物をみたことがあります。その王は獣のような獰猛さと、限りなく高い知性を兼ね備えていました。今この国にはその息子の王子が滞在しています。そして私には彼にも同じものを感じました。恐らく彼女が上の下だと謙遜したのは彼らの強さを体感したからだ…とおもいます。」

「それはこの世界にはあの人ですら到達できない強さがあるということですか」

「少なくとも私は彼女よりも強い人物を知っています」

「もし僕があの人に惚れたっていったらどう思いますか。」


 門番はセーリスクに優しくこう返した。

「きっと君にも彼女の役に立てる瞬間が来ますよ。男っていうのは大切な人、愛してるものを守る。その一瞬のために生きてるんです」

「先輩…そうやって奥さんも落としたんですか」

「そんなこと言ってると、イグニスさんに負けてばっかになりますよ」


二人の会話はそんなちいさな笑いで終わっていった。


「久しぶりに酒でも一緒にのみますか」

「先輩のおごりならいくらでも」


門番は、ついさっきまで自分には

セーリスクと同等の実力をもてていないことを自覚し恥じていた。

現時点では勝つこともあるがそれは長年の訓練の差だ。

きっとすぐに目の前の青年に抜かされてしまうだろうとおもっていた。

しかしその有望な男を打ち破って、さらに恋におとした女性があらわれた。

氷は今溶けだしたのだ。

きっとセーリスクはこれから先成長するだろう。

そう思い門番はセーリスクのこれからの成長により一層期待した。

太陽はもう沈みかけている。

昼が夜にかわるように青年は変化する。

それが青年に何をもたらすかは誰も知らない。




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