表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
一章 始まりの物語
1/222

一話「過去の停滞」

とある世界。

それは、誰も知らないたった一つの世界。

その世界は、四つの種族によって成り立っていました。

四つの種族は、お互いの特性を生かし助け合い。

そして平和に生きていました。


ひとつは、この世の最初に生まれたとされ高い技術と科学を持った「人間」。


ふたつは、獣のような特性を持ちながら、人間と同じような知能を持つ「獣人」。


みっつは、人のような見た目を持ちながら、魔法という技術を使う「亜人」。


よっつは、自然を身に纏い扱い、神秘的な見た目をした「妖精」。


この四つの種族は数千年もの間、均衡を保っていました。

お互いの力を暴力に利用することなく平和に暮らしていたのです。

しかしある時、状況が変わってしまいます。

人間という一つの種族がほかの種族に戦争を仕掛けたのです。


戦争は苛烈を極め、血を血で洗うような戦いになりました。

しかし自ら戦争を仕掛けたといっても、人間に勝ち目はなく

徐々に人間は追い込まれてしまいました。


そこで追い込まれた人間はある魔法を使います。

それは神すらも裏切る魔法。

人間を不死の化け物へと変える魔法だったのです。

それは【アンデット】。

生と死を否定するその存在。

不死の化け物に変わった人間は、人間以外の他の種族を追い詰めました。

戦いは何年も、何年も続きました。

それを見かねた、神の一人はこういうのです。


「獣人、亜人、妖精。三つの種族よ。神の子として人間を滅ぼすのだ」


神の予言を聞いた三種族は、その神の言葉を信じました。

こうして一つの世界は変わっていったのです。 


ひとりの兵士は本を読み終わる。

どうやら牢屋の前で絵本をよんでいたようだ。

本を閉じ、目をつむる。

兵士はため息をつく。

その顔は気怠そうだ。


その兵士の特長を言うとしたら、その兵士は獣の顔をしていた。

体格は優れており、かなり大きなものであった。

まるで四足歩行の動物がそのまま二足歩行のようになったようで

違和感を感じるものである。

その兵士は、獣人と言われるものだった。

獣人である彼は、兵士として働いていた。


兵士は読み終えたその本を、汚れることを気にせず地面へと置く。

ぱさりと、子供用の絵本は地面に落ちていく。

重厚な音は全く聞こえず。

ただその軽さのみが伝わる。

彼は、その本になんの思いれもない様子であった。

ただ暇だったからその本を開いた。

彼の態度からそういったものを感じ取れた。

彼は、自身が床に置いた本をなにものでもない

何の価値もないものをみるように茫然と眺める。

そうして牢屋の中にいる人物に向かって話しかけた。


「たとえ祖先が化け物でも……こんな小さい生き物殺すのは申し訳ないとおもってしまうものだな」


それはただの独り言のようであった。

しかしその発言は、自身と一緒に働いている別の獣人に向けているものであった。


「なあ、お前はどう思う?」

「……」

「あれだよ。あれ」


鎧をまとい、檻の前に立っている兵士はもう一人の兵士に尋ねる。

本を読んでいた兵士は、檻を指さしていた。

その檻には、光は一切入っておらず松明のようなものもなかった。

決して衛生的とはいえず、ほこりや砂といったものがかなりたまっている。

においも相当なものだ。

少なくともまともに掃除していないことがわかった。

そしてその檻の中には、何者かが入っていた。

反射した眼の光が、こちらに届いている。


その発言をした兵士が指さした檻の中には、【人間】の少女が閉じ込められていた。

その少女は、肌は真っ白で陶器のように白い色をしており、

髪の色は稲穂のような金色で輝いていた。

その容姿は美しいといえるものであった。

しかし獣人である二人は、【人間】のその外見を酷く気持ち悪がっていた。


「こっちをみるな、人間」



ただ長い間閉じ込められていたのだろう。

その体は全体的に汚れているようだった。

しかし以外にも汚れをおとすことのできていないその体には、傷一つすらついていなかった。

ただその場に置かれている。

そんな状態であった。


目に光は入っておらず、思考も読み取れない。

恐らく思考というものをほとんど働かせていないのだろう。


幼きその少女はひどくやせ細っていた。

今にもその命の炎は消えそうだった。


もう一人の兵士は不満げにため息をつく。

その発言がよほど気に入らなかったのだろう。

明らかに怒りの表情が浮かんでいた。


「……申し訳ないなんて感情を持つな。言葉を慎め」

「すまないな」


ひとりの兵士の怒りに、本を読んでいた兵士は謝罪をする。

何も考えずに、その言葉を発していたことを確かに反省していた。


そうだ、と兵士は考えた。

たとえどんなに幼くても目の前にいるのは【人間】なのだ。

不死の怪物を生み出した憎むべき存在なのだℜと。


「この場には私とお前達しかいないからいい。兵士長や騎士団長がいたら即刻死刑だぞ」


二人には、自らの立場より上の存在がいた。

その人物というものは、猶更【人間】という存在を嫌悪しており。

そして否定していた。

もし先ほどの発言を聞かれていたら。

そう考えると寒気が止まらない。

兵士の一人は鳥肌がたつような気分になった。


「そうは言っても、俺たちのように毛も生えていなく、動物の特徴も力もない。人間というのは本当おれらの祖先を苦しめたのか」


本を読んでいた兵士は、あることを疑問に思っていた。

それは、過去の獣人たちと人間での戦い。

目の前にいる存在がどのように戦ったのか。

それがどうしても想像というものができなかったのだ。


目の前にいる矮小な生き物は、弱く脆く。

そして強さというものを一切感じさせなかった。

だからこそ疑問というものを持ち出していた。


「人間はわれらの祖先を卑怯な手で苦しめたのだ。あんなもの神に愛されるものがやるべきことではない」


彼女は【人間】だ。

それが一番の問題であった。

たとえ、彼女がどんなに弱く優しい存在であっても。

自分たちは、彼女を苦しめなければいけない。

それが罪なのだから。


その少女は小さいころから、暗くて狭い牢のような場所に閉じ込められていた。

少女には、名前がない。名前のないただの人間であった。

しかしそのただの人間であることが問題であったのだ。

サイの兵士がこういった。


「おい、人間。お前はなぜ生きているのだ?人間である貴様に生きている

価値などはない。とっとと死ぬがよい」


少女は何も感じなかった。

感じるための心を失っていたのだ。

その言葉を理解してもそれを受容するための心を失っていた。


「おい、なにを何に人間に話しかけている。そいつは数日後には死刑だぞ。

どうせ人間には考える能すらないのだ。伝えることもないだろう」


兵士たちはこういっているが、少女は言葉の全てを理解して自分の命が

あと数日で消えること知った。

物思いできるころには、既にはこの牢屋にはいっていた。

少女は外の世界というものをしらなかったのだ。

このまま一生閉じ込められるぐらいなら、あと数日で消えてしまうほうが

よっぽどいいだろう。薄れていく意識の中少女はそう思った。



日が沈み、いつの間にか夜になっていた。

どうやら少女は寝ていたようだ。

体はひどく冷えており、寒さで体が震える。

飢餓感も少し感じるが少女にとっては些細なことで全く気にならなかった。

遠くでなにかの叫び声が聞こえる。

正体のわからないものにもすっかり慣れて怯えようとも思わない。

暗闇の牢屋の中、すぐそこで誰かが動く感覚がした。

薄暗く分からないが、少女の目の前には大柄な体格のマントを身に着けた。

男が立っているようであった。


「君がこのあたりで有名な【人間】か」


暗闇のなか男のこえが響く。


「あ……、あ……?」


少女は男の声に反応することはできるようだが、自らの声を出すことはできないようだ。

おそらく言語というものを話す機会もなかったのだろう。

感じた限りでは、発達における言語の形を成していなかった。


「話すこともできないのか。聞いていたものより酷いな。あいつらのことだ。どうせまともな飯も食えてないだろ?」


男は、懐から袋を取り出し、干し肉を少女に渡す。

少女はそれが何かまったくわからず、つつくだけのようだ。

「まぁそうだよな。これはこうやって食うんだよ」


少女は肉を見たこともないようで戸惑っていた。

その男は少女にちぎった肉を渡すのであった。


「あー?あー!あー!」

少女は人生で初めて食べるその食べ物に対し大いに喜んだ。

単調な感情だが、その姿は年齢相応の女の子であった。


「そんなに喜ぶぐらいじゃあもっといい肉を渡して食わせればよかったかな」


男は少女の頭を優しく撫で、優しい声で話す。


「君を助けたいと願っている人物がいる。俺はそれに答えるだけだ。もう少し待ってくれよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 世界観が伝わってきて、とても良かったです!! 続きを楽しみにしてますね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ